ジゴワットレポート

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感想『ウルトラマンブレーザー』第6話「侵略のオーロラ」 #俺が観る EP06 バンドウヤスノブを誘う言葉は天使の福音か、それとも悪魔の囁きか

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まさかのカナン星人復活!な第6話、の前に、特別総集編「巨大生物の正体を追え」の感想を……。マスコミの目線から怪獣やウルトラマン、そしてSKaRDを追いかける構成それ自体は面白く、モキュメンタリー(フィクションをドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法)として機能させるのは『ブレーザー』のリアリティ高めの作劇と非常に相性が良い。

 

しかし、であるならば、そこに期待される「市井&マスコミの目線だからこその切り口」がほとんど無く、結局は純粋な総集編に終わってしまったのが少々残念であった。せっかくマスコミという設定を持ってくるのであれば、ただ物事を客観視するだけでなく、世界観が深堀りされるような鋭い意見や視聴者の死角を突くような姿勢が欲しかったなぁ、と。とはいえ、毎年恒例の総集編に高望みしすぎだ、と言われればそれまでなのかもしれない。なまじ『ブレーザー』本編が毎週しっかり面白いので、こういうところにも無駄に期待がかかってしまう。この報道チームがその後も地道に取材を続けていて、物語後半でゲストとして登場する回があるとか、そういう仕掛けがあると嬉しい。

 

そんなこんなで、#俺が観る 第6回、いってみましょう。

 

 

引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1692686586113323257

 

コインランドリーの洗濯乾燥機に『クルル』と名付け、それを愛でることで癒しを得ていたヤスノブ。そこに突如カナン星人・ハービーが現れる。ハービーは、『オーロラ光線』で機械を操ることができ、世間で頻発する自動車や飛行機の暴走事故を引き起こした張本人であった。そしてヤスノブは、ハービーが企てる恐ろしい計画を知らされる。

ウルトラマンブレーザー – 円谷ステーション – ウルトラマン、円谷プロ公式サイト

 

2023/08/19 放送 監督:辻本貴則 脚本:継田淳

 

まずは、まさかのカナン星人が復活ですよ!!……という話からせねばならない。カナン星人といえば『ウルトラセブン』第24話「北へ還れ!」に登場した宇宙人。

 

北へ還れ!

北へ還れ!

  • Kôji Moritsugu
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フルハシ隊員と母親のドラマが印象深い回だが、実のところカナン星人の印象はめちゃくちゃ薄い。びっくりするほど目立った活躍は無く、映像に映る時間も少なく、詳細な目的も不明で、かなりあっさりとセブンに撃破されてしまうのである。北極を地球侵略の拠点にでもするつもりだったのだろうか……。そんなことすらよく分からないのだ。ウインダムを洗脳してセブンと戦闘になるが、それも半ばコミカルに処理されるので、カナン星人の脅威もあまり記憶として残らない。バッサリ言ってしまえば、「死を覚悟するフルハシ隊員と母の通信」「セブン対ウインダム」という舞台装置のためだけに登場して死んでいった宇宙人である。

 

それがまさかの2023年に再登場というから驚きである。制作会見の時に登場した際に「えっ!ウワッ!こいつセブンの!名前なんだったっけ!? えっと、あ~~~~ そう、カナン星人!」というリアクションをしてしまった。他にも、ガラモンやガヴァドンなど、リバイバル怪獣の選出がなんだかいちいち通好み(!?)なのは田口監督のご趣味であろう。

 

 

そんなカナン星人に限った話ではないが、この「過去の宇宙人や怪人に服を着せて個体名を与える」というアプローチは、ニュージェネ以降のシリーズで多用されてきた、ひとつの発明である。

 

「カナン星人」それ自体は「地球星人」みたいな意味なので、そりゃあ、宇宙人にも個体名があるはずなのである。今回も、ハービーという名前でヤスノブに近付く。この発明の素晴らしいところは、なにより予算を削減できる点にある(身もふたもない!)。怪獣一体の着ぐるみを造形するより、はるかに低予算で「敵」を登場させることができる。むしろ今回のカナン星人はこの枠にしては金がかかっている方だ。衣装が新規である。市販の黒スーツにネクタイで頭だけ怪人だったりするのも、今ではすっかり見慣れた光景だ。身軽なのでアクションシーンだってお手の物。しかし、この等身大サイズの衣装を着た「敵」がそのまま巨大化しては質感がチグハグになってしまうので、そこは別の存在が必要。アースガロンが操られる展開に繋がっていく訳である。

