ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

感想『search サーチ』 多くの伏線を圧倒的情報量で隠蔽する、「現代的」サスペンスリラーの傑作

『ウルトラマンX』に、テレビやスマホの映像だけで隊員たちやウルトラマンの活躍を編集した「激撮!Xio密着24時」という回がある。暗躍する宇宙人を捕える隊員たちはタイトル通り密着24時パロディ映像に出演し、ウルトラマンが光線を放つシーンでは一般市民が撮影したスマホの映像が映し出される。

また、私の好きな映画に『クロニクル』という超能力モノがある。偶然超能力を手にした青年たちが撮影するビデオカメラの映像で綴られた作品だが、その演出手法は、「超能力でビデオカメラを浮かせてカメラアングルを操る」という加速する自意識を表現するのに一役買っていた。

 

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そんな作品群を思い出しながら鑑賞した映画、『search サーチ』。こちらは、PCの画面のみで構成された映画である。

 

最初のクレジットとエンドロールを除き、最初から最後まで、完全にPCの画面のみで物語を進行させる。FaceTime、Facebook、Gmail、Twitter、Instagram、Tumblr・・・。大SNS時代となった今なら誰もが目にしたあの画面が、映画館のスクリーンで展開される。なんとも意欲的な作品だ。監督のアニーシュ・チャガンティは27歳ということで、なるほど納得である。これは若い人、正確には「今のSNS時代に生きる人」にしか撮れない。

 

Searching End Titles

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ある日突然失踪した娘を探す父親。残された娘のMacBookからFacebookやTwitterを立ち上げ、彼女の友人とされる人物たちにコンタクトを取るも、有力な情報は得られない。それどころか、父親の知らない娘の生活が次々と浮き彫りになる。やがて失踪事件は全米を騒がせる大事件にまで発展するが・・・。

 

以下、Twitterの方で呟いた感想を引用。

 

 

「PC画面のみで映画を作る」というアイデアがこの映画の最大のウリだが、本作の本当の強みは、そのアイデアに演出が負けていないところにある。まあ、PC画面=画面全体という訳ではなく、視線移動によるフォーカスの調整、PC画面とはリンクしない形で流れる音楽など、許容範囲内でのズルはある。しかし、それを差し引いても、このアイデアを使った数々の技巧的な演出には心から拍手を贈りたい。

 

上のツイートにも書いたように、PCの画面はどこまでいっても機械的なもので、そこに本来人間味は存在しない。文字やそれを使ったやり取りだけで構成される画面は、不気味ですらある。しかし、だからこそそれを操る人間の機微が画面に浮かぶ瞬間があり、それは時に俳優の表情より多くの感情を伝えてくれるのだ。

連絡をよこさない娘を叱る怒りの文面を作り上げた後に、それを直前で思い止まって文面を消す父親。ある文字列を発見した時に思わずそれをなぞるマウスカーソル。PCの画面のみで演出されるからこそ、普段の映画では観られないタイプの感情表現がそこにあった。非常に新鮮な体験である。

 

また、PCの画面というのは非常に情報量が多い。いくつもの画面を同時に開き、ビデオ通話しながらメッセージを送ったり、複数のウェブページを見比べたり。だからこそ、このサスペンススリラーが仕掛ける伏線が、巧妙に隠される。木を隠すには森の中。情報を隠すにはPCの中、といった具合だ。画面上で忙しなく展開される情報の洪水は、上手い具合に真実をそうじゃなく見せる。あの文字列が、あの写真が、あのアイコンが。注意を払うにはあまりにも母数が多すぎるのだ。

 

といった具合に、「PC画面のみ」という突拍子のないアイデアに作品そのものが負けておらず、「だからこそ」の演出がこれでもかと展開される本作は、非常に新鮮な満足度を与えてくれた。映画にはこういうやり方もあるのか、こういう爽快感の作り方もあるのか、と。

そして、その真ん中にあるのが普遍的な親子の物語、というのも巧い。おそらく、十年もすれば主要となるSNSも変わっていくだろうから、今の時代を生きる人にこそ早いうちに観てほしい作品である。

 

 

さて、そろそろネタバレなしで語るのが難しくなってきたので、以下はオチに触れる形で書いちゃいます。ご注意を。

 

