ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

感想『ウルトラマンブレーザー』第3話「その名はアースガロン」 #俺が観る EP03 戦士たちが駆るは、鋼の体を持つ獣

DXアースガロンを買いまして、自宅でいつも拝んでいます。いってきます、アースガロン!ただいま、アースガロン!

 

この手のフィギュアって、よく「可動域がすごい!」「存分にブンドドできる!」と言われますが、実は私はあまりそういう楽しみ方をする人間ではなくて。なんというか、それが “在る” ことがもう最高といいますか。アースガロンでいえば、それこそポーズを取らせたりもしますが、最も充実感を覚えるのは単純に手に持っている瞬間なんですよ。実在感。ずっしり感。リアルな物体の存在感。今ここに “在る” という、その事象だけで素晴らしい。そういう楽しみ方(楽しみ方?)が好きです。

 

 

そんなこんなで #俺が観る 、第3回。いってみましょう。

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1682539733015224322

 

新戦力アースガロンの開発に携わっていたヤスノブを一員として迎え、ついに集結したSKaRD。対怪獣戦に向け訓練に励むことに。そのさなか、新たなエネルギー源の貯蔵タンクが一夜にして空になるという怪現象が、世界各国で発生しているとの情報が…。原因は怪獣であると踏んだSKaRDは、満を持してアースガロンを戦場に投入する。

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/07/22 放送 監督:田口清隆 脚本:小柳啓伍

 


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冒頭、テキサスに出現するタガヌラー。こういう「アバンで怪獣の生態が描かれてOP入り」という段取りの懐かしさよ。そして田口監督って諸外国で暴れる怪獣を撮るのお好きですよね。グリーザ然り、デストルドス然り。あっちでも暴れて、こっちでも暴れて、そして遂に日本へ、という流れ。こういうスケールを明示されると、国外にある地球防衛隊支部はアースガロンをどのように見たのか、あるいは諸外国でSKaRDの活躍がどのように報道されたのか、なんて妄想も膨らんじゃいます。

 

 

しっかし、タガヌラーがタンクを襲うシーン!ちゃんとミニチュアや夜空のホリゾントをこしらえて撮ってある!これはスケール的にタガヌラーの小さなプロップを作ってますかね。しかもタガヌラーの眼が発光までする。最高だ。「国外の数ヶ所でタンクを襲っている謎の怪獣」なんて、隊員の説明台詞でも済ませられそうな描写なのに、ちゃんと特撮で撮る。絵で見せる。だからこそ説得力と実在感が出る。なんて良い時代になったんだ……。(毎週こんなことを言っている気がする)

 

あなたの荷電粒子砲はどこから? 私はジェノザウラーから!ってことで、メカニック担当のバンドウ ヤスノブ隊員が本格的に登場。気さくな関西弁キャラですね。調べたところ、演じる梶原颯さんは兵庫のご出身でした。エネルギーの説明をがりがりとホワイトボードに書くシーンなんか、いいですよねぇ。こんなの、子供はもちろん大人も意味不明な人が多いと思うんですが、ああいうのをちゃんと「それっぽく見せる」のがすっごく大事なんですよ。

 

 

「彼は狙撃の名手だ」とか「〇〇は得意なんで任せてください」とか、そういう説明的なキャラの肉付けではなく、ちゃんと視聴者に肌感で伝えてくれるのが良い。先週も書いたけど、田口監督がどれほどのリアリティでやりたいのかがよく伝わってくる。大切なのは、「すごい」と説明されること、ではなく、「すごい」と感じること。我々が実生活の会社や学校で人と関わるのと同じで、その人にとっては何でもない言動やニュアンスから「あっ、すごい人なんだな」と理屈じゃなく感覚で理解する。

 

SKaRDは一種のプロジェクトチームでは、と先週の感想に記したが、であるならば「それぞれが一芸に秀でている」ことがきっちり伝わるのが何より重要。潜入捜査を器用にこなす天真爛漫なエミ隊員、理系一辺倒ではなく社交性にも長けたヤスノブ隊員、等身大の表情からプロフェッショナルな佇まいへの切り替えが美しいアンリ隊員、そしてサブリーダーとしてのポジションを的確にこなすテルアキ副隊長。技巧や体術だけでなく、人間性すらもどこか一芸に秀でている。

 

こういう「凸凹チーム」って本当にいいですよね。凸凹なのは協調性じゃなくて、得意分野の話。

 

 

大好きなのは、アースガロンのコクピットの魚眼カメラのシーン。こういう「寄り」の作り方、大好き。コクピットを狭く作ってあることが造形的にも活きてる。マニュアルが笑っちゃうくらい分厚いのも良いし、それに付箋がアホほど貼ってるのも最高。いやぁ~~、そうなんですよ。実際こうやって全身全霊でガリガリ取り組むときは紙なんですよ!タブレットじゃなく!紙に書き込んで汚していくんですよ!

 

「裏技があって、首の付け根に……」のくだり、ここで多くの視聴者が「ということはつまりそういうことなんだな!」って思ったら、ものの十数分後につまりそういうことになりましたね!いい!こういう予定調和をきっちり仕込んで果たすから気持ちがいい!そして模型で模擬戦闘するくだりも、これも馬鹿みたいに笑える最高のシーンなんですが、一番喋ってるのが副隊長なのがまた粋なんですよね~。このシチュエーションで最も雄弁そうな開発に携わったヤスノブ隊員はメモを取るのに集中してて、攻撃した時の弾道だけガチ再現してる。

 

この短い一連の訓練シーンだけで、「隊員それぞれの人間性」「技術的な得意分野」「次第に固まっていくチームワーク」「隊内の充実した機運の高まり」が肌感で一気に理解できるの、最高 of 最高ですね。理解度が実に生々しい。この職場に出勤する時、毎朝「あ~、しんどっ!」って言いながら笑顔でやる気でそう。これなんですよ。

 

そしてゲント隊長の回想。やはりこれは例の3年前の……。光の渦の中に見えた白い人影を、不審に思うより先に助けようとするゲントさん。なんだ聖人かよ…… 聖人レベル風切大和だよこんなの……。あと、すっごくどうでもいいことなんですけど、私も仕事中は結婚指輪を外す人間でして。キーボードと取っ組み合って作業する時に左右の手の重さが違うのが嫌で、腕時計も必ず外します。小学校から吹奏楽で打楽器をやっていて、スティックを握る際は必ず時計を外すのですが、その癖が今になっても抜けず。もちろん、指輪も腕時計もそれぞれに専用スタンドがあって、そこにディスプレイさせるのですが。なので、仕事終わりに指輪をはめるゲント隊長にちょっと親近感を覚えてしまいましてね。(マ・ジ・で・どうでもいい話だな!)

 

“いいチーム”は周りの意見をただ肯定するだけでなく、喧嘩しろとは言いませんが、時には意見を言わなければならない。コミュニケーションってそういうことだし、それができる仲を築かないといけないから、“いいチーム”になるのはなかなか難しいなと思いました。

『ウルトラマンブレーザー』蕨野友也 現場でも “いいチーム” を目指して | アニメージュプラス - アニメ・声優・特撮・漫画のニュース発信!

