ジゴワットレポート

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最終回感想『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』 VS戦隊というメインテーマへの解答と、本当に溶かされたもの

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『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』こと「ルパパト」、ついにフィナーレ。感無量の最終回でした。

 

思い返せば約一年前。初のVS戦隊が始まるとのことで、以下のような記事を書いた。依頼を頂戴して『週刊はてなブログ』に寄稿したものである。

 

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争い合う彼らの関係は、いつの間にか、『ルパン三世』におけるルパン三世と銭形警部、『名探偵コナン』における怪盗キッドと江戸川コナンのような、奇妙な信頼関係へと変わっていくのだろう。それを思うと、今からワクワクが止まらない。

 

「VS戦隊」の誕生はシリーズにとって必然だった? 『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』の見どころを語る - 週刊はてなブログ

 

そして当ブログでも、何度か感想記事を書いてきた。いずれも、同作品のキャラクター描写の巧さと、それを主軸に据えた「VSというテーマ」への作り手の実直な姿勢について言及している。

 

www.jigowatt121.com

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ルパパトは、素直に、とても面白い作品だった。私利私欲のために盗みを働く快盗。平和のために怪人を殲滅する手前、その行動を見過ごす訳にはいかない警察。お話の縦軸、つまりは推進力になる部分はルパンレンジャーが担当し、それをさらに深めるキャラクター描写、もとい横軸は、パトレンジャーが担当する。メインライター・香村純子氏の、いやらしいまでに配慮が行き届いたシナリオ構成は、ダブルレッドを中心とした7人のキャラクターの群像劇で視聴者を一年間翻弄し続けた。

 

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当初は誰もが思っただろう。「VSと言っても、結局は共闘するんでしょ?」。スーパー戦隊シリーズにおける「VS」とは、そういうものなのだ。何らかのトラブルで拳を交えた両チームが、結局は正義のために力を合わせる。いかに「絶対に交わることのない」と豪語されようとも、でも、そうじゃないんでしょ、と。そう警戒していた視聴者も少なくなかっただろう。

 

快盗戦隊ルパンレンジャー VS 警察戦隊パトレンジャー 主題歌

快盗戦隊ルパンレンジャー VS 警察戦隊パトレンジャー 主題歌

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フタを開けてみると、本当に文字通り「交わらない」どころか、話が進むごとに気持ち良いまでに関係性が入り組んでいく様子が描かれた。

 

兄に劣等感を抱き、それゆえか影を感じさせる魁利。一方で、あの日憧れた警察官を目指して努力してきた、人々の平和を愛する圭一郎。このふたりのレッドの関係性を中心に、「片方だけが相手の素性を知っている」という『キャッツ・アイ』的な構造で物語が展開される。やがて魁利は、プライベートにおいて自らの心の扉を開けようと近づいてくる圭一郎に、兄の姿を重ねる。敵である警察チームのリーダー、絶対に仲良くなれるはずのない相手は、兄のように万人に優しくできる人間だった。俺は、あんなふうにはなれない。そういう劣等感こそが、クライマックスにおいて、圭一郎との濃密なドラマに繋がっていく。

 

ついに快盗の正体が明かされ、日常生活を送ることができなくなった3人。騙していたことを糾弾されるかと思いきや、圭一郎は魁利に対し、気づいて・救ってあげられない自分を悔やむ様を見せる。どこまでも「できた人間」であり、だからこそ、魁利はそこに兄の姿を重ねてしまう。夜野魁利という青年は、ルパンレンジャーの3人の中でも、ひとりだけ一層暗い闇を抱えてきた。幻覚の中で兄を撃ち抜き、強制帰宅ビームの際には帰る家がない。彼だけが、とりわけ過去を悔み、だからこそ自己犠牲上等で兄を助けようとしてきた。

 

快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー VOL.1 [DVD]

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そんな彼の心を開いたのが、朝加圭一郎だった。何度冷たくあしらわれても、力になりたい、その本心を知りたいと、圭一郎は諦めなかった。そんな圭一郎は、警察官でありながら、その職業そのものに憧れていたかといえば、そうではない。あの日憧れた警察官の中に見た、「誰かのために」動ける人としての美しさ。自分もそんな人間になりたいと思った彼は、おのずと、警察官への道を歩んでいたのだろう。

 

ルパンレッドの正体が魁利だと分かった時、彼は悩みに悩んだ結果、警察を辞めてでも彼の力になろうとする。圭一郎は、「警察官という職業」に就きたかったのではない。「困っている誰かの力になれる人間」になりたかったのだ。そしてその精神性こそが、彼が根っからの警察官であることを証明している。

 

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しかし魁利は、そんな圭一郎を突き放す。いつも目をそらし、帽子や前髪で目線を隠していた彼が、朝日に照らされながら、圭一郎に正面から向き合う。

 

ルパパトの物語において「氷」はひとつのキーワードだったが、失った兄は当然ながら、本当に凍っていたのは魁利の心そのものだったのかもしれない。氷を砕こうとザミーゴを追う魁利とは対照的に、圭一郎は、魁利の心の氷に朝日を照らすかのように、それを溶かした。圭一郎に真っ直ぐに向き合えた魁利は、すなわち、兄に向き合える男になったことを意味する。

