Appleの初売りという大義名分(言い訳)でMacBook Airをポチる正月を過ごしておりました。インターネット2025、今年もよろしくお願いします。
さて、常日頃から「一次ソースにあたることが大切」「鑑賞せずに作品を語るのは褒められた行為じゃない」などとほざいているのですが、そこのところの謝罪から始めなければいけませんね。アダムとイブをそそのかして林檎を食べさせたのは他でもない蛇...... つまり蛇は罪の象徴とも言えるのではないでしょうか。罪を認め告白することで人は成長できる。巳年である2025年の幕開けに相応しいイントロダクションと言えますね。(なに言ってんだ)
つまるところ、『学園アイドルマスター』やってないけど楽曲はめちゃくちゃ聴いてるからそれについてブログ書くわ、やっていない件についてはマジですまん、という内容です。
まずはオタク特有の長めの前提からいくのですが、いわゆるキャラソンの文化が好きなんです、って話。キャラソン、あるいは特定の作品における(公式の)イメソンやテーマソング、いいですよね。OPやEDは作品の趣旨やタイアップアーティストによるところが大きいですが、ここから一皮剥くと作品や物語のコアがごろごろ出てくる。このキャラクターにロックを歌わせるとか、こいつにはボサノバ、こっちはヒップホップ、そちらはユーロビートのように、作り手サイドがキャラクター毎に「解釈」を発動させてくるじゃないですか。これが堪らなく好きでして。作品の規模が大きかったり展開が長くなったりすると、前の曲調を活かした2曲目とか、メロディやテーマを引用した新曲とか、曲調をミックスさせた複数歌唱とか、そういうのも聴けたり。音楽のジャンルやリズムや歌詞に「解釈」が込められて、物語の外からキャラクターや世界観に立体感を付与してくる。この、作り手が片足の小指だけ二次創作みたいなことをやるのが大好物なんです。
続いてアイドルマスターですが、齢アラフォー、アイマスと全く接点のない人生を送ってきました。しかしここ数年、『アイドルマスター シャイニーカラーズ』の楽曲を積極的に聴いていまして。きっかけはちょっと失念したのですが、とにかく曲が良いのは勿論のこと、楽曲を繰り出す企画全体のコンセプトが面白い。シャニマスはアイドル数人のユニット毎に「ハード&ゴシックロック」「ガールズバンド路線」「ガールクラッシュなK-POP」等々コンセプトが異なり、それぞれの新曲がリリースされる度に「このジャンルのこのアプローチできたか!なるほど!」という音楽的な興味を唆ってくる。そういう世界観の構築にやられた感じです。そのままシャニマス自体にハマるかもと思ってアニメ(通称シャニアニ)を観たところ無味無臭の虚無が広がっていて脱落してしまった話はまた別の機会にしたいところですが……
そんなこんな前提の上で遡ること2024年3月、アイマスの新ブランド『学園アイドルマスター』なるものが発表された訳ですが、こちらのツイートを見て椅子から転げ落ちた訳ですよ。(比喩です)
◤重大発表◢
— ASOBINOTES(アソビノオト) (@ASOBINOTES876) 2024年3月5日
学園アイドルマスターの楽曲を『ASOBINOTES』にてプロデュース担当致します。
第1弾で楽曲提供頂いたコンポーザーの発表です。#ASOBINOTES #学マス解禁 #学園アイドルマスター #新アイマス発表会0305 pic.twitter.com/zI1NQRfMZK
こ、こんなことがまかり通るのか……!???