 

アンリ隊員に発言を求めるゲント隊長、とてもかっこいい。それに「うわぁ、特殊部隊っぽい」とこぼすアンリ隊員もとっても面白い。こういうテンポのいい軽妙なやり取りがどこかしこで続くの、小柳さんの脚本の味なのか、田口監督の間の取り方なのか、キャスト陣のチームワークが成しているのか。きっと、その三位一体なのでしょうね。

 

この後の「俺たちは俺たちの判断で出撃することを許可されている」のシーンでのアンリ隊員のニヤケ顔、ハイライトです。

 

 

田口監督が平成ゴジラVS世代でとってもお好きなのは周知の事実ですが、私も同じくVS世代でして、あの頃のメカゴジラやモゲラを彷彿とさせる圧巻の発進シークエンスでした。こんなものがテレビで観られる日がくるとは。ありがたや。ありがたや……。アースガロンの模型とスーツをカットごとに使い分けているとは思うのですが、その模型もめちゃくちゃ出来が良いですね。ライティングも含め、しっかり巨大に見えます。模型然としていない!

 

そして冷却材!!!!!!!!冷却材のシーン!!!!!!!「ば、馬鹿~~~~っ!!!!!!!!!!!」って叫んじゃいましたね。生きててよかった!!!!そして飛び立つアースガロンがスッと上に行くのではなく少しぐらついてバランスを取りながら上昇していくあの絶妙なニュアンス!!!!ふぉおおおおお!!!!!飛び方!!!!メカゴジラ飛び!!メカゴジラ飛び!!!!!!!!

 

<2023.8.7追記>

すみません、冷却材ではなく、正確には轟音を低下させるための水の噴射のようです。失礼しました。岱名創さん、ありがとうございます!

 

 

そのため宇宙開発をしている各国とも、発射時の轟音(ごうおん)を低減させるため、噴射煙をスムーズに流す煙道を発射台の下に設けたり、ロケットの炎に向けて大量の水を噴射させたりしているというのだ。火を消すわけでもないのになぜ水?と疑問に思うのも無理はない。原理はこういうことらしい。水を勢いよくロケット火炎に向けて噴射すると、ロケットの噴射エネルギーによって即座にミスト状になり、轟音が非常に細かい水滴に吸収されて音が減衰するというわけだ。実際に、JAXAが行った実験でも散水による減音効果が確認されている。

水環境研究の最前線(12):水を研ぎ、究める 水滴が轟音を制す|コラム|国立環境研究所

 

<追記おわり>

 

 

実際のところ、ここ数日、この発進シークエンスだけを日に何回も観てます。中毒みたいに観てます。

 

 

そして、ゲストでご出演の関智一さん。なんというか、こういう「トンチキ現場科学者」をしっかり好演されていて素晴らしいですよね。先週の「警鐘を鳴らすジジイ」と同じく、「トンチキ現場科学者」は特撮の名物ですから。あとあれですね、「怪獣ほんとにいるんだもん少年」とか「恋の予感だけど実は宇宙人美女」とか、大将ッ!この調子でいつものやつ頼むよッ!

 

あとエミ隊員の潜入捜査。これって、彼女のコスプレというか、色んな衣装が毎週観られるってことですよね。楽しみだな。なんでも似合いそう。

 

 

ゲント隊長の見事なネゴシエーションを経て、アースガロン、初陣!アースガロンが川北後光で吠えた後の、一歩目を踏み出すシーン。ここで左足のかかと、鉄パイプの箇所がちゃんとグンって伸びてるんですよ!これ!これすごくないですか!?????? これなに!? スーツがガチでそういう仕込みの造形なのか、CGでここだけ処理してあるのか、脚のプロップだけ別に作ってあるのか。とにかくここ、めちゃくちゃ燃えますね。性癖を感じる……。

 

太陽光のもと、オープンセットで殴り合うアースガロン。こんなん鼻血でますわ。その後のアースファイヤーも、ちゃんと怪獣内部の温度に影響を与えないよう、鎌だけ狙うのが小気味いい(この後の尻尾からのミサイルもちゃんと鎌や周囲の地面だけを狙っている)。そもそもですが、この初陣にあたってしっかり「アースガロンで近接戦闘を仕掛ける必要性」が組まれているのが丁寧で。冷静に考えればこんな愛くるしい二足歩行の軍機なんておかしいのですが、こういった「アースガロンが出撃するに足りる理由」をしっかりシナリオに配置することで、設定上の違和感と細かく相殺させてる。この配慮がいいんですよね。痒い所に荷電粒子砲が届く。

 

 

今週の「俺が行く」、本当に文字通り「俺が行く」でしたね。そして、オープンセットで煙の中に現れるウルトラマンブレーザー。なんて神々しい……。撮影スケジュール上、3話がクランクインだったらしく、このタガヌラー戦がブレーザーの撮影デビューとのこと。なので、祈祷ポーズが登場シーンではなく戦いが終わった後に小モーションになってたりしますね。現場レベルでじわっと洗練されていくんですよ、こういうの。

 

完全に「熱ッ!あっつ!」に聞こえてならないブレーザーくんが死ぬほど面白い訳ですが、やはり彼のモーション、完全に狩猟民族なんですよね。蛮族テイスト。およそ文明人の香りがしない。そしてタガヌラーがエネルギーを放出した直後、びっくりのスピード解決!おいおいおいおいブレーザーくん!工場で爆発したらやばい言うてるやないか!なんだそのかっちょいい爆炎は!!

 

 

かくして、この3話までがメインである田口監督の担当回でした。

 

かなりこだわりが強いのはひしひしと感じるところで、「夜戦ワンシチュエーションのツカミ」な1話、「チーム結成と怪獣生態対応の様式美」を示す2話、「隊員らのキャラクターを肉付けしつつアースガロンをお披露目」な3話と、1~3話を使って『ウルトラマンブレーザー』をしっかりと提示する。1話で極めてリアルに振って、2話でコミカルな戦闘もやって、しかし3話を中心に登場人物の造形は生っぽくやる。およそこういうバランスでやります、というメッセージが力強いですね。仕込みも前振りも盛り沢山。

 

次回はエミ隊員がメイン。しばらくは隊員個々の話になっていくのだろうか。ゲント隊長のオフの姿、家族とのシーンも早く観たいところですね!家でも息子さんがご飯をこぼした時に「俺が行く!」ってテッシュ取りに行ってて欲しいよ~~~!

 

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感想『ウルトラマンブレーザー』第2話「SKaRDを作った男」 #俺が観る EP02 結集せよ、志共にする者たちよ

『ウルトラマンブレーザー』のことを考えていたらあっという間に一週間が過ぎて『ウルトラマンブレーザー』が始まった。こんな幸せな日々があと半年もあるだなんて。ありがたやァ、ありがたやァ。……などと、拝むような心持ちで過ごしております。

 

つい先日サウナに行った際にサウナ室がガラガラで実質貸し切りだったので、魔が差して腰にタオル一枚の状態で熱気に包まれながら変身直後の祈祷ポーズをやりました。腕をしっかり伸ばして腰を低めに落とすと結構いい感じのストレッチになるのでオススメです。

 

 

そんなこんなで今週も #俺が観る 、いってみましょう。先週は沢山の「俺が読む」をありがとうございました!

