ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

感想『ウルトラマンブレーザー』第8話「虹が出た 後編」 #俺が観る EP08 賽の目は、神のみぞ知る

「虹が出た」というタイトル、作中の緊張感からすると少しとぼけた印象もあるのですが、私はこれ昭和シリーズのオマージュ的なそれだと思うんですよね。

 

初代『ウルトラマン』でいえばケロニア回の「来たのは誰だ」、『ウルトラセブン』だとペロリンガ星人が登場する「円盤が来た」、『ウルトラマンタロウ』あたりまでくると「タロウの首がすっ飛んだ!」「出た!メフィラス星人だ!」といった珍タイトルまで出てくる訳ですが、それはともかく……。仰々しくかっこいいタイトルもストレートに好きなのですが、この「虹が出た」のような牧歌的な香りのするタイトル付け、ウルトラシリーズのひとつの個性だよな、と思う次第です。

 

 

さてさて。 #俺が観る 第8回、今週もよろしくお願いします。

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1697760007033626929

 

ニジカガチが作り出した強大な台風により、文明の洗い流しが行われようとしていた。ニジカガチ撃破のため、アースガロンの新装備”Mod.2”の実戦投入を決めるゲント。そして、今回の首謀者である横峯のもとへは、彼を心から尊敬していたテルアキが説得に向かう。

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/09/02 放送 監督:中川和博 脚本:山崎太基

 

さて、第8話感想にあたって、「ニジカガチ最高!」とか「相変わらずハードなテンションの特撮が良い」とか「アースガロンかっこかわいい」とかの前に、ウルトラマンの販促事情、及びインナースペースの扱いに関して先に触れておきたい。

 

さかのぼれば2013年の『ウルトラマンギンガ』、もっと言えばそこから更に前のTVシリーズが途絶えていた時代にも起因するが、要はウルトラシリーズには「商業的な成功」が従来よりいくらか強く課された時期があった。つまるところ、しっかりと玩具を販促し、その売上を担保にシリーズを継続するという、現代児童向け特撮コンテンツの基本の「キ」である。

 

しかしながら、変身した後もずっと腰にベルトを巻いている仮面ライダーや、武器を操りロボットに乗り込むスーパー戦隊と違い、ウルトラシリーズには直接的な玩具アピールが難しいという壁があった。言うまでもなく歴代の変身者も何かしらのアイテムを活用してウルトラマンに変身するが、それが登場するのは変身シーンのたった一度のみ。また、ウルトラマンが武器を使う光景も実は珍しいものではないが、いかにも玩具らしい造形・色彩・装飾のものはほとんど用いられなかった。ウルトラマンは、人間がそのまま変身する等身大ヒーローとは異なる神秘性を有しており、それを損ねかねない絵作りは自然と避けられていったのだろう。マックススパークやメビウスブレスだって、当時は中々ひやひやしたものである。

 

 

また、ウルトラシリーズの玩具を手掛けるバンダイは、2008年『炎神戦隊ゴーオンジャー』の炎神ソウル、そして発展形かつ決定版となった2009年『仮面ライダーW』のガイアメモリを経て、「コレクターズアイテムの多売方式」に舵を切り始める。主力商品である変身アイテムや様々な武器と連動するコレクターズアイテムを、年間を通して数えきれないほどにリリースするのだ。そういった背景から、2013年『ウルトラマンギンガ』にも同様のフォーマットが活かされる運びとなった。

 

この、「①ウルトラマンという作品の特性上、直接的な玩具アピールとは食い合わせが悪い」と「②ウルトラシリーズにコレクターズアイテムの多売方式を適用する」という、どう見ても矛盾する条件をクリアするための発明が、通称インナースペースである。

 

ウルトラマンギンガに変身する主人公が、ウルトラマンと共有しているであろう精神世界のような空間で玩具を操り、それを受けギンガが技を発動したりする。これによって、「変身シーンに限らない玩具販促をしながら」「ウルトラマンは玩具を扱わない」というバランスを成立させ、以降、ニュージェネレーションシリーズの定番演出と化していく。もちろん、ウルトラマンと変身者が精神世界で繋がっている描写は過去のシリーズでも度々採用されていたもので、それを引用し、玩具販促に応用したものと思われる。

 

また『ウルトラマンギンガ』においては、肝心要のコレクターズアイテムにソフビ人形をそのまま持ってくるというアクロバティックな回答を打ち出し、ほとんど玩具そのままの塗装や分割線が映像にお目見えする運びとなった。リアリティや神秘性という意味では正直なところマイナスだったと思われるが、絶対にウルトラシリーズにしか出来ない方法論(ソフビという主力商品の文化を踏まえた施策)なので、私は割と気に入っている。潔さを含めて。

 

その後ソフビに限らず、カード、カプセル、メダル、指輪など、様々な小物をコレクターズアイテムとして販売する流れが定着した。主人公がインナースペースでそれを操り、玩具を展開させたり回したり、スイッチを押したりレバーを引いたり、といった操作をテンポよくバンクで見せていく。ともすればウルトラマンが操り人形やロボットのようにも見えてしまう危険性も孕みつつ、次第にウルトラマン本人もすこぶる玩具的な武器をそのまま使用する絵が増え、販促はじわじわと拡大していった。例えばタイガブレードなどは、一昔前では考えられなかった代物である……。

 

 

といった前提の末に、田口清隆監督のお話である。以下は、『ウルトラマンZ』制作時のムック本のインタビューの引用。

 

――対するウルトラマン側についてもお話を聞いてみたいのですが、まず今回の変身アイテム、ウルトラゼットライザーとウルトラメダルについてはいかがですか?

 

田口 僕と吹原さんでプロットを考えながら「どんな変身アイテムが来ても、物語に溶け込ますぞ!」と結託していたんですが、「今回はカードとメダル3枚です」と言われて、ちょっとひっくり返りました(笑)。『ウルトラマンX』の時、自分が関知せずに設定された最終アイテムや後半の展開を、最終回で回収することになって、頭を抱えたという経験がありまして。だから『オーブ』のときには「最初に最終アイテムと最後の展開を決めましょう」と提案して、おかげでウルトラマンオーブは最終形態を第1話に先行登場させたりなどもできて、全体の構成が上手くまとまったと感じていたんですね。なので今回もシリーズ構成として、変身アイテムをお話の展開にキチンと盛り込もうと思っていたんですが…「こんな量のアイテムを、劇中でどうやって面白く機能させるんだ?」と、一時は真剣に降りようとしました(笑)。そこはなんとかアイデアを捻り出して、自分を納得させたわけですけど。

 

・実業之日本社『ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本』(2020/7/17発売)P94

 

 

こうして、いわゆる「オトナの事情」である玩具販促と色んな意味で向き合い、その制約を逆に利用するかのごとくシリーズ構成に落とし込み、意味付けとストーリー性を持たせるべく工夫が凝らされたのが『ウルトラマンZ』であった。

 

様々な先輩ウルトラマンたちのメダルに、ぎょっとするデザインである喋る魔剣など、マーチャンダイジングを基礎としてシリーズ構成を建てる。半人前、いや1/3人前の新米ウルトラマンが、先輩ウルトラマンや悪のウルトラマンらと関わり学びつつ、人類と共闘していくお話。インナースペースが必須ならば、それをウルトラマンとの対話空間としてより強調し、合いの手の構図で一種の視聴者参加型に仕上げる。『Z』の本懐はこういう点にあったと今でも強く感じている。

 

からの2023年、『ウルトラマンブレーザー』である。

 

――つまり、ニュージェネ・ダイナの次の作品ではなく、ニュージェネ・ガイアに代わる全く新しい作品として始まったわけですか?


