ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

『ウルトラマンサーガ』における「別に理由なんてねぇよ!ずっと昔からそうやってきた!ただ、それだけのことだ!」について

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先日、実業之日本社から発売された『ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本』を買ったのですが、これがもう本当に、素晴らしい一冊でして。

 

ウルトラマンゼロの鮮烈なデビューから10年。これまでの活躍に携わってきたキャストやスタッフの証言がとにかくてんこ盛りで収録されており、「こういうのが読みたかった!」と伏して拝むクオリティ。最新作『ウルトラマンZ』関係も豊富で、中でも田口清隆監督による『Z』制作秘話は必読。ホビージャパンから毎年発売されているライダーや戦隊の「公式完全読本」と近いフォーマット(誌面構成)なので、そちらが好きな人には特にオススメです。

 

ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本

ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本

ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本

  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

そんなこんなで「ウルトラマンゼロ熱」が自分の中で急上昇し、勢いのまま、数年ぶりに映画『ウルトラマンサーガ』を鑑賞。ありがとう、Netflix。思い立ったらすぐに観られるのがありがたい。

 

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『ウルトラマンサーガ』は当時劇場で観て以来大好きな作品で、もう何度繰り返し観たか分からないのだけど、今回も無事に号泣してしまった。瓦礫の中で両親を失って嘆く子供のシーンは、2012年公開というタイミングを考えると、あまりに胸が痛い。トラウマと、虚栄と、それでも懸命に生きる人間を描き、クライマックスではウルトラマンダイナが復活する。この一連のシーンは何度観ても涙腺が緩む。

 

前述のように『ウルトラマンサーガ』は、2011年に起きた東日本大震災の影響を強く受けた作品。エンドロールでは、宇宙における地球の情景から次第に日本にカメラが寄り、最後には東北地方がアップになる。非常にストレートな想いが込められた映画である。

 

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東日本大震災というテーマは、ここ10年ほど、国内特撮作品においても非常に慎重に扱われてきた。

 

ひとつは、人と人とが手を取り合う尊さを描いた『仮面ライダーオーズ』。反対に、底抜けに明るく活気があり、デザイン上の涙ラインを廃して作られた『仮面ライダーフォーゼ』。『特命戦隊ゴーバスターズ』においても、命に対する価値観は時に残酷に描写された。ヒーロージャンルとは異なるが、『シン・ゴジラ』も、東日本大震災を外して語ることはできない。『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』では、実際の現実世界には助けに来てくれない虚構のヒーローを題材としており、震災の影響が強かったことは各種スタッフインタビューでも触れられている。

 

 

そう、ヒーローは、実際には助けてくれなかったのだ。津波を止めることも、避難を手助けすることも、街を復興することもなかった。東日本大震災において、テレビの中のヒーローたちは、そこから抜け出して来てはくれなかった。沢山の、震災に直面した子供たちを前にして、無情にも無力だったのである。

 

ある種の当然である、フィクションの限界。そういう事実を突きつけられた翌年に公開されたのが、『ウルトラマンサーガ』だ。ウルトラマンがいくらスクリーンの中で戦おうと、現実には誰ひとり救えない。ある意味、これ以上に難しい公開タイミングは無かっただろう。加えて、当時の円谷プロが経営的に厳しかったことは周知の事実であり、テレビシリーズでの現行ウルトラマンも途絶えていたタイミングだ。

 

「ウルトラマン」というコンテンツは、このタイミングで、一体何を発信するのか。あるいは、発信できるのか。それを象徴するのが、作中における、ウルトラマンゼロの台詞である。

 

ハイパーゼットンに立ち向かうウルトラマンゼロ・ダイナ・コスモスを前に、敵役であるバット星人は、吐き捨てるように問う。「ウルトラマン、なぜ貴様らは邪魔をする!なぜ人間に寄り添う!人間… つまらない生き物!」。そこに、ゼロが叫ぶように答えるのだ。「別に理由なんてねぇよ!ずっと昔からそうやってきた!ただ、それだけのことだ!」。放たれる必殺の一撃。倒れるハイパーゼットン。「お前が人間の価値を語るなんざ、2万年早いぜ!」。

 

私はこのゼロの台詞が本当に大好きで、彼の数ある名言の中でも、迷いなくトップに数えたいほどだ。かつて光の国で大罪を犯して追放された生意気な戦士が、数々の戦いを経て、(パラレルとはいえ)遂に地球に降り立ち、人間とウルトラマンの永き関係を知る。そういう彼の背景も併せると、胸にくるものがある。

 

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とはいえ、先の「ずっと昔からそうしてきた」という台詞には、一部に否定的な意見が存在する。その最たるものとして、ライムスター・宇多丸氏が2012年3月に自身のラジオ番組『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』で『ウルトラマンサーガ』を評論した、その一幕が挙げられるだろう。

 

TAMAFLE BOOK 『ザ・シネマハスラー』

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  • 作者:宇多丸
  • 発売日: 2010/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

宇多丸さんの映画評論は私も大ファンで、ほぼ欠かさず聴いているのだけど、感想はおよそ8割が「すごい!なるほど!ほぇ~!」という感じで、残りの2割が「ちょっと待ってくださいよ宇多丸さん!!!そこは!!!そこは違うでしょう!!!ちょっと!!!」、である。10回聴いたら2回くらいは、解釈の違いでラジオに向けてエアプロレスを繰り広げてしまう。そして、『ウルトラマンサーガ』評論については、その2回の方に該当したのだ。

 

冒頭、リスナーメールを読み上げるくだりで、こういう投稿があったことが紹介される。「ウルトラマンたちが人間を守る理由が、昔からそういうもんだから!って、そんなんでいいんですか? ウルトラマンってそういう話なんですか?」。