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1680003015837904896

 

バザンガを退けたゲントは、司令部参謀長・レツから新設の特殊怪獣対応分遣隊『SKaRD』の隊長に任命される。早速隊員たちに面会へ向かうゲント。エミ、テルアキ、アンリ…合流したのはひとくせもふたくせもある隊員たち。そんな折に飛び込んでくるゲードス現出の知らせ。人員も装備も整っていない中、SKaRDの初任務が始まろうとしていた…。

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/07/15 放送 監督:田口清隆 脚本:小柳啓伍

 

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「遠い銀河のブレーザー。眩い光の中からやってきた、ウルトラマンブレーザー」。アバンタイトルでゲント隊長が幻視した謎の光景。一体化した過去の記憶なのか、あるいは変身した際のイメージか。

 

ぶれーざー Blazar(Blazing quasi-stellar object)

活動銀河核からは超高速ジェットが放出されることがあるが,このジェットをほぼ正面から観測したものがブレーザーである。ジェットのビーム内では電波からX線領域にわたるシンクロトロン放射と、ガンマ線領域では逆コンプトン散乱がおこる。相対論的ビーミング効果で、電磁波のエネルギーは高くなり、強度も増幅され変動時間は短縮される。したがってブレーザーは広い波長帯で非常に明るく、激しい時間変動を示す。

ブレーザー | 天文学辞典

 

このシーン、よく見るとブレーザーと思われる光の存在も右手を伸ばしてゲントの左手を掴んでるんですよ。お互いに恋人握りみたいになっている(恋人握りって表現、もしかして古い……!?)。本作がコミュニケーションのお話というのは度々語られていますが、やはりゲントとブレーザーというメインの関係性の変遷には注目したいところですね。

 


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こちらのバンマニでも主演の蕨野さんが話せる範囲でストーリーに言及しているのですが、やはり両者が一体化した過去というか、背景にひと捻りありそうなんですよね。変身した際のグングンカットでも赤と青のラインが途中から巻き付いていて……。つまり、素のブレーザーことブレーザーオリジン(仮称)はグレーに黒のラインのみのウルトラ狩猟民族で、血管のようなラインをゲントとの一体化によって身にまとっているとするならば、今やゲントはブレーザー無くしては死んでしまう存在なのかもしれない。「一体化することによって相手の生命を持続させる」はウルトラ定番ですからね。

 

 

この収録音声からすると、「ブレーザー、一緒に戦ってくれ!」「いくぞブレーザー!」も中々どうして期待を煽られる。

 

そして遂にお目見え、OP。いやぁ、まず曲が良い。最高ですよ。歌い出しの「命の!行方を!照らすため!」に顕著ですが、このダダダダン!ダダダダン!の打ち込みパターンが全編に配置されていて、力強さや激動のイメージがある。Bメロの「ひとりじゃないから、胸に抱いた希望を掲げ」なんかメロディの動きがすごい。ここ実際に口ずさんでみると、思ってたより音が上がったり下がったりしていてかっこいい。「抱いた」のキーがにくい。

 

そしてサビ、「星に射抜かれてひとつになった瞬間を」「今も立ち上がるたび懐うよ」。ここがとにかくインパクトありますよ。かっこよくてハードなのに、どうしようもなく泣きメロ。「星に~」は言うまでもなくウルトラマンと人間が一体化したシークエンスを思わせる訳ですが、特に好きなのは続く「今も~」のフレーズ。「立ち上がる」ってことは一度地面に転がっているので、つまり何度でもめげずに困難に立ち向かっていく、怪獣相手に起き上ってファイティングポーズを決めるウルトラマンを脳裏に映してくれる。しかも「懐うよ」って!「思う」でも「想う」でもなく「懐う」はセンス良すぎだろ……!「強敵に立ち向かう度に、ブレーザーと一体化したあの瞬間を懐かしむよ」、って、おいおいおいおいおい…… お、俺は……… これが最終回で流れたら死んでしまうかもしれない…………

 

僕らのスペクトラ

僕らのスペクトラ

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  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

映像はサビにやられました。新規怪獣がど~~ん!しかも、Twitter、YouTube、ニュース映像、新聞記事、古文書、衛星、監視カメラなど、様々なフッテージや媒体で報じられ目撃される未知の怪獣ときたもんだ。サビ頭でウルトラマンの活躍でも変身でもなく怪獣ですよ。たまらないですね。

 

今回の新規怪獣大進撃、これまた田口監督のリクエストだったそうで。

 

――多数の新規怪獣が投入されることも話題のひとつですね。
 永竹社長と最初に話したときに戻るんですけど、バンダイさんの商品戦略も考えた場合、ウルトラマンがタイプチェンジしないなら何がその穴を埋めるのか? 「新怪獣をいっぱい出すのはどうでしょう?」と提案しました。「何匹出せばいいと思う?」と聞かれて、「せめて全話数の半分」と提案しました。つまり12匹。「よし、それをやろう」と社長が言ってくれて、正直「本当に?」と驚きましたね。そこからいろんな調整ごとが僕の知らないところであったんだと思いますけど、結果××匹(まだ内緒)作ることになりました。

・ホビージャパン『宇宙船vol.181』P83 田口清隆監督インタビュー

 

 

こういった経緯でマジのガチに近年では類を見ない新規怪獣のボリュームになった訳ですから、そりゃあ、サビ頭に持ってきたくなりますよね……。『ブレーザー』の撮影はすでに終わっていて、このOP映像が行程のどの時点で編集されたかは分かりませんが、かなり先々の怪獣まで出てきているのがビックリですよ。こんなOP観たことない。

 

他のカットでいくと、田口監督おなじみの川北後光でキメるアースガロンもやっぱり最高なのですが、サビ前のビル街に佇むブレーザーがまたいいんです。カメラの視点やアオリもありますが、ビルが高くてウルトラマンがやや低い。生々しい高さで、そこにぬるっと存在している。これ、都会のビル街をふと見上げた時に、「ああ、この景色に怪獣やウルトラマンがいたら、こんな感じかなぁ」と脳内で妄想する絵なんですよ。まさに。

 

さて、いざ本編へ。ゲント隊長が各隊員のもとを訪れ、招集をかけていく流れ。各キャラクターを印象付ける軽妙で生っぽいやり取りが素晴らしいのですが、とても面白いなと感じたのは、この一連のシーンで一切のBGMが鳴らないこと。役者陣の演技、カット割り、間の取り方、それらだけでムードを形成している。仮にこの回が坂本監督の演出だったら、エミ隊員とのカフェの場面ではお洒落なジャズが流れてテルアキ副隊長はワンダバみたいな軍事系のが流れてアンリ隊員だと笛の音の和風サウンドが流れること間違いなしなのですが、いや、えっと、それが悪いとかそういうことではなく、田口監督は本作のSKaRDをどれくらいのリアリティで描きたいか、ってことだと思うのです。

 

キャラ付けにおいて、記号的に分かりやすい特徴や口癖を持たせて表現ずることを俗に「アニメっぽいキャラ付け」なんて言ったりしますが、今回の田口監督のプランはそっちではない、と。『ブレーザー』を観てから改めて『Z』を思い起こすと、相対的には割と「アニメっぽかったな」と驚くほどで(怪獣オタのユカ隊員あたりに顕著)。中間管理職であるゲント隊長が主人公で、上も下もいるからこその悩みややりがい、そこに生まれるコミュニケーションを描くのであれば、所属組織が生々しいリアリティに溢れていた方が共感は得られやすい。レシートを奪い合うくだりや、ペンを探すくだり、上司の背中でサインを書くくだりなど、分かりやすい「アニメっぽさ」に頼らずにキャラクターを印象づけていく。(ちなみに、アンリ隊員がその場でしゃがんで床で書くことはしない=武道の使い手として床を下敷きのように使うという判断はしない、あたりの好感度の調整がニッチで好き)