そうです。社長がそう判断した理由のひとつに、いわゆる「ニュージェネ」と呼ばれてきた一連のシリーズとは違うことをやりたいという狙いがありました。といっても、個人的には『ウルトラマンX』や『ウルトラマンオーブ』の頃はニュージェネという言葉はなくて、そもそも毎年「新しいものを」って意識ではやっていたんですけどね。とにかく「これをやると変わって見えない」要素は何か? を考えました。

 

まず、過去のウルトラマンの力を使ったタイプチェンジ。それから制作上仕方ないことではあるんだけど、過去怪獣の使い回し。そしてコレクションアイテムを集めなきゃいけないストーリー展開。もうひとつがアイテムを操作するためのインナースペース。それを全部変えない限りは、「いつも通りじゃないか」と言われてしまう。「それなら、どこまでやれるか試してみよう」ということになり、次の段階に進みました。

 

・ホビージャパン『宇宙船vol.181』P83 田口清隆監督インタビュー

 

 

このように、田口監督の『ブレーザー』における販促事情との向き合い方は、『Z』の時とは異なっている。『Z』には気概として「そこまで販促があるんなら全部ばっちり有機的に取り込んでやろうじゃねーか!」といったニュアンスを感じさせ、『ブレーザー』では「どこまでを変えられるか、どうやったら例年と違うモノになるのか、やれるだけやってみよう」といった感触だろうか。(何より、試すことが許される土壌が整ってきたことが尊い)

 

結果的に、『ブレーザー』では7話までブレーザー戦闘中のゲント隊長は一切描かれず、当然のようにインナースペースも描写されず、ブレーザーブレスも変身シーンのみの登場であった。コレクションアイテムを特段フィーチャーすることもなく、むしろ例年よりサイズやギミックを盛った怪獣ソフビやDXアースガロンへの注力を感じさせるほどだ。劇中描写だけでなく、玩具のラインナップや販売形態についても、例年とは違う動きを見せている。

 

 

ここまでですでに4,000字を超えてしまい大変申し訳ないのだが、ここにきて、やっとこさ、『ブレーザー』8話のシーンである。ニジカガチの体内から噴出した虹を跳び上がったブレーザーが掴むと、インナースペースでニジカガチメダルが生成され、それをブレーザーブレスに装填することで、新たな必殺技・レインボー光輪を放つことができるのだ。満を持してインナースペースが描写され、コレクターズアイテムが劇中で取り上げられたのだ。

 

とても正直なところ、このシーンには半々の想いである。「おお!こういう見せ方があったのか!」という喜びと、「やはりこれくらいの描写はノルマ的に不可避だったか……」という諦念。

 

「見せ方」という意味では、インナースペースでもっともらしく玩具を操作するというより、あくまでゲント隊長の主観映像に絞ってブレスを描写した点。OPのファーストカットよろしく「主観で光に手を伸ばす」といったイメージは当初から用意されており、更にブレスという手首に巻くスタイルだからこそ出来たカット割り、加えて「ブレーザー!頼む!力を貸してくれ!」というゲント隊長の祈りに応えたようなエモのブーストも効いており、極力「玩具っぽさ」を払拭しようとする工夫が見え隠れしている。すでに情報が公開されているチルソナイトソードとあわせて、「敵の能力を採集して武器化する」といった趣は狩猟民族のようなブレーザーのキャラ付けとも相性が良い。

 

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反面、「やはりこういう描写を完全撤廃することは叶わなかったか……」という想いも、当然あるにはある。田口監督の言葉を借りるなら、「どこまでやれるか試してみよう」の限界と言えるのかもしれない。チルソナイトソードもまあまあ玩具的なルックで、レバーを引く操作でガラダマを回して必殺技を発動するとのこと。これまた色んな意味で「ニュージェネ的」な玩具ではあるが、児童誌を読む限りゲント隊長がソードを操るスチールは無いので、インナースペースを引き続き抑えつつブレーザーが生身で操る見せ方になると思われる。

 

ウルトラマンも今や巨大な市場を持つビッグコンテンツであるからして、何らかの販促から逃れることはできない。玩具的な事情が見え隠れすることはこの界隈ではよくあることだし、それがストーリーの余白やリアリティを削いでしまうこともある。だがしかし、私はそれが絶対的な悪だなんて微塵も思わないし、販促があるからこそコンテンツは活き続けることができる。玩具の見せ方がドラマや演出に厚みを持たせ、その存在が魅力に寄与することだって、頻繁に起こっている。鬼の首を取ったかのように「結局インナースペースをやるんじゃねぇか」と叫ぶのは違うと思うし、かといって「これが新しインナースペースの形だ!」と諸手を挙げて賞賛もしない。ある意味で工夫の、反面で苦肉の、そういったカットだったと感じている。

 

完全に個人の持論ではあるのだが、私がこういったコンテンツに求めるのは「挑戦する意志」である。そういった気概が、ガッツが、策略が、作品制作に満ちており、部分的にでも成功していると好ましいと感じる。反面、「例年通りの寄せ集め」のような作品をあまり好まない(もちろん、それをむしろ「王道」だとして好む人も否定しない)。だから、「販促を薄める」とか「インナースペースを撤廃する」とか、そういったのは単に枝葉の結果論であって、『ブレーザー』に感じているのは「ニュージェネらしさとはどうにかして違えていきたい」という意志だ。その意志が反映された工夫、あるいは意志の限界。ここのせめぎ合いこそが、今回の「主観インナースペース」だなぁ、と。今どきの世の中はどこか「100点じゃないと認めない」という声が多いが、挑戦し、折衝し、少しずつ今とは違う可能性を勝ち取っていくことだって、大切なはずなのだ。などと、たった数秒のあのシーンにここまで書いた約5,700字が走馬灯のようによぎったのであった……。

 

兎にも角にも、マーチャンダイジングとシリーズ構成は表裏一体であるからして、もう少し後半戦までの玩具展開に注視していきたいところである。

 

さてさて、もうすでに文字数がアレなので、以下「虹が出た 後編」についてツイートをおさらいする形で語っていきたい。

 

 

もう一度貼ってしまいますが、このカットね、本当に、マジでね。最高。ありがとうございます。このスチールを印刷して棺桶に入れて欲しい。

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1697760007033626929

 

戦闘機を操縦型ロボット兵器にすることでそこに「分かりやすい共闘の絵」と「キャラクター性」を持たせたのは、『Z』における田口監督の見事なまでの発明だった訳ですが、その文脈をしっかり活かして登場するアースガロン、完璧ですよね。ただウルトラマンの前座では終わらない、だからかっこいい。火事場で接続したMod.2の操作が上手くいかず、一度外してしまう流れなんかも実に丁寧。こういった描写の積み重ねがあり、照準が合いそうで合わない焦らしもたっぷりやって、その上で逆転の一撃。完璧です。

 

 

更には、まさかの「副隊長回」!こういった流れになるとは思わなかったので、完全に一本取られましたね。また、横峯教授と副隊長の主張を「ある意味ではどちらも正しい」としつつ、この手のやり取りにつきものな「怪獣(環境)か人間(文明)か」という二元論から少し軸をずらすのが実にクレバー。「人間や怪獣以外の動植物も生きている」という投げかけは、温和な性格でチームの和を尊ぶテルアキ副隊長のキャラクターとも実にマッチしている。巧い。

 

 

 

これ思ったの僕だけじゃないよね!??!?!??

