いよいよ始まりました、2023年のウルトラマン新作『ウルトラマンブレーザー』。いやぁ、面白かったですね。本当に、すごくすごく、心底面白かった!最高!OK!ヨシ!感想は以上ッ! ……と切り上げてしまっても良いくらい、兎にも角にも「面白かった」に尽きる初回でした。
『ウルトラマンブレーザー』、あまりに面白すぎて叫んだり泣いたりしながら観てた....... うそだろ... これ映画とかじゃなくてテレビシリーズで観れていいんですか....... 技術とアイデアと考証とロマンと信念と夢と遊び心が全部全部つまってた...... ありがとう...... ありがとうございます........
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2023年7月8日
予告映像や座組の時点で期待ムンムンだったこともあり、『仮面ライダージオウ』以来の毎週感想連載にチャレンジします。連載タイトルは #俺が観る 。本編の感想だけでなく、玩具の遊び心地だったり展開を予想してみたり音楽の話をしてみたり。とにかく『ブレーザー』に関して思ったこと・感じたことを自由に書いていく予定です。お付き合いいただき、「俺が読む!」していただけますと幸いです。
それではいってみましょう、『ウルトラマンブレーザー』第1話「ファースト・ウェイブ」。
引用:https://twitter.com/ultraman_series/status/1677466328184262656
怪獣被害の頻発する地球に、ついに50m級宇宙怪獣までもが現出した。怪獣の進攻を阻止するため特殊部隊を率いるヒルマゲントだったが、部隊は絶体絶命の危機に直面する。部下を救うため単身飛び出したゲントの腕に現れるブレーザーブレス。光に導かれ、今、ウルトラマンへと変身する…!
2023/07/08 放送 監督:田口清隆 脚本:小柳啓伍
OPすら流れず、終始画面が暗いナイトシーンで、コミカルな場面も必要以上の設定説明も無く、質感で言ってしまうとすこぶる「硬派」な第1話。
もう冒頭の空挺からゲント隊長以下が落下していく「落下ミッション」でテンションが爆上がりする訳です。即座に思い出したのは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』や『ミッション:インポッシブル / フォールアウト』ってどっちもトム・クルーズじゃねぇか!……とにかく、この手の「落下ミッション」ってアクション系の洋画ではここ十数年でかなりスタンダードな扱いになった印象があり、それが国産特撮のそれもTVシリーズで拝めるなんて実に贅沢極まりない。背負ったジェットの噴射で推進するジェットパック(ジェットスーツ)は実際にアメリカ国防総省でも開発支援が進んでいるアイテムで、救助の現場でも活躍が期待されているもの。アイアンマンのような動きが現実になるの、たまらんですよね~。こういうのをド頭に盛り込んでくるあたり、田口監督のミニタリー嗜好がうかがえます。
ウルフェスも開催されることから、田口監督が「ここを聖地にしたかった!」と語る池袋サンシャインシティ。実は昨年家族で東京を旅行しまして、そこで行ったんですよ。ウルフェスではなく娘を『デリシャスパーティ♡プリキュア』のイベントに連れて行ったのですが、そこで通ったあの通路!あのフロア!あの階段!……実に素晴らしい。もうだってこれから池袋サンシャインシティを訪れる度にゲント隊長の勇ましい表情が脳裏をよぎるし、ビルの谷間を見上げては爆炎を幻視するの、間違いないですから。
田口監督がやってくれるファンサービスって、ご自身も相当な怪獣・ヒーロー好きということもあってか、「いやらしさ」が無いんですよね。「これをやればオタクが喜ぶだろほれほれ(チラッ チラッ」みたいなのが無くて、「俺が面白いし観たいからやる!」みたいな。精神性としては『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』のマイケル・ドハティ監督にも通ずるというか。とにかく対象への過ぎた愛(褒めている)が画面から迸っている。オタクは作り手の隠しきれない過ぎた愛が好き。
そしてビル街が炎に包まれて「これはまずいな……」からの劇伴が キーーン と盛り上がってからの黒背景タイトルがど~ん!そして!提供画面!BGM無しで後光に包まれてポーズを取るブレーザー!!!ふおおおおおおお!!!!最高!OK!ヨシ!感想は以上ッ!!!……全体的に、とにかくハードに、硬派に、堅実に。緊迫感を途切れさせない配慮が随所に効いていて、つまりこの初回で何をやりたいのか、視聴者の心をどう掴みたいのか、それが如実に伝わってくる。
ブレーザー初回、まさか「怪獣討伐部隊がウルトラマンと邂逅するまで」のワンシチュエーションのみでやるとは...... いやこれほんと... マジで..... これだけでやり切ったの... 偉すぎる............