 

たまに雑にイコールで表現されちゃったりもしますが、特撮番組における「リアリティが高い」と「シリアスである」は、決して同値ではない。また、「明るく楽しめる」ことと「コメディ調である」こともまた、異なるのだ。

 

この点、『ブレーザー』は「リアリティが高い」&「明るく楽しめる」が目指しているバランスなのだろう。事前の予告や初回のテイストが割と「シリアスである」に寄っていたので、「そればっかりじゃないよ、こっちのテイストにもしっかり目配せしてありますよ」と。この2話までを足して割ると『ウルトラマンブレーザー』という番組そのものの配合を感じ取れるような、そんな印象を受ける。ネオンの街で格闘したかと思えば、釣りですからね。

 

リアリティでもうひとつ言及すると、人間の対怪獣認識。SKaRDの面々の履歴書をよく見ると、キングザウルス三世、ゴルドン、シーゴラス、ゴキネズラ、クレッセント、ラゴラス、ペギラなどの名前が並んでおり、いずれも撃滅作戦が行われている。つまりこの世界では、地球防衛隊が設立された1966年以降、人間がウルトラマン等に頼らす一般兵器(あるいはそれ+α)で怪獣を撃ち倒してきたのだ。これまでは長く後手に回り、「出たら倒す」判断を積み重ねていたようだが、怪獣の頻出に伴い違うアプローチが求められてきた。怪獣の生態や特性を調査・分析し、個々の個体に応じた戦法を立案、あるいは前線で怪獣災害に立ち向かう組織。そういった背景で設立されたのがSKaRDなのだろう。だから、この度のゲードスに対しても既存の部隊が〇〇のひとつ覚えみたいに火力で押しまくって惨敗しているし、結果的にそれが上陸への挑発にもなってしまった。地球防衛隊は今、「ただ火力で殴る」以外の選択肢を模索するフェイズに立たされているのである。

 

 

実際の仕事でも、組織に広く体制を整える前に、各部署の精鋭をプロジェクトチームなどと称して集め、先行して新規業務にあたらせたりする。往々にして少数精鋭で、それは指示系統を圧縮し一刻も早い成果物に繋げるため。つまり、もしSKaRDの活躍が認められ評価される未来があれば、地球防衛隊はSKaRDを雛形として、怪獣災害に硬軟織り交ぜた対応が可能な部隊をもっと大規模に組織するのかもしれない。

 

……といったリアリティの位置づけにおいて、これらは作劇にも十二分に寄与することだろう。「SKaRDは一種のプロジェクトチーム」と捉えれば、大事な仕事なのに人数が少ないのも、予算が少ないのも、各隊員が一芸に秀でているのも、肌感覚で理解できる。SKaRDの設立目的に照らし合わせていくと、必然的に怪獣が物語の中心に位置するし、怪獣を通しての「未知とのコミュニケーション」という振り方にも出来る。

 

『Z』でも見られた、「ウルトラマンの作劇において伝統とされる要素」にフェティッシュに理屈付けをしていく構造は、田口監督のこだわりの大きな部分なのだろう。そして、多くのオタクはこれが大好物である。

 

 

こちらもOPに続いて遂にお披露目、ブレーザーの変身、グングンカット。前述のように、体表のデザインに応じたエフェクトがポイント。

 

ブレーザーブレスは私も玩具を買って遊んだのですが、このね…… 左腕を相手に見せるように構えて… 右手をクッと持ってきてストーンを入れる手はずがね…… すごく、こう、「なりきり度」が高いんですよ……… そしてゲント隊長のように左手はグーで右手はパーにして…… いやぁ、昨日の晩もね、ちょうど、ふふ… 俺が行きましてね…………

 


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田口監督はインタビューで、「1~3話は自分が監督だからリソース(予算)をやりくりして全部初回に注ぎ込んだ」「だから2、3話はある種いつも通りにやっている」と話されていて。しかし、まぁ。この「いつも通り」も今やすっかりアベレージが高くなったというか、これが「いつも通り」なんて本当に幸せなことです。嬉しい。

 

確かに、ゲードスやブレーザーを寄りのアオリで撮ってミニチュアの数を最小限で済ませたり、引きのカットはもっとずっと引いて市街地破壊ではなく実景への合成で処理したりと、「リソースやりくりの結果」っぽい箇所はあるにはある。しかし、かまぼこ工場を豪快に破壊するミニチュアカットや、途中に挟まれるオープンセット撮影、水流攻撃のマトリックス避け、長回しによる泥仕合、釣り対決に塩焼きなど、終わってみると「1話より金がかかってないな……」なんて感覚には絶対に至らないようになっている。しっかり緩急があって、アイデアと遊び心に楽しく振り回される。リソースがなければ創意工夫。職人技である。

 

新番組予告でも印象的だった、ブレーザーが走ってきて飛び掛かるCM明けのカット、良いですよねぇ。質感や画角的にここからの数秒がオープンセットなのですが、自然光に照らされたブレーザーのスーツは造形の生々しさがより一層際立つというか。そしてブレーザーくん、やはり完全に戦闘民族のそれ。祈祷ポーズもそういった未発達文明の香りがする。彼の出自、どこまで明かされるのだろう。

 

さて、女性陣のアシストもあり無事にゲードスを撃破したSKaRDだったが、次なる指令は「ブレーザーより先にアースガロンで怪獣を倒すこと」。これ、職務を全うしようと思ったらゲント隊長が俺が行かなければいいだけの話なので、早速中間管理職が面白いパターンですよね。アースガロンの玩具が出る週でもあるので、結果的にブレーザーが手伝ってアースガロンの大活躍で撃破、ってところでしょうか。え? DXアースガロン? もちろんとっくにAmazonで「俺が買う」してますが……。

 

 

最後に。昨晩、久しぶりに『ウルトラマンZ』のBlu-rayに収録されているメイキングを観たら、田口監督はこう話されていました。

 

「自分の今までの失敗も成功も含めて、これってこうすればよかったんじゃないかみたいなのを、なるべく片っ端から実行してやってますね」

 

『Z』が面白かったのは、いわゆる「ニュージェネらしさ」に果敢に理屈付けを行ったところだと思っていて。「喋って説明してくれるウルトラマン」が必要なのであれば喋るだけで面白いキャラクターに、インナースペースでの玩具操作がマストなのであればそのシーンのやり取りをコメディ調に、リアリティがぶっ飛ぶような顔付きの剣であれば凶悪怪獣を出して設定面で意義を補強して……。期せずして出来上がっていった「ニュージェネらしさ」という凸凹に、監督なりの凹凸をはめ込んで、エンターテインメントという「平ら」を目指す。つまり、一種の「均(なら)す」作品。

 

そして『ブレーザー』は、その均した土地のどこかに、新たに見たことのない異色な塔を建設するような……。なんだか、そんなイメージがある。『Z』が一度行われ、『トリガー』『デッカー』という新しい角度からのアプローチも続いたからこそ、こういった奇異な作品が生まれていくのだな、と。

 

やはり作品は単体ではなく、シリーズとして脈々と続く歴史や文脈があるのだ。それを踏まえて観ると、より旨い。

 

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感想『ウルトラマンブレーザー』第1話「ファースト・ウェイブ」 #俺が観る EP01 ネオンの街に巨神たちの咆哮が響く