 

 

「この場所こそが台風の目!」という、雲がそれこそ逆さ虹のようにぐるっと這う中でのレインボー光輪は、とても美しいカットでした。光輪を投げるブレーザーがしっかり体重をかけて渾身の投擲を決めているのもポイントが高い。まさに総力戦。人間とウルトラマンのチームアップでやっとこさ撃破できた、強敵怪獣ニジカガチ。ウルトラ史に名を刻む存在感でした。『ブレーザー』の代表的な怪獣として、今後ずっと語られていくことでしょう。その瞬間にリアルタイムで立ち会えました。

 

そんなこんなで、『ブレーザー』第8話。1クールの終わりを待たずに総力戦でしたが、ここからどういったシリーズ展開を見せていくのか。まさかのガラモンの復活、そして玩具情報からもまたもや新怪獣の産声が聞こえている……。引き続き、楽しませてくれそうです。

 

こんな高品質の特撮が毎週観られている、その幸せを噛み締めながら。

 

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感想『ウルトラマンブレーザー』第7話「虹が出た 前編」 #俺が観る EP07 天に数多の虹が輝くとき、それは現れる

シリーズ初の前後編、強敵怪獣・ニジカガチ編。まずもって、タイトルにきっちり「前編」「後編」って銘打たれてるの、いつぶりだろうか。どうしても平成三部作世代なので、例えば『ティガ』の「GUTSよ宙へ・前編」とか、『ダイナ』の「移動要塞(クラーコフ)浮上せず!(前編)」とか、この辺りが印象深いです。もしかして『マックス』の「ようこそ!地球へ 前編」以来だろうか。15年以上も前だな……。

 

元々ウルトラシリーズは一話完結が基本のスタイルですが、特にニュージェネ以降はマーチャンダイジングを含め連続ドラマとしての性格を濃くするパターンも増えたので、改めて「前後編二部作!」みたいな見せ方は減った印象です。もちろん、『X』のガーゴルゴンや『ジード』のペダニウムゼットンなど、要所要所で二話構成になるのは恒例なんですけどね。ともかく、こうしてタイトルひとつ取っても「オタクがちょっと喜ぶ」側面があるのは大変助かります。この「ちょっと」が積み重なると愛着に育つ。

 

 

といったところで、#俺が観る 第7回です。よろしくお願いします!

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1695223325734359118

 

雨が降る前触れとされる『逆さ虹』が日本各地で発生。怪獣との関連を疑うゲントは、怪獣研究の第一人者であり、恩師でもある横峯教授のもとへ。そこで横峯から、ときに恵みの雨をもたらし、ときに荒神となりすべてを奪い去るという神のような存在、ニジカガチについて語られる。その時、ゲントのもとに巨大怪獣現出の知らせが届く。

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2023/08/26 放送 監督:中川和博 脚本:山崎太基

 

今年も暑い夏でしたが、SKaRD基地も御多分に漏れず。今回のキーマンとなる横峯教授の著書『怪獣の目』ですが、一時停止すると少しだけ中身が読めます……が、これは怪獣とは関係なさそうなテキスト。女性の自叙伝といった感じで、両親を中学生の頃に亡くした女性が八歳下の弟と親戚の家に預けられて、といった生い立ちが語られている。単純に小道具として何らかの本にカバーを付けている可能性もありますが、仮にこれが『怪獣の目』の本当の一節だと受け取るならば、何らかの怪獣に関わった女性のインタビューの章といったところだろうか。

 

そしてカバー折り返しの横峯教授のプロフィールでは、教授は1960年生まれとのこと。公式サイトによると怪獣や地球外生命体に対処する地球防衛隊の設立が1966年なので、地球人が怪獣や宇宙人と相対し組織的な対応も取れず(おそらく)パニックに陥ったその時代に、幼少期だった計算になる。そりゃあ、この道に進みますよね。原体験が怪獣でしょうから。その後、多々良島のマグラーに関する論文も発表しており、怪獣対策の草案が地球防衛隊にも採用された、と。2話での履歴書のくだりにもありましたが、こうして画面には登場しないけど怪獣名が語られるのは楽しいですなぁ。こういうのも、積み重なる「ちょっと」のひとつ。

 

「羨ましいィ!」と感情を露わにするテルアキ副隊長にニヤニヤしつつ、さらっと明かされるゲント隊長の釣り好き設定。も、もしかして……。2話のスパイラルバレード竿はそれが起因しての技とか、そういうことですかゲント隊長。

 

Mod.2の開発状況のくだり、ヤスノブ隊員に思わず「無理をするな!」と声をかけるこのカット、良すぎる………。これこれ、こういうのなんですよ。前回の6話からの連続性。こういった「ちょっと」した描写の積み重ね、絶対に後半で活きてきますからね。キャラクター描写って、いかに視聴者に思い入れさせるかにかかってますから。シナリオによって「〇〇はそんなこと言わない!」とか「確かにそういうこと言いそうなキャラだけどそんな直接的には言わないはず……」とか、そういったブレがあると思い入れが熟成されない。ここのところのコントロールが肝要なのです。その点『ブレーザー』は、脚本家が違ってもコントロールが効いているので、この辺りへの気配りが制作陣で為されていることが判ります。ありがたい。(もはやノルマになりつつある副隊長の実家トークが挟まるのも良い)

 

続いて、エミはほとんど基地におらず、常に現場から情報を送るポジションになっているのも一貫していますね。ちなみに、逆さ虹って本当にあるんですね。知らなかったです。

 

weathernews.jp

 

ゲント隊長と横峯教授の会話シーン。ニジカガチはドルゴと同じ土着信仰タイプの怪獣。ジャンルとしては「自然・天災の擬獣化」といえるだろうか。そして、地面から迫り出して登場するニジカガチ。ここのBGMが和太鼓や和楽器がドンドコ鳴る不穏なやつで、土着信仰怪獣の雰囲気ともドンピシャ。

 

 

この誘導弾を受けるシーン、最高ですよね……。2016年の『シン・ゴジラ』以降、こういった「従来より引いた遠景+実景合成の怪獣+爆炎等の合成」といった絵作りがひとつのスタンダードになってきたと感じていて、ニュージェネで挙げれば『ジード』初回「秘密基地へようこそ」のスカルゴモラなど。怪獣特撮はどうしてもヨリの絵作りが主体になるところですが、合成技術も進歩してきたからこそ、ぐんとカメラを引いて実景の奥に怪獣を小さく置く、その見せ方も巨大感を感じさせてくれる訳ですね。

 

それにしてもニジカガチ、本当にかっこいい。言うまでもなくソフビを買ったのですが、白状しますとソフビというよりMod.2ユニット目当てでポチりました。ところがどっこい。蓋を開けてみるとニジカガチがびっくりするくらい魅力的な怪獣で……。こういう、二週に跨って活躍する強敵ソフビとセット販売してくれると、プレイバリュー高が高い。来週の後編でMod.2ユニットでニジカガチに対抗する訳ですから、玩具においての「VSセット」(ウルトラマンとライバル怪獣のソフビがセット売りされるジャンル)っぽい文脈も感じさせてくれます。

 

 

ニジカガチ、まずシールドを被っているので表情が読めない。鉄仮面で寡黙。誘導弾を受けても微動だにせず、黒煙の向こうでただ佇んでいるカットなんか、実に痺れます。

 

デザインのイメージソースとしてはやはりガボラでしょうか。『シン・ウルトラマン』のガボラはドリルの形状が強めに解釈されていましたが、元のガボラって、シールドを閉じた状態がちょっと顔っぽいんですよね。目の無い怪獣のような、武骨なデザインというか。パワードガボラでも同じ方向性でデザインされていました。なのでニジカガチ、閉じた状態が頭蓋骨をすぽっと被っているような表情で、下部の口はそのまま口の位置で全体の顔が完成するという、完全な2wayなのもツボです。開いたら極彩色というギャップもいいし、鎧が割れる際の光線も虹色なのが徹底している。

 

 

 

気圧を操る神。虹に蛇の神で、ニジカガチ。参考文献によると、この絵は奈良時代の絵師が描いたもの。「地球上のどの生物とも類似していないことがわかる」とある。「月夜に照らされた山をニジカガチと見間違えた可能性もある」あたりの記述も良いですね。こういう反証の考察が載っていると、逆にリアリティが高まる。

 

そんなニジカガチが練り歩くシーン、周囲の風を吸い込んでのっしのっしと進む訳ですが、ここの「大売出し」の赤い旗が一斉に吹かれるシーンも良いなぁ~~~。こういうハッタリが効きまくった絵面、大好きなんですよ。ニジカガチの体表がちゃんと雨で濡れているのも良い!

