ジゴワットレポート

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感想『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』 バランスの良い脚本を映像はどこまで遵守するべきか

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Twitterで過去のツイートを確認してみると、実に5ヶ月ぶりの映画館であった。

 

コロナ禍の影響を受け、公開が延期された『劇場版ウルトラマンタイガ ニュージェネクライマックス』。『ウルトラマンギンガ』から始まる新世代ウルトラマンの変身者が一堂に会するとあっては、リアルタイムでその発展を追ってきたファンとして、銀幕で見届ける必要があった。時は8月。やっと、やっとこの映画が公開された。まずは何より、その事実を喜びたい。

 

 

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5ヶ月ぶりの映画館は、なんだか懐かしいような、あるいは新鮮なような。映画館特有の、消毒されたカーペットの匂いが鼻孔をくすぐる。お布施の意味も込めてフードコーナーで軽食を仕入れ、いざ劇場へ。まばらな観客。やがて始まった予告編のコーナーは、その全てが「映画館で観るのは初めて」のものだった。当然である。5ヶ月も行っていなかったのだ。こんなに映画館に行かなかったのは、高校生の頃以来かもしれない。

 

さて、そうした奇妙なワクワクと共に鑑賞した、『ニュージェネクライマックス』。近年では東映ヒーローを中心に「和製ヒーロー共演映画」の本数は増大した。それぞれの因縁の敵や、個別作品で関わった先輩後輩。そういった個別の要素を掛け合わせながら、遂に英雄たちが集結し、巨悪に立ち向かっていく。本作も、その王道を踏襲している。

 

本作を語るにおいて、前段として、昨年YouTubeにて公開されたネットムービー『ウルトラギャラクシーファイト ニュージェネレーションヒーローズ』に触れる必要があるだろう。坂本監督による果てない熱量が込められた本作は、ニュージェネなウルトラマンたちが持つ個々の文脈をぎっちぎちに詰め込むことで、飽和ギリギリのお祭りテンションを実現することに成功している。また、坂本監督のこだわりだけでなく、脚本を務めた足木淳一郎氏による積年の職人芸も見所だ。(詳しくは下記記事を参照)

 

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変身前の生身の役者は登場せずアフレコのみの出演ではあったが、「ニュージェネレーションヒーローズの集合映画」として、割と満点に近いクオリティを叩き出してしまった。その歴史を土台から支えたウルトラマンゼロの存在や、商業的都合であるキーアイテムの物語への活かし方など、とにかくサービスが過ぎる。

 

つまり、これが何を意味するかというと、多くのファンの『ニュージェネクライマックス』への期待値は、『ウルトラギャラクシーファイト』により爆上がりしていただろう、ということだ。私も例外ではない。「次はいよいよキャストも勢ぞろいするのか!」という、期待の追い風。まずはウルトラマンの宇宙格闘巨編、次に、変身者もそろっての地球での決戦。円谷の映像戦略として、実に上手いことノせてくれる。

 

それに応えるかのように、『ニュージェネクライマックス』は大きく3つの要素をバランスよく脚本に配置し、映画としての強度を高めたかったのだと思われる。事実、その設計に限って言及すれば、完成度は非常に高い。

 

3つの要素とは、「①タイガとタロウの親子物語」「②トライスクワッドの完結編」「③ニュージェネウルトラマンの集結」、である。シナリオ構成におけるこの3要素のバランス感覚はお見事で、MCU(マーベルシネマティックユニバース)を参考にしたという話も十二分に頷ける。偉大な父親という一種のプレッシャーに悩む若きウルトラマンが(①)、仲間との出会いや別れを通して成長し(②)、先輩ウルトラマンと共闘しながら父を救うにまで成長する(③)。大筋は実に良い。

 

また、先輩ウルトラマンたちの登場も、クロスオーバー物として王道の作りだ。すでに昨年の映画で共演を果たしている湊兄弟とリクはセットで登場するし、デジタルに強い研究者タイプの大地はアンドロイドであるピリカと絡み、大人の風格を持つガイさんはカナさんと共にチンピラ怪人とアクションを繰り広げる。今や座長ポジションに収まった礼堂ヒカルは誰よりもタロウのことを心配しているし、「親と子の避けられない戦い」の経験をタイガに向けて苦々しく語るリクも良い。個々の持ってる要素が有機的に絡み合いながら、グリムドとの決戦に向けて物語が収斂していく。

 