インターネットを中心にここ数年話題をさらった音楽家、すでに定評の域に達しているミュージシャン、一癖も二癖もあるボカロP。錚々たる面子が揃っており、いやいやそんなアベンジャーズあります? 左から失礼しすぎだろいくらなんでも!と驚愕するばかり。んな馬鹿な。詳しくないけど流石アイマスというか、シンプルに資金力がありすぎる。後にスタッフインタビューを読むとキャラクター個々の楽曲を作っていく過程で「この人の曲のこんな感じで」とサンプルで挙げた楽曲について「その本人に頼みましょう」って判断になったらしく、それが出来れば世話ねーんだわと世のウン百万の創作者が泡ふいて倒れるやつですよこんなの。
学園アイドルマスター
— ASOBINOTES(アソビノオト) (@ASOBINOTES876) 2024年5月1日
[Music Video]
9日間連続 毎日23:00 フル尺MVプレミア公開
[Stream & DL]
5/16(木)0:00 10曲 サブスク&DL Start
▼初星学園 YouTube CHhttps://t.co/CS3orA3tkt#学マス #学園アイドルマスター#ASOBINOTES pic.twitter.com/7usQCySVhU
しかも楽曲専用のYouTubeチャンネルを作って全部にMVを用意してます、とか言うじゃん。うそだろ承太郎。「インターネットと音楽」という語り口においてボカロを外すことは絶対にできませんが、個人的にはこれと同じくらいリリックビデオの文化も重要だと感じていまして。歌ってみたもオリジナル楽曲も魅せ方の水準がグッと上がった。この辺りの潮目をきっちり読み切って出してくるのも実にクレバーですよ。そう、イマドキの楽曲は音のみならず動画込みのコンテンツなんです。
そんなこんなで。昨年春、こういった企画そのものの攻撃力に完全に脳を焼かれました。気付いたら私は「初星学園」というプレイリストを作成しており、楽曲がリリースされる度にそこに追加しながらヘビロテする生活を続けております。なお、学マスそれ自体をやっていないのは「どう考えても時間がない」「どう考えても重課金してしまう」が主な理由で、キャラクターや世界観はアイマスのYouTubeチャンネルやTwitterのTLでもっぱら受動喫煙するばかりです。本当に…… 「すまない」… それしか言う言葉がみつからない……
さて、2,500字を過ぎてやっと楽曲の話に入るのですが、まずもって『Campus mode!!』を外す訳にはいきませんよね。初めて聴いた時に「はじめまして」じゃなくて「また逢えたね」ってなったもんね。言うまでもなく作詞作曲はUNISON SQUARE GARDENの田淵智也です。もうアバンの「邁進あそばせ」って歌詞で「や、やった!さすが田淵!おれたちにできないことを以下略!」でした。伏して降参です。手数が多く転調ウェルカムなTHE田淵サウンドでありながら、サビの美しいカノン進行と少しだけ厳かで鐘が響く音作りにより「式典じみている」というか、入学式や卒業式のようなあの手の華やかさがあるのが特徴的(だから条件反射で泣けてくる)。「Campus modeでもういっちょ!」のパートを藤田ことねに歌わせたの120点ですありがとう。
どのキャラクターの曲も一通り聴いているのでどれをピックアップするか迷うところですが、やはり『Luna say maybe』も衝撃的で。すごいですよねこれ。作詞作曲の美波、『カワキヲアメク』『アイウエ feat. 美波, SAKURAmoti』等が好きでよく聴いていたのですが、アイドルひとりの造形にここまで力を発揮するとは。楽曲のクライマックスにかけてハンドクラップ以降ホーンセッションもストリングスもぐんぐんとグルーヴを増していき表情が厚くなる展開力といったら。いくらなんでも力強すぎる。そしてそれを完璧に歌いこなしてしまう月村手毬役の小鹿なおさんがちょっと異次元の域に達していて……。配信チケットを買って彼女らのデビューライブを鑑賞したのですが、皆さん素晴らしいという前提で小鹿さんはちょっと頭ひとつ抜けているというか、よくもまぁこんな人を連れてきましたね、と。『Luna say maybe』だけでなく『アイヴイ』もほぼほぼ音源の生歌唱でした。驚愕。ってか『アイヴイ』も『フォニイ』のツミキですよ。おいやりすぎだろいくらなんでも。あと小鹿さんの歌唱力&表現力が最も炸裂しているのはおそらくバースデーシングルの『叶えたい、ことばかり』。(なんとこのコンテンツ、キャラクターに設定された誕生日毎に新曲が湧いてくる。物量~~!)