いよいよ始まりました、2023年のウルトラマン新作『ウルトラマンブレーザー』。いやぁ、面白かったですね。本当に、すごくすごく、心底面白かった!最高!OK!ヨシ!感想は以上ッ! ……と切り上げてしまっても良いくらい、兎にも角にも「面白かった」に尽きる初回でした。

 

 

予告映像や座組の時点で期待ムンムンだったこともあり、『仮面ライダージオウ』以来の毎週感想連載にチャレンジします。連載タイトルは #俺が観る 。本編の感想だけでなく、玩具の遊び心地だったり展開を予想してみたり音楽の話をしてみたり。とにかく『ブレーザー』に関して思ったこと・感じたことを自由に書いていく予定です。お付き合いいただき、「俺が読む!」していただけますと幸いです。

 

それではいってみましょう、『ウルトラマンブレーザー』第1話「ファースト・ウェイブ」。

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1677466328184262656

 

怪獣被害の頻発する地球に、ついに50m級宇宙怪獣までもが現出した。怪獣の進攻を阻止するため特殊部隊を率いるヒルマゲントだったが、部隊は絶体絶命の危機に直面する。部下を救うため単身飛び出したゲントの腕に現れるブレーザーブレス。光に導かれ、今、ウルトラマンへと変身する…!

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/07/08 放送 監督:田口清隆 脚本:小柳啓伍

 


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OPすら流れず、終始画面が暗いナイトシーンで、コミカルな場面も必要以上の設定説明も無く、質感で言ってしまうとすこぶる「硬派」な第1話。

 

もう冒頭の空挺からゲント隊長以下が落下していく「落下ミッション」でテンションが爆上がりする訳です。即座に思い出したのは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『ミッション:インポッシブル / フォールアウト』ってどっちもトム・クルーズじゃねぇか!……とにかく、この手の「落下ミッション」ってアクション系の洋画ではここ十数年でかなりスタンダードな扱いになった印象があり、それが国産特撮のそれもTVシリーズで拝めるなんて実に贅沢極まりない。背負ったジェットの噴射で推進するジェットパック(ジェットスーツ)は実際にアメリカ国防総省でも開発支援が進んでいるアイテムで、救助の現場でも活躍が期待されているもの。アイアンマンのような動きが現実になるの、たまらんですよね~。こういうのをド頭に盛り込んでくるあたり、田口監督のミニタリー嗜好がうかがえます。

 

 

ウルフェスも開催されることから、田口監督が「ここを聖地にしたかった!」と語る池袋サンシャインシティ。実は昨年家族で東京を旅行しまして、そこで行ったんですよ。ウルフェスではなく娘を『デリシャスパーティ♡プリキュア』のイベントに連れて行ったのですが、そこで通ったあの通路!あのフロア!あの階段!……実に素晴らしい。もうだってこれから池袋サンシャインシティを訪れる度にゲント隊長の勇ましい表情が脳裏をよぎるし、ビルの谷間を見上げては爆炎を幻視するの、間違いないですから。

 

田口監督がやってくれるファンサービスって、ご自身も相当な怪獣・ヒーロー好きということもあってか、「いやらしさ」が無いんですよね。「これをやればオタクが喜ぶだろほれほれ(チラッ チラッ」みたいなのが無くて、「俺が面白いし観たいからやる!」みたいな。精神性としては『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』のマイケル・ドハティ監督にも通ずるというか。とにかく対象への過ぎた愛(褒めている)が画面から迸っている。オタクは作り手の隠しきれない過ぎた愛が好き。

 

 

そしてビル街が炎に包まれて「これはまずいな……」からの劇伴が キーーン と盛り上がってからの黒背景タイトルがど~ん!そして!提供画面!BGM無しで後光に包まれてポーズを取るブレーザー!!!ふおおおおおおお!!!!最高!OK!ヨシ!感想は以上ッ!!!……全体的に、とにかくハードに、硬派に、堅実に。緊迫感を途切れさせない配慮が随所に効いていて、つまりこの初回で何をやりたいのか、視聴者の心をどう掴みたいのか、それが如実に伝わってくる。

 

 

リアルタイム進行のワンシチュエーション。まさか「怪獣と戦いウルトラマンと邂逅するナイトミッション」のみで初回を終えるなんて思ってもみなかった。それも、約30分の番組がほとんどそのまま約30分の出来事。言うまでもなく、唾を飲む。ごくりと。拳を握りしめる。ぎゅっと。「どうせウルトラマンがやってきて怪獣を倒して終わる」という話の筋は分かり切っているのに、その予定調和が頭を占める前に、緊迫感がぬるりと蔓延していく。隊員らの徹底された所作、作り込まれた装備の数々、リアリティを感じさせる単語や台詞運び。神は細部(ディテール)に宿る。

 

近年、といっても広い年代を差すが、いわゆる三大特撮(ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊)に課せられた大命題は、「予定調和との付き合い方」にある。怪人や怪獣がやってきて、一般市民に被害が出て、それをヒーローが討伐する。この古から続く予定調和にどんなアプローチでアンサーを打ち出すか。真正面からその予定調和に意義付けをしていく作品もあれば、様式美を枠だけ踏襲して全く違うエッセンスを持ち込むパターンもある。商業的な展開も加速し、沢山のアイテムをとにかく売れるようにアピールしなくてはならない。商売の都合と、会社の方針と、スタッフ陣の作家性と。それらが毎年、いったいどんな距離や配分や角度でお出しされるのか。そこに特撮番組を鑑賞する面白さがある。桁違いの予算が投じられる洋画とも、相対的な自由度が高い漫画やアニメとも異なる、独特な縛りや制約がある世界。だからこそ、観 “がい” がある。

 

『ウルトラマンブレーザー』は本当に面白かった。素晴らしかった。でも、こんな場末のブログで感想を綴っている一介の特撮オタクの独り言が許されるならば。一番近い感情は「痛快さ」だ。胸がすく。あまりに気持ちが良かった。それは、田口監督が、脚本の小柳氏が、『ブレーザー』という番組全体が、視聴者を信頼してくれたからである。我々は『ブレーザー』という番組に信頼されたのだ。だから嬉しい。その信頼が向けられることに、痛快さがある。やった!と飛び跳ねたくなる。なにより、これに尽きる。

 

硬派で挑戦的な『ブレーザー』初回。それは実は、「30分のTV番組で怪獣映画をやる」という初代『ウルトラマン』の基本フォーマットであったり、我々の知らない異質な巨人が出現するファーストコンタクトの様式だったり、ウルトラマンとしては実に基本に忠実なバランスである。ウルトラマンの世界観だって突き詰めればハードSFになるのは自明だ。しかし、この「基本に忠実」が、出来ない時代があった。TVシリーズが途絶え、やっと復活しても見るからに予算が潤沢でない画で、どう見てもオモチャなアイテムを使って変身ポーズでなりきり遊びを促進する。ウルトラマンは親しみやすく喋り、玩具アイテムの操作を見せるために特殊空間で俳優が演技をする。ウルトラシリーズはそうやって継続してきた。「基本に忠実」をやれないのであれば、より発展的に、時に冒険もしながら。そうやって、今でこそニュージェネレーションシリーズと呼称される作品群を中心に、実績を積み重ねてきたのである。

 

