ジゴワットレポート

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構想28年の大作『古代戦士ハニワット』と平成仮面ライダーのエッセンス

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武富健治先生の新作『古代戦士ハニワット』の単行本がついに発売となった。

 

武富先生といえば、言わずと知れた名作『鈴木先生』の著者その人である。『鈴木先生』は、原作はもちろんのことドラマも映画も何周もするくらい好きな作品。そんな武富先生の新作がヒーロー物となれば、チェックしない訳にはいかない。

 

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しかしこの『古代戦士ハニワット』という作品は、今回新たに出てきた作品ではない。本書の作者あとがきにもあるように、構想期間は実に28年。武富先生が小5の頃に書いた『原始戦士ハニワット』という作品が元になっているという。その後も、『古代戦士ハニワット』とタイトルを改め自費出版で発表するなど、並々ならない思い入れがあるとのこと。カバーを外した表示部分には中2の頃に書いたハニワットが載っており、非常に微笑ましい。

 

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私が『古代戦士ハニワット』の存在を知ったのは、武富先生が論客として参加されていた『語ろう!クウガ・アギト・龍騎』であった。ジャンルを限定せずに平成仮面ライダーを愛好する論客にインタビューを敢行し、それをまとめた本だ。このブログでも何度か取り上げているが、端的に、名著である。

 

語ろう!クウガ・アギト・龍騎 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

語ろう!クウガ・アギト・龍騎 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】

 

 

2013年発売の同書の武富先生インタビューにおいて、すでに『古代戦士ハニワット』について触れられているのだ。それも、しっかりと注釈つきで。この頃に存在を知ってから、「いつか読んでみたい」と思っていたのだが、まさか本当に商業誌での連載が叶うとは。私よりコアな武富先生ファンにとっては、念願の連載化ではないだろうか。

 

武富 (中略)。結果的にいうと『クウガ』『アギト』『響鬼』、この3つを合わせると、ほぼ僕の考えていたヒーロー物なんですよ。大事な部分は、ほとんどすべて先にやられちゃっていて、本当にヤバかったです。平成ライダーって、たぶん世代的に同じくらいの人たちがつくってると思うんですけど、考えることは一緒なんだなぁって。

・語ろう!クウガ・アギト・龍騎 【永遠の平成仮面ライダーシリーズ】(P126)

 

・・・などと先生ご自身が語られているように、確かに商業作品として世に出た『ハニワット』は、上記の作品群との類似点が多い。

 

突如出現した謎の巨大土偶は、人を踏み潰し、電信柱を倒しながら、その巨体で黙々と街中を進行していく。しかし、サイズはあくまで人間サイズ。そのため、自衛隊の出動まではいかず、警官隊は手が出せず周囲を警戒するしか為すすべがない。そこに到着する特殊対策チーム。しかし、近代的な武器が出てくるのではなく、登場したのは複数人の巫女と大きな神輿。舞の儀式が行われた後に、神輿の中から、異形の埴輪が現れる。その土人形こそが、特殊祭祀によって前線に駆けつける「埴輪土(はにわど)」であった。

 

敵である巨大土偶に敵わない警察。しかし、秘密裏に組織されていた対策チームがその討伐に乗り出す。この設定だけでヒーロー物成分にゾクゾクさせられるのだが、日本ならではの古代文明のエッセンスでガチガチに固められた設定はとても神秘的で、そのバランスはやはり『響鬼』を思い起こさせる。

 

また、ふたつの巨大な神輿を準備し、「片方の神輿に乗った変身者(人間)の魂をもう片方の神輿に乗っている埴輪(土人形)に移す」「そしてその埴輪こそが対異形の存在である」という流れは、まさに「変身」である。スピリチュアルでありながら、概念としてはアーマー装着タイプだ。神輿の準備に手間取って現場にやや遅れて到着する感じも、『アギト』のG3を思い出してニヤニヤせざるを得ない。

 

敵である土偶にも「剣技型」「光撃型」等の分類がなされており、それにより異なる得意分野や戦闘スタイルを持つ変身者をシフトさせて対応する流れも非常に良い。ただノリと勢いで戦うのではない。対抗する組織が持つロジック。敵を見定めてからの対策としてのジャンケン。ここを突き詰めていたのは、他でもない『クウガ』である。

 

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1巻の内容だと、敵である土偶の恐怖や、変身に至るまでの設定説明だけで終わってしまうのだが、これが面白いのは、平成仮面ライダーを始めとする各種エッセンスに土台が全く負けていない部分にある。構想28年は、やはり伊達じゃない。単にそれらを詰め込んで彩ったのではなく、武富先生が長年煮詰めた世界観が、贅沢に少しずつ露出されていく感じがあり、その奥深さがとにかく楽しみなのだ。とにかく、早く続きが読みたい。

 

おそらく、敵の設定やその出自、対策チームを組織するまでの背景など、色々と手の込んだ設定が待ち受けていることだろう。この、まだ広がりきらない扇を前に好奇心をくすぐられる感覚は、まさに『響鬼』の序盤の頃に味わったそれに近い。単に「先が見えない」ではなく、「この先は相当作り込んでるぞ!」という、作り手への一種の信頼感である。1巻の時点で、それがビシビシと伝わってくるのだ。

 

武富先生らしいキャラクターの表情演出も健在で、独特の固唾を飲むテンポ設定は、相変わらず驚くほどの緊張感だ。「ごくり」と、自分が唾を飲むのが分かる、この感じ。『鈴木先生』の真骨頂は、そのテーマ設定やロジックの組み方もさることながら、独特なテンポで語られる演出にあると感じている。『ハニワット』でもそれが遺憾なく発揮されており、武富先生ファンとしても満足度が高い。

 

www.jigowatt121.com

 

奇しくも、以前本ブログでも取り上げた『カムヤライド』とも近い性格の作品だが、和風ヒーローコミックが盛り上がるのは大歓迎だ。平成ライダーが好きな人には、どちらもオススメである。

 

古代戦士ハニワット(1) (アクションコミックス)

古代戦士ハニワット(1) (アクションコミックス)

 
古代戦士ハニワット : 1 (アクションコミックス)

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