ジゴワットレポート

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総括『ウルトラマンZ』 立ちはだかる「壁」を取り込んで輝く、「さいきょうのうるとらまん」

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「Blu-ray BOXを買った経験」は数あれど、まだ最終回を迎えていない放送中の番組の、それもまだ序盤の段階で、躊躇なくAmazonの予約ボタンを押したのは、おそらくこれが初めてのことであった。

 

『ウルトラマンZ』。2020年の特撮分野は、これを外しては語れない。毎週のようにSNSを中心に異常なまでの盛り上がりを見せ、最終回放送当日には同番組を指した「最高の最終回」という文字列ががトレンドに躍り出るなど、近年のウルトラシリーズでも屈指の人気を誇った。先日発表された「ネット流行語 100 2020」で見事6位を獲得したのも記憶に新しい。

 

本作の語り口は非常に豊富なのだが、単純に、とにかく「面白い」のだ。「面白いウルトラマン」。どこまでいってもこれに尽きる。特殊撮影による映像が面白い。登場するキャラクターが面白い。展開されれるストーリーが面白い。意欲的な演出の数々が面白い。月並みで、ともすれば陳腐な表現にはなってしまうが、「面白かった!!」と声を大にして語るのが最大の賛辞だと思えてならない。スタッフ、キャストの皆さん、本当にありがとうございました。心の底から楽しませていただきました。

 

遥かに輝く戦士たち

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  • メディア: Prime Video
 

 

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では、そこから一歩踏み込んで。『ウルトラマンZ』の何がどう「面白かった」のか。

 

これを語る上で、まずは2013年からのウルトラシリーズ、通称「ニュージェネレーション」の作品群に触れる必要がある。当時の「円谷プロの経営難」や「巨大特撮冬の時代」といった文脈について、読者諸賢に今更の説明は不要と思われるが、これを経て現場に突きつけられた大命題のひとつは、「ウルトラマンで玩具を売る」ということであった。

 

もはや特撮ヒーロー番組において、「玩具販促」は絶対に避けては通れないトピックである。仮面ライダーシリーズであれば、『仮面ライダー龍騎』がトレーディングカードゲームの流行りを取り入れたり、『仮面ライダーダブル』が後年も続くコレクターズアイテム商法を打ち立てたりと、その文脈は語りきれないほどだ。スーパー戦隊シリーズだと、古くは『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の獣奏剣がなりきり玩具として革命的であったし、『炎神戦隊ゴーオンジャー』の炎神ソウルもひとつの分岐点に挙げられるだろう。『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』では玩具展開が苦戦を強いられ、それがいくばくか番組の展開にも影響を及ぼしたのは、苦い記憶である。

 

これらの特撮ヒーローにおける玩具は、変身後の姿、あるいは変身前のキャストが、その玩具を実際に操作することで「なりきり遊び」の需要を喚起する。「とにかく点数が豊富なアイテムを」「ベースとなる玩具に」「自由自在に組み合わせながら戦う」、というのが近年の潮流であり、それは等身大で戦う仮面ライダーやスーパー戦隊は概念上の同サイズ(プロップや劇中サイズという実情はさておき)として展開できるため、親和性が高い。

 

一方のウルトラマンも、上記2シリーズと同じバンダイが玩具展開を行う訳だが、ここには決定的な壁が存在している。それはシンプルに、「変身後のヒーローが巨大」という点だ。仮面ライダーのようにUSBメモリやメダルや指輪をがちゃがちゃと操作して戦う光の巨人は、かなり滑稽に見えてしまうだろう。そして、これはウルトラシリーズの利点の裏返しになってしまうのだが、彼らは非常に「神秘的な存在」なのだ。人間がそのまま変化するのではなく、あくまで彼らは宇宙人であり、来訪者である。その近寄りがたさや神々しさが、ウルトラマンという存在の唯一無二のストロングポイントなのである。だからこそ、そんな神にも等しい存在に、玩具をごちゃごちゃと操作して欲しくはない。それは、ウルトラマンの利点を殺すことにも繋がってしまうのだ。

 

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  • 発売日: 2020/02/01
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