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犯人は、誘拐事件担当女性捜査官の息子ということで、「最も協力的な人が事実上の犯人」という超絶王道パターンとして捻りはない。むしろ、この部分だけで話を語るなら、非常にありきたりな作品とも言えてしまう。息子の犯罪を母親が捜査しながら隠蔽していた訳だ。しかし本作は、その推理や疑念に至る暇を与えてくれないほどに、怒涛の勢いで情報を打ち出していく。

 

通常の映画にある演出の間というものがほぼ存在せず、普段我々が生活する中で見ている「デバイス内の出来事」のみで進行していくので、脳に他の情報を処理する暇がない。スマホ中毒という言葉が生まれて久しいが、TwitterやYouTubeの画面を見せられると、ついつい目と脳がその画面の隅々まで把握しようとしてしまう。そうすると、ありきたりな筋の物語でも、それをそうと考える余裕がなくなっていく。なんとも皮肉の効いた「現代的」な作品だ。

 

また、 「親と子のコミュニケーション不全」という主人公が抱えるテーマが、終盤で一気に犯人である女性捜査官にまで当てはまるのが巧い。要素の配置に無駄がない。

中盤に語られた「息子が母の職業を利用して詐欺をしていたがそれを黙認した」という主人公を慰めるためのエピソードが、「息子のためには道を踏み外しても構わない」という母親の屈折した愛の刷り込みにもなっている。あのエピソードはこの展開のためだったのかー!と、鳥肌が立った。背筋が凍る。デブラ・メッシングがまた「良い母親」「優秀な女性捜査官」として理想的すぎる演技なんですよね。

 

主人公とFaceTimeで会話する女性捜査官の後ろで、心配そうにその様子をうかがう息子。これも、怒鳴る母親に反応したと見せかけて、実は自分に捜査の手が伸びていないか気が気でならなかったのだろう。といったように、オチが分かってしまうとあのシーンもあの演出もすべてが伏線だったことが分かる。痛快である。

 

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主人公の弟が娘と男女の仲にあったのではと疑う展開も(良い意味で)胸クソ感がすごいし、そこだけウェブカメラで通常の映像表現っぽく切り取るのも面白い。クスリも冒頭のFaceTimeで一度見せているし、それが娘の不可解な行動の真実というのも納得感がある。

父娘のコミュニケーション不全、亡き妻を想う父親と、それを重荷に感じる娘。そのストレスがクスリに走らせてしまった。言ってしまえばただそれだけのシンプルな話なのに、その全体像を明かすタイミングが巧妙なので、もっと大きな「何か」を感じてしまう。良く出来ているなあ。

 

一番背筋が凍ったのは、フリー素材女優の写真が一致した瞬間。「あれ、この女性、どこで見かけたっけ・・・」となってからの、「これは違う」「これじゃない」といくつかのSNSを開く流れ。この溜めの演出からの、ウィンドウをドラッグして動かして一致した時の「う、うわあああ!!」という衝撃。もはやホラーですよあれは。大変失礼ながら、あの女優さんの笑顔も非常に不気味で。

 

・・・といった感じで記憶に残るシーンを挙げていけばきりがないのだけど、とにかく面白かったですね。

娘の捜索を足止めした嵐が、実は生きていた娘を救う、その逆転劇。「5日も水なしでは生きられない」「いや、2日だ」のくだりは最高。なんという痛快さ。また、「いいね」を獲得するためにネットで自分を演じるクソ野郎どもや、事件を話題として消費していく野次馬社会、ネカマでストーキングする犯人など、悪い意味でも実に「現代的」でした。これを2018年の今に鑑賞できて良かった。

 

「現代のネットを皮肉ったサスペンス」という意味では、『白ゆき姫殺人事件』を思い出したりも。こちらも大変「現代的」な作品でした。

 

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感想『イコライザー2』 デンゼル・ワシントン扮するマッコールが前作同様にサイコで最強

三連休最終日になんとか時間を作って『イコライザー2』を鑑賞。前作が2014年公開だったので、実に4年ぶりのイコり。

 

元CIAエージェントのロバート・マッコールが悪を挫く、痛快アクションスリラー映画の続編。さすがのデンゼル・ワシントンと言うべき、「人の良さ」と「サイコな感じ」の融合っぷりは健在。実に楽しい作品でした。

 

