ジゴワットレポート

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感想『ウルトラギャラクシーファイト ニュージェネレーションヒーローズ』 ニュージェネという歴史の映像化は文脈を渋滞させる

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YouTubeにおける新作配信という形態も、今や珍しくなくなった。露出メディアの変遷は猛スピードだ。とはいえ、『ウルトラマンギンガ』から続いてきた通称・ニュージェネレーションの集大成を、まさか配信という舞台で披露するとは。驚きである。

 

「そんな大玉企画、せっかくなら映画の方が良かったのでは・・・!」。そんなファンの複雑な感情をフォローするかのように、追って公開が発表された『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』。「声の出演」から更にグレードアップして、「キャスト全員集合」が目玉となる。うーむ、昨今の円谷プロは本当に商売が上手い。(新型コロナの影響で公開延期となったのが悔やまれる・・・!)

 

しかしながら、「ニュージェネ全員集合」「オリジナルキャストが声で参加」「坂本浩一監督」というピースが揃った時点で、『ウルトラギャラクシーファイト ニュージェネレーションヒーローズ』が一定のクオリティを魅せてくれることは、もはや既定路線であった。安心と信頼の布陣である。

 

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グリーンバックで撮影されたニュージェネ陣の縦横無尽なアクション。時折挟まれるオープンセットでの乾いた質感。歴史の蓄積を意識させるキャラクター同士のやり取り。その全てが「観たかったもの」であり、期待にしっかり応えてくれる内容であった。「満足度」という文字列がとっても相応しい。

 

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そんな本作を語るにあたっては、まず、近年の円谷プロの変化から触れねばならない。

 

転機は2017年8月。ウォルト・ディズニー・ジャパンでスタジオ部門のゼネラルマネージャーなどを歴任した塚越隆行氏が円谷プロに入社。社長を務められた(現在は会長)。ディズニーでの経験を活かしながら、ウルトラマンを含めた円谷プロが有する数々のIPをいかに活用し、広めるか。

 

昨年末に開催された『TSUBURAYA CONVENTION』も記憶に新しいが、児童向けアニメ『かいじゅうステップ』、舞台ファンの取り込みを狙う『DARKNESS HEELS』、Netflix配信の『ULTRAMAN』など、幅広い展開が今も継続されている。

 

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塚越氏のビジネスマインドについては、「科楽特奏隊」のタカハシヒョウリ氏が聞き手を務められたSPICE掲載のインタビュー記事が非常に分かりやすいので、ここに紹介したい。

 

spice.eplus.jp

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その中の、「ヒーロー集合」について塚越氏が語られた部分を引用する。

 

ポイントだと思うのは、ウルトラマンってすごく日本的だと思ってるんです。さっきの話に戻るけど、世界に向けて!といった時に、「ヒーローものをやっていくということは、じゃあアベンジャーズみたいなものをやるんですか?」とか言われることもあって。ステレオタイプにはそうなっちゃうんだろうけど、僕はそうじゃなくて、せっかく日本で作っているんだから、日本の良いところ、ウルトラマンが持っているデザインや内容もそうだし、その日本人としての良いところというのをちゃんと炙り出して、そこをコアにしようかなと思っています。これが多分、海外の人も良いなと思ってくれるポイントになるんじゃないかなと。

円谷プロ 新社長 塚越隆行 就任後初独占インタビューで「ウルトラマンの未来」を語る | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス

 

すでに「アベンジャーズ」は「ヒーロー大集合」の代名詞として定着しているが、彼らと、ウルトラマンを始めとする日本のヒーローは、一体何が違うのか。塚越氏は同インタビューで「日本らしさ」について分析されているが、私のような一般消費者の目線で言えば、何よりシリーズとしての性格の違いが挙げられる。

 

『アベンジャーズ』が「異なるヒーローの大集合」なら、日本のヒーローは、「同じ土壌のヒーロー大集合」なのだ。これは、近いようで決定的に違う。例えるなら、『アベンジャーズ』が「ハンバーガーと八宝菜の共演」で、日本のヒーローが「味噌ラーメンと塩ラーメンの共演」、といった感じだ。ウルトラマンという大きなシリーズ枠の中で生まれ続けたヒーロー、仮面ライダーも、スーパー戦隊も、基本的には同じ土壌内で集結していく。(なので、『ウルトラマンVS仮面ライダー』といった作品がより「アベンジャーズ的」と言えるだろう)

 

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これが意味するものは、同シリーズ内における「縦の関係」である。

 

海外のヒーロー集合文化と比べ、日本のヒーローには「先輩」「後輩」の概念が色濃い。しかもこれは年齢的なものではなく、放送年度が先か後かという、非常にメタ的なキャリア概念を引用した、独特なものとなっている。このため、ニュージェネでいえばギンガ、平成ライダーならクウガといった「初代」は、何かと象徴的に扱われることが多い。最新のヒーローは往々にして「末っ子」に位置付けられ、先輩たちから「ウルトラマン(「仮面ライダー」「スーパー戦隊」)としての生き方」を学び取る。

 