この壁を突破するために、『ウルトラマンギンガ』以降のシリーズには、「インナースペース」という概念(描写)が持ち込まれた。ウルトラマンは神秘の存在のままとし、それと一体化する地球人が、ウルトラマンの内部、あるいは精神世界のような光の空間で、玩具と同じアイテムをがちゃがちゃと操作するのである。これにより、「ウルトラマンが玩具を扱うことなくウルトラマンで玩具を販促する」という、まさに「ウルトラC」を決めているのだ。(もちろん一方で、「ウルトラマンがコクピットから操られるロボットのように感じられてしまう」という声も依然として根強く存在する)

 

そもそも、「ウルトラマンで玩具を売る」は至難の業なのだ。変身に使うアイテムはあるものの、そこに拡張性は付与し辛い。防衛隊の戦闘機や兵器も、防衛隊員が携帯する通信機や銃も、特撮ヒーロー番組の「主役」たるウルトラマンが直接用いるものではない。如何せん「なりきり」とは距離があるのだ。そのため、ウルトラマンを「ウルトラマンらしく」作れば作るほど、ダイレクトな販促のマーケティングには壁が立ちはだかる。戦闘機を登場させるにも、発射コンテナを造形したり、ミニチュアを操演するのには手間がかかる。防衛隊を出しても、そこに販促上の旨味は薄い。その判断からか、近年は防衛隊が大々的に存在しない作品が増えてきた。

 

だからこそ、「インナースペース」を用いた「巨大戦闘での玩具販促」が可能であるならば、そこを膨らませていくのが当然の判断となる。暗躍する悪のキャラクターを設定し、そいつにも主人公と同じアイテムを所持させる。主人公はアイテムを使ってウルトラマンに変身するが、悪のキャラクターは、同じ操作で怪獣を召喚したり、時には自分が変身したりするのだ。防衛隊を出すのは費用対効果が悪いので、主人公たちは商店街の住人や警備会社勤務とし、アイテムを獲得したり奪い合ったりするプロットに尺を割く。

 

更には、先輩ウルトラマンを何かしら絡める必要もある。ただの「アイテム」だけでは、仮面ライダーやスーパー戦隊に比べて、まだまだどうしても「弱い」。『仮面ライダーディケイド』のライダーカードや、『海賊戦隊ゴーカイジャー』のレンジャーキーのように、アイテムそのものに「レジェンドヒーロー」の属性を付与させることで、「アイテム」としての魅力や強度を高めることができる。だから、お話の作りに関しても、先輩ウルトラマンにどうにかして触れなければならない。

 

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そんなこんな、多種多彩な「ここまで」をとにかく前のめりにやり続けることで、ウルトラシリーズはやっとこさTVシリーズを十二分に継続できるにまで息を吹き返したのである。それはもう、ミニチュアセットにかけられている予算や手間ひとつとっても、一目瞭然だ。

 

このように、「ウルトラマンで玩具を売る」を何年も続けていくうちに、お話の自由度(あるいは柔軟性)は実のところ失われていった。「主人公がウルトラマンに変身してインナースペースで玩具を操作して」「敵である謎の男も同じアイテムで怪獣をけしかけて」「先輩ウルトラマンを宿したアイテムや客演で話題性を作る」。これが、2013年以降のウルトラシリーズが辿った(辿らざるを得なかった)、物語構築の黄金パターンなのである。

 

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さて、例によって前置きだけで約3,000字に届いているのだが、そんなこんな土壌の上に作られた2020年の新作が、『ウルトラマンZ』である。まずは、実業之日本社から出版された『ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本』掲載の田口清隆監督インタビューを引用したい。

 

ーーー対するウルトラマン側についてもお話を聞いてみたいのですが、まず今回の変身アイテム、ウルトラゼットライザーとウルトラメダルについてはいかがですか?

 

田口 僕と吹原さんでプロットを考えながら「どんな変身アイテムが来ても、物語に溶け込ますぞ!」と結託していたんですが、「今回はカードとメダル3枚です」と言われて、ちょっとひっくり返りました(笑)。『ウルトラマンX』の時、自分が関知せずに設定された最終アイテムや後半の展開を、最終回で回収することになって、頭を抱えたという経験がありまして。だから『オーブ』のときには「最初に最終アイテムと最後の展開を決めましょう」と提案して、おかげでウルトラマンオーブは最終形態を第1話に先行登場させたりなどもできて、全体の構成が上手くまとまったと感じていたんですね。なので今回もシリーズ構成として、変身アイテムをお話の展開にキチンと盛り込もうと思っていたんですが…「こんな量のアイテムを、劇中でどうやって面白く機能させるんだ?」と、一時は真剣に降りようとしました(笑)。そこはなんとかアイデアを捻り出して、自分を納得させたわけですけど。

 

(中略)

 

ーーー『Z』はニュージェネレーションと呼ばれる近作のなかで、どんな位置づけの作品になるのでしょうか?