 

 

横峯との川辺の語らい、再び。横峯教授の主張それ自体は、ぶっちゃけ何か革新的なものではない。土着信仰をベースに、人類の信仰心の変遷や環境破壊を踏まえ、「そんな人類は一度滅びた方が良い」に帰結するパターン。この誇大妄想は怪獣モノにはよくある類型で、お馴染みともいえる。とはいえ、教授役の演者さんの迫真の演技(語り口)や、「初めてです。先生の講義が面白くなかったのは……」といった粋のいい台詞回しで、つい見入ってしまう。恩師との対峙という構図も良いし、Aパート冒頭で横峯教授のこの分野での第一人者ぶりをこれでもかと印象付けているのもじわじわ効いている。専門家が言っちゃうんだからそうかもね、という強者のオーラ。

 

ゲント隊長が水も滴るいい男で基地に帰ってくるの、ビジュアルが良すぎて興奮しちゃいました。顔良すぎない!??????

 

前線にやってきたアースガロンと、取っ組み合いの泥仕合!先日、ちょうど自宅にこの両者の玩具がそろったので、娘と遊んでみたのですよ。タブレットでこのシーン前後を見せて、「お父さんとこれで遊ばない?」って。そしたら意外とノってくれて、「じゃあ、わたしは あーすがろん ね!」と。お父さんは喜んでニジカガチを操る訳です。ドカーン!バーン!ドーン!「ほら、アースガロン、めっちゃ可愛いだろう?」と声をかけると、それを聞いていた嫁さんが「かわ・・・ いい・・・?」と言うのです。なんでや!!!!!!!!!アースガロン可愛いだろ!!!!!!!!!!可愛いすぎるだろ!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

かわいいは!!!!!造れる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

さて、そんな可愛すぎるアースガロンを一撃必殺レベルの光線で見事に退けてみせたニジカガチ。やられちゃうアースガロンも可愛い。不憫可愛い。あと、どうやら公式にも「虹光線」って技名っぽいですね。シンプル。

 

 

危機的状況の中、ゲント隊長が変身。ブレーザーは祈祷する間もなく狩りを始める訳ですが、個人的にすごくグッときたのは、ここの虹光線をくぐるように避けるシーン。ちゃんと、ブレーザーの身体が照り返しで光っている。素晴らしい。これは合成ってよりミニチュアの向こうの地面になにか光源を置いているのかな。ちゃんと上から照らされているように見えるからすごい。このカットだけでもうお腹いっぱいってくらい好きです。たまらん。

 

しかし、ブレーザーが果敢に立ち向かうもニジカガチはびくともしない。重量があるのか、硬いのか、とにかく防御力が高い模様。こういう生態の見せ方も気が利いていて、「とにかくニジカガチをシナリオ・特撮の両面から視聴者の印象に残すぞ!」という熱意を感じる。

 

 

スパイラルバレードは虹光線に押し負け、まさかブレーザー敗北!? からの迅速な撤退。横峯教授の黒い思惑がちらつく中、次回へ続く。

 

 

といったところで、「前編」でした。いやぁ、とにかく見応え抜群!すごい!こういう重厚なシナリオ×ハイレベルな特撮がテレビ放送で観られる、それ自体に感動しちゃいます。隊員それぞれの職務をきっちり見せながら、ゲント隊長の恩師を敵サイドに置き、シリーズ初の前後編&新規怪獣が無茶苦茶に強くて、アースガロンもブレーザーも無残に敗退。これでもかと盛り上がりの種が蒔かれてますが、さあ後編、この期待値を受けた展開がしっかり待っているのか。いや、待っていないはずがない。(反語)

 

あと、個人的に注目しているのがニジカガチストーンの見せ方。すでに公開されている情報によると、ニジカガチストーンをDXブレーザーブレスに装填すると専用のアニメーションが発動し、劇中のブレーザーは新たな光輪技を発動できるとのこと。例年ならインナースペースで主人公が操作するところですが、今年はあえてそれを撤廃している。いかにしてストーンを描写するのか。あるいは、しないのか。

 

 

これはガラモンストーンで呼び出せるらしいチルソナイトソードにも言えることで、この辺りの描写をどういうバランスで持ってくるのか、ちょっと読めないところがあります。発売済みの児童誌もチェックしていますが、ゲント隊長がチルソナイトソードを操作するようなカットは全く無いんですよね。ブレーザーがしっかり巨大なままソードのレバーを操作している。倒した敵の体組織から武器を造り出す、まさに狩猟民族っぽい雰囲気も感じるところですが、さてどんな魅せ方になるのか。

 

ウルトラ怪獣で狩猟でモンハンっぽい感じといえば、『怪獣バスターズ』ってゲームがありましたね。懐かしい~。

 

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感想『ウルトラマンブレーザー』第6話「侵略のオーロラ」 #俺が観る EP06 バンドウヤスノブを誘う言葉は天使の福音か、それとも悪魔の囁きか

まさかのカナン星人復活!な第6話、の前に、特別総集編「巨大生物の正体を追え」の感想を……。マスコミの目線から怪獣やウルトラマン、そしてSKaRDを追いかける構成それ自体は面白く、モキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法)として機能させるのは『ブレーザー』のリアリティ高めの作劇と非常に相性が良い。

 

しかし、であるならば、そこに期待される「市井&マスコミの目線だからこその切り口」がほとんど無く、結局は純粋な総集編に終わってしまったのが少々残念であった。せっかくマスコミという設定を持ってくるのであれば、ただ物事を客観視するだけでなく、世界観が深堀りされるような鋭い意見や視聴者の死角を突くような姿勢が欲しかったなぁ、と。とはいえ、毎年恒例の総集編に高望みしすぎだ、と言われればそれまでなのかもしれない。なまじ『ブレーザー』本編が毎週しっかり面白いので、こういうところにも無駄に期待がかかってしまう。この報道チームがその後も地道に取材を続けていて、物語後半でゲストとして登場する回があるとか、そういう仕掛けがあると嬉しい。

 

そんなこんなで、#俺が観る 第6回、いってみましょう。

 

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1692686586113323257

 

コインランドリーの洗濯乾燥機に『クルル』と名付け、それを愛でることで癒しを得ていたヤスノブ。そこに突如カナン星人・ハービーが現れる。ハービーは、『オーロラ光線』で機械を操ることができ、世間で頻発する自動車や飛行機の暴走事故を引き起こした張本人であった。そしてヤスノブは、ハービーが企てる恐ろしい計画を知らされる。

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2023/08/19 放送 監督:辻本貴則 脚本:継田淳

 

まずは、まさかのカナン星人が復活ですよ!!……という話からせねばならない。カナン星人といえば『ウルトラセブン』第24話「北へ還れ!」に登場した宇宙人。

 

北へ還れ!

北へ還れ!

  • Kôji Moritsugu
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フルハシ隊員と母親のドラマが印象深い回だが、実のところカナン星人の印象はめちゃくちゃ薄い。びっくりするほど目立った活躍は無く、映像に映る時間も少なく、詳細な目的も不明で、かなりあっさりとセブンに撃破されてしまうのである。北極を地球侵略の拠点にでもするつもりだったのだろうか……。そんなことすらよく分からないのだ。ウインダムを洗脳してセブンと戦闘になるが、それも半ばコミカルに処理されるので、カナン星人の脅威もあまり記憶として残らない。バッサリ言ってしまえば、「死を覚悟するフルハシ隊員と母の通信」「セブン対ウインダム」という舞台装置のためだけに登場して死んでいった宇宙人である。

 

それがまさかの2023年に再登場というから驚きである。制作会見の時に登場した際に「えっ!ウワッ!こいつセブンの!名前なんだったっけ!? えっと、あ~~~~ そう、カナン星人!」というリアクションをしてしまった。他にも、ガラモンやガヴァドンなど、リバイバル怪獣の選出がなんだかいちいち通好み(!?)なのは田口監督のご趣味であろう。

 

 

そんなカナン星人に限った話ではないが、この「過去の宇宙人や怪人に服を着せて個体名を与える」というアプローチは、ニュージェネ以降のシリーズで多用されてきた、ひとつの発明である。

 

