ジゴワットレポート

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最終回感想『半沢直樹(シーズン2)』 半沢ブームを取り込んだ半沢の火傷寸前なポテンシャル

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「毎週日曜日の楽しみが終わってしまった」と、いわゆる「ロス」に突入している人は、少なくないだろう。

 

コロナ禍の影響で放送開始がズレ込んだだけでなく、制作が遅れた影響で生放送特番が放送されるなど、「2020年に作られた国民的ドラマ」として、色んな意味で今後も人々の記憶に残り続けるのだろう。『半沢直樹』のシーズン2(第2期)、兎にも角にも、スタッフ・キャストの皆さん、本当にお疲れ様でした。こんなにも飛沫が飛び交うドラマは、おそらくそうそう無いです。

 

とはいえ、実は私はシーズン1に完全に乗り遅れたひとり。「倍返し」が流行語になり、土下座強要のくだりがネタ的に扱われるのを、ずっとに傍目に観ていた。2020年に続編をやるとのことで、やっとこさ重い腰を上げたのが2019年の冬。DVDをレンタルして観たのだけど、これがまあ、本当に面白い。ブチ切れながら、拳を握りしめながら、冷や汗をかきつつ、時に爆笑して、最後にちょっとだけ感涙してしまう、そんな仕上がりであった。なるほど、「新手の時代劇」「スーパー歌舞伎」と言われていたのもよく分かる。

 

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そうして予習(復習?)も済んだので、無事にシーズン2をリアルタイムで追いかけることに。このシーズン2の最大の特徴は、「半沢直樹の流行を知っている半沢直樹」、という点だ。これが良くも悪くも全編に漂っていた。

 

半沢の代名詞でもある啖呵を切るシーンや、恫喝する様子などは、シーズン1でも度々描かれていた。これはシーズン2でも健在。一方で激化が顕著なのは、大和田をはじめとする周囲のキャラクターたちだ。もはや顔芸の域に達している顔面相撲や、飛沫交換バトル、面白アドリブ合戦に、言い回し大袈裟大会。そういった圧の強い要素が、シーズン1より格段に増えていた。これはどう見ても、「半沢直樹でウケた要素をもっと強く押し出していく半沢直樹」、の構図である。

 

このような、「視聴者にウケた要素を作り手サイドが取り込む」現象は、諸刃の剣である。私は個人的にこれをかなり苦手としていて、あからさまにそういうシーンが出てくるだけで、サーっと血の気が引き、目が死んでしまう。作り手には、受け手の一喜一憂など、見て見ない振りをして欲しい。どうしても、そういう凝り固まった思考が抜けない・・・。(以前記事にしたので、詳しくはそちらを参照して欲しい)

 

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半沢のシーズン2もこの要素が多く、実は、顔芸が連発される度にかなりヒヤヒヤして観ていた。

 

一歩間違えると白けてしまうというか、一変してギャグ大会のようにも見えてしまう。滑稽さがドラマ内のリアリティラインを突き破ってしまっては、台無しなのだ。事実、半沢の大和田への「お~ね~が~い~し~ま~す~っ」は、ちょっと、いや、かなりキツかった。あればかりは直視できなかった。周囲のキャラクターがどんなに芸をやっても、堺雅人だけは信念の恫喝一本で立ち回るバランスが好きなので、「おいおい乗っかっちゃうのかよ・・・」という感覚が拭えなかった。

 

一方で、最もそのムーブを連発していた香川照之だが、これについては、香川さんの演者としてのキャラクターやポテンシャルが幸いしたのか、自然と笑って鑑賞できていた。『バクマン。』が唱えた偉大な概念「シリアスな笑い」が、これでもかと発揮されている。一見すると馬鹿馬鹿しい子供の言い争いのようなやり取りだが、本人たちは至って真面目に、心血を注いでそれをやる。このギャップがとにかく面白い。

 

制作スタッフがシーズン1と変更になったことも知っているが、それを受けてか、やはり「半沢直樹の流行を知っている半沢直樹」のニュアンスは強火であった。シーズン1でウケた要素は何か。どういう話の組み立てがウケるのか。物語の引きは、導入は、場面転換は。そういったものがぎゅうぎゅうに詰め込まれた作りになっており、ドラマの鑑賞を通して、「制作サイドが何を『ウケた』と捉えているのか」を鏡写しのように如術に感じ取ることができた。

 

しかし、そこを差し引いても、やはり十二分に面白い。というより、かなりギリギリの塩梅でそれらが嫌らしさに踏み込まないバランスに調整されていた、と表現するべきか。ウケた要素は取り組むが、それこそ、ポテンシャルを上乗せして「倍返し」していく。そういう気概が、端役のひとりひとりにまで満ちていた。現場のテンションが高いことが、画面の向こうから滲み出ている。作り手サイドが楽しんで作っている。そういう空気が伝わると、いち視聴者として、非常に満足度が高い。

 

お話の筋は、ぶっちゃけ分かり切っている。シーズン1と組み立ては一緒だ。というより、池井戸潤原作の映像化は私もすでに何度も観ているので、「主人公は愚直に人間の可能性を信じて突き進む」「裏切者がいる」「むかつくクソ野郎が立ちはだかる」「ぶちのめす」「スカっとする」「最後には勝利」、というルートは、どうしたって予想できる。

 