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前作『イコライザー』は、「タマフル」改め「アトロク」でも特集が組まれていた「ナメてた相手が実は殺人マシンでした映画」(映画ライター ギンティ小林氏命名)の一角。「おいおいオッサンよ~ ここは黙って帰った方がお利巧ってもんだぜ」的なノリでナイフで頬をペチペチするように舐めてかかる悪漢共を、実はゴイスーな経歴を持つ主人公がバッタバッタとなぎ倒す、そういう方向のカタルシスを魅力とする作品ですね。(この形容があまりにもドンピシャすぎて一度言及しておかないと筆が進まない・・・)

 

『イコライザー2』は相変わらず主人公の魅力で話を引っ張る感じがあり、良い意味でデンゼル・ワシントンに頼るスタイルとして前作から一貫している。神経質で取っつき辛い人かと思いきや、父性あふれる振る舞いをしてみたり、悩める若者を導く宣教師のようであったり、しかしスイッチが入るとマシーンのように淡々と敵を殺す。この絶妙なバランスが、何よりも作品の魅力として大きい。

 

観ていて思わず笑ってしまったのが、殺す宣言した相手の前を一度去るシーンのマッコール。まるで「今度一杯飲みに行こうな!イェイ!」的なテンションと笑みを浮かべながら、殺す宣言した相手から去っていく。なんだこの身の毛もよだつ宣戦布告は。こういう、違和感があるほどに人当たりが良すぎるシーンがあるので、一周してサイコな魅力がプンプンと匂ってくる。いや、怖ぇよ、マッコール。

 

前作、ホームセンターであまりにも暴れてしまったからか、今作ではタクシードライバーにジョブチェンジ。そのおかげか、必殺案件やサイドストーリーが自動的に(乗客として)主人公の元に転がり込む構成になっており、全体的にすっきり観やすい。

 

色々と「結局あれってどうなの?」な部分もあるにはあるけれど、あくまでマッコールが仕置きできる狭い範囲の物語のみに割り切っているので、「闇の仕置き人」という本作のテーマとも符合する。国家を転覆させるような国際的大規模テロにはイーサン・ハントが当たってくれているし、ニューヨーク規模の都市ならスパイダーマンが守ってくれる。マッコールは、自身の生活圏内とたまたま知り合った市井の人々に闇から手を差し伸べる、そんなミニマムなダークヒーローなのだ。

 

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前作のクライマックスは勤め先のホームセンターを舞台とした戦いだったが(私は勝手に「ホームセンター・アローン」と呼んでいる)、今作は嵐で避難指示が出た無人の街が登場。任意の建物を使って罠を仕掛けるマッコールと、高所を巧みに使いながら攻めてくる敵チーム。人数差を物ともせず、罠を発動させては「また一人」「また一人」と確実に消していく様は、さながらホラー映画。被害者の写真が外壁に沢山貼りつけてあるとか、あまりにも悪趣味すぎて笑いが止まらない。考える暇もなく淡々と粉塵爆発を手配する様子にも笑った。

 

そんなマッコール、結局、やっていることは私刑の域を出ない。自分だけの判断基準で、警察も法も無視して成敗する。そういう意味では今回の敵たちとやっていることは大して変わらないのだが、それでもマッコールが「あり」なのは、彼がこの物語の主人公だからに過ぎない。主人公だから、彼なりの理屈と信条が描かれて、すごくかっこよく映る。でも、第三者からすればどちらも恐怖の無法者だ。

 

そんなことはマッコールも重々承知で、だからこそ、自身の哲学を貫いて自己肯定し続けるしか道はない。「私は “こう” だから正義である」と自らに言い聞かせながら、溢れ出そうな何かを表面張力のように保ち、それから気を逸らすかのように詩的で文学的な世界に身を投じつつ、黙々と悪人を粛正していく。そんなマッコールの不確かな背中にこそ、なんとも言えない味があるのだ。

 

ぜひ、『イコライザー3』が観たいものである。今度はコンビニ店員とかかな。

 

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漫画『スモール・ソルジャーズ』の単行本をついに入手!やった!悲願達成!

 

やったああああ!!!!!!!ついに!!!!ついに手に入れた!!!!!

 

 

中古市場と睨めっこすること、苦節数年!

 

ついにゲット!!

 

 

漫画版『スモール・ソルジャーズ』の単行本!