 

田口 去年の『ウルトラマンタイガ』がニュージェネレーションの集大成みたいな言われ方をしていたし、坂本浩一監督が撮られた『ウルトラギャラクシーファイト ニュージェネレーションヒーローズ』は、ウルトラマンゼロとニュージェネレーションヒーローズたちの、ひとつの総決算といえる作品でしたよね。令和という新元号から始まったタイガまでがニュージェネレーションの一区切りと考えて、『Z』は令和代表の新たなウルトラマンにしようと思っていたんですよ。平成ウルトラマンの代表と言ったら必ずティガが出るように、ウルトラマンゼットは令和を背負って立つヒーローにしようと、最初はそういうつもりだったんですけど……。変身アイテムは歴代ウルトラマンの力を借りるものだし、「10周年を迎えたゼロを主軸に置いて、それからベリアルを絡めるためにウルトラマンジードも登場させましょう」というお題が出されて……。「それって完全にニュージェネじゃん!」って(一同笑)。なので、もう割り切って、自分なりのニュージェネレーションヒーローズの総括をやってやろうじゃないかっていう気持ちに切り替えました。

 

・実業之日本社『ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本』(2020/7/17発売)P94〜95

 

ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本

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  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

この、読んでいて若干ヒヤヒヤする内実の末に生まれたのが、『ウルトラマンZ』である。

 

田口監督ご自身が怪獣やウルトラヒーローに大変造詣が深いのは周知の事実だが、そこから生み出される「面白いウルトラマン」には、2020年現在、このような多数の壁が存在してしまっている。つまり、この状況下で「面白いウルトラマン」を作るということは、その「面白さ」の舞台裏に緻密な設計や戦略を積み上げながら、玩具販促や制作の事情といった諸条件をねじ伏せつつクリアする必要がある、ということなのだ。

 

「壁」を無視するでも、「壁」の内側で構築するでも、「壁」を壊すでもない。「壁」を、とにかく全力で「取り込む」ことが求められる。『ウルトラマンZ』は、この点が非常に優れていたのである。『Z』の「面白さ」は、何よりここに尽きる。

 

「面白いウルトラマン」や「ウルトラマンらしさ」のために防衛隊を登場させたいが、戦闘機や隊員武器の玩具はセールス的に苦戦を強いられる。ならば戦闘機をロボットに置き換え、ウルトラマンと同じ肩の高さで巨大戦を展開させよう。これであればソフビとしてリリースできる上に、キングジョーのように「ロボット玩具」としても売り出せる。人間サイドの「ギリギリまで頑張ってギリギリまで踏ん張る」「ウルトラマンとの共同戦線」も、むしろ戦闘機より絵的な説得力が増すだろう。

 

ウルトラマンZ ウルトラ怪獣シリーズ 121 セブンガー

ウルトラマンZ ウルトラ怪獣シリーズ 121 セブンガー

  • 発売日: 2020/06/20
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

先輩ウルトラマンの力(=アイテム)を借りて変身すると、どうしてもニューヒーローが「先輩頼り」として見劣りしてしまう。更には、ウルトラマンゼロをお話に絡めなければならない。ならば逆に「まだまだ未熟なウルトラマン」に設定してゼロの弟子ということにし、その上で「先輩の力を借りて戦う」というプロットにしよう。3分の1人前の新米宇宙警備隊員が、地球人と共に成長していく物語にするのだ。更には、弱々しく見えないように、地球語が不自由という愛着の湧くキャラクターにしておく。

 

ウルトラマンZ DXウルトラゼットライザー

ウルトラマンZ DXウルトラゼットライザー

  • 発売日: 2020/06/20
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

話題性も含め、ゼロ・ジード・ベリアルを登場させることが求められる。ならばジードにはゼットと同じアイテムで新しい姿に変身してもらって、「ゼロとジードを撮る」や「玩具販促演出」に長けた坂本浩一監督に該当エピソードを担当してもらおう。ベリアルの頭部が喋る、という世界観を台無しにしかねない奇抜なアイテムには、『ウルトラマンX』のエクスラッガーやグリーザの能力設定を引用しながら一定のリアリティを持たせて物語に溶け込ませよう。複数のウルトラマンが客演するのなら、それが人類側の兵器開発にリンクするストーリー展開にして、更には敵の最終目的にも絡めてしまおう。

