ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

デスノートオタクによる『DEATH NOTE 新作読切 aキラ編』の感想(ジャンプSQ. 2020年3月号掲載)

FOLLOW ME 

新連載である『DEATH NOTE』が表紙を飾ったあの時を、今でも鮮明に覚えている。それ以前に読んだプロトタイプの読切で強烈な印象を残した「あの作品」が、連載として帰ってくる。Lという覆面探偵の登場、FBI捜査官を軒並み殺す月の策略、その全てに心を躍らせたあの頃。

 

やがて発売された単行本は表紙にマットな素材が採用されており、「特別・・・!」な印象を抱かせてくれた。刺激的な原作は大ヒットを記録し、実写映画・アニメ・スピンオフ・ドラマ・舞台と、今なおコンテンツとして生き続けている。私も、オタクなりにそれをずっと追ってきた。

 

DEATH NOTE デスノート(1) (ジャンプ・コミックス)

DEATH NOTE デスノート(1) (ジャンプ・コミックス)

  • 作者:小畑 健
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/04/02
  • メディア: コミック
 

 

そんな『DEATH NOTE』の新作読切ネームが、2019年7月にジャンプ+で公開された。食い入るように読んだそれはやはり抜群に面白く、とにかく唸るしかなかった。そしてこの度、そのネームが完成原稿と化してジャンプSQ. 2020年3月号に掲載されたのだ。

 

「買う」以外の選択肢があるだろうか。気付いた時にはKindleのライブラリに追加されていた。

 

ジャンプSQ. 2020年3月号

ジャンプSQ. 2020年3月号

ジャンプSQ. 2020年3月号

 

 

shonenjumpplus.com

 

 新作読み切りの物語は、キラの暗躍から長い年月が経過した現代を舞台に展開。知能テストで3年連続1位を獲得した“日本一頭のいい中学生”田中実(たなかミノル)とリュークが、ある約束を交わし、その2年後に再会を果たす。

「デスノート」完全新作読み切り「ジャンプスクエア」2月4日発売号に掲載 表紙イラスト先行公開 : 映画ニュース - 映画.com

 

まず、本作は「2013年」という時代表記から始まる。この時点でもうダメだ。アガる。たまんねぇ。言わずもがな、『Cキラ編』の直接の続編なのだ。「デスノートを使い続けるには強靭な精神力が必要」。そういう切り口からかつての主人公・月を見事にアゲた垂涎の読切だったが、それとしっかりお話が繋がっている。

 

つまり、『DEATH NOTE』という物語の面白さは「ノートの使い方」なのだ。これに尽きる。

 

死神が自らの寿命を延ばすためだけのアイテムだったノートを、夜神月が新世界の神になるための道具として活用する。「人を殺せる」「人の死を操れる」というルールを利用し、時には逆手に取ることで、「神の啓示」を人為的に演出する。理屈の殴り合いや深すぎる心理戦も『DEATH NOTE』の大きな魅力だが、この思考実験とも言える初期設定が何より強い。

 

「もし自分がデスノートを所有したらどう使うか」。世界中の読者の多くが、この恐ろしく甘美な妄想を一度は試したことだろう。しかし、あまりにもお手軽に殺人を行えるそのアイテムは、確実に精神を蝕んでいく。「ノートの使い方」にフルで頭脳と信念を注ぎ込んだ月とは対照的に、Cキラは「使い方」に至ることすらできなかった。Cキラは、この思考実験そのものに敗北し、耐え切れず、自死を選んだのである。「もし自分がデスノートを所有したらどう使うか」。読者の妄想をも取り込んだようなストーリーは、実に痛快だ。

 

DEATH NOTE 完全収録版 (愛蔵版コミックス)

DEATH NOTE 完全収録版 (愛蔵版コミックス)

  • 作者:小畑 健
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/10/02
  • メディア: コミック
 

▲『Cキラ編』は愛蔵版コミックスに収録。

 

スポンサーリンク

 

