ドラマ『新参者』の放送は2010年ということで、足掛け8年のシリーズだったことになる。割とコンスタントに新作が作られていたので、ある程度の人気や固定ファンを獲得していたのかな。
私もドラマシリーズから入ったクチで、スペシャルドラマ『赤い指』『眠りの森』、映画『麒麟の翼』と、ずっとシリーズを追いかけてきた。以前嫁と東京旅行に行った時は、頼み込んでこのドラマのロケ地である日本橋付近を散策したこともある。
主人公・加賀恭一郎のパーソナルな部分はこれまでも父親を通したドラマで描かれてきたが、本作『祈りの幕が下りる時』では遂に失踪した母親の謎が詳細に明かされることとなる。シリーズファンとしては待ちに待ったクライマックスだ。
東野圭吾のミステリーは、トリックそのものに何か目を見張る革新性があるとか、あまりそういう類のものでは無い、という認識がある。これは別に難癖をつけたい訳ではなく(むしろ絶賛なのだが)、「トリックの死角を突く」というより、「それを取り巻く登場人物の認識の死角を突く」方を重んじている印象が強いのだ。
種を明かされれば「なるほどね」となってしまうトリックでも、それをどんな思いで登場人物(もしくは犯人)が実行したのか、それがどれだけ業の深い行為だったのか、何を伴った所業だったのか。それらが後から後からボディーブローのように効いてくる、といったアプローチ。
「まさかこんなことはあり得ないだろう」「あの関係性に限ってまさかそんな」「こんなことできるはずがない」。そういった先入観や思い込みの死角を大胆に突いてくるからこそ、東野圭吾のミステリーは面白い。私はそう思っている。
今作『祈りの幕が下りる時』も、まさにそういった「認識の死角」がパズルを埋めていく構図となっている。
幼い加賀恭一郎の元を去った母親、殺された女性、発見された焼死体、明治座を満席にする美人演出家。一見関係の無かった面々が、ひとつの事件の捜査線上に現れては消え、浮かんでは沈む。あわや迷宮入りとなるところを、主人公かつ事件のキーマンであった加賀恭一郎その人の気付きで打開していく。
大筋は新参者シリーズ鉄板の流れでありながら、過去作のどれよりも「加賀恭一郎の半生に関わる事件」という側面が強調されるため、シリーズを観てきたファンにとっては感慨深いという他にない。
菅野祐悟のスコアも相変わらずの豊かさで、軽快さと奇妙さ、泣かせる部分はこれでもかと情緒たっぷりに「圧」を効かせてくる。シリーズお馴染みの劇伴や効果音も多用されるため、これまたファンに取っては満足度が高い。
恒例のボリュームたっぷりな日本橋ロケも見所多数である。
明かされる真相は、あまりにも、あまりにも、言葉にならないものであった。
ここに文章で書いてしまうことがおこがましく感じるほどに、役者陣の熱演と、緩急細やかな演出、それらを統括し牽引する阿部寛のスター性が最高水準で合致した本作は、ぜひ多くの方に作品そのものを鑑賞して欲しい。
決して、ネタバレを読んで満足するのではなく、この「重奏」はぜひ作品そのもので体感して欲しいものだ。
シリーズファンは過去作の出演者が次々とカメオ出演する楽しさが味わえるが、同時に、その人物が主人公とどういう関係性かは説明ないし察することができるので、この『祈りの幕が下りる時』が「初・新参者」となる人にもオススメしたい。
また、春風亭昇太の刑事役がかなりの熱演で素晴らしかったことも書き添えておく。
あえてワガママを言うならば、JUJUの主題歌も良かったんだけど、やっぱり最後はエンドロールと共に『街物語』が聴きたかったな、なんて。
▲原作の文庫版。
▲相変わらず素晴らしかったスコア。
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