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2023年7月8日
リアルタイム進行のワンシチュエーション。まさか「怪獣と戦いウルトラマンと邂逅するナイトミッション」のみで初回を終えるなんて思ってもみなかった。それも、約30分の番組がほとんどそのまま約30分の出来事。言うまでもなく、唾を飲む。ごくりと。拳を握りしめる。ぎゅっと。「どうせウルトラマンがやってきて怪獣を倒して終わる」という話の筋は分かり切っているのに、その予定調和が頭を占める前に、緊迫感がぬるりと蔓延していく。隊員らの徹底された所作、作り込まれた装備の数々、リアリティを感じさせる単語や台詞運び。神は細部(ディテール)に宿る。
近年、といっても広い年代を差すが、いわゆる三大特撮(ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊)に課せられた大命題は、「予定調和との付き合い方」にある。怪人や怪獣がやってきて、一般市民に被害が出て、それをヒーローが討伐する。この古から続く予定調和にどんなアプローチでアンサーを打ち出すか。真正面からその予定調和に意義付けをしていく作品もあれば、様式美を枠だけ踏襲して全く違うエッセンスを持ち込むパターンもある。商業的な展開も加速し、沢山のアイテムをとにかく売れるようにアピールしなくてはならない。商売の都合と、会社の方針と、スタッフ陣の作家性と。それらが毎年、いったいどんな距離や配分や角度でお出しされるのか。そこに特撮番組を鑑賞する面白さがある。桁違いの予算が投じられる洋画とも、相対的な自由度が高い漫画やアニメとも異なる、独特な縛りや制約がある世界。だからこそ、観 “がい” がある。
『ウルトラマンブレーザー』は本当に面白かった。素晴らしかった。でも、こんな場末のブログで感想を綴っている一介の特撮オタクの独り言が許されるならば。一番近い感情は「痛快さ」だ。胸がすく。あまりに気持ちが良かった。それは、田口監督が、脚本の小柳氏が、『ブレーザー』という番組全体が、視聴者を信頼してくれたからである。我々は『ブレーザー』という番組に信頼されたのだ。だから嬉しい。その信頼が向けられることに、痛快さがある。やった!と飛び跳ねたくなる。なにより、これに尽きる。
硬派で挑戦的な『ブレーザー』初回。それは実は、「30分のTV番組で怪獣映画をやる」という初代『ウルトラマン』の基本フォーマットであったり、我々の知らない異質な巨人が出現するファーストコンタクトの様式だったり、ウルトラマンとしては実に基本に忠実なバランスである。ウルトラマンの世界観だって突き詰めればハードSFになるのは自明だ。しかし、この「基本に忠実」が、出来ない時代があった。TVシリーズが途絶え、やっと復活しても見るからに予算が潤沢でない画で、どう見てもオモチャなアイテムを使って変身ポーズでなりきり遊びを促進する。ウルトラマンは親しみやすく喋り、玩具アイテムの操作を見せるために特殊空間で俳優が演技をする。ウルトラシリーズはそうやって継続してきた。「基本に忠実」をやれないのであれば、より発展的に、時に冒険もしながら。そうやって、今でこそニュージェネレーションシリーズと呼称される作品群を中心に、実績を積み重ねてきたのである。
だからこそ、私は決して「喋るウルトラマンはだめだ」とか、「オモチャっぽいアイテムを操るウルトラマンは興ざめ」とか、そういうことは言わない。その時その時の無数の積み重ねがあってこそシリーズが継続してきた訳で、「こうじゃなきゃ〇〇じゃない」なんてしたり顔で語るのは実にナンセンスだ。そういうオールドファンにはなりたくない。しかし、だからこそ。「こうじゃなきゃ!」に忠実に、俗に言う「オタクが喜びそうなやつ」が割と真正面からお出しされると、それはもう心の底から嬉しくなってしまうのだ。だってそこには、これを今ならやれる! という判断があるから。もしかしたら “分かりやすく” なくても、きっと通じる。その信頼がうかがえるから。
ニュージェネレーションシリーズがずっと積み重ね、地道に拡大・復権させてきたここ十数年の歴史があり、例えば『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』等で特撮ジャンルそのものの認知や機運も一昔前より格段に高まり、そういった土壌の果て、2023年現在に『ウルトラマンブレーザー』があるのだ。
こういう、ハードで硬派で、ある意味で基本に忠実で、加えて作家性に満ちたウルトラマンが、今一度TVシリーズで “許される” ようになった。そこに喜びを覚えるのが仮にオタクだけだとしても、私はオタクなんだからしょうがないじゃないか。しかし世の子供たちだって、この細部に込められた信頼の数々を、きっと受け取ってくれるのではないだろうか。いつも通りではない、異質なウルトラマンという、信頼を。
――つまり、ニュージェネ・ダイナの次の作品ではなく、ニュージェネ・ガイアに代わる全く新しい作品として始まったわけですか?