 

 

嬉しい!めちゃくちゃに嬉しいッッ!もちろん中古だけど!それでも!!それでも!!!

 

 

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うおおおお!!!!!!!やった!!!夢にまで見たぞ!!!!!

 

 

場合によっては20,000円以上のプレミア価格で流通している絶版単行本、『スモール・ソルジャーズ』。言わずと知れた(言わずと知れた?)98年公開の洋画『スモール・ソルジャーズ』の漫画版で、コロコロコミックに掲載された作品。作者は後に『機獣新世紀ZOIDS』を連載する上山道郎先生。

 

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もちろん、お金をドンと積めば手に入れられる状態にはあったけれど、そうポンと払える財政状況にもなく。やっとこさ手が届く価格の流通品を発見したので、「手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔する。それが嫌だから、手を伸ばすんだ!」などと叫びながら、思い切って購入ボタンをクリックをしました。

 

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『スモール・ソルジャーズ』は『グレムリン』のジョー・ダンテ監督作で、若き日のキルスティン・ダンストも出演。おもちゃメーカーによる自立行動チップが埋め込まれたフィギュアが暴走して、主人公一家を巻き込んで騒然とするお話。

 

私はこの『スモール・ソルジャーズ』が本当に大好きなんですけど、そもそもこの作品を知ったのは漫画版が最初なんです。当時通っていた歯医者の待合室にコロコロコミックがあって、それで読み進めていた記憶。後に映画版を知って「うわ!あれじゃん!」となって、ドハマリ。キモ愛くるしいゴーゴナイトとエキセントリックなコマンドー・エリートの戦いを、この半生でもう何度観たことか。未だにBlu-rayが発売されていないのが悔やまれます。

 

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そうそう、この絵柄なんですよ。アーチャーが表情豊かでかっこいい。

 

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以下、当作品を語る上山先生のツイートを引用。制作秘話など。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この「紙・電子とも再版するのがまず不可能」というツイートを昨年目にして、薄々分かってはいたものの、愕然としたものです。中古の高騰も止む無し・・・!

 

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懐かしすぎる『電撃!ピカチュウ』。

 

電撃!ピカチュウ 1―ポケットモンスターアニメコミックス (てんとう虫コミックススペシャル ポケットモンスターアニメコミック)

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約20年ぶりに読みましたが、あの映画が巧妙に三幕(全3話)に再構成されていて、びっくり。特に終盤の「アーチャー」のくだりは映画より良いプロットかも。舞台が日本に変更されているのも日本人には嬉しい。上山先生も筆がノっているのかクライマックスの3話は作画の勢いがすごくて、叫びながら殴り合うハザードとアーチャーが見応え抜群です。

 

いやね、なんかもう、読んでいて涙が出る感じ。懐かしすぎる。

 

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我が家の『スモール・ソルジャーズ』コレクション。サントラとVHSもあるはずなんだけど、どこかにしまってしまった・・・。当時モノのパンフレットは結構読み物として情報量があるので、定期的に読み返しますね。奥の大きなハザードは未開封なので、棺桶に入れて欲しいレベル。

 

何年も探し続けていた代物が手に入った時の喜びはひとしおですね。あ~~、最高。生きてて良かった。娘よ、大きくなったらお父さんと一緒に『スモール・ソルジャーズ』観ようね。(ただし色々と教育に悪そうなので観せる年齢は要検討)

 

スモール・ソルジャーズ―映画原作 (てんとう虫コミックススペシャル)

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感想『アントマン&ワスプ』 ミニマムスケールで描く「ユニバースの箸休め役」は続編でも健在

数えてみたら、この『アントマン&ワスプ』でMCUは通算20作目に到達(映画作品のみカウント)。思えば遠くへきたもんだ・・・。

 

直前の『インフィニティ・ウォー』がクロスオーバーを主軸に据えたドッカンドッカンのお祭り映画だったのに対し、『アントマン&ワスプ』は前作『アントマン』のテイストそのままにコメディタッチに仕上がっており、シリーズ全体の箸休め的なポジションに収まっている。こういうシリーズ構成というか、バランスの取り方は流石ですよね。

 

Ant-Man and The Wasp (Original Motion Picture Soundtrack)

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軽く前作のおさらいをしておくと、何より『アントマン』がMCUのフェイズ2に属しているのが好きなポイントですね。