 

となると、今回のカナン星人の選出、もちろん「カナン星人が大好きなんだ!」という田口監督以下スタッフの号令もあり得るが、どちらかというと「アースガロン対ウルトラマンブレーザーをやりたい」が先にあったのかな、という感じもする。アースガロンを印象付けつつ販促もこなし、新規怪獣の着ぐるみ制作を1話分削減する。その為にはアースガロンが操られたり暴走したりする展開が必要なので、それが出来る能力持ちの星人を、衣装スタイルで、せっかくなのでほとんどリバイバルされていないマニアックなやつで……。と、およそこんな感じの大筋ではなかろうか。

 

兎にも角にも、晴れてカナン星人のソフビ化まで叶ったので万々歳であろう。アースガロンのフィギュアーツでは赤目パーツも用意されているなど、各種連携もばっちりである。いいぞもっとやれ!

 

 

そしてカナン星人、実は少し前から地球に潜伏していたという。いい、いいですよ、こういうの。ありがとうございます。

 

 

辻本監督が3話持ちだった意味がまさかここで明かされるとは……!制作としてはおそらく、レヴィーラの回でも、ドルゴの回でも、カナン星人が活動していたカットを一緒に撮っていたのでしょうね。確かにどちらの回もアースガロンが大活躍だったし、ドルゴの回なんかは現場にて一時間で復旧させるというメカニックの手腕まで披露している。そりゃあ、カナン星人もヤスノブ隊員を勧誘する訳ですよ。

 

いや~、しかし、本当にこういうの大好きなんですよね。やっぱり、「どう作っているのか」という作り手の意図や熱意が垣間見える瞬間が、オタクとしてどうしても楽しい。今回、辻本監督の3話持ちがしっかりシナリオやカットに反映されているし、ドルゴまで5話連続で新規怪獣が登場できたのも、カナン星人や洗脳アースガロンの配置を踏まえシリーズ全体で予算のやり繰りがあったからだと思うのです。『ブレーザー』がどこに長所を置いているのか、なにをストロングポイントと自覚し、それを成立させるためのリソースを割いているか。それが伝わってくるし、おそらく実態はとても堅実かつ遊び心に溢れている。ただの予実管理に終わらず、そこに熱意やフェチがある。それを肌感で味わえることの、なんと幸せなことか!!

 

 

さて、ドラマ面。今回は順番がきてヤスノブ隊員回ですが、彼の人の良さがいつの間にか負担を増やしてしまっていたのでは、という導入。ここでやっぱりいいなぁと感じるのが、ゲント隊長も「仕事を押し付けてしまっていた側」に分類されていたこと。部下の不調に気付くのは流石ですが、それはそれとして人間味のある「やっちまったなぁ」な反省の色がゲント隊長の人柄の良さ。ここで副隊長までもが仕事を押し付けてしまっていてゲント隊長が「チームがこれではだめだ!」と一喝しても、それはそれで頼り甲斐のあるしっかり者の上司として違和感はないのですが、あえてそこにひと捻り。もちろん、主人公であるゲント隊長をお見舞いに行かせる(事態に遭遇させる)シナリオの都合もあるのですが、それはそれとして彼のキャラクター造形はぐっと深まる。こういう小さな技が積み重なっていくの、とっても心地よい。

 

更に言えば、ゲント隊長が基本的にシゴデキな人間だからこそ、こういう「やっちまったなぁモードでトマトを持ってお見舞いに行く」、その所作が全部面白くなる。まあ、構造としては「真面目女上司が実は料理がヘタ」みたいな古典的なギャップの見せ方ではあるんだけど、やっぱりキャラクターってギャップで見せてなんぼですからね。ただ、今回のシナリオが上品なのは、ただギャップを見せてそのシーンを面白く流して終わらせるのではなく、最後のシーンを含めてきっちり「上司としての格」を印象付けていること。シーン単位ではなく、一話単位でゲント隊長の好感度を調整している。巧い。