そうです。社長がそう判断した理由のひとつに、いわゆる「ニュージェネ」と呼ばれてきた一連のシリーズとは違うことをやりたいという狙いがありました。といっても、個人的には『ウルトラマンX』や『ウルトラマンオーブ』の頃はニュージェネという言葉はなくて、そもそも毎年「新しいものを」って意識ではやっていたんですけどね。とにかく「これをやると変わって見えない」要素は何か? を考えました。まず、過去のウルトラマンの力を使ったタイプチェンジ。それから制作上仕方ないことではあるんだけど、過去怪獣の使い回し。そしてコレクションアイテムを集めなきゃいけないストーリー展開。もうひとつがアイテムを操作するためのインナースペース。それを全部変えない限りは、「いつも通りじゃないか」と言われてしまう。「それなら、どこまでやれるか試してみよう」ということになり、次の段階に進みました。
・ホビージャパン『宇宙船vol.181』P83 田口清隆監督インタビュー
「主人公が初回にアイテムをがちゃがちゃ操作して変身するとそこで一気にリアリティが削がれる」という問題に対し、「そのやり取り自体をキャラ付けや合いの手の構造で立たせる」がZ、「そもそも操作せずに強制的に発動させてしまう」がブレーザーなの、田口監督のアプローチが冴える。面白い。
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2023年7月8日
ブレーザー、作品単体は勿論すごいんだけど、「田口監督がニュージェネでずっと試行錯誤してきたあれこれ」を踏まえて観ると「ついにここに結実したのかッ!!!」という文脈が乗って無限に熱くなれるんだなぁ〜〜
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2023年7月8日
閑話休題。初回で特筆すべき点は、ヒルマゲント隊長、その男である。他部隊に「あなたが噂のヒルマゲント隊長ですか?」と投げかけられる、その噂通りの有能っぷり。
「上からの命令には逆らえないからな」「逆らえないから、提案をする」「どうせこのまま撃ち尽くすんだったら…… ちょっと、ちょ~っと だけでいいから、俺たちがいるビルの方にバザンガ誘導してくれないかな。できる?」。これですよ。最高。このワンシーンだけで、ゲント隊長が「気さくな性格で」「確かな実績アリで」「組織内で慕われていて」「仕事がデキる男」だと、一発で分かる。脚本と演技の勝利。お互いに上司の命令に背けない立場であることを重々承知しつつ、与えられた裁量の範囲内で、相手に言い訳と大義名分をするっと送りながら、ラフなトーンでアサインを決める。主人公として好感度抜群、男が憧れる男の正解のひとつですよ。
それでいて、未来を幻視するかのような謎のエフェクトシーン。爆発事故の爆心地に単身で突っ込んだという3年前の出来事。そして突如腕に現れたブレーザーブレス。現状でお出しされた要素を素直に繋ぐならば、「3年前の爆心地で瀕死になりブレーザーと一体化した」という筋が浮かぶが、果たしてどうなるか。
そんなゲント隊長が仲間を助けようと奮闘し、危機に瀕したその時。謎の巨人への強制的な変身を果たす。倒れるビルを支える光る腕。これこそ完璧な「ウルトラマンならでは」。アガる。怪獣とビルの向こうに佇む異質な存在。アガる。夜に光る蒼いたてがみ。アガる。ルゥアアアアアアアアオオオイイ の野性味溢れる叫び声。アガる。おいおいおい、なんてものを見せてくれるんだ。
ブレーザーの戦い方、要はキングコングなんですよ。スマートな姿体のキングコング。咆哮で威嚇し、四肢を存分に使い、跳ねて取っ組み合うように物量をぶつける。猿の戦い方。この、類人猿の原始的で力強いファイトスタイルをウルトラマンでやると、見た事のないギャップが生々しく活きてくる。発明だ。
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2023年7月8日
