ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

コロナ禍の2020年に観る『仮面ライダー鎧武』

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数年に一度の周期で訪れる「やっぱり鎧武なんですよ・・・」が、この2020年春、またもや顔を出した。Twitterでも #俺達が鎧武の思い出語ったとして というタグでボチボチと再鑑賞の感想を零しているが(こういう時にすぐ歌詞を引用したがるオタク)、物語の中盤、話の全容が見えてくる一連のくだりで、妙な臨場感に変な声が出てしまった。

 

街にばらまかれたロックシードと戦極ドライバーは、ユグドラシルによる大規模な実験であった。そしてそのユグドラシルは、「宇宙からの外来種」ことヘルヘイムへの対抗策を模索していた。ヘルヘイムの森は理由なく繁殖を続け、このままだと10年後、地球は滅びてしまうという。

 

世界のおわり はじまる侵略

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以下、第20話「世界のおわり はじまる侵略」より、一部の台詞を書き出してみる。葛葉紘汰と呉島貴虎、駆紋戒斗と戦極凌馬。ふたつのシーンが切り替わりながら、ユグドラシルの理念が語られるくだりだ。

 

葛葉紘汰(以下、紘汰)「なんで、なんでそんな、大切なこと隠すんだ?」

呉島貴虎(以下、貴虎)「知らせた結果引き起こされるパニックが想像できんのか!? 人々は自分の身を守るためだけに暴徒と化す。ヘルヘイムに侵略されるまでもなく、文明は崩壊する・・・」

 

※※※

 

戦極凌馬「例え破滅の危機に瀕しても、互いに憎み合い、争うことをやめられない。それが人間というものだ。戦争、宗教、民族の違い。抱えている問題を全て棚上げにしてヘルヘイムの脅威に立ち向かうなど、不可能な話だと思わないか?」

駆紋戒斗「そうかもな。俺もそんな奴らばかりを見てきた」

 

※※※

 

貴虎「だからユグドラシルが全てを担う。世界を救う責任を、誰よりも公平に果たせるのは我々だけだ」

紘汰「・・・おかしいだろ。こんな時ほど人間ってひとつになるんじゃないのか? みんな滅びるって分かったら、お互いに争ってる場合じゃないだろ!?」

貴虎「つくづくお前は、人の悪性というものを知らんようだな・・・。ユグドラシルの研究成果を手に入れるためなら、各国はどんな強硬な手段でも取るだろう。ヘルヘイムに対処する手段を独占すれば、もはや世界を手に入れたに等しい」

 

紘汰「・・・誰も、信じられないっていうのかよ!?」

貴虎「ひとりの悪意は、百人の善意を打ち砕く力を持つ。そうやって人の歴史は、幾度となく血に染まってきた」

 

『鎧武』におけるヘルヘイムという宇宙植物の繁殖は、東日本大震災が構想のベースとして挙げられている。怪人が襲ってくる訳でも、悪の軍団が侵略してくる訳でもない。ただ黙々と、しかし人智を超えた強大なパワーが、悪意なく襲い掛かってくる。その言い知れぬ不気味さこそが、2013年当時最新の「恐怖」であった。

 

新型コロナウイルスの感染が全世界に広がり、景色は一変してしまった。『鎧武』作中におけるヘルヘイムと今回のコロナ禍が同一だなんて言うつもりはないが、どうしようもなく耳が痛いのは、先の戦極凌馬の台詞である。「戦争、宗教、民族の違い。抱えている問題を全て棚上げにしてヘルヘイムの脅威に立ち向かうなど、不可能な話だと思わないか?」。昨今蓄積する精神的な苦痛は、コロナの脅威による直接的なものというより、それにより引き起こされる人間の不安定な一面によるものだろう。

 

くだらない話題で盛り上がることが多いSNSも、哀しいかな、空気が変わってしまった。各々が抱えるストレスや不満が噴出し、政治へ、会社へ、家族へ、友人へ、マイナスの感情を抱いてしまう。「右を向けばコロナ」「左を向けばコロナ」というより、「右を向けばコロナに翻弄されている人」「左を向けばコロナに翻弄されている人」といったところか。そして言うまでもなく、私自身も大いに翻弄されてしまっている。

 