 

バンダイ ウルトラマンZ 幻界魔剣 DXベリアロク

バンダイ ウルトラマンZ 幻界魔剣 DXベリアロク

  • 発売日: 2020/10/03
  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

「ピンチはチャンス」とはよく言われるが、『Z』は「壁の取り込み方」が非常に秀逸なのだ。クリアしなければならない諸条件に振り回されるどころか、逆に、それを全て物語の「強み」に転化させていく。「あれもこれもしないといけない」が、結果として、「あれもこれもあるバラエティ豊かな作品」に仕上がる。このマジック。この執念。ニュージェネレーションシリーズのメイン監督を『X』『オーブ』と複数回担当してきた田口監督や、同監督が盟友と語った吹原幸太氏の、渾身のシリーズ構成である。

 

ーーー今回、田口監督はシリーズ構成として、クランクインする前段階で、最終回までの流れが全て見えている状態なわけですね。

 

田口 ええ。早い時期に専用の会議室を作ってもらい、パーティションを壁に並べて、1話から25話までの「やらなければならないこと」や「やりたいこと」のメモをどんどん貼っていきました。「最終パワーアップがこれだから、それをどうやって手に入れるか?」とか「この姿に変身する時に使う怪獣は?」とか、それこそ「この回は、あの監督にお願いしよう」まで、その時点で決めていきましたね。大変な作業でしたけど、それをやりたいから今回はシリーズ構成も任せてくれと言った部分もあるわけですし、それを北浦さん(同作のチーフプロデューサー)は承諾してくれたわけですので、本気でやらなくちゃいけませんからね。

 

・実業之日本社『ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本』(2020/7/17発売)P94〜95

 

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そして、ここまで綿密にシリーズ構成を組み上げたからこそ、作り手の「こだわり」や「遊び」、あるいは「熱意」を入れ込む余裕までもが生まれてくる。

 

登場する怪獣のセレクトは田口監督が大好きなシリーズ初期(『マン』や『Q』)のものが多いし、『エース』の後日談や描写補完(光線技の名手たるエースの超獣観)といった見事な扱いや、ケムール人が登場する「2020年の再挑戦」等のマニアへの目配せもそつがない。ウルトラシリーズの作劇の大切なフォーマットである「怪獣個々の生態や能力によってお話が展開する」がしっかりと底に通っており、ブルトンの四次元展開で主人公が在りし日の父と再会したり、ネロンガの透明化を受けて主人公とウルトラマンがコンビとして互いを高め合うなど、とにかく「ウルトラマンらしい」魅力に溢れている。

 

先のストーリーで登場した要素がまさかのタイミングで活きてきたり、後の展開のための布石がしっかりと事前に配置されていたりと、細やかな配慮が行き届いているのも嬉しい。ハルキを散々悩ませた怪獣討伐問題において、その要でもあった親レッドキングが、まさかのラスボスに吸収されてしまう残酷さ(超最短距離でデストルドスの凶悪さを強烈に描写!)。バロッサ星人の「武器を収集する」という習性を再登場時にベリアロクとリンクさせる周到さ。キングジョーというオーバーテクノロジーを中盤の盛り上がりに設定しつつ、クライマックスで「更なるオーバーテクノロジーが人類を自滅に導きかける」という縦軸の着地点に落とし込むスマートぶり。『パシフィック・リム』のような、湿度の低いからっとしたハルキとヨウコの男女描写もとってもニクい。

 

実はゼロは劇中では数えるほどしか登場していないのに、「ウルトラマンゼロの弟子」というトピックの印象がしっかりと残っているのは、「豆知識的な本編補完+キャラクター描写+細やかなサイドストーリー」の三拍子が見事に揃った『ウルトラマンゼット&ゼロ ボイスドラマ』の功績が大きい。この手の番外編は近年恒例になりつつあるが、今年は特に、TVシリーズ本編をフォローする関係性(あるいは距離感)においてひとつの完成形だったと言えるだろう。

 