 

「失った人を取り戻す」「人々の平和を守る」。快盗と警察におけるこの物語のメインテーマは、そっくりそのまま、「凍った心を取り戻す」「困った誰かの助けになる」という、魁利と圭一郎のドラマに符合していくのである。

 

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最終回ひとつ前の回をルパンレンジャー側の最終回と位置づけるかのごとく、ザミーゴとの最終決戦が展開される。トリガーマシンに施錠能力があるというギミックは、「金庫を開ける快盗」に対する「金庫を閉める警察」を意味しており、思わずハッとさせられてしまった。その手があったが、と。

 

そして、異空間で舞い散る青いバラ。バラの色が通常赤色なのはご存知の通りだが、対する青いバラは、バイオテクノロジーによる試行錯誤の繰り返しにより、2002年にやっとこさ完成した研究者の努力の結晶なのである。転じて、このシーンにおける青いバラの意味は、「不可能を可能にする」、まさにルパンレンジャー3人の血と汗と涙の象徴だ。

 

「仲間が倒れても誰かひとりが願いを叶える」。初回でそう豪語したルパンレンジャーたちは、ブルーとイエローが氷結され砕け散っても、それでもレッドひとりで目的を完遂した。もちろん、今やもう「仲間が倒れても〜」などと思っていないことは、直後の生還した二人に飛びつくレッドの姿を見れば一目瞭然である。

 

かくして、ドグラニオの金庫に閉じ込められたルパンレンジャーだったが、金庫の外では、パトレンジャーが最後の決戦に挑んでいた。まずはルパンレンジャーを最終回にして、次はパトレンジャーの最終回を描く。その両戦隊の順番を守りながら、「金庫の中にいる魁利くんたちを見殺しにできるのか」という一点で、物語をダブルレッドの関係性にフォーカスする。隙のない脚本構成である。

 

大人の事情が垣間見えはしたものの、結果として最終回にて満を持して登場したスーパーパトレン1号。部下を切り捨てて好き勝手に暴れたドグラニオと、常に仲間をフォローして戦ってきたパトレン1号。両者の攻撃が激突した時、ドグラニオの後ろには誰もおらず、圭一郎の後ろには咲也とつかさがいた。仲間に背中を支えられ、警察戦隊はついに大打撃を与えるに至るのである。こういった、関係性の旨味を盛り込んだ構図の魅せ方において、ルパパトは本当に枚挙にいとまがなかった。

 

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そしてエンディングへ。ずっと助けたかったあの3人こそが快盗になり、逆にルパンレンジャーたちを助ける。漫画家志望の彼女が「快盗は近い未来に絶対復活します!」と叫ぶのだが、それは自分たちがそうさせることを誓っているからだと、後になって分かる小気味よさ。相互に救済活動を行うという展開は、最終回におけるサービス精神も含めた見事な流れで、これにて魁利たち3人は真に救われたのであった。兄の顔を正面に捉えて謝る魁利の表情が、思わず涙を誘う。(魁利の他人の鼻をつまむクセが兄譲りだったことが分かるのも良い)

 

当初の目的は完遂されたが、自分たちを助けるために協力してくれたコグレさんやノエルのためにも、ルパンレンジャーは活動を再開する。そして警察も、ルパンレンジャーが盗みを働く以上、それを追う必要がある。OPで登場していたルパンコレクションを奪い合う、そんなサービス描写の効いた乱戦は、最後の最後に「君はどっちを応援する!?」の構図にたどり着く。「あんたのお宝、いただくぜ」が遂に警察に向けて発せられる、その台詞回しにちょっとだけ嬉しさを感じられたのなら、それはこの作品が一年間積み重ねてきた感情がそうさせたのだろう。

 

番組内でルパンコレクションがそろうことはなく、本当の意味での(主にノエルにとっての)ハッピーエンドには至らなかったのかもしれない。それでも、逮捕でも自首でもなく、「争い続ける」ことがVS戦隊というメインテーマにおける解答なんだと、そういう落とし所を用意してくれた。呉越同舟はあっても、根っこでは絶対に交わらない。常に争うふたつの戦隊。その番組コンセプトを最後の最後までしっかりと貫徹したスタッフの皆さんには、視聴者のひとりとして、感謝しかない。

 

また、映像面においても、スタッフのこだわりと挑戦が感じられるポイントが多かった。VR技術を利用した縦横無尽なカメラワークに(快盗の優雅なアクションとの親和性が素晴らしい)、例年よりミニチュアのビル群が高く設定された実在感の強い巨大戦、その巨大戦と等身大戦をワンカットに収めるシームレスな合成や、実物のスーツではなくフルCGでスピード感と柔軟性を盛り込んだ「グットクルカイザーVSX」など、今後のシリーズの試金石になり得る「特撮」技術の見応えもばっちりであった。

 

『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』、一年間、ありがチュー。毎回がクライマックス! 毎週がデラックス!存分に楽しめました。

 

快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー Blu-ray COLLECTION 1

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快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー 写真集?Le jour suivant? (TOKYO NEWS MOOK 768号)

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