また、シーズン1同様に、運と博打とその場のノリがはちゃめちゃに横行する、色んな意味で「ひどい」脚本だった(褒めている)。これを俗に「ご都合主義」と言うが、偶然目撃した人物がキーパーソンなのは当たり前で、侵入して情報を盗み出す軽犯罪はお手の物、居酒屋で機密情報をベラベラと喋り、「そうはならんやろ」をひらすら連発していく。そう、確かに、「そうはならんやろ」なのだ。話の筋だけをパズルのように追っていくと、非常に危ない綱渡りである。

 

しかし、それでも同作がどうしようもなく面白いのは、本人(キャラクター)たちが、それらを必死に真面目にやるからである。思わず「そうはならんやろ」と突っ込んでしまう流れでも、ドラマそのものは、「これはノンフィクションです!」とでも言いたげなシリアス顔で自信満々にそれをお出ししてくる。キャラクターたちも、その温度に合わせるように、目の前の言動に秒単位で全神経を費やしていく。ここまで真剣にやられたら、そりゃあ、面白いのだ。「そうはならんやろ」なんて、野暮なことは言えなくなってしまう。話の筋がいくら予想通りでも、彼らがその「予想通り」の筋を演じるシーンを、観たくてたまらなくなる。

 

キャストの心血が注がれた演技と、あくまでリアル”調”に組み上げられたドラマが、予定調和や違和感を消し飛ばしていくのだ。

 

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最終回は、まさに「最終回!!!」といった流れであった。

 

これまで面識のなかったキャラクターたちが、半沢直樹というモンスターバンカーを軸に、驚異の連携を取り始める。それぞれの立場で情報を収集し、共有し、巨悪に対する包囲網を狭めていく。頭取により、シーズン1からの全体のお話を総括する説明がなされ、更にお馴染みの役員会議室では、その頭取の左右に銀行の過去と未来を託された男たちが並んで座る。この絵面が、最終回でなくて何だというのだ。

 

そして、半沢から語られるのは、日本という国そのものへのエール。あるいは喝。国民のだれもが、コロナ禍のことを暗喩しているのを分かって鑑賞する、あの絶妙なトリップ感。ダメ押しに、「共闘はあくまで呉越同舟で互いを認めつつも絶対に相容れない」という方針を貫き通した半沢と大和田の大立ち回り。大和田というキャラクターは、原作ではこのシーズン2に全く登場しないというではないか。彼こそが、「半沢直樹を知っている半沢直樹」の象徴とも言えるだろう。

 

「お仕事ドラマ」×「時代劇」×「歌舞伎」×「少年漫画」×「勧善懲悪もの」・・・。数多の要素がぎゅうぎゅうに詰め込まれ、悪魔合体していく。普通ここまでやってしまうと取っ散らかった仕上がりにもなりそうなのに、足し引きしてバランスを取るばかりか、演者や演出のポテンシャルで更に上からグ~~ッと押し潰して無理やりパッケージしていく。下手に真似したら大火傷間違いなしの、稀有なドラマであった。

 

そして、こんなに現実離れしているのに、「お仕事もの」としてしっかりとした満足感があるのが素晴らしい。日曜日の夜という状況も相まって、全国のサラリーマンは、「明日も仕事を頑張ろう」と、何となくそう思えたはずなのだ。実際に倍返しする人はいないし、上司の書類を盗み出す人も、恫喝して情報を聞き出す人も、通常業務を放り出して自由に出張に出かける人もいない。でも、「自分の仕事に一生懸命な人」を目にするのは、例えそれがフィクションでも、充足感がある。「半沢たちが常に一生懸命」。これが、シンプルながら最大の勝因だろう。

 

それでいくと、ジャンプ+というアプリでリメイク版が連載中の『左ききのエレン』という漫画があるが、私の中では、半沢とこれは近いカテゴリーだ。「そうはならんやろ」は、確かに、無限に湧いて出る。ご都合主義は拭えない。でも、お仕事に一生懸命に生きる人たちを見ていると、どうしたって胸が熱くなるし、月曜日に向けて高まってくる。下手な自己啓発本より何百倍も効果がある。

 

左ききのエレン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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この『左ききのエレン』が先日行っていたキャッチコピーコンテストが、どうしても、私には半沢のテーマに重なって見えた。大賞の「働く人は、全員主人公だ。」なんて、とっても胸に来るものがある。「あんなに嫌だったサラリーマンになりたくなる物語」「月曜日。かかってこい。」。うーん、実に良い。

 

結局、労働というシチュエーションを通して、とても普遍的な人間賛歌を描いている点が、根本的な魅力なのだろう。それを、ドラマとしてどう昇華させるか。キャストと演出のポテンシャルを高めに高め、時代劇のような分かりやすいカタルシスを用意し、テーマ曲を何度も何度も繰り返して流す。視聴者はまるでパブロフの犬のように、例のテーマが流れ始めただけで「キターーーーーー」と拳を握る。うん、まるで何かの中毒者のようだ。

 

お話が綺麗に終わっているので、続編はどうかとも思うが、何かしら新規の映像が観られたらやはり嬉しいだろう。スピンオフとか、つい期待したくなる。

 

それはそれとして、段ボールを積み上げて一生懸命に荷造りをしていたのに、未来を託した男が現れた途端、それを全て放棄して手ぶらで超かっこよく退社していった頭取、本当にお疲れ様でした。

 

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