 

 

だからこそ、今回の新作読切は「ノートの使い方」それ自体がメインとして扱われている。

 

誰もが一度は考えたことがあるだろう。「デスノートを使ったら億万長者になれるのではないか」。誰かに金を運ばせてから失踪させ、その23日後に人知れず死亡させる。そういった行為を繰り返せば、半永久的に金を手に入れることができるだろう。もし銀行やネット決済での振り込みを指示すると足がつく可能性があるため、「不審がられずにデスノートで儲ける」という命題は、実は色々と考えモノなのだ。

 

新作読切の主人公・田中実は、その難題である「デスノートで儲ける」に挑戦していく。しかも、「今の時代」に合わせたやり方だ。

 

同作の連載が開始されたのは2003年で、今から17年も前のこと。17年も経てば、時代は大きく変化している。SNSが普及し、YouTuberという職業が確立し、誰もが驚異的な頻度でインターネットと接する時代。その行動は細かく追跡が可能で、街中には監視カメラが溢れる。連載当時の月やLの方法論は、「今の時代」ではもう通用しないのかもしれない。当時「ネットの向こうから指示する覆面探偵!かっこいい!」とシビれたあの感覚は、もう古いのだ。

 

そして、メルカリに代表される個人でのオークション(売り買い)も普及し、更には年金問題や少子高齢化が絶え間なく議論される昨今。2003年のあの頃より、諸問題はより激しく論じられるようになった。新作読切において主人公・実が取った行動、すなわち「ノートを売ってその利益を60歳以下の人間に等分する」という決着は、実に風刺が効いている。

 

「ヨツバ銀行に口座を持ち東京都内に戸籍のある60歳以下の人」という広すぎる条件を課すことで、売り主である個人を特定させない。その理屈の面白さは言わずもがなである。「ノートで儲ける」思考実験を進めると、必ず引っかかるのが「お金の受け取り方」なのだ。どうしても痕跡が残ってしまうし、そこから足がついてしまう。実の方法は、ノートの力で事実上(ヨツバ銀行を)脅すことで突飛な条件を実行させ、それが自分への迷彩としても機能している。なんとも上手い。

 

しかも60歳以下だ。年金は本当に受け取れるのか。2,000万を貯めておかなければならないのか。そんな不安に苛まれる層に向けて、莫大なお金を配る。つまり、「61歳以上の高齢者にこれ以上のお金は要らない」のだ。良くも悪くも「子供じみた」線引きである。

 

スポンサーリンク

 

 

 

物語冒頭で実が2年のインターバルを置いた(リュークに2年後の再訪を約束させた上でノートを手放し記憶を消した)のには、いくつか理由があるのだろう。

 

第一に、「リュークが信用できる相手か見極めるため」。「人間も死神も約束を破るのはダメ。でなきゃ組めない」という台詞にもあるように、実は所々でリュークを試し、その有用性を図っている。リュークが約束を守れる存在でないと、この計画の要である「売り手を隠しながらノートを競売にかける」行為(=死神の力を使って匿名で声明を発表する)が実現不可能となるからだ。死神を地面の下を使って移動させることで宿主を特定させないアイデア、その実行の可否にも繋がってくる。

 

第二に、実自身が述べていた「街中監視カメラだらけ」という足枷。これを外す必要があった。作中での実とリュークの出会いは公園だが、その公園や帰り道のどこかに監視カメラがあった可能性は十二分にあった。ドライブレコーダーを設置していた車ともすれ違ったかもしれない。相沢や松田といった「リュークを視認できる人間」が居る以上、直ちに行動を起こせば、東京近郊のカメラというカメラに捜査の手が伸びるのは明白である。そのため、2年もの確実なインターバルを置いたのだ。特別なことが起きなければ、「リュークを視認できる人間」がわざわざカメラの映像を見る確率は無に等しい。(リュークの再訪を「床の下から」と約束していたので、野外では声をかけないように頼んでいたのだろう)