「カナン星人」それ自体は「地球星人」みたいな意味なので、そりゃあ、宇宙人にも個体名があるはずなのである。今回も、ハービーという名前でヤスノブに近付く。この発明の素晴らしいところは、なにより予算を削減できる点にある(身もふたもない!)。怪獣一体の着ぐるみを造形するより、はるかに低予算で「敵」を登場させることができる。むしろ今回のカナン星人はこの枠にしては金がかかっている方だ。衣装が新規である。市販の黒スーツにネクタイで頭だけ怪人だったりするのも、今ではすっかり見慣れた光景だ。身軽なのでアクションシーンだってお手の物。しかし、この等身大サイズの衣装を着た「敵」がそのまま巨大化しては質感がチグハグになってしまうので、そこは別の存在が必要。アースガロンが操られる展開に繋がっていく訳である。

 

となると、今回のカナン星人の選出、もちろん「カナン星人が大好きなんだ!」という田口監督以下スタッフの号令もあり得るが、どちらかというと「アースガロン対ウルトラマンブレーザーをやりたい」が先にあったのかな、という感じもする。アースガロンを印象付けつつ販促もこなし、新規怪獣の着ぐるみ制作を1話分削減する。その為にはアースガロンが操られたり暴走したりする展開が必要なので、それが出来る能力持ちの星人を、衣装スタイルで、せっかくなのでほとんどリバイバルされていないマニアックなやつで……。と、およそこんな感じの大筋ではなかろうか。

 

兎にも角にも、晴れてカナン星人のソフビ化まで叶ったので万々歳であろう。アースガロンのフィギュアーツでは赤目パーツも用意されているなど、各種連携もばっちりである。いいぞもっとやれ!

 

 

そしてカナン星人、実は少し前から地球に潜伏していたという。いい、いいですよ、こういうの。ありがとうございます。

 

 

辻本監督が3話持ちだった意味がまさかここで明かされるとは……!制作としてはおそらく、レヴィーラの回でも、ドルゴの回でも、カナン星人が活動していたカットを一緒に撮っていたのでしょうね。確かにどちらの回もアースガロンが大活躍だったし、ドルゴの回なんかは現場にて一時間で復旧させるというメカニックの手腕まで披露している。そりゃあ、カナン星人もヤスノブ隊員を勧誘する訳ですよ。

 

いや~、しかし、本当にこういうの大好きなんですよね。やっぱり、「どう作っているのか」という作り手の意図や熱意が垣間見える瞬間が、オタクとしてどうしても楽しい。今回、辻本監督の3話持ちがしっかりシナリオやカットに反映されているし、ドルゴまで5話連続で新規怪獣が登場できたのも、カナン星人や洗脳アースガロンの配置を踏まえシリーズ全体で予算のやり繰りがあったからだと思うのです。『ブレーザー』がどこに長所を置いているのか、なにをストロングポイントと自覚し、それを成立させるためのリソースを割いているか。それが伝わってくるし、おそらく実態はとても堅実かつ遊び心に溢れている。ただの予実管理に終わらず、そこに熱意やフェチがある。それを肌感で味わえることの、なんと幸せなことか!!

 

 

さて、ドラマ面。今回は順番がきてヤスノブ隊員回ですが、彼の人の良さがいつの間にか負担を増やしてしまっていたのでは、という導入。ここでやっぱりいいなぁと感じるのが、ゲント隊長も「仕事を押し付けてしまっていた側」に分類されていたこと。部下の不調に気付くのは流石ですが、それはそれとして人間味のある「やっちまったなぁ」な反省の色がゲント隊長の人柄の良さ。ここで副隊長までもが仕事を押し付けてしまっていてゲント隊長が「チームがこれではだめだ!」と一喝しても、それはそれで頼り甲斐のあるしっかり者の上司として違和感はないのですが、あえてそこにひと捻り。もちろん、主人公であるゲント隊長をお見舞いに行かせる(事態に遭遇させる)シナリオの都合もあるのですが、それはそれとして彼のキャラクター造形はぐっと深まる。こういう小さな技が積み重なっていくの、とっても心地よい。

 

更に言えば、ゲント隊長が基本的にシゴデキな人間だからこそ、こういう「やっちまったなぁモードでトマトを持ってお見舞いに行く」、その所作が全部面白くなる。まあ、構造としては「真面目女上司が実は料理がヘタ」みたいな古典的なギャップの見せ方ではあるんだけど、やっぱりキャラクターってギャップで見せてなんぼですからね。ただ、今回のシナリオが上品なのは、ただギャップを見せてそのシーンを面白く流して終わらせるのではなく、最後のシーンを含めてきっちり「上司としての格」を印象付けていること。シーン単位ではなく、一話単位でゲント隊長の好感度を調整している。巧い。

 

そしてヤスノブくん、脱いだらすごい……。

 

 

な、なんといい体をしているんだ……。いや、その、すごい個人的な話であれなんですが、ここ半年ほど筋トレをし始めてそれ系の動画とかよく見るようになったんですけど、この体を仕上げるの相当すごいですよマジで……。すごい……。あとスカード体操でめっちゃ跳んでた。すごい……。※マネしないでね。

 

 


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台詞での説明が無いところだと、ヤスノブ隊員がオーロラ光線を浴びた後のシーン、振り払っても光線を除去できないと分かってすぐさま服ごと脱ぐのが最高でした。さすが特殊部隊の隊員。状況判断が速くて適格。まあ実際は機械にしか作用しない光線なので、ハービーくんの牽制みたいなものでしたね。あとこの辺りの一連のシーン、あらゆるSEがとっても昭和ウルトラでにこにこしっぱなし。

 

続く、アースガロンが車両を追跡するシーン。特撮的な眼福ですね。ちゃんと一度引きの絵で実際の車両を映して、そこからミニチュア撮影に切り替えていく。つまり画面内で「実物の車両」と「ミニチュアの車両」のサイズ感がほぼ合致しているので、スムーズに接続されていく訳です。実際の車両のフロントガラスに降下するアースガロンが映ったかと思えば、完全ミニチュアで逃げる車両と足元のアップ、そして手前に引いてアオリのアングルで迫りくるアースガロン。アイデアに満ちた画面が物凄い勢いでお出しされて、満腹です。トマトが宙に浮かぶシーンも良いですね。ただの「揺れてる演技&カメラのブレ」だけじゃ出せない危機的な浮遊感がある。

 

しかしゲント隊長!アースガロンを引き付けて逃げたその場所で変身は部下に見られませんか!? ってのはともかく、水辺の戦いに突入。ほぼ真下からガツンと飛ばされるアースガロンちゃん、不憫可愛い。

 

 

そして、「水辺での対ロボット」といえば、やはりキングジョーですよね~。カナン星人の回にこれをやる辺り、オマージュのような印象も受けます。ブレーザーの「スーツっぽさ」を極力廃した有機的なスーツ造形、濡れてテロテロするとちょっとなまめかしくてぞくっとする。あと、OP直後のタイトルカット、カナン星人の横顔が影絵で出てきますが、これもどう見てもウルトラセブンのそれを踏襲してますよね。芸コマ。

 

 

ヤスノブ隊員あわや、という流れで、アースガロンがそれを救出。事態が急変したカナン星人は一目散に逃げようとするも、ブレーザーの脅威の身体能力(!?)によってサクッと倒されてしまうのでした。この、不利となると潜伏先をロケットみたいに違法建築改造して逃走するのも原典通りで、ちゃんとしています。

 

 

「死・確定」のシーン、何度見ても面白い。クッソ笑える。ディスプレイに思わず銃を向けちゃう流れも最高。

 

 

そして何より、個人的に大好きなのがここ。アースガロンがただ「きせきのゆうじょうパワー」で洗脳を脱してヤスノブ隊員を助けるのは、あえて意地悪に言うと、凡庸なそれなんですよ。ありがちと言ってしまえば、とてもありがち。しかしそこで、ヤスノブ隊員自身に「アースガロンが僕の声に応えてくれたんだ!」などとハッキリは言わせない、そのバランス感覚が良いのです。あくまでメカニックとして「誤作動かどうか分からない」と言わせる。そのお膳立ての末に、ゲント隊長が「声が届いたんだよ」とフォロー。これ!!これなんですよ!!!!この会話の詰将棋はどこかが一手違っていたら成立しない!!これなんだよ!!!!!ありがとうございます!!!!!

