ジゴワットレポート

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感想『コンフィデンスマンJP プリンセス編』 詐欺師の本質、シリーズの心臓部に触れる、しっとりとした秀作

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TVシリーズから大好きだった『コンフィデンスマンJP』シリーズ。いつの間にか「シリーズ」と呼ぶことに全く違和感が無くなったが、毎回安定の面白さである。昨年の劇場版『ロマンス編』も秀作だったが、個人的には同時期にTVで放映されたスペシャルドラマ版『運勢編』の方が好みだったり。この手の「邦画コメディ×スティング」な作品が息長く愛されるの、なんか良いですよね。

 

早くも映画第3弾『英雄編』の制作も決定しており、快調な同シリーズ。コロナ禍の影響がなければ今年も新作スペシャルドラマがあったのかな・・・ と思うと残念な気もするが、兎にも角にも、彼らの活躍がまた観られるとあっては胸が躍る。

 

そんなこんなで、映画第2弾『プリンセス編』である。率直に、とても面白かった。日本のテレビドラマが映画化した時にありがちな「オールスターキャストで送る豪華海外ロケ」の文法を踏襲しながら、シリーズの心臓部に踏み込んだお話になっており、ずっと観続けてきたファンこそグッとくる展開だったと言えるだろう。

 

映画「コンフィデンスマンJPプリンセス編」オリジナルサウンドトラック

 

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話の筋は、分かりやすい「いつもの」である。

 

海外の大富豪一家の現当主が死去し、遺言状が公開されたが、実は当主には隠し子がいたという。世界中から遺産と地位を狙って隠し子を名乗る者が現れるが、厳格な執事によってバッサバッサと切られていく。負けじと参戦する我らがダー子たちは、偶然出会った身寄りのない少女・コックリをプリンセスに仕立て上げ、お馴染みの手の込んだ仕掛けを施しながら、大富豪一家に入り込んでいく・・・。

 

前作『ロマンス編』は、シリーズ最大の魅力である「騙し」にしっかりと焦点を当てていた。こういったスティング系統の作品は、主人公らが他の登場人物を騙すその構造が、そっくりそのまま観客をも騙すことに繋がる、二重の構造が魅力である。仕掛けている側の手の内を明かしながらストーリーを進行させ、しかし、最後には観客をも騙す。脚本の腕の見せどころである。

 

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『ロマンス編』では、ダー子の弟子となるモナコというキャラクターを登場させ、彼女を視聴者に近い視点に置くことで、この構造を再現していた。彼らはどこまで計算済みなのか、どこからが真のハプニングなのか。最後にはスッキリすることが分かり切っているゴールに向けて、事態が二転三転していく。スカッとして笑って終幕。痛快な喜劇として、楽しむことができる。

 

では、その次作となる『プリンセス編』には、どのようなアプローチが持ち込まれたのか。

 

もちろん、前述の「騙し」構造は今回もしっかり活きている。最後の種明かしもスマートながら、その手前の「乱闘シーン」ならぬ茶番(褒めている)も最高に笑える。しかし、本作最大の魅力は、「騙し」を超えたドラマ部分、テーマの魅せ方にある。

 

つまり、ダー子たち「詐欺師」という職業の本質に迫っているのだ。ここが実に素晴らしい。その点、「騙し」一点に限って言えば、『ロマンス編』の方が完成度は高かったのかもしれない。とはいえ、私はどちらかというと『プリンセス編』の方を推したいのだ。詐欺師とはどういう職業か。どんな業を背負っているのか。アンダーグラウンドな人生を送る彼らには、どんな感情が渦巻いているのか。大富豪一家を騙す壮大な舞台の裏で、信用詐欺師ならではのテーマが静かに動いていく。

 

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本格的な詐欺が初めてとなるコックリは、緊張し、震え、動揺する姿を見せる。その際に、ダー子は彼女の目を真っ直ぐに見据え、こう語りかけるのだ。「私達はなりたいものになれる」。詐欺の重要な手段である、「なりすまし」。自分でない他の人間に、心の底からなりきること。これがとにかく大切な技能である。しかしコックリは、純粋ゆえか、中盤から本当のプリンセスとしての才覚を発揮し始める。立ち居振る舞いも、段々と、王女のそれになっていく。

 

一方のダー子は、コックリの母親という設定で大富豪一家に入り込む。設定上の娘と共同生活を送る中で、彼女の中にも、当然のように母性が芽生えたことだろう。しかし、ダー子は歴戦のプロなので、それを決して表に出さない。「母親を演じる詐欺師」を最後までしっかり演じ切る。

 

これが実のところ、どんなに残酷なことか。ダー子は、もうすっかり裏の世界の住人である。億単位の金に囲まれながら、毎日のように誰かを騙す。そんな生活を続けていく彼女は、もうとっくに「普通の生活」は送れないのだろう。例えば結婚し、子を儲け、母親になることも叶わないのだ。「なんにでもなれる」とコックリに語りかけるダー子は、仕事として沢山の人間を演じるものの、唯一「本当の母親」にはなれない。もうそっちに戻ることはできないのである。世の中のどこに自分が騙した相手がいるだろう。いつ手が後ろに回るだろう。そんな人生だからだ。

 

でも、コックリは違う。彼女はまだ「なんにでもなれる」。王女にだって、なれるのだ。今ならまだ、引き返し、表の世界で生きることができるのではないか。詐欺における「なりすまし」の本質、「なんにでもなれる」が、コックリの人生の真の道標として機能していく。そして相対的に、もう「母親にはなれない」ダー子が、どこか哀れにも感じられてくるのだ。

 

物語終盤、コックリとダー子が浜辺で語り合うシーンがある。「なんにでもなれる」を突き詰めた結果、詐欺の舞台から表の世界に脱していくコックリ。一方で、母親を疑似体験しながら「なれない」現実を改めて思い知らされたダー子。歴戦の詐欺師が新米の詐欺師に唯一敵わなかったこと。それは、表の世界で素直に生きることなのだ。ダー子は、もしかしたら悔しかったのではないか。あるいは、羨ましかったのか。「人を騙しながら生きる」ということは、つまり何を意味するのか。このように、『プリンセス編』は『コンフィデンスマンJP』という作品の心臓部に踏み込んでいくのだ。

 

だからこそ、しっとりとした感覚が伴う。スカッと騙されて笑って終わり、だけではない。シリーズを観続けてきたファンは、「まさかここにアプローチしてくるとは」という驚きを感じながら、ダー子の本質を垣間見る。そして、それを笑顔で見守るリチャードとボクちゃん。終わってみれば、より一層、彼らのことが好きになっている。そういう設計の一本なのだ。

 

こういう落とし所が待っているとは思わなかった、という点では、これまた「騙し」が効いていると言えるだろう。彼らの貴重な内面描写がここで一回描かれることで、また次回以降、スカッとした「騙し」が何倍も活きてくるのだ。シリーズを長く続けていく上で、こういう語り口は重要なポイントと言えよう。

 

最後に。コックリ役の関水渚の演技がとにかく素晴らしく、眼力のある美人、という印象であった。彼女の今後の活躍にも、大いに期待したい。

 

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