「ビルの奥から片目が見えている登場」「ビルによじ登って飛び蹴り」「全身を使った咆哮で威嚇」「自身を鼓舞するようにその場で何度も跳ねる」。こんな変わり種のウルトラマンがバチくそカッコよく見えるの、素晴らしいことだよ。本当に。ありがとう。「異質がかっこいい」のひとつの答えだよこれ。
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2023年7月8日
これぞまさに、前述の「信頼」の一端である。言うまでもなく、ブレーザーは分かりやすいかっこよさとは対極に位置している。パブリックイメージな「ヒーローらしさ」とはかけ離れている。だからこそ、我々人類はこの瞬間、得体の知れない巨大な異星人と初めて邂逅したのだと、その痺れるような衝撃がどっしりと響くのだ。それは、初めて銀色の巨人と出会った1966年の視聴者が感じたことだろうし、つい直近も『シン・ウルトラマン』が目指したエッセンスだ。ウルトラマンを、「我々が知らない異質なモノ」に、リセットする。『ブレーザー』はここをきっちりクリアしてきた。
そこからはもう、感想をシーンごとに綴るような野暮なことはしません。みんな、浴びたことでしょう。これからも、何度も浴びることでしょう。ちなみに私は昨晩、自宅のホームシアターの100型スクリーンに映して『ブレーザー』初回を観ました。生の喜びでした。父と母に感謝を。
さて。この未知の巨人と、怪獣災害に瀕する人類。果たしてこの出会いはいかに物語を転がすのか。シリーズの基本に忠実に、それでいて作家性を爆発させた、技術と夢が詰まった『ウルトラマンブレーザー』。ここから半年、この初回で幕を開ける物語を追えるかと思うと、たまりませんね。本当にたまりません……っ!!
最後に。本作のテーマについて書き残しておきたい。
本作のテーマは、「コミュニケーション」です。<人間とウルトラマン><人類と怪獣・宇宙人><戦場の戦士と会議室の司令官><親と子供>…。それぞれの立場や思考の相違から生まれる対立を乗り越えて協調するために、気持ちを伝える「対話」がいかに大切か。現実社会でも起こりうる様々な対立に登場人物たちが立ち向かう姿を、明るく楽しいエンターテイメントとして「ウルトラマン」の空想世界で描き出します。
ブレーザーの野性味溢れるファイトスタイルを「まるでキングコングのようだ」と書いたが、この塩梅が絶妙だった。つまり、類人猿。サルやゴリラ。彼らとは、人間同等のコミュニケーションは難しいだろう。しかし、そこには絶対に知性がある。類人猿は知性があり、技術を有している。協調する能力も持っている。「コミュニケーションは難しいが、絶対にそれが不可能だとは言い切れない」。このぎりぎりの塩梅。ブレーザーは、「頑張れば対話できそうかもしれない」と我々が直感的に悟るような、そんなキャラクターに演出されている。
対して、それと一体化している(?)ゲント隊長。他部隊と交渉するシーンが分かりやすいように、コミュニケーションに長けた者として描かれている。年齢的に、ある程度の酸いも甘いも嚙み分けてきたのだろう。隊長という立場上、誰よりも協調の重要性を知っているのだろう。彼の風通しの良い人柄がそれをひしひしと感じさせる。
対話が無理そうな、しかし確実にそこにある知性に手が伸ばせそうなブレーザー。対話に長けた、上とも下とも手を取り合っていく立場にあるゲント隊長。彼らが織りなすドラマにも、ぜひ期待したい。
――ウルトラマンブレーザーのスーツアクターと声を担当している岩田栄慶さんとはお会いになりましたか?
岩田さんとは撮影が始まったときにご挨拶させていただいたんですが、あえて密にコミュニケーションを取ろうとはしませんでした。第1話でゲントか変身したときに、自分の手を見るシーンがありますよね。あそこでゲントと変身後のブレーザーがイコールに見えた人もいるかもしれませんが、実は仕掛けがあるんです。これからのエピソードでその意味がわかるので、注目してください。・徳間書店『Animage (アニメージュ) 2023年 08月号』P140 ヒルマゲント役 蕨野友也 インタビュー
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