 

『アイアンマン3』で幕を開けたフェイズ2は、『ウィンター・ソルジャー』でシールド崩壊という転換期を迎え、『エイジ・オブ・ウルトロン』という遺恨を残すクライマックスへ向かっていく。で、その直後にフェイズ2の最終作として公開されたのが『アントマン』。

爽快さから針を振り戻したヒーローの是非や功罪、といった重い展開に進んでいったシリーズが、ここにきて「(娘にとっての)父親はヒーロー」という至極ミニマムな語り口を打ち出す。アントマンという極小なヒーローは、MCUにおけるテーマの範囲もミニマム、という位置づけ。

 

でも、その位置づけこそが『アントマン』の強み。『ウィンター・ソルジャー』で国際的な信用を失い、『エイジ・オブ・ウルトロン』で多くの犠牲者を出してしまったアベンジャーズに対して、シリーズを追ってきた側もヒーローに対する絶対的な憧れや信頼に影を感じ始める。そんなタイミングで、明るくおバカなアントマンが娘のために奮闘する。「ああ、ヒーローってこういう形もあるよね」と、ホッと一息つきたくなる。そんなバランス感覚が素晴らしいと感じている。

 

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今作『アントマン&ワスプ』も同様の効果を期待してか、『インフィニティ・ウォー』で劇的かつショッキングなエンディングを迎えたMCUフェイズ3の「箸休め」ポジションを担っている。構造も前作と同じで、主題も、地理的な展開範囲も、とってもミニマム。小さく、それでいて焦点を絞った分かりやすい物語として成立している。

ヴィランの目的も良い意味でスケールが小さく、同情しやすい塩梅に設定されており、どちらかというと『エージェント・オブ・シールド』に出てくる単発エピソードのゲストのよう。

 

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『アントマン』の肝は突き詰めれば「小さくなれる」の一点だが、それを「大きくなれる」から「物の大きさを自由に変えられる」にまで応用し、前作より枚数の多いカードを切っているのが印象的だ。前作ではクライマックスの戦いでワンポイントとして用いられたサイズアップのギミックは、『シビル・ウォー』でジャイアントマンを演出し、『アントマン&ワスプ』では画面を彩る数々のアイデアとして活かされている。

ビルを小さくしてそのまま持ち歩くのは痛快だし(基礎工事に突っ込んではいけない)、巨大化させたアリを研究開発のアシスタントとして使役するのも面白い。

 

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総じて、前作が持つ「ユニバースの箸休めポジション」をしっかり踏襲しながら、「父親と娘というテーマ」も再度描き、サイズチェンジのギミックはバリエーション豊かに発展させるという、理想的な続編に仕上がっている。

主人公・スコットと娘のキャシーだけでなく、ピム博士とホープ、ビル博士とゴースト(エイヴァ)の疑似父娘と、親子関係の多重構造で魅せるアプローチも前作同様に隙が無い。ストイックなホープと抜けてるけどなんだかんだ頼りになるスコットのコンビも、観ていて微笑ましい。姐さん女房的な。

 

反面、味わいが前作と同じ、やはりどうしてもユニバースが向かっている壮大なスケールに見劣りを感じることから、期待値を飛び超えてはこないのも正直なところである。また、ヒーロー物における家族再生のプロットもやり尽された感があり、期待値を十二分に満たしてはくれるものの、大きくは超えてこないかな、と。

「ミニマムなスケールが良い」と書いておきながら、そのスケールの小ささに物足りなさを感じる。なんとも贅沢でワガママな観客だ・・・。

 

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先日の『インクレディブル・ファミリー』の感想でも書いたが、優秀なスタジオが展開する作品は、どうしてもハードルが上がってしまう。ピクサーも、MCUも、「最低限のクオリティ」があまりにも保証されすぎていて、本来不必要な「ない物ねだり」に陥ってしまったり。重ね重ね、贅沢な話である。

 

さて、MCU次作の『キャプテン・マーベル』は、シールドの歴史と絡めながらサノス妥当への布石が打たれる作品になりそうなので、『アベンジャーズ4』に向けて見逃せない一作である。楽しみに待ちたい。

 

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感想『インクレディブル・ファミリー』 ギミックの数でカバーしきれない構造的な惜しさ