 

といったところで、次回は遂に強敵な新規造形怪獣が登場。シリーズ初の前後編で紡がれます。テルアキ副隊長の個人回はこの前後編の後にあるのだろうか。なんにせよ、「作中のリアリティの置き方」と「細かなやり取りの積み重ねでじっくり深めていくキャラクター造形」が見事にセッションしてる『ブレーザー』、本当に毎週楽しませてくれます。ああ、はやくMod.2の玩具で遊びたいなぁ。

 

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感想『ウルトラマンブレーザー』第5話「山が吠える」 #俺が観る EP05 その封印を解いてはならない

『ウルトラマンブレーザー』の感想を綴る連載シリーズ #俺が観る 、5話にして金曜の更新になってしまいました。ギ、ギリギリだ......。いや違うんですよ!皆さん、今日が何の日かご存知ですか? 8月11日の祝日、そう!「山の日」なんです!山怪獣ドルゴが登場する5話をレビューするのにこれほど適した日があるでしょうか!? いやない!!(反語)

 

......というのは置いておいて、公私ともどもちょっと多忙な一週間でした。その「私」の方なのですが、先週の記事でも書いた通り、池袋サンシャインシティでやっていますウルサマに行ってきました。久方ぶりに東京に出張だったので、その流れで。前日にオタクの友人らと飲んだのですが、ずっと「夏はウルサマ!」が合言葉の飲み会でした。いざサンシャインシティに着くと、いやぁ〜 これは高まりますよね。素晴らしい。バザンガに襲われて復興した街として有名ですが、実際に足を運ぶと感慨深いものがあります。

 

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作中でゲント隊長らが移動していた館内スポットも巡りつつ、人生初のウルサマへ。ステージショーでは観客と一緒に手拍子やご唱和をしたり、サプライズも飛び出す内容。たまたま右後方の席で、ちょうどその真後ろ辺りに高所のミニステージありまして。セブンさんが真後ろで激励してくれたり、ブレーザーさんが真後ろからジャンプして降り立ってくれたりと、前方とはまた違った臨場感のある席でした。なにより、現役の子供達が声を枯らしてウルトラマンを応援する、そのシチュエーションや空気感に込み上げるものがあります。

 

展示コーナーも素晴らしかったです。せっかくなのでいくつか写真を載せつつ......。

 

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とにかくアースガロンが可愛くてカッコよくて、展示コーナーにいる時間帯の半分くらいはアースガロンを撮ってた気がします。複座式のコクピットも、タイミングを狙って無人のところを撮影できました。いや〜、楽しかったですね。その後、池袋のかるまるというサウナで蒸されながらウルサマを反芻して楽しむまでがセットでした。後期ステージも始まったばかりなので、これから行かれる方、ぜひ楽しまれてください!夏はウルサマ!


といったところで、前置きがクソ長くなりましたが、今週も #俺が観る 、よろしくお願いします。

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1687613166900129792

 

アンリの故郷で新型レールガン『メガショット』の演習が実施される。そこでアンリは幼馴染のミズホと思いがけぬ再会を果たす。メガショットの設置工事で祠が撤去されたことにより、地元に伝わる守り神・ドルゴが目覚めてしまうと言って演習中止を訴えるミズホだが、アンリはそれを受け入れることができない。そうして無情にも演習が開始されてしまう。

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/08/05 放送 監督:辻本貴則 脚本:継田淳

 

まずもって、5話連続で新規怪獣ですよ。素晴らしい。既存怪獣の要素が無く、完全な新規怪獣だけでここまで続くの、いつぶりだろうか。山怪獣ドルゴは、いわゆる「倒す相手ではない」怪獣のパターン。これは初代『ウルトラマン』でいえばシーボーズなどが有名ですが、要は怪獣それ自体に悪意がなく、場合によっては人間のエゴという降りかかった火の粉を払っているだけの場合もあり、怪獣を鎮静化させることが目的化するケース。怪獣の知能は多くの場合で動物ですから、反射的に暴れたりもしちゃう訳で。つまり、「山を開拓したら住んでた熊が暴れ出してしまった」みたいなものですね。

 

 

それでも。この地球の環境においては人間が生態ピラミッドの頂点なのだから、ドルゴの鎮静化に失敗してしまったら、否が応でも駆除対象にせざるを得ない。加えて今回はメガショットをその身に積んでしまっているので、地球防衛軍日本支部の重大なスキャンダルにもなりかねない。あのまま暴れて人里に降りてしまい、メガショットの銃撃が人命を奪うなんてことがあっては、大惨事も大惨事ですからね。事は割と重大。

 

そんなメガショット。最初は山の上にちょこんと乗っている見てくれがなんだか安っぽく感じられてしまい、先週の予告の時点では「もうちょっと砲台とか造形しても良いのでは......」などと思っていたのですが、ごめんなさい!!!! ま、まさかドルゴの両肩にそのまま植え付けるなんて!!! いや、これ本当に素晴らしいアイデアですよね。メガショット、どう見てもすでに情報が出ているアースガロンのMod.2に繋がる武装で、カラーリングもそのままな訳です。「怪獣然としたロボットにツインキャノンを装備させる」という、メカゴジラを受け継ぐ組み合わせ。これを先に玩具都合で開示しておいて、本編ではひと足先にひと捻り、「本物の怪獣にツインキャノンを装備させてしまった事件」をやっちゃうんですよ。これにはやられました。すごい!このあわや大惨事のトラブルが先にあり、しかもそれをブレーザーと協力するアースガロンが収めたことで、Mod.2への期待やカタルシスは何倍にも膨れ上がる。

 

 

『Z』と同様、田口監督の細やかなシリーズ構成が光ります。田口監督のシリーズ構成って、なにか全体の本筋で仕掛けてひっくり返したりするよりも、本筋からひとつ逸らした “副線” を巧妙に連結させることで世界観が無限に厚くなるような、そういう味ですよね。

 

また、ドルゴに植え付けられてしまったメガショット。これが実に痛々しい。先週のレヴィーラに引き続き、なんて可哀想なんだドルゴ!可哀想!可哀想でいいぞドルゴ!! 着ぐるみの造形、山を表すコケのような植林がすごく生々しく、角度によっては本当に丘の特撮セットみたいなので、それに明らかに人工的なメガショットが付いてしまってるのが可哀想でなりません。しかも、劇中の様子を見るとメガショットって自動的に動いてますよね。アースガロンの攻撃も自動で追尾して撃ち落とす動きを見せてましたし、砲台も敵の動きを測って撃ってるようです。だからこそ、どう見ても本来は温厚で寝ることが仕事のようなドルゴが、メガショットのせいで「動く危険砲台」になってしまった。それを取り外そうとウルトラマンやアースガロンが立ち塞がるので、ビームのひとつでも撃ちたくなるのは当然。無罪!無罪ですよドルゴ!

 

しかし、いくら人間のエゴという火の粉でも、熊が山を降りるなら駆除せねばならぬのが道理。劇中中盤、場合によってはドルゴを殺す必要がある...... という認識を共有する面々が目を伏せるシーン、すごく良かったです。みんな大人の判断をしている。例えばここにカナタやケンゴがいたら、「ドルゴを倒すなんてそんな!だめです!なにか方法があるはず!」ってなる。彼らは若く優しいので、そういうリアクションが出てくる。しかしゲント隊長をはじめSKaRDの面々は、特殊部隊という背景もあり、おそらく早い段階で「最悪のケース」を想定している。それは、ドルゴが人命を危険に晒すこと。メガショットがその被害を拡大させてしまうこと。その場合はすぐさまドルゴを駆逐しなくてはいけない。こういうところでリアルな思考がひとつまみ入ると、途端にピリッとするんですよね。いい......!

 

ちなみにこのメガショットを積んだドルゴ、ソフビだと取り外せるそうですね。良き。というか制作会見の時はメガショットを積んでないんですよ!チクショー!こういうサプライズ大好き!!