また、ジャグラスジャグラーとして話題をさらったヘビクラ隊長こと青柳尊哉氏の出演は、実はジャグラーというキャラクター以上の意図があったのではないかと類推してしまう。というのも、青柳氏は田口監督と個人的な親交も深く、同監督の短篇自主怪獣映画『女兵器701』へも出演し、同じく自主制作となる空想科学連続ドラマ『UNFIX』では主演を務めているのだ。つまるところ、「隊長」という劇中設定以上に、撮影現場の実質的な座長として田口監督の意を的確に汲み、他キャストを守り立て、活気づかせる・・・ そんな役割を期待され、全うしたのではないだろうか。それほどまでに、ハルキ、ヨウコ、ユカ、それにバコさんと、ストレイジの面々には一種のファミリーとしての魅力が備わっていた。

 

といった諸々だけでもすでに大満足なのに、「特撮」=「特殊撮影」の純粋な面白さ、映像のクオリティもずば抜けている。毎週必ずと言っていいほど、「うおっ!」という身を乗り出す程のキラーショットが用意されているのだ。テレスドンが倒れ込み、ドミノ倒しのように倒れていく電柱と電線。ペギラとの縦横無尽な空中線。VR技術を用いたこれまで見たこともないアングルでのスカルゴモラとの乱戦。グリーザは実景と爆破エフェクトとの合成で大規模破壊を実現し、メツボロスは俊敏にビルの壁を走る。最終回では、川北特撮仕込みの至高のライティングでセブンガーが前線に駆けつけ、SFXとVFXが互いを高め合いながら視聴者を「燃え泣き」に導く。

 

とにかく、「面白い」。語れば本当にきりがない。以前『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』という漫画について当ブログで語った際に書いた、「クリエイターと消費者の信頼関係」。これがまさに、理想の形で構築されたのである。

 

漫画でも映画でもアニメでもドラマでも、「信頼感を感じさせてくれる作品」が大好きだ。それは主に、作者や演者、クリエイターに向けられた信頼感。

 

「この作品のことだから、こんな展開が訪れても、きっと巧く処理してくれるだろう」。「新キャラが登場しても、今ここにある『面白さ』はしっかり維持してくれるだろう」。「あるいは、こちらの想像や期待を常に少し上回る形で、延々と膨らんでいってくれるだろう」。

 

作品を読む(観る・プレイする)ことで熟成される、消費者→クリエイターへの信頼感。それが、期待通りしっかり返球される。なので、更に信頼が増す。期待の送球。また次も絶妙な返球。繰り返し、繰り返し。どんな期待の球を投げても、自分のミットに驚くほど突き刺さる。そうして構築される、盤石の信頼関係。

 

消費者のひとりとして、こういう信頼関係を築ける作品に出会えることは、この上ない幸福である。

 

信頼感のハイパーインフレーションラブコメ、『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』がすごい - ジゴワットレポート

 

・・・などと、ここまで自分なりに同作の「面白さ」を挙げてきたが、これがまた非常に清々しいのは、『ウルトラマンZ』という作品がいわゆるオタクな人達の考える「ぼくのかんがえたさいきょうのうるとらまん」にこの上なく肉薄していることである。

 

これは、田口監督自身が(敬意を込めてこう評したいが)誰よりもその道の「オタク」であることが大きな勝因だろう。まるで、小煩いオタク集団が酒を飲みながら語る「理想のウルトラマン」が、そっくりそのまま実現してしまったような・・・。そんなバランスとニュアンスが、「緻密に構成された舞台裏」という計算高さを、良い意味で忘れさせてくれる。テレビに向かって、拳を握りしめながら真剣に「ご唱和」したくなってしまう。

 

コロナ禍で撮影が一時中断されたりと、難しい状況も大いにあったことだろう。例年恒例となっている春先の劇場版も、現時点では全くアナウンスが無い。そんな、何かと鬱憤が募る情勢の中で、とにかく突き抜けて純に「面白い」ウルトラマンが毎週のように観られた。この幸せが絶対に忘れられない、そんな2020年だったと言えるだろう。

 

最後に。田口監督と共にシリーズ構成を担当され、『ウルトラマンZ』が遺作となった脚本家・吹原幸太氏に、ご冥福をお祈りします。この数ヶ月、心の底から幸せでした。本当にありがとうございました。

 

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