前作『Mr.インクレディブル』が2004年ということで、時が経つのは本当に早い。マイケル・ジアッキーノによるメインテーマはあまりにも有名で、あのジャジーな変拍子は学生吹奏楽界の新たな定番になったほど。14年ぶりの続編でも同氏による音楽が堪能できたので、そこは問答無用で大満足でした。

 

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ピクサー作品の感想を述べるのは難しい。それは、あまりにもスタジオが持つ制作体制が強力なため、どう転んでも最低限のクオリティが保証されていることにある。一部を除いて、決定的な「外し」が無い。毎回ちゃんと面白いのだ。

 

今作『インクレディブル・ファミリー』でも、流石の手数の多さ、ギミックの豊富さ、アニメーション映画としての技量の高さはびっくりするほどで、観ながら何度も感嘆した。しかし同時に、前作が好きだからこそ、引っかかるポイントが多かった。

 

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まず第一に、あまりにも前作の直後から始まってしまう点。

 

復習しようと直前に前作を鑑賞し、そのままスクリーンに向かったのだが、ストレート&ダイレクトに「その後」が始まったのでびっくりしてしまった。「14年ぶりの続編」という背景を吹き飛ばすほどの開幕。前作終盤の地底人出現シーンがそのまま描かれ、それを別アングルから描く導入。前後編二部構成かと見間違うほどだ。

 

しかし、だからこそ、前作の達成感がリセットされてしまった寂しさを覚えてしまった。

 

前作には、「世間から不要とされたヒーローはどう生きるのか」「ヒーローとプライベート(家族)の両立は叶うのか」という縦筋がファミリー映画としての「家族の再生」スタイルでゴールに向かっていく、という流れがあった。だから、家族全員がヒーロースーツを着て一致団結するクライマックスに爽快感がある。わざと徒競走で遅く走るダッシュを皆で応援するなど、「世間との付き合い方」にもひとつの答えが提示された感があった。

 

なのに、この『インクレディブル・ファミリー』はあまりにもその直後から開幕し、更には家族の仲やヒーローを取り巻く情勢が円満ではない雰囲気から始まるので、前作の達成感が取り消されたように感じてしまった。これが仮に数年後の物語ならまだ分かるのだが、あまりにも距離が近すぎる後日談である。

前作が積み木を積み上げて、お城が完成して、「やったー!」となった14年後に、その上にドカンと新たな積み木が積まれ始める。「え、前作の到達点はまだ全体の途中だったの・・・?」という戸惑い。

 

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また、前作では比較的上手く同居していた「ヒーロー復権物語」と「家族の諸問題」が、今作は綺麗なブレンドを見せないのも惜しい。

 

母・イラスティガールが謎多きヴィランを追っていく一連の流れと、父・インクレディブルが家事や育児に四苦八苦する流れ。それぞれはアイデア豊富で観ていて面白いのだが、最終的にそれらは交わらない。

スクリーンスレイヴァーの計画に家族で立ち向かうクライマックスは確かに盛り上がるが、家事や育児の体験がそれを何かしらの形でフォローする訳でもなく、多くのヒーローが活躍することで「家族の団結」という軸が次第にぼやけ、各々のテーマが独立したまま収束してしまう。

 

これらの「構造的な惜しさ」が終始気になってしまい、手数の多いギミックや超絶的なアニメーション技法の数々ではカバーしきれなかった、というのが個人的な感想である。

 

とはいえ、「いつ何処で何をしでかすか分からない恐怖」という赤ちゃんあるあるを「いつ発生するか分からないヒーローパワー」で表現したジャック=ジャックの描写には膝を打ったし、イラスティガールが操るバイクの魅せ方やスクリーンスレイヴァーの隠れ家に忍び込む際の緊張感漂う演出など、「さすがのピクサー」も有り余るほど盛り込まれていた。

マイケル・ジアッキーノによる各ヒーローのテーマソングが書き下ろされたのも、ポイントが高い。

 

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野暮なことを言ってしまうと、「ヒーローのパーソナルな諸々」というドラマはこの14年間で沢山のアメコミヒーロー映画が描いてきたことでもあり、一作目に比べて新鮮味が薄まったのも否めない。改めて数えると、ライミ版『スパイダーマン』が16年前。供給過多を感じるなんて、思えば遠くへ来たものだ・・・。贅沢め・・・。

 

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