だからこそ、私は決して「喋るウルトラマンはだめだ」とか、「オモチャっぽいアイテムを操るウルトラマンは興ざめ」とか、そういうことは言わない。その時その時の無数の積み重ねがあってこそシリーズが継続してきた訳で、「こうじゃなきゃ〇〇じゃない」なんてしたり顔で語るのは実にナンセンスだ。そういうオールドファンにはなりたくない。しかし、だからこそ。「こうじゃなきゃ!」に忠実に、俗に言う「オタクが喜びそうなやつ」が割と真正面からお出しされると、それはもう心の底から嬉しくなってしまうのだ。だってそこには、これを今ならやれる! という判断があるから。もしかしたら “分かりやすく” なくても、きっと通じる。その信頼がうかがえるから。

 

ニュージェネレーションシリーズがずっと積み重ね、地道に拡大・復権させてきたここ十数年の歴史があり、例えば『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』等で特撮ジャンルそのものの認知や機運も一昔前より格段に高まり、そういった土壌の果て、2023年現在に『ウルトラマンブレーザー』があるのだ。

 

こういう、ハードで硬派で、ある意味で基本に忠実で、加えて作家性に満ちたウルトラマンが、今一度TVシリーズで “許される” ようになった。そこに喜びを覚えるのが仮にオタクだけだとしても、私はオタクなんだからしょうがないじゃないか。しかし世の子供たちだって、この細部に込められた信頼の数々を、きっと受け取ってくれるのではないだろうか。いつも通りではない、異質なウルトラマンという、信頼を。

 

――つまり、ニュージェネ・ダイナの次の作品ではなく、ニュージェネ・ガイアに代わる全く新しい作品として始まったわけですか?
 そうです。社長がそう判断した理由のひとつに、いわゆる「ニュージェネ」と呼ばれてきた一連のシリーズとは違うことをやりたいという狙いがありました。といっても、個人的には『ウルトラマンX』や『ウルトラマンオーブ』の頃はニュージェネという言葉はなくて、そもそも毎年「新しいものを」って意識ではやっていたんですけどね。とにかく「これをやると変わって見えない」要素は何か? を考えました。

 まず、過去のウルトラマンの力を使ったタイプチェンジ。それから制作上仕方ないことではあるんだけど、過去怪獣の使い回し。そしてコレクションアイテムを集めなきゃいけないストーリー展開。もうひとつがアイテムを操作するためのインナースペース。それを全部変えない限りは、「いつも通りじゃないか」と言われてしまう。「それなら、どこまでやれるか試してみよう」ということになり、次の段階に進みました。

・ホビージャパン『宇宙船vol.181』P83 田口清隆監督インタビュー

 

 

 

閑話休題。初回で特筆すべき点は、ヒルマゲント隊長、その男である。他部隊に「あなたが噂のヒルマゲント隊長ですか?」と投げかけられる、その噂通りの有能っぷり。

 

「上からの命令には逆らえないからな」「逆らえないから、提案をする」「どうせこのまま撃ち尽くすんだったら…… ちょっと、ちょ~っと だけでいいから、俺たちがいるビルの方にバザンガ誘導してくれないかな。できる?」。これですよ。最高。このワンシーンだけで、ゲント隊長が「気さくな性格で」「確かな実績アリで」「組織内で慕われていて」「仕事がデキる男」だと、一発で分かる。脚本と演技の勝利。お互いに上司の命令に背けない立場であることを重々承知しつつ、与えられた裁量の範囲内で、相手に言い訳と大義名分をするっと送りながら、ラフなトーンでアサインを決める。主人公として好感度抜群、男が憧れる男の正解のひとつですよ。

 

それでいて、未来を幻視するかのような謎のエフェクトシーン。爆発事故の爆心地に単身で突っ込んだという3年前の出来事。そして突如腕に現れたブレーザーブレス。現状でお出しされた要素を素直に繋ぐならば、「3年前の爆心地で瀕死になりブレーザーと一体化した」という筋が浮かぶが、果たしてどうなるか。

 

そんなゲント隊長が仲間を助けようと奮闘し、危機に瀕したその時。謎の巨人への強制的な変身を果たす。倒れるビルを支える光る腕。これこそ完璧な「ウルトラマンならでは」。アガる。怪獣とビルの向こうに佇む異質な存在。アガる。夜に光る蒼いたてがみ。アガる。ルゥアアアアアアアアオオオイイ の野性味溢れる叫び声。アガる。おいおいおい、なんてものを見せてくれるんだ。

 

 

これぞまさに、前述の「信頼」の一端である。言うまでもなく、ブレーザーは分かりやすいかっこよさとは対極に位置している。パブリックイメージな「ヒーローらしさ」とはかけ離れている。だからこそ、我々人類はこの瞬間、得体の知れない巨大な異星人と初めて邂逅したのだと、その痺れるような衝撃がどっしりと響くのだ。それは、初めて銀色の巨人と出会った1966年の視聴者が感じたことだろうし、つい直近も『シン・ウルトラマン』が目指したエッセンスだ。ウルトラマンを、「我々が知らない異質なモノ」に、リセットする。『ブレーザー』はここをきっちりクリアしてきた。

 

そこからはもう、感想をシーンごとに綴るような野暮なことはしません。みんな、浴びたことでしょう。これからも、何度も浴びることでしょう。ちなみに私は昨晩、自宅のホームシアターの100型スクリーンに映して『ブレーザー』初回を観ました。生の喜びでした。父と母に感謝を。

 

さて。この未知の巨人と、怪獣災害に瀕する人類。果たしてこの出会いはいかに物語を転がすのか。シリーズの基本に忠実に、それでいて作家性を爆発させた、技術と夢が詰まった『ウルトラマンブレーザー』。ここから半年、この初回で幕を開ける物語を追えるかと思うと、たまりませんね。本当にたまりません……っ!!

 

最後に。本作のテーマについて書き残しておきたい。

 

本作のテーマは、「コミュニケーション」です。<人間とウルトラマン><人類と怪獣・宇宙人><戦場の戦士と会議室の司令官><親と子供>…。それぞれの立場や思考の相違から生まれる対立を乗り越えて協調するために、気持ちを伝える「対話」がいかに大切か。現実社会でも起こりうる様々な対立に登場人物たちが立ち向かう姿を、明るく楽しいエンターテイメントとして「ウルトラマン」の空想世界で描き出します。

新テレビシリーズ『ウルトラマンブレーザー』テレビ東京系 2023年7月8日(土)あさ9時放送スタート!ウルトラマンシリーズ初、変身する主人公は隊長! – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

ブレーザーの野性味溢れるファイトスタイルを「まるでキングコングのようだ」と書いたが、この塩梅が絶妙だった。つまり、類人猿。サルやゴリラ。彼らとは、人間同等のコミュニケーションは難しいだろう。しかし、そこには絶対に知性がある。類人猿は知性があり、技術を有している。協調する能力も持っている。「コミュニケーションは難しいが、絶対にそれが不可能だとは言い切れない」。このぎりぎりの塩梅。ブレーザーは、「頑張れば対話できそうかもしれない」と我々が直感的に悟るような、そんなキャラクターに演出されている。

 

対して、それと一体化している(?)ゲント隊長。他部隊と交渉するシーンが分かりやすいように、コミュニケーションに長けた者として描かれている。年齢的に、ある程度の酸いも甘いも嚙み分けてきたのだろう。隊長という立場上、誰よりも協調の重要性を知っているのだろう。彼の風通しの良い人柄がそれをひしひしと感じさせる。

 