まず先にレギュラーのテレビシリーズがあり、そこに最長一年間での作品リセットが起こる。そうして紡がれてきた同じ土壌のヒーローが、何かの機会に一堂に会する。コミックを源流とするアメコミヒーローの集合とは、どうしても色が異なってくるのだ。そして、だからこそ、その「日本のヒーロー」ならではの旨味を見極めていきたい。

 

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いつもに増して前置きが長くなったが、『ウルトラギャラクシーファイト』は、その「日本ヒーローならではの旨味」をしっかり活かした作りとなっている。シリーズの歴史という名の文脈、「先輩」「後輩」の概念を、作品の基礎にこれでもかと練り込む。ある意味、『アベンジャーズ』には真似ができないアプローチだ。

 

前述のように様々な層に話題を投げかけていく円谷プロだが、今作は、「すでにファンである層」に明確に特化している。ニュージェネを全く観たことがない人には、もしかしたらやや退屈に映るのかもしれない。先のインタビューで塚越氏は、「コアのファンを大事にします」「そして、ファン層を広げます」と語られているが、『ウルトラギャラクシーファイト 』と続く『ニュージェネクライマックス』は前者、先に挙げた多彩な作品群が後者を指すのだろう。

 

海外のヒーローと日本のヒーロー、その文化の違いからくる旨味。そして、円谷プロが仕掛ける様々なビジネスにおける、「既存ファン」へのアプローチ。『ウルトラギャラクシーファイト』という作品の立ち位置は、まさにここにあるのではないだろうか。(言うまでもなく、対象となる「既存ファン」も大きく「昭和」「平成」「ニュージェネ」に分岐しており、それぞれに応じた訴求が行われている)

 

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さて、肝心の物語の内容について。

 

本作では、坂本浩一監督が『仮面ライダー平成ジェネレーションズ』でも引用した『仮面ライダーストロンガー』の「デルザー軍団編」フォーマットをベースに、ニュージェネメンバーが次々と集結していく模様が描かれる。そこに、海外配信を睨んだサプライズとしてのウルトラマンリブット、そして、ニュージェネの原点(まさに「ゼロ」!)ことウルトラマンゼロも参戦と、流石の詰め込みっぷりだ。

 

 

大きな見どころとして、先の「日本ヒーローの旨味」としての「縦の関係」がある。

 

ウルトラマン同士の出会いと、そこで交わされる会話の数々。ニュージェネを追ってきたファンならば、何度ニヤニヤしても終わりが見えない。例えば、『ジード』の映画にはオーブがゲスト出演しており、『ルーブ』の映画にもジードが登場している。そういった個々の年度における新旧の出会いを踏まえつつ、「AとBは知り合いだけとCとは初対面」等の関係性をしっかりと踏襲。細かなやり取りに落とし込んでいく。

 

どんなに事態が切迫しても常にコントなテイストを崩さないルーブ兄弟や、光の国を訪れて感慨にふけるジード。自然とリーダー役に収まる「初代」のギンガに、頼りがいのある精神論でウルトラマンの矜持を語るオーブ。それぞれのキャラクター性が遺憾なく発揮され、期待通りに絡み合っていく。「ウルトラ群像劇」として、これ以上のものは中々見られないだろう。それほどに、楽しく、充実している。

 

この点、坂本浩一監督の作家性が強く反映されているのは勿論のこと、脚本を務めた足木淳一郎氏の功績も大きいと見ている。

 

足木氏は、振り返れば2011年より『電撃ホビーマガジン』で連載されたオリジナル小説企画『Another Genesis』の執筆を担当されている。単行本化されていないのが大変惜しいのだけど、内容としては、 『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』のパラレル解釈版といったところか。ウルトラマンベリアルが登場する、割とハードな内容だったと記憶している。

 

www.youtube.com

 

以降も、『ウルトラファイトビクトリー』『ウルトラファイトオーブ』等ですでに坂本監督とタッグを組んでいたり、ニュージェネ作品群の個別エピソードの脚本、『ウルトラマン列伝』『新ウルトラマン列伝』の構成など、近年の円谷作品群に「大きく」「長く」関わられてきた方である。だからこそ、ニュージェネメンバーの描写にも間違いがない。

 

映像面でいくと、坂本監督の近年の流れである「スピード感と巨大感の共存」がたっぷりと堪能できる。

 

同監督によるグリーンバックでのウルトラアクションといえば 『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』だが、それ以降、ミニチュアワークを活用した従来のSFXの経験を経て、「手数の多いハイスピードなアクション」と「巨体が大地を揺らす存在感」の共存が図られてきた。最近では『騎士竜戦隊リュウソウジャー』の映像も記憶に新しく、一時期定着していた「坂本監督といえばとにかく盛り盛りのアクション!」という評判は、もはや過去のものである。

 

中でも、『ウルトラマンギンガS』等でも印象的だったオープンセットでの映像が素晴らしい。がっつりと合成が効いたフィールドでのアクションも良いが、ウルトラのスーツと自然光の組み合わせには思わず目を奪われる。しかも、乾いた質感というか、コントラストの調整が、どこか『ウルトラマングレート』や『ウルトラマンパワード』を思わせるのだ。海外でのキャリアが長い坂本監督ならではの色合いだろうか。