 

 

ストーリー面ですが、今回はこれまた定番の土着神信仰もの。怪獣といえば「古よりこの地に伝わる」ですからね。こういうのがレパートリーにいるだけでグッと深みが出るってものです。その地に住む人間が警鐘を鳴らしに来るとか、巻物に怪獣が描かれているとか、もう役満ですよ役満。最高。ありがとうございます。

 

アンリ隊員の個人回でもあるのですが、エリ隊員の個人の活躍をがっつり描いた前回と異なり、あまりアンリ隊員にメインで踏み込む作りではありませんでした。というより、彼女のパーソナルな部分に触れつつ、「地元との距離感」「幼少期の思い出」にふわっとリーチしていき、最後にそれを言葉にせずとも理解してくれる上長と確かに交わして終わるという、おとなしくも上品な作り。分かりやすくアンリ隊員に「地元との確執」や「田舎への苦い思い出」を用意する事もなく、友人とも関係そのものはずっと良好で、その上でドルゴにまつわる事件が起こる。それを通して、幼少期に友人と祠に手を合わせていたこと、声が聞こえるという神話のような出来事に仄かに憧れていたこと、そして、自分も確かにこの地で育ってきたことを改めて体感すること。そういう、さりげない要素を端々に用意しつつ、ドルゴの「倒すべき怪獣ではない」=「沈静化が目的」な大筋も相まって、派手さは無いが上質な印象でした。

 

とはいえ、派手さが無いというのは作劇のギミックの話であって。映像面では、ドルゴが目覚めるシーンの感涙もののオープンセット、水を飲むシーンの特撮とSEの良演出、そして鼻提灯というコミカルなシーンまで、とにかくドルゴが見応え抜群。また、アースガロンも操縦者によって戦闘スタイルが変わったり(みんな大好きデカレンジャーロボ!)、膝で矢を割って超反復で投擲するブレーザーだったりと、思わず巻き戻して観ちゃうシーンが多かったです。これはもうウルトラマンに限らず特撮ドラマ全般に求めている事ですが、一話に一度以上、本当に一度だけでもいいので、「ウォッ!? すごい映像だッ!」と目がカッと開いちゃうシーンが欲しいものです。『ブレーザー』、今のところ毎回何度もあって眼福。

 

また細かいところですが、アンリ隊員が祠に仏像を納めるシーン。「眠ってくれィ!」と空手の構えのような所作で息を吐いてから体全体を使って振り下ろすのですが、でもこれ、一刻を争う場面でそんな所作は本当は要らなくて。しかし、彼女にとってはこの瞬間になにか「神聖なもの」を感じていて、土地に伝わる神様を鎮めるための大切な行為、あるいは儀式なので、自然とああいう礼儀を重んじるような動きになったのでは、と。これ、その後のシーンでブレーザーがドルゴを移動させる前に例の祈祷ポーズをちゃんとやるのと同じなんですよね。天と地、生きとし生けるものへの敬意。それを払う者たちの物語。ブレーザーの狩猟民族としての祈祷ポーズ仕草と、ドルゴの土着神信仰ものが、上手い具合に噛み合っていて。アンリ隊員とその地元をメインに据えることで調和が取れている印象すら有ります。手堅い。

 

あ、あと。ブレーザーへの変身シーンの主観映像もダイナミックで手に汗を握りましたが、その後のシーン。ブレーザーがアースガロンと並び立ったり、アンリ隊員と目が合うシーン。ここ、普通のウルトラマンだったら頷くと思うんですよね〜。「ウルトラ頷き」。あのSEと共にウルトラマンがこっちを見ながらゆっくり頷いてくれるやつ。しかし、ブレーザーは頷かないんですよ。「ウルトラ頷きチャンス」で頷かない。これがまた特異で良い。本作のテーマがコミュニケーションだと謳われていることからも、まだここで頷くまでの関係性には至っていない、と。それに、やはりゲント隊長の意識や自我がブレーザーに活きているとは(現時点では)思えないんですよね。ブレーザーはブレーザーの自我で動いているというか。だからアースガロンやアンリ隊員に無条件の信頼を寄せたりはしないんじゃないかな、とも思ったり。

 

といったところで、手堅く、上質で、それでいてアイデアに満ちたドルゴ編でした。「山怪獣」という二つ名が単純明快シンプルパワー炸裂すぎて大好き。

 

次回、早速の総集編ですが、よくある「SKaRD面々によるウルトラマンブレーザー対策会議」とかではなく、マスコミによる市井の人々の反応を踏まえたモキュメンタリーになっている模様。田口監督の性癖を感じるゥ!こういう見せ方、小気味良いですよね。

 

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感想『ウルトラマンブレーザー』第4話「エミ、かく戦えり」 #俺が観る EP04 才女の瞳が、真実を映す

『ウルトラマンブレーザー』も早くも4話。約一ヶ月をもうこの番組と過ごしたことになりますが、毎週とっても見応えのあるエンターテイメントを提供してくれて感無量であります。おかげで我が家のアースガロンちゃんも大活躍。ちょっとしたポーズを取らせながら手に持って眺めているだけで、可愛くてかっこいいんですよね。セブンガーといい、田口監督の「ロボットに愛嬌を加えてキャラクター性を持たせる」手法は本当に絶妙だと痛感するばかり。

 

 

そんなこんなで、今週も #俺が観る 、いってみましょう。「エミ、かく戦えり」です。

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1685076444215660544

 

3か月前に突如現出した怪獣レヴィ―ラ。その唯一の対処方は、大手化学企業ノヴァイオが開発した新型殺菌剤『FK1』で一時的に追い払うことであった。だが、謎多きこの怪獣とノヴァイオ社との間には不可解な繋がりが…。真相を探るべく、エミはノヴァイオ社社長の曾根崎のもとで潜入捜査を行う。

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/07/29 放送 監督:辻本貴則 脚本:継田淳

 

今回はやはりレヴィーラに尽きますよね。放送前の制作発表ステージで怪獣軍団がお披露目された際、ひときわ注目を集めていたレヴィーラ。半透明のビニールを貼り付けたような異形っぷり、どこか生理的嫌悪感をうっすら漂わせる造形や佇まいは、一体本編でどんな活躍を見せてくれるのか期待大でした。蓋を開けてみると、液状化してトリッキーに立ち回ったり、派手なオープンセットで市街地を破壊したかと思えば夜戦までこなし、まさに期待に応える大活躍ぶり。

 

 

しかし、私がとても気に入ったのはその出生です。なんて儚く、物悲しいんだろう、と。レヴィーラに感じていた既視感がクリオネだったのは納得の種明かしだったのですが、クリオネは巻貝の仲間ということもあり、まともな知性は無い訳です。今回、悪徳商売人にこれでもかと利用され、命の尊厳を踏みにじられていましたが、本人(本人?)はそれに憤慨する頭脳すら持たない。ただの実験動物と同等の扱いで、利用され、増やされ、最後にはブレーザーに撃破され粉々になっていく。この悲哀ですよ。なんて可哀想なんだ!いいぞ!可哀想でいいぞレヴィーラ!!

