ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

漫画『トクサツガガガ』が扱ってきた問題提起やテーマを書き並べてみる(1~8巻編)

特撮オタク漫画『トクサツガガガ』も気づけば長期連載ですね。そして遂にドラマ化もされるということで。月日が経つのは本当に早い・・・。

 

連載開始が2014年ということで、世間的に「特撮」といえば市場規模的にも戦隊やライダーが強かった時勢。2013年に『ウルトラマンギンガ』で復活したウルトラのTVシリーズが現在も続き、2016年に『シン・ゴジラ』が大ヒットしてゴジラがまたブームになるなど、「特撮」を取り巻く環境もこの数年で大きく変わったなあ、と。

 

トクサツガガガ (1) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (1) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (1) (ビッグコミックス)

 

 

それに呼応するように、『トクサツガガガ』も戦隊ヒーローから始まり、『プリキュア』的なニチアサ女児向けアニメも扱いつつ、現在では怪獣も巨大ヒーロー特撮も時代劇特撮もマイナーB級映画もホラー映画も洋ドラも扱う「なんでもござれ」な作品と化してきました。(・・・「特撮」の定義とか作中におけるジャンルの扱いの差みたいな話をするとそもそもの成り立ちと歴史的背景と言葉上の定義と文化的意味と市場規模の話と予算規模の話題と放送&公開継続年数の課題と当該漫画作品の製作背景というオタクとして至極面倒臭い話にかならないのでここではそういう話はしません・・・)

 

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そんな本作は、「特撮オタクあるある」を入口に世間との折り合いの付け方を発見していく漫画ということで、作中で様々な問題提起を扱っていく訳ですね。これがまあ、そういう界隈でオタクをやっているとよく耳にする(目にする)やつが多くて。私も全方位に特撮オタクをオープンにしている訳ではないので、色々と共感する場面もあったり。

 

www.nhk.or.jp

 

ちなみに、実写ドラマ版はNHK総合で1月18日(金)午後10:00スタート。劇中作『ジュウショウワン』のスーツにアクション、数々の小物の作り込みなど、すでに予告や諸々の露出からNHKの本気度がダダ洩れ状態なので、すごく楽しみです。

 

そんなこんなで、ここ最近、ドラマ化に備えてまた最初から読み返していたので、せっかくなので作中で取り上げられた問題提起やテーマ等々を書き出してまとめておこうかと。端的に、『トクサツガガガ』とはこういう漫画です、というやつ。流し読みしていただければ、未読の方にもおよそどんな漫画なのか伝わると思います。気になった方は是非に。(長ったらしくなっても何なので、まずは既刊折り返し地点の8巻まで・・・。おそらくドラマ版の内容もここまではいかないのかなあ、と。)

 

 

1巻

 

トクサツガガガ (1) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (1) (ビッグコミックス)

 

 

・「その趣味が好きなら堂々としてればいいのに。恥ずかしいと思ってるから隠すのでは?」
・オタクは会社の付き合いのカラオケでどう選曲するべきか
・カプセルトイを求めて定期の範囲をさまようオタク
・見知らぬオタクに自身のオタク趣味を知ってもらうためのオーラの出し方(気付かせ方)
・「好きなものに年とか性別とか関係ない」
・オタバレされかけた時にどうかわすか
・女の子が戦隊ヒーローのオモチャを欲しがっても良いか
・女児向けアニメを愛好する強面の成人男性
・我が子に自身の嗜好を押し付ける母親との戦い

 

 

2巻

 

トクサツガガガ(2) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ(2) (ビッグコミックス)

 


・全く関係ないシチュエーションを好きな作品に結びつけて勝手に興奮するオタク
・オタクはオタク仲間と買い物に行った先で別行動を取りがち
・児童向け雑誌を店頭で買う恥ずかしさ
・値段もサイズも大きい特撮ロボ玩具を迎え入れるか否か
・リアタイ視聴にやたら執着するオタク
・イケメン俳優の特撮番組出演は黒歴史なのか
・母親と違ってオタク趣味を理解してくれる兄の存在
・ヒーローショーのヒーローの中身は知らないおっさん問題
・人に作品を勧める行為は、すなわち「狩り」である

 

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3巻

 

トクサツガガガ (3) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (3) (ビッグコミックス)

 

 

・オタバレの危機と趣味を隠す自由
・家に迷い込んだクワガタとの戦い
・「普通の人」は休みの日に何をして何にお金をつかうのか
・女児向けアニメに救われた男の過去
・オタクは作品の感想を実際に会って語りたがる(内容がヒドイと特に)
・自宅でいかに巨大感のあるロボの写真を撮るか
・「今のヒーローはおもちゃを売るためにやってるよーなモンでしょ?」
・駅の構内を秘密基地に見立てるオタク
・まだ本編では仲間になりきっていない追加戦士がヒーローショーの握手コーナーに先んじて現れた時の微妙な空気
・「ああいうのにいい年してはしゃいでて見苦しいとか考えたことないの?」

 

 

4巻

 

トクサツガガガ (4) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (4) (ビッグコミックス)

 

 

・オープンなオタクはむしろ同族に疎まれる問題
・オタバレで傷ついたオタ女性の過去
・特撮のアイデアと工夫に学ぶ発想の転換
・子供にエログロ要素のある特撮を観せても良いのか
・世間の「まとも」との距離の取り方
・グッズやフィギュアは集めても結局ゴミになるのでは問題
・何かに夢中な姿は一見滑稽でもカッコいい
・オタクのカラオケは多人数が楽しい(合いの手やナレーションが多いため)

 

 

5巻

 

トクサツガガガ (5) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (5) (ビッグコミックス)

 

 

・特撮ヒーロー番組を観せると子供が乱暴になるのか問題
・「らしさ」を押し付けられる辛さ
・「洋画のCGに比べたら日本の特撮はしょぼくね?」
・大型図版を買うための本気の節約
・布教する相手を奪い合うオタク
・フィギュアやオモチャの箱地獄収納問題
・苦手なものに距離を取ってしまうのはそれをよく知らないから
・操演という舞台裏に感動するオタクと物語そのものに感動する子供
・何事も、目指すはベストではなくベター
・生まれ育った街のVHSショップの思い出

 

 

6巻

 

トクサツガガガ(6) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ(6) (ビッグコミックス)

 

 

・幼少期に好きになったものはずっと好き