 

そしてヤスノブくん、脱いだらすごい……。

 

 

な、なんといい体をしているんだ……。いや、その、すごい個人的な話であれなんですが、ここ半年ほど筋トレをし始めてそれ系の動画とかよく見るようになったんですけど、この体を仕上げるの相当すごいですよマジで……。すごい……。あとスカード体操でめっちゃ跳んでた。すごい……。※マネしないでね。

 

 


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台詞での説明が無いところだと、ヤスノブ隊員がオーロラ光線を浴びた後のシーン、振り払っても光線を除去できないと分かってすぐさま服ごと脱ぐのが最高でした。さすが特殊部隊の隊員。状況判断が速くて適格。まあ実際は機械にしか作用しない光線なので、ハービーくんの牽制みたいなものでしたね。あとこの辺りの一連のシーン、あらゆるSEがとっても昭和ウルトラでにこにこしっぱなし。

 

続く、アースガロンが車両を追跡するシーン。特撮的な眼福ですね。ちゃんと一度引きの絵で実際の車両を映して、そこからミニチュア撮影に切り替えていく。つまり画面内で「実物の車両」と「ミニチュアの車両」のサイズ感がほぼ合致しているので、スムーズに接続されていく訳です。実際の車両のフロントガラスに降下するアースガロンが映ったかと思えば、完全ミニチュアで逃げる車両と足元のアップ、そして手前に引いてアオリのアングルで迫りくるアースガロン。アイデアに満ちた画面が物凄い勢いでお出しされて、満腹です。トマトが宙に浮かぶシーンも良いですね。ただの「揺れてる演技&カメラのブレ」だけじゃ出せない危機的な浮遊感がある。

 

しかしゲント隊長!アースガロンを引き付けて逃げたその場所で変身は部下に見られませんか!? ってのはともかく、水辺の戦いに突入。ほぼ真下からガツンと飛ばされるアースガロンちゃん、不憫可愛い。

 

 

そして、「水辺での対ロボット」といえば、やはりキングジョーですよね~。カナン星人の回にこれをやる辺り、オマージュのような印象も受けます。ブレーザーの「スーツっぽさ」を極力廃した有機的なスーツ造形、濡れてテロテロするとちょっとなまめかしくてぞくっとする。あと、OP直後のタイトルカット、カナン星人の横顔が影絵で出てきますが、これもどう見てもウルトラセブンのそれを踏襲してますよね。芸コマ。

 

 

ヤスノブ隊員あわや、という流れで、アースガロンがそれを救出。事態が急変したカナン星人は一目散に逃げようとするも、ブレーザーの脅威の身体能力(!?)によってサクッと倒されてしまうのでした。この、不利となると潜伏先をロケットみたいに違法建築改造して逃走するのも原典通りで、ちゃんとしています。

 

 

「死・確定」のシーン、何度見ても面白い。クッソ笑える。ディスプレイに思わず銃を向けちゃう流れも最高。

 

 

そして何より、個人的に大好きなのがここ。アースガロンがただ「きせきのゆうじょうパワー」で洗脳を脱してヤスノブ隊員を助けるのは、あえて意地悪に言うと、凡庸なそれなんですよ。ありがちと言ってしまえば、とてもありがち。しかしそこで、ヤスノブ隊員自身に「アースガロンが僕の声に応えてくれたんだ!」などとハッキリは言わせない、そのバランス感覚が良いのです。あくまでメカニックとして「誤作動かどうか分からない」と言わせる。そのお膳立ての末に、ゲント隊長が「声が届いたんだよ」とフォロー。これ!!これなんですよ!!!!この会話の詰将棋はどこかが一手違っていたら成立しない!!これなんだよ!!!!!ありがとうございます!!!!!

 

といったところで、次回は遂に強敵な新規造形怪獣が登場。シリーズ初の前後編で紡がれます。テルアキ副隊長の個人回はこの前後編の後にあるのだろうか。なんにせよ、「作中のリアリティの置き方」と「細かなやり取りの積み重ねでじっくり深めていくキャラクター造形」が見事にセッションしてる『ブレーザー』、本当に毎週楽しませてくれます。ああ、はやくMod.2の玩具で遊びたいなぁ。

 

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