HoneyWorksがHoneyWorksやったらそんなんHoneyWorksだろ馬鹿野郎!なのが『世界一可愛い私』。楽曲は言うまでもなく得意分野ド真ん中ストレート剛速球な作りなのですが、これクレバーなのが「ライブシーンの臨場感が売り」な学マスという企画においてそのポテンシャルをきっちりアピールできる楽曲になっていて、こういうのを初期ラインナップに入れてくるのが巧いよなぁ、って。Apple Musicの公式ラジオ「初星学園音楽部」も全ての回を聴いているのですが(楽曲製作や収録の裏側がたっぷり聴けるのでオススメです)、藤田ことね役の飯田ヒカルさんがライブで観客を煽るように口語で歌うディレクションについて語っておられて。こういうところにキャラソン企画の旨味がありますよね。ただ可愛く楽しく歌うだけじゃなく、人物と世界観を背負っているんだ、という手触り。歌って踊る遊園地な『Yellow Big Bang!』も恐ろしいほどのキャラクターの擬曲化。お見事。
あえてキックドラムを抜いてぎくしゃくに進行するリズムパターンを「2step」というのですが、それが用いられている紫雲清夏の『Tame-lie-one-step』ね。飼いならされた嘘、ためらい1step。はいタイトルの時点で優勝。バレエを習っていたが今はやめてしまったという彼女の過去を踏まえての「止まない2step、踊ってたいよずっと」で「二の足」。はいもう一回優勝。ほんでトゥシューズからの「大事なのは浮いた踵、隙間、埋めていくことでしょ?」の歌詞で三度優勝。殿堂入りですありがとうございます。解釈込められすぎてもうお腹パンパンなのですが、バースデーシングル『Ride on Beat』で気持ち懐かしめのユーロビート調な世界観が踏襲されていてまたまたひっくり返る。ギャルの歌い方=語尾を上げてしゃくる、という湊みやさんの解釈もドンピシャっす。
ClariS『コネクト』を手掛けた渡辺翔による『clumsy trick』は、変則的な進行がいやでもクセになる。歌うのはお姉さんキャラの姫崎莉波だが、それにありがちな「リードしてあげる♪」「包み込んであげる♪」な方向性とはむしろ真逆、そうなるにはどう振る舞えばいいのか思考回路がショート寸前なあたふたがキュートに映る塩梅で、一寸先が読めないトリッキーなフレーズのつるべ打ちが見事にキャラクターに命を吹き込んでいる。あーでもない、こーでもないと、メロディが上がって下がって跳ねて浮いていく様子がなんとも愛らしく、演じる薄井友里さんの媚びる歌声も絶品。「自由型のいい子は好き放題」の音運びとかえぐすぎてね......。意外にもベース進行がゴリゴリかつラスサビでキーが上がるのも痛快だ。そんなキャラクターの文法を踏まえた次曲『L.U.V』も驚嘆で、スウィングにジャジーに、つまり「揺れる」恋心のようなものが情緒たっぷりに綴られたかと思ったらサビ終わりの台詞パートで殴られて死ぬ。きっと、見たことのない情景を俺は見たことがある。
川村玲奈さん演じる篠澤広の楽曲も異彩を放つ。まず一発目の『光景』が長谷川白紙ってバッカも〜〜ん!そんな起用があるか〜い!ミステリアスなキャラクターに雄大なボサノバをあてがうセンスにもう白旗なのだが、ブラジルの著名音楽家であるアルトゥール・コルテス・ヴェロカイが管弦楽アレンジに参加しているという訳の分からない事態が起きており......。うそだろ承太郎(本日2度目)。間奏部で全ての楽器が一気にツイストし、弾け、ラスサビの歌声に向けて渦を巻くように収束していく美しさといったら。そしてなんといっても『メクルメ』ですよ。2024年末に降ってきた爆弾。ボカロPのフロクロによる楽曲だが、昨今ひとつのシーンである「人が歌うボカロ」の極北を体現するような圧巻の仕上がり。た、たまらん!そもそも篠澤広って初見では掴みどころが難しい印象があって、そこからの『光景』で「なるほどそっちのアプローチか!」と斜め上に合点がいった人も多かったと思うんですが、『メクルメ』はその直前のミステリアスで未だベールの奥に居る篠澤広が表現されているようで、よくもまぁ製作陣の手のひらで踊らされているよな、って。ラスサビ入りの「季節は」に視界がブラックアウトするような効能があって大好き。