対話が無理そうな、しかし確実にそこにある知性に手が伸ばせそうなブレーザー。対話に長けた、上とも下とも手を取り合っていく立場にあるゲント隊長。彼らが織りなすドラマにも、ぜひ期待したい。

 

――ウルトラマンブレーザーのスーツアクターと声を担当している岩田栄慶さんとはお会いになりましたか?
 岩田さんとは撮影が始まったときにご挨拶させていただいたんですが、あえて密にコミュニケーションを取ろうとはしませんでした。第1話でゲントか変身したときに、自分の手を見るシーンがありますよね。あそこでゲントと変身後のブレーザーがイコールに見えた人もいるかもしれませんが、実は仕掛けがあるんです。これからのエピソードでその意味がわかるので、注目してください。

・徳間書店『Animage (アニメージュ) 2023年 08月号』P140 ヒルマゲント役 蕨野友也 インタビュー

 

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7月より『ウルトラマンブレーザー』の感想を毎週ブログに書くシリーズ連載「 #俺が観る 」をはじめます

さかのぼること2018年、『仮面ライダージオウ』の感想を全話分(毎週必ず)書くというシリーズ連載企画をやりました。

 

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それはもう、キツかったです。ある程度の分量を心掛けていたので、映像・脚本・演出・元ネタ・小ネタ・エトセトラ、可能な限りを書き連ねていました。次回放送までに必ず更新するというスケジュールは時に辛いものもありましたが、おかげで(おかげで?)、『ジオウ』への思い入れは今も相当深いですし、作品との向き合い方として非常に充実したものでした。

 

それを今一度!……やる!やるぞ!!

 

 

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7月8日より放送が開始される『ウルトラマンブレーザー』。すっかり毎年恒例になって久しいニュージェネレーションシリーズ以降の最新作ですが、今作はとっても引っ掛かります。それはもう盛大に、私個人のアンテナに、引っ掛かるのです。あまりに勢いよく引っ掛かりすぎてアンテナは倒れかけてます。

 

そもそも私は『ウルトラマンZ』が大好きだった、という話になるのですが、その理由は「ニュージェネレーションシリーズという商業的課題を抱えるシリーズにおいて販促面と作劇面(シリーズ構成)の調和が過去最大級に前向きに図られたから」に尽きます。もちろん物語の中身も最高だったのですが、田口監督を旗頭とするスタッフ陣の「今やれる最大に面白いウルトラマンを作ってやる!」という気概、そしてその成果物が、いちシリーズファンとして本当に嬉しかったのです。あれはもう、毎週のように幸せな日々でした。

 

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そして今回の、『ウルトラマンブレーザー』。円谷のホームページの田口監督のコメントには、このようにあります。

 

『ウルトラマンZ』以来の、メイン監督とシリーズ構成を担当しています。
世界観からストーリー、人物造形にいたるまで、現実味を強く意識した本格サイエンスフィクションをスタッフ・キャスト一丸となって目指しました。
ウルトラマンシリーズの監督をして10年、蓄積してきたモノをガンガン注ぎ込んでいます。
今までにない、だけど王道ど真ん中の新たなるウルトラマン。
まずはとにかく第1話を。観れば分かります。

新テレビシリーズ『ウルトラマンブレーザー』テレビ東京系 2023年7月8日(土)あさ9時放送スタート!ウルトラマンシリーズ初、変身する主人公は隊長! – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

おいおいおいおいおい……。『ウルトラマンZ』のメイン監督さんがこのコメントを残すということは、もう、それはつまりどういうことか、って話ですよ。おいおいおいおい。マジなんだな、と。そりゃあ、もう、期待が高まってしまいますよ。しょうがないですよ、これは。もうたまらんですよ。

 

告知映像全体に漂うハードでリアリティな雰囲気も、いまだに「ULTRA N PROJECT」の幻影に囚われている自分にはドンピシャですし。何より主人公が「アラサーで」「中間管理職の」「妻子持ち」って!おいおいおい!!お、俺やないか!!!!!

 

といった感じで、テンションも期待値も上昇不可避な『ウルトラマンブレーザー』。ぜひ、この作品とじっくり向き合いたい。少しでも長く、深く、がっぷり四つで過ごしたい。そのためには、やはりアウトプットなんですね。感想をとにかく出力すること。そうして一緒の時間を濃く過ごすことが、最も作品への愛着を深める行為になると、経験則でよく分かっています。だからやるのです。

 

連載用のタイトルは、番組コピーの「俺が行く」をもじって「俺が観る」に。中二的というか、難しい漢字を並べ立てた「第何次〇〇××観測報告書」みたいなのも考えましたが、シンプルにいくことにしました。

 

といった感じで、7月より、毎週の放送に感想記事で並走していきます。どうぞよろしくお願いします!

 

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ユニバースに備えて。『SSSS.GRIDMAN』再・訪

公開が迫る映画『グリッドマン ユニバース』に備えて、『SSSS.GRIDMAN』全12話を再訪した。

 

ところで、人はなぜBlu-ray BOXを持っているのにわざわざタブレットで視聴してしまうのだろう。どこでも気軽に観られる利便性の高さと、BOXとはつまり所有欲を満たす代物であるからして観なくても目的達成という事実の、併せ技だろううか。本作は環境音がASMRよろしく凝っているので、そこそこのサイズのタブレット+ヘッドホンの環境が実はかなり快適なのである。

 

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原作の『電光超人グリッドマン』が当時どういう位置づけの作品だったか、そして日本アニメ(ーター)見本市を経ての制作の経緯など、既知の事実はここでは端折る。その上で、いかにしたたかに「グリッドマン愛」をコーティングしたのか、という点だ。

 

先にあえてマイナスのニュアンスから語ってしまうと、『SSSS.GRIDMAN』、まあまあドラマが弱い。というより、薄い。

 

全12話をぶっ続けで観ていくと、中盤までが世界観や怪獣に関する謎解き、そして後半にかけてアカネが精神的に追い詰められ、クライマックスで決戦、という大筋が把握できる。話の終着点は「アカネの救済」であり、自らが創造したフィクションの世界に引きこもっていた彼女の背中を(グリッドマン同盟のメンバーが)押し、現実に戻って前を向いてもらうまでのお話だ。夢オチ、というより、帰還オチと形容した方が正確だろうか。

 

その話のオチから逆算してみると、実のところ、グリッドマン同盟のメンバーとアカネの交流はそうそう深くない。怪獣の能力で夢を見る回(第9話)で様々な片鱗が見え隠れするが、直接的に語られることは少ない。六花とアカネがそもそもどういう関係性のクラスメイトだったかも、実はほぼ情報が無い。内海からアカネへの仄かな恋心もあくまでエッセンスに留まり、ストーリーの進行に有機的に作用したりはしない。裕太はあくまで使命感に真っすぐに動き、アカネの心情にダイレクトに働きかけたりはしない。アンチと交流を持つ六花、という流れも、あくまでアンチの内面の変化にのみ寄与し、その創造主であるアカネを含めた起伏は生まない。

 

数々の人間関係の交錯は、実はあまり厚みを持っていないのである。なので、有り体に言えば「薄い」。最終話、素のグリッドマンが登場しフィクサービームでアカネの心を修復する流れも、意地悪に見れば「強制改心ビーム」を当てて終わりのような気もする。引きこもりの神様を導くだけの人間関係が、裕太や内海や六花に構築できていただろうか。加えて言えば、そもそもあの世界は一体何なのか(広義のコンピュータ・ワールドであることが『電光超人グリッドマン』を識っている人だけ分かる程度)、あの怪獣少女は誰なのか、色々な部分をろくに説明しないまま物語は幕を閉じる。