 

 

エミ隊員が盗み出されていた機密資料を閲覧するシーン。一旦停止して資料の文章を読むと、隕石に付着していた物体Aに類似する生物は地球上におらず、火に近づけると避けるような動きをするとのこと。『遊星からの物体X』ネタににやりとするところですが、実はこのカット、液体窒素を使って物体Aの活動を停止する実験まで載っているんですね。つまり、エミ隊員が最後に取った作戦はこの記述をヒントにしたものだったと。まあ、彼女が才女であることは度々描写されていたので、そんなワンカットの文章なんて細かく読まなくても話が分かるように作られているのですが、だからこそ細部に拘ってくれるのが嬉しいんだなぁ。

 

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「実験生物として生み出された怪獣」という設定だけでも今回のお話は成立するのですが、ここに「隕石に付着していた地球外生命体とクリオネの間の子」という背景を加えることでSF的にぐっと深みが増している。それでいて、レヴィーラの悲哀性も増すってもんです。もしかしたら本当に物体Aは細胞の一部とかで、元の完全体(?)だと知性を持った宇宙生命体だったかもしれませんからね。それが、遠い宇宙の果ての太陽系第三惑星で、いち企業のエゴのためだけに命を歪められ利用されてしまう。とはいえ、知性も感性も持たないが故に「救う」対象にすら届かず、ただシンプルに排除されることでしか物語上のエネルギーを持たない存在。こういう、キャラクターよりもバックグラウンドで存在感を示してくる怪獣、いいですよね……。

 

初代『ウルトラマン』が毎週30分のTV怪獣映画、という性格を持っていたのは有名な話ですが、怪獣というのはただのヤラレ役では無くて。もちろん、ごく単純に巨大なスケールに感じる浪漫や恐怖もその魅力ですが、やはり何より、怪獣自身が何かしらの爪痕を残して散っていくこと。視聴者の心に何かを残した後に、銀色の巨人に敗北していくこと。そこまでがセットで、ウルトラマン概念における「TV怪獣映画」が成立する訳です。

 

なので、例えば『ジード』のベリアル融合獣のように「完全に人間に操られるだけの怪獣」は、それはそれでインパクトはあるのですが、前述の「TV怪獣映画」としては弱さもあって。スカルゴモラがスカルゴモラじゃないといけない理由に欠ける、という話です。怪獣の生態・キャラクター性・バックグラウンド・散り様が、物語の縦筋にあまり関与しない。もちろん、だから駄目ってことじゃなく、それは作品ごとのコンセプトやスタッフ陣のフェチの置き方の違いによるのですが、とにかく今年の『ブレーザー』はここをしっかりやるんだ、と。

 

 

バザンガが硬いからこそ降下作戦や特殊部隊の活躍があったし、ゲードスはその歴史や生態がSKaRDの隊員個々の活躍を炙り出し、タガヌラーは動く時限爆弾として物語に緊迫をもたらす。全てがそうではないのですが、やはり既存怪獣のスターシステムだと「その怪獣の背景や生態はすでに過去作でやっているのでお馴染みですね」なノリでお話との接続が薄くなる傾向にある気がしていて……。

 

怪獣を新規で作るということは、怪獣が物語と密に接続されるということ。この物語に必要なのは「怪獣」ではなく、「バザンガ」や「ゲードス」や「タガヌラー」や「レヴィーラ」なんだと。そういう語り口をしっかりシリーズ全体でやる!、というのがとても明確なんですよね、『ブレーザー』は。だから美味しい。

 

 

そんなレヴィーラ、液体がCG合成だけじゃなくガチの液体だったのはすごく良かったですよね。やっぱり、特撮って実物のナマの動きがあってなんぼ、みたいなことろあるので。ドロドロの液体に押されて道端の車や公園のベンチが流れていくカットとか、実に沁みます。

 

また、レヴィーラまわりの辻本監督の特撮、バッチバチに冴えていて見応えがありすぎました。毎週の感想で書いているように私はオープンセット大好き人間なのですが、冒頭、自然光のもとで爆炎を背負って市街地を蹂躙するレヴィーラは感涙モノのカット。こういう、怪獣やウルトラマンの背丈より高く炎が上がるやつ、『ギンガS』の坂本監督以降かな、シリーズでも割と定番の見せ方になってきていて。坂本監督の場合は純粋なヒーローの決めカットに構図が振ってありますが、今回のレヴィーラだとビルの谷間で生々しい高さを感じさせながら高い炎が立ち上がるので、被害の尋常じゃないっぷりが伝わってきます。レヴィーラの身長が見たところ高層ビルとそう変わらないのがすごくいい!

 

あと、アバンでエミ隊員が社長の写真を撮っているシーンで、怪獣が出現して、カメラが左に向くと窓の外でレヴィーラが暴れているカット。最初の社長の後ろ、窓の向こうは普通に実景なのですが、途中の窓枠を境界線にミニチュアに切り替わっている。素晴らしい。確か『激走戦隊カーレンジャー』だったか、似たような特撮シーンがあったんですよね。実景のレッドレーサーが上を見て、カメラがぐんっと横に振れるとミニチュアワークに切り替わってるやつ。それこそ田口監督も「等身大と巨大さを同一画面に」がお好きで『魔進戦隊キラメイジャー』に参加された際も存分にそれをやられていたのですが、どちらかというと田口監督は合成やカメラワークが主体のスタイル。今回の辻本監督は、前述の水のカットもそうですが、出来るだけ物撮りを重視しつつアイデアと工夫でそれらを繋いでいく印象があります。

 

 

といった感じで、とにかくレヴィーラがよかった!そしてレヴィーラまわりの特撮も最高だった!という前置きでした(前置き、とは)。何回も繰り返し観たいカットが多すぎましたね。毎週のことですが。

 

さて、お話のメインはエミ隊員の潜入捜査。まずサブタトルの「エミ、かく戦えり」が韻を踏んでいるのがもう好きなんですが、とにかくパンツスタイルがお似合いで……。すらっとした脚で繰り出すキックは画面栄えが抜群でした。また、「潜入捜査もの」「事件捜査もの」としてのプロットもよく出来ていて。電子機器でやり取りではなく、わざわざ水族館で落ち合って隊長と情報交換するのもオッシャレ〜〜。クリオネが怪獣の元ネタなので水棲で水族館、という示唆はもちろん、ゲント隊長がしっかり私服スタイルで「偶然会った他の客との会話」に擬態しており、それを更にあえて敵に見せて罠にかける、という転がし方も素敵。

 

エミ隊員のアクションシーンは、奪った銃をノールックで破棄したり、回し蹴りの後にすっと首を回して髪が浮いたり、とにかく「デキるオンナ!!」な見せ方に満ちていて、好きでした。田口監督がインタビューで「設定が特殊部隊なので体つきも体術もある程度しっかりできる人をキャスティングした」と述べていたのですが、それを実感する内容でもありました。

 

 

まさかの偶然&アドリブという頭をぶつけるくだりも、ブレーザーブレスを焦って隠すくだりも、エミ隊員をメインに据えながらもゲント隊長のお茶目なシーンがしっかり用意されているのもポイント。ゲント隊長もとにかく仕事の出来る有能な人なのですが、そんなキャラクターの人間臭い所作が垣間見えるの、愛着がもりもり湧いちゃうんですよねぇ。

 

クライマックスは久々の夜戦!ブレーザーのたてがみの発光がこれまた美しいのですが、今回の名場面はビルに倒れ込みそれを盛大に倒壊してしまうブレーザー。レヴィーラの攻撃を受けてブレーザーが後ろに吹っ飛び、カメラが切り替わって反対側のビルにじっ……と寄ってからの、ワンテンポ溜めてど〜ん!こ、この溜めが!これがいい!!破壊されるビルの「破壊される前」を舐めるように撮ってからのインパクトですよ。素晴らしい緩急。そして飛び散ったビルの破片、最後に大きいのが画面中央に飛んできて大きな落下音、からのそれに驚くエミ隊員らのカットに繋がるのもすごく良い。仕込みが細かい。巨大戦・ミニチュアワークとドラマパートをしっかり繋げていきたいという熱い想いを感じる。(おそらく最後に飛んでくるパイプ状の破片はCGで付け足してると思うのですが自然すぎて分からない!)

 

必殺技は初の上手投げを披露、そして何気にアースガロンちゃんも夜戦デビューで発光が美麗……って、おいおいおい最後のニコニコ眼はそんなん反則ですよお前。こんなん販促だ!

 

ラストは花言葉できっちりしっとり締めて終わる、実に手堅く作られたシナリオでした。アースガロンの初登場とか、新部隊の結成とか、そういう目に見えて盛り上がる展開ではなかったですが、3話までで提示された『ブレーザー』のリアリティラインや人間描写の生っぽさ、怪獣を作劇にきっちり接続する性格や気合と予算を感じさせる特撮など、ホップが終わり次第にステップに移行するターンとして、とても実直でした。

 

さて!来週も新しい怪獣が出てくる〜〜〜!うわ〜〜!幸せ……。幸せじゃ。そして、実は今度ウルサマに行きます。来週の #俺が観る では、ウルサマの写真なんかも載せられるかと。ウルトラ充の夏、きてるぜ。

 

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