 

評論の最後の方でも、宇多丸さん自身が、先のシーンについてこう述べている。「バット星人が、なぜ人間なんてものを守るのか、つまらない生き物じゃないかって言うのに対して、あ、これはきっとね、グッとくる台詞で、ガッツリ返してくれるんだろう、と。(中略) それに対してゼロがね、理由なんかねぇよ!ずっと昔からそうしてきた!それだけのことだ! ・・・いや、それちゃんとした理屈で答えないなら、このやり取り自体要らないだろ!かなりがっかりしたけどね、アレね」。なぜそうも雑に答えてしまうのかと、宇多丸さんは、そう疑問を投げかけていた。

 

ちょっと待ってくださいよ宇多丸さん!!!そこは!!!そこは違うでしょう!!!ちょっと!!!・・・いや、分かりますよ。そこに真っすぐな理屈で返答して欲しかったという意見も、分かりはするんです。ただ、この『ウルトラマンサーガ』においては、上映された返答が120点だと、私は思うのです。(念のため補足しておくと、宇多丸さんは評論全体としては、『ウルトラマンサーガ』を絶賛されていました)

 

思うに、本作を語るにおいては、「ウルトラマン」というコンテンツそのものが果たしてきた役割が重要なポイントな訳です。

 

テーマとしては、「ウルトラマンが居る」という、シンプルな一点。それは確かにフィクションの存在だし、実際の災害において誰かを助けることはできなかったけれど、ずっと昔から、そしてこれからも、無数の子供たちに夢や勇気を与えてきたのが、ウルトラマンというコンテンツなのである。子供たちに向けて、「これからもウルトラマンがいるからね」、と。もっと突っ込めば、「ウルトラマンを作って君たちに夢を与えていくからね」という、円谷プロを始めとした作り手の方々の切なメッセージが、この作品には込められているんじゃないかと。

 

もちろん、作中でそんなメタフィクションに繋がるような台詞は出てこないけれど、「辛い時はウルトラマンを観て元気を出してね」「これからも側に居るからね」という信念の語りかけを、随所に感じることができるのだ。これが、2012年当時の、円谷プロによる東日本大震災への「回答」だったのではないか。もちろん、震災後に設立された「ウルトラマン基金」の存在も欠かすことはできないだろう。

 

そう考えると、ウルトラマンダイナに変身するアスカの存在も、非常に大きな意味を持つ。かつて、地球で生き残った子供たちと過ごし、共に歌い、希望を与え続けたアスカ。しかし、ダイナはハイパーゼットンの前に力尽き、その存在を消してしまう。ウルトラマンは助けてはくれない。泣き叫ぼうとも帰ってこない。しかし、そんな絶望の世界に訪れたのも、またウルトラマンだったのだ。

 

1966年に初代『ウルトラマン』が放送を開始し、震災まで45年。常に子供たちに夢を与え、ずっと昔から、そのキラキラした視線を背中で受け止めてきたウルトラマンたち。彼らが無力な時も、それは確かに、あっただろう。それでも、ウルトラマンはずっと君たちの側に居るのだと、そう語りかけてくれたのが、『ウルトラマンサーガ』だった。私も、ウルトラマンを観て育ったひとりとして、このメッセージに強く心を打たれたのだ。

 

「ウルトラマン、なぜ貴様らは邪魔をする!なぜ人間に寄り添う!人間… つまらない生き物!」。「別に理由なんてねぇよ!ずっと昔からそうやってきた!ただ、それだけのことだ!」。

 

啖呵を切るように言い放つゼロからは、「そんな当たり前で野暮なことを一々聞くんじゃねぇ!」と、そういったニュアンスが伝わってくる。ゼロ自身も、初めて地球を訪れ、「地球人とウルトラマンの関係」を紡いでいたアスカの存在に触れた。誰よりも、その関係の尊さを実感していたのは、きっとゼロだったのだろう。ずっと昔から、ウルトラマンは、人間に寄り添ってきたのだ。真の意味で「理由がない」なんてことはない。これは、そんな額面通りに受け取る台詞だろうか。

 

そして、この台詞を述べるシーンで、コスモスとダイナの顔のアップが挿入される。コスモスは2001年に、ダイナは1997年に、その時代の子供たちに寄り添ってきたのだ。ただそれだけのことに、どれだけの意味があっただろう。それは、ウルトラマンを2012年当時に観ている子供たちにも十二分に伝わったと、そう願いたい。「Wow Wow Wow 叫ぼう、世界は終わらない」!

 

君だけを守りたい ~アスカの歌~

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  • ¥204
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戦いは終わり、アスカはまた宇宙へ、ムサシも自身の星へ帰っていく。しかし、この戦いの中でトラウマを乗り越えて強くなったタイガ(演:DAIGO)だけは、出身ではないパラレルの地球に残り、新しい人生を歩むことを決意する。波が押し寄せる海岸で、そう語るのである。

 

地球を去りゆくゼロは、そんなタイガに敬意を込めるように、「フィニッシュ!」の指ポーズを真似る。そしてこの仕草は、今やゼロお馴染みの決めポーズとして、すっかり定着しているのである。ゼロに歴史あり。ウルトラマンに歴史あり。コロナ禍の影響により、劇場最新作『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』の公開は延期になってしまったけれど、これがまた2020年の子供たちに寄り添ってくれることを、期待したい。ただそれだけのことを。

 

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ウルトラマンサーガ超全集

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  • 作者:間宮尚彦
  • 発売日: 2016/10/07
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ウルトラマン公式アーカイブ ゼロVSベリアル10周年記念読本

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  • 発売日: 2020/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)