ニュースを眺めながら、「こんな状態でまだ営業しているパチンコ店があるのか」「あれだけ言われていてなぜGWに沖縄に旅行する人がゼロにならないのか」と憤る自分がいる。一方で、「補償もなく営業をストップするのは死活問題だよな」「彼らの人生においてどうしても動かせないイベントなのかもしれないよな」という考えも、頭をグルグルと回る。何が正しいかを決められる人が、どこにもいない。それぞれに、生活と考えがある。それら全てを棚上げして脅威に立ち向かうことは、やはり、困難を極めるのだ。

 

同調圧力が悪い方向に作用し、Twitterのトレンドに「自粛警察」の4文字が躍る。家に閉じこもり、思うように周囲とコミュニケーションが持てない結果か、心はどんどん窮屈になっていく。余裕がない、とも言い換えられるだろう。心なしか、ネットで話題になるニュースも、平時より殺伐としたものが多くなってきた。その心の窮屈さからか、薪をくべてしまう人が多いのだろうか。

 

ドラッグストアでマスクの在庫を尋ねながら憤る客。営業自粛しない店舗を口汚く罵る人。一般人の越県をわざわざ越県して中継するマスコミ。「ヘルヘイムに侵略されるまでもなく、文明は崩壊する」。ひとつの思考実験のように楽しんでいたはずの『鎧武』が、急速に、身近に感じられるようになってしまった。

 

まさかこんなことになるとは。

 

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京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は、「また炎上しそうだが」と前置いた上で、「50歳以下で健康な人はなるべく外に出して、感染を早めてもらう」という自説を語った。実際にスウェーデンは集団免疫という独自路線をとっており、ノーガード戦法でコロナに挑んでいる。少数の犠牲が出ることを許容した上で、社会・経済全体での勝利を目指す。言うまでもなく、この方法論への賛否は激しい。

 

創作に例えるのも若干憚れるのだが、まるで、『鎧武』におけるユグドラシルの方針を見ているようである。全体の死を待つより、確実に助けられる何割かを救う。それは確かに、統計上は「正しい」のかもしれない。でも、実際に自分が、家族が、友人が、その「犠牲」に数えられても、果たして納得がいくのだろうか。

 

実のところ、『鎧武』放送当時の私は、主人公である紘汰の立ち居振る舞いに、少しのモヤモヤを抱えていた。

 

ユグドラシルの計画には一定の「正しさ」があるが、それを「隠している!」「自分たちだけで決めるな!」と断罪する紘汰は、しばらく具体的な代替案を持たない。新たな解決策が提示できない以上、その叫びと行動は、「確実に救える何割か」をも犠牲にしかねないのだ。あるいは、『天元突破グレンラガン』の第3部か、『プロメア』か。「少数の犠牲」問題には、いち観客として、いつも頭を悩ませる。

 

しかし、この2020年春に改めて『鎧武』を観返すと、具体案は無くとも自己の信じる「正しさ」を叫ぶ紘汰が、どことなく眩しく見えてくるのだ。そうだよな。納得できないよな。それが仮に、相手の理屈における「正しさ」だったとしても。「こんな時ほど人間ってひとつになるんじゃないのか? みんな滅びるって分かったら、お互いに争ってる場合じゃないだろ!?」。その後の結論がどうであれ、まずはこう叫べる人間でありたいと、そう思ってしまうのかもしれない。

 

最後に、関連して少しだけ明るい話を。

 

そんなこんなで『鎧武』熱が上がったので、部屋の物置から当時の玩具を引っ張り出し、3歳の娘と一緒に遊んでみた。娘は、「ボタンを押したら音が鳴って光る果物のオモチャ」に尋常でない食いつきを見せ、「わたしはぶどう!へちんっ!!」と、大いに盛り上がった。当時、次のライダーが果物モチーフだと知った時は流石に驚いたものの、やはり、子供の食いつきは間違いないのだろう。

 

「これは、みかん!これは、ばなな!これは、ぶどう!これは、めろん!」と、ロックシードを綺麗に並べながらごっこ遊びを始める娘。せっかくなので、しばらくは娘の玩具として活躍してもらおう。さあ娘よ、ロックシードを記憶に刻み込むが良い。大人になってから、父は『鎧武』を勧めるからな。

 

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