テレビシリーズ初回の粗筋と絡めながら、お借りしていた力の返還と共に先輩たちとの交流が描かれ、遂に全員が揃って同時に変身する。街中のセットには、所狭しとウルトラマンたちが立ち並ぶ。実に良い。これもまた、心の底から「観たかったもの」だ。

 

トレギアの過去をいかに描くのか、という点でやや「しこり」を感じるものの、そもそものトレギアというキャラクターの確立や運用面から地続きの問題でもあるので、個人的にはそこまでマイナスには感じられなかった。

 

というのも、『劇場版ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』特装限定版Blu-rayのブックレットによると、デザイン段階ではトレギアの設定がほとんど固まっていなかったことが分かる。この時点で「ウルトラマンの特徴である顔パーツやカラータイマーを封印する」イメージで描かれた仮面や拘束具が、今となっては「グリムドを抑え込んでいた拘束具」にも取れるのがちょっと面白いな、とも思ったり。

 

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そんな「バランスの良い脚本構成」の本作だが、これが大変残念なことに、完成形の映像作品として、「悪い意味でバランスが良い」仕上がりになってしまった。

 

察するに、前述の3要素をシナリオに隙間なく配置して絡ませた結果、撮影や画作りにおいても、その「バランスの良さ」を生真面目に踏襲してしまったのだろう。Aというイベントの後にBが起きる。CはDと絡みながらEに向かう。そういった話の筋そのものは綺麗なのだが(整理が行き届いているのだが)、映像としても、どこか淡々と、ノルマをこなすような印象に傾いていく。

 

はい、次はこれです。その次はこれです。お次はこうなります。まるで、映像そのものが話の筋を読み上げて聞かせてくれるような、奇妙な感覚。特に溜めることもなく、引っ張ることもなく、緩急の幅も決して大きくない。そう、それをやってしまっては、せっかくのバランスの良い脚本に支障を来してしまうかもしれないからだ。とはいえ、それをあまりに遵守した結果か、「同じような盛り上がり」が「同じような頻度」かつ「同じようなテンポ」で淡々と提供されていく・・・。

 

これを最も象徴していたのが、各ウルトラマンのBGMが流れるシーンである。

 

前述の『ニュージェネレーションヒーローズ』では主題歌が流れたので、それを受けるように、各々のメイン劇伴を流す。これは良い。聴き慣れたメロディなので、当然のようにアガる。しかし、個々のアクションシーンに合わせて音楽がブツ切りで挿入されていくため、絶望的に盛り上がらない。淡々と、あるいは機械的に。ここにはこれ。ここにはこれ。結果として、流れ作業のようにも感じられてしまったのだ。(せめて編曲されたメドレー形式ならどれほど良かったか!)

 

変身前の全員が揃うシーンも、もう少し、この感慨深さに浸らせて欲しかった。先輩たちに力を返して、割とすぐに一斉に変身してしまう。確かに、目の前に闇に堕ちたタロウとトレギアがいるので、ここで和気藹々と話す訳にもいかないが・・・。それにしても、どこかノルマを消化するように集うメンバーに、一向に胸のワクワクがブーストしなかったのが本音だ。

 

全方位にバランスよく、複数の要素をこなしていく。一見それは優等生のような作りだが、一転して、「どこも突き抜けていない平均的な作品」になってしまう恐れがある。個性をバランスよく配置した末の、没個性。しかし、ことウルトラマン(特撮ドラマ)に限って言えば、映像的魅力でもって「突き抜け」を設けることができたのではないか。それは例えば、お話の歩みが止まるほどの濃口なアクションか、目を見張るほどの特殊撮影的魅力に満ちたカットか。

 

特撮ドラマにおいて、本来独立して強さを発揮するはずの「映像」が、「お話」のバランスの下に収まってしまったら、どうなるのだろう。『ニュージェネクライマックス』は、その一例と言えてしまうのかもしれない。願わくば、もう少し「逸脱」が欲しかった。

 

遂に立ち並ぶトライスクワッドの共闘や、タイガを強く励ますヒロキ、遠き日のタロウを彷彿とさせるウルトラホーンの出番など、「いいぞ!」となったシーンは沢山あった。重ね重ね、個々の展開は実に良い。無駄なく綺麗にまとまっている。だからこそ、これがもっと「うねる」ような映像構成なら、何倍にも化けたのではないだろうか。「観たかったもの」は確かに観られたはずなのに、どうしようもなく拳が汗をかかないし、胸も高まらない。

 

ウルトラマンレイガが「最強」なのも、映像にそれを実感させられたというよりは、「最強です」と説明されたような感覚なのだ。この表現が、伝わるだろうか。

 

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