 

そして第三に、(これはハッキリ明言された訳ではないけれど)、実自身の年齢を重ねるため。リュークと初めて会った時点では中学生だったので、自らヨツバ銀行の口座を開設することが叶わなかったのだろう。口座開設における年齢制限は銀行によってまちまちだが、ヨツバ銀行は15歳あたりで線を引いていたのかもしれない。大きな銀行であれば「口座を新規開設する人」は毎日沢山いるだろうし、キラによるノート競売が始まったタイミングで口座を作ったとしても、それが直接「足がつく」行為になるとは考えにくい。

 

実の計画は実にスマートで、面白い。「ノートの使い方」とそれに伴う思考実験という、作品が持つ最大の魅力が遺憾なく発揮されている。誰もが一度は抱いた「自分ならこうやって使うかもしれない」という妄想を、あろうことか原作者コンビが実行する。そりゃあ、敵いませんよ。ひれ伏すしかない。

 

また、「デスノートを売買した人間は死ぬ」という新ルールによって実が殺されるオチは、かつての読切版におけるデスイレイザー(その消しゴムで書いた名前を消すと死んだ人間が生き返るアイテム)を想起させる。そう、若干のご都合主義だ。かつて原作者・大場つぐみも、デスイレイザーを「出さざるを得なかった」苦悩を吐露していた。それほどまでに、デスイレイザーには「オチを付けるためのアイテム」としての性格があったのだ。今回の新ルールも、まさに「オチを付けるためのルール」という印象が強い。

 

DEATH NOTE (13) (ジャンプ・コミックス)

DEATH NOTE (13) (ジャンプ・コミックス)

  • 作者:小畑 健
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/10/13
  • メディア: ペーパーバック
 

▲デスイレイザーが登場する読切版は13巻に収録。

 

とはいえ、『Cキラ編』を経た今回のオチを見ると、リュークのノートに月と並んで実の名前が記されたのは、妙に感慨深い。実は死神による理不尽な遡及によって殺されたが、彼の「面白さ」はリュークに認められたのだ。どこぞのチープな所有者とは違う。『DEATH NOTE』という物語の世界が続き、広がっている。それを感じることができた。

 

最後に、主人公の名前について。夜神月(やがみライト)というキラキラネームは、実在の人物との被りを避けるためであった。フィクションとはいえ、殺人者と同じ名前であってはコトである。しかし、今回の田中実(たなかミノル)は、一転してとっても「よくある名前」だ。彼自身、一度もノートを使用していないし、誰も殺していない。17年前のような配慮は、今回は必要なかったのかもしれない。

 

とはいえ、物は試しと調べてみると、「実」という名前はいささか「古い名前」であった。明治安田生命によると、大正3年(1914年)に男の子の名前ランキング第8位に登場した「実」は、その後もベスト10に度々ランクインしている。昭和8年(1933年)には第2位まで上り詰めるが、その後は陥落。姿を見せない年も増えていく。そして、昭和26年(1951年)の第9位を最後に、その後は令和に至るまでずっとランク外だ。

 

1951年から、この度の新作読切のネームが掲載された2019年までを数えると、68年。そう、世の中の「実」の多くは、2019年時点で60歳を超えているのである。田中実が「お金を受け取れなかった」のは、その名前が付けられた以上、必然だったのかもしれない。

 

ジャンプSQ. 2020年3月号

ジャンプSQ. 2020年3月号

 
DEATH NOTE コミック 全12巻完結+13巻セット (ジャンプ・コミックス)

DEATH NOTE コミック 全12巻完結+13巻セット (ジャンプ・コミックス)

  • 作者:小畑 健
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/10/13
  • メディア: コミック
 
アニメ「デスノート」 Blu-ray BOX (7枚組)

アニメ「デスノート」 Blu-ray BOX (7枚組)

  • 出版社/メーカー: バップ
  • 発売日: 2016/10/19
  • メディア: Blu-ray