 

そして、ライダーや戦隊でもお馴染みの「フォームチェンジ・武装ギミックの連続使用」や「強化形態の揃い踏み」も健在である。隙が無い。

 

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私の好む「シリーズの文脈」という視点でいくと、中盤のゼロのくだりが最高であった。

 

今更説明するのも野暮なのだが、『ウルトラマンメビウス』以降テレビでの新作が途絶えていた同シリーズにおいて、ウルトラマンゼロは貴重なキャラクターであった。銀幕での度重なる活躍や、あらゆる局面でのナビゲーターをこなしつつ、ニュージェネ作品群にも様々な形で登場。間違いなく「ニュージェネの影の立役者」であり、だからこそ、多くの後輩たちは彼の力を宿した形態を持っていた。

 

・・・といった歴史の蓄積を活かすように、それぞれがゼロの力を宿した、あるいは受け継いだ力を発揮していくシーンには、思わず胸が熱くなった。あの数分間に、「ニュージェネが歩んだ数年間」がメタ的に横たわっている。素晴らしい。しかも、それを演出するのがゼロのデビュー作を手掛けた坂本監督なのだ。色々と濃すぎる。

 

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更にそのお返しとして、ジードが先導し導かれるゼロビヨンド。これがもう、まさに白眉であった。

 

というのも、『ジード』当時に玩具としてリリースされた「ニュージェネレーションカプセルα」と「β」は、あくまで「直近のヒーローというアイコンを利用した玩具」の域を出ていなかった。ビヨンドの力に、ニュージェネは直接的には関わっていなかったのである。「何かと直近のウルトラマンを関わらせた方が子どもたちの反応が良い」、そんな、商業的な「都合」だ。

 

その「都合」を逆に利用するかのように、今作ではニュージェネが直接パワーを分け与えることでゼロを進化させる。「ニュージェネの影の立役者」にスポットが当たる、その瞬間。ゼロとニュージェネが共に歩んだ数年間、その映像化。この発明には感極まらない訳がない。

 

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また、ゼロは海外人気が高いことでも知られており、世界同時配信という形態との相性も良いのだろう。『Ultraman Zero The Chronicle』という番組が国内より先駆けて制作されたのも、今更ながら凄いことである。そういった事情を踏まえた、海外ファンへの目配せとしても気が利いている。

 

 

以前、「特撮ヒーローは現行が旬」という記事を書いた。ポイントとなる部分を後に引用するが、これもまた、「日本ヒーローの旨味」=「縦の関係性」と一部リンクすると言える。

 

『ウルトラギャラクシーファイト』は、まさに「ニュージェネが歩んできた歴史」そのものを映像化したのだ。新旧のウルトラマンが交わり、先輩ウルトラマンの力を借りて戦い、そして、その隣には常にゼロがいた。この構造を、枠組みを、パターンを、鮮やかに物語に落とし込んでいるのだ。

 

また、こういった特撮ヒーローは後年の映画等で作品の垣根を超えて集合するのが常なのだが、この時に、「リアルタイムで追ってきた」というプライスが限界突破で炸裂していく。登場するヒーローの両肩には、我々ひとりひとりの半生が乗っかっているのだ。

 

颯爽と現れる先輩ライダー。彼を一年間追っていたあの頃、自分は就活中でコーヒーをがぶ飲みしながら何枚も履歴書を書いていた。後輩を助ける歴戦のウルトラマン。この作品を観ていた頃は、今はもう離れたあの土地に住んでいて行きつけの居酒屋だってあった。

 

そんな集合作品で展開されるのは、「ヒーロー大集合」に見せかけて、実のところ「僕の・私の半生大集合」なのである。なので、驚くほどに化ける。思い入れと思い入れが渋滞を起こしていくので、涙腺はびっくりするほど緩くなっていくし、胸は自然と高まってしまう。これこそが、「現行を追う」ことの最大の価値なのだと、繰り返し繰り返し実感していく。「よくぞ追っていたぞ、数年前の自分!」と、過去の自分を褒めたくもなってしまう。

 

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つまり今作は、「円谷プロが自社IPを再認識した上での一翼」「ゼロを原点とする近年の円谷プロ再興史」「そこに関わってきたスタッフ陣の作品愛」「日本ヒーローならではの縦の旨味」「ニュージェネシリーズの商業コンテンツ的性格を活かした物語構成」「ファンの同シーズへの思い入れ」といった、まさに要素モリモリの、オタクが語ると話題が大渋滞を起こす、垂涎の一作なのだ。端的に、「ご褒美」である。

 

そしてこの「ご褒美」には、『ニュージェネクライマックス』という第二弾が用意されている。なんとも贅沢だ。メインディッシュが終わったと思ったらメインディッシュが待ち構えている。そして、こうしてニュージェネが総括されていくからこそ、まだ見ぬ「次世代のウルトラマンたち」にも期待が高まるというものである。