他にも学マスはシーズン毎に選抜メンバーで新曲が出るのですが、夏のギラギラ&キラキラを攻めるアッパーチューン『キミとセミブルー』がいかにも王道アイドルサマーソング路線でこんなん嫌いな人いないでしょ。夏!太陽!海!水着!なテイストで「サマーマが何かはよく分からないけどこりゃあ今夏の学マスはこれで決まりだね」って思っていたら1ヶ月後に和ロックの『冠菊』がお出しされてあんぐり。夕暮れ...浴衣...花火...淡い恋心...。こっち方面も用意していたなんて聞いてないよありがとう本当にありがとう。サビ中腹の「儚さに揺れて」のフックが実に切なくて胸にくる。続くハロウィン期の新曲『仮装狂騒曲』の作詞作曲はFAKE TYPE.ってそんなことあるかーーーい!!バーロー!!まだこんな弩級の弾があったの!? いくらなんでも仕込みすぎでは!?? 彼らの「ライミング(韻踏み)なんてあればあるだけいいですからね」のスタイルそのまんまで手加減なしに作られた『仮装狂騒曲』、ホントびっくりです。分かってますよ、最も気持ちいいのは「好きに奪い去る異議マイナス陰気バイラル意に介さずイニミニマニモ」のとこですよね。ここだけでも「好きに奪い去る異議マイナス陰気バイラル意に介さずイニミニマニモ」と執拗なまでに韻が踏まれており、それを見事に歌いこなすキャスト陣にも脱帽。いやはや、ハロウィン曲なら2024年は『Poison Berry Daughters』が随一だと思ったのにね......。
他にも、 原口沙輔のセンスとスキルの結晶『初』、Gigaの音圧が炸裂する『Fighting My Way』、キャラクターの伸び代を歌声に乗せる『白線』、小室みつ子が世界を創る『小さな野望』、わちゃわちゃソングの王道を往く『古今東西ちょちょいのちょい』など、挙げ続ければキリがないのだけど......。
兎にも角にも。これだけ多種多彩なコンポーザーを招聘してキャラクターというジャンルまたはコンセプト毎に振り分けて繰り出す企画そのものの強さ。作曲家それぞれがわがままに世界観を形成してもそれを受け止められるブランドの厚さ。レーベルASOBINOTESと音楽プロデューサー佐藤貴文氏の嗅覚と采配の確かさ。広い意味での「インターネット以降」、もうちょっと絞り込むと「ボカロ以降」のポップシーンで育った世代にはいずれかのキャラクターのどれかの楽曲が高確率で刺さる。そんな仕掛けの全体像がとにかく魅力的で。楽曲それぞれの攻撃力の高さもさることながら、デッキ構築が巧すぎる。どれだけ顔があるんだ、どれだけ弾があるんだ、どれだけ解釈に重量とバリエーションがあるんだと、毎度驚かされてばかり。
いやね、分かってるんですよ。実際に『学園アイドルマスター』をプレイすれば解釈メリケンサックが装着されて曲のダメージが2倍にも3倍にも膨れ上がることは......。分かってるんです、はい、すまない。もうちょっとあらゆるリソースに余裕があればなぁ、なんて。
冒頭に書いたように、曲だけ聴くなんてこんな摘み食いな接し方は私のオタクロードにおいてはやや邪道だと自省しているのですが、あまりにコンテンツが強すぎて道を外れる他ない、ってのが本音です。もしここまで読んでくださった学マス未プレイな好事家の貴方、よかったら一緒に道を外れるところからやりましょう。各種サブスクに全部あるよ。