 

とはいえ。理屈ではそうかもしれないが、体感では「そうじゃない」のだ。栄養表示では乏しいかもしれないが、喉ごしや満腹感は抜群に良い。『SSSS.GRIDMAN』は、なんともそういう作品ではないだろうか。

 

この辺り、『宇宙船別冊 SSSS.GRIDMAN』における脚本・長谷川圭一氏のインタビューが非常に興味深い。

 

本編で描き切れなかった部分も多くあり、そこから色んな想像が膨らむのも本作の味でしょう。ただし、想像の方向性だけはぶれないように雨宮監督と話し合いました。グリッドマンが来た理由も、アカネとアレクシスが有む負のエネルギーが現実世界のネットワークに影響を及ぼして……という大まかな設定を作りましたが、あえて本編中では説明していません。グリッドマンと裕太が融合する演出をしなかったのも、視聴者が想像出来る範囲だと判断したからです。細微な設定のタネ明かしを追うよりはキャラの感情描写やドラマティックな展開に重きを置いています。

・ホビージャパン『宇宙船別冊 SSSS.GRIDMAN』( ホビージャパンMOOK912)脚本 / 長谷川圭一氏インタビュー

 

 

この、「想像の方向性だけはぶれないように」という部分。とても納得度が高い。

 

『SSSS.GRIDMAN』は、細かく説明することをせずに、しかしそこから喚起される想像=脳内補完の方向性だけはきっちり示してくれる。この温度の演出。これにより、キャラクター同士の直接の絡みが弱くとも、「きっと六花のこういう想いや行動にアカネは心打たれたのだろう」「裕太の直向きな姿がアカネに影響を及ぼしたのだろう」「夢世界における内海のあの対応がアカネの心理に働きかけたのだろう」と、観ているこちらが良い方向に良い方向に、自然と理解の隙間を埋めていく。

 

そしてそこに、雨宮監督による演出が一層の拍車をかける。止め絵を多用し環境音だけが響き渡るシーン。アニメとは思えないほどのナマっぽい会話。キレよく時に会話を遮ってまで割るカット。通常のテンポをあえて外していく相槌や間の取り方。良く言えば「リアル」「独特」、意地悪に言えば「エヴァっぽい」「省エネ」。そういった “語り過ぎない” 演出の数々が、視聴者の「解釈欲」をくすぐる。それはもう、盛大に、くすぐる。ダメ押しでキャラデザがびっくりするほど良い。こんなの、好意的に解釈したくなっちゃう。

 

もともとキャラパートをあまり動かさないという方針が最初にありました。メカパートで動かしたいから、日常シーンは基本的に「止め」で成立するような映像の運び方をしたい、雨宮さんに最初からそう聞いていたので、止めでも保つようなデザインにしたいと思いました。線も多くしています。止めでいく前提で、絵の情報量、デザイン的な情報量を上げているんです。動かすと大変なんですが。

・ホビージャパン『宇宙船別冊 SSSS.GRIDMAN』( ホビージャパンMOOK912)キャラクターデザイン / 坂本勝氏インタビュー

 

なにかこう、この余白(多くは語られない部分)に、善き解釈が埋め込めるのではないか。意識的にせよ、無意識にせよ。そうやって脳内がぐるぐる回ったまま鑑賞するので、少ない情報量にも関わらず、なんとも満腹感が生まれてくる。結果、「強制改心ビーム」なんてある訳がない、グリッドマン同盟らの奮闘こそがアカネを救ったのだと、そう脳が認識していく。示された想像の方向性に、解釈が誘導されていく。

 

基の『電光超人グリッドマン』は93年の作品で、私もダイレクトな世代の人間だが、我々が時を経て『SSSS.GRIDMAN』に出会ったのはアラサーあたり。エヴァは実は自分達より少し上の世代のモノで、オタクとしての教養のひとつ、あえて斜めな表現をすればひとつの聖典にも数えられていた。それらから学んだのは、少ない情報量から懸命に何かを拾い上げ解釈と考察を巡らせるムーブ、元ネタやオマージュ元を参照し盤外の文脈をこれでもかと盛り込んでいくスタンス、知識や解釈や文脈の集合体こそがエモーショナルを生むんだというプライド。もはや「平成の残り香」にも括られそうな、そんな、作品との取っ組み合い方。作法。構え。礼儀。

 

『SSSS.GRIDMAN』は、これらとの相性が抜群に良かった。そしてそれは結果論ではなく、意図されたもので。とってもしたたか。

 

雨宮監督を始めとするスタッフ陣がやりたかったのは、途方もない「グリッドマン愛」の発露。そうじゃなきゃ、あそこまで拾いきれないほどにネタを仕込まないし、そもそも素のグリッドマンを最終回で出したりはしない。制作のリソースをメカパートに割いてでも、グリッドマンの活躍を描きたい。アシストウェポンと合体してロボ然となるグリッドマンを魅せたい。では、日常パートをいかに「最小の手数」で「最大の効果」に導くか。キャラクターデザインを強くして、作法や構えや礼儀に応え、あえて隙間や余白を作ってみてはどうか。

 

「オタク」は、それらを前のめりに読み取ってはくれないだろうか。「オタク」は、SNSで文脈や知識を相互補完しながら、考察や解釈を厚塗りしてはくれないだろうか。

 

この、『SSSS.GRIDMAN』のしたたかでクレバーなバランスが、なんとも好きなのだ。加えて私自身は特撮のオタクであり、「Aパートが日常でBパートに巨大戦」というリズムは驚くほど全身に染みわたっていた。アニメでこの実家感を味わえたのは本当に驚きである。また、CGで吹っ飛んでいくビル群も(破壊するとモデリングが大変なのであえて吹っ飛ばしたという)、ミニチュアセットのオマージュと捉えれば絶対的な加点である。特撮でしか味わえないと信じて疑わなかった、あのアングルも、あのアオリも、あの効果も、まさかこれを二次元のアニメで体験できるとは。実にフレッシュな、驚きと感動である。

 

ウルトラマンやゴジラを始めとする特撮の分野も、ここ十数年で「SFXとVFXの共存」=「アナログとデジタルの融合」がまた加速度的に高まってきた。どちらの旨味も取り込んでこその、トクサツ。それが潮目だ。『SSSS.GRIDMAN』のグリッドマンが、TRIGGERならではのケレン味あふれる作画でメッキメキに動いたかと思えば、CGでモデリングされた巨体が滑らかにぬるっぬるっに怪獣と取っ組み合う。この折衷の、痛快さといったら。本作以外でこの味は噛めない。

 

そして、「あまりにグリッドマン愛が強すぎるのではないか」「ちょっとばかしグリッドマンありきが濃かったのではないか」といった側面、あるいは「怪獣や世界設定の話がメインで人間関係の描き込みが足りなかったのでは」「もっと個々のキャラクター同士の交錯に比重が置かれていても良かったのでは」等の部分は、鏡写しのように『SSSS.DYNAZENON』に反映されていくのである……。

 

次回、【ユニバースに備えて。『SSSS.DYNAZENON』この再訪って、なに?】。

 

末筆。「宝多六花 CV:宮本侑芽」、あまりに強い。強すぎる。「宝多六花」じゃないんです。「宝多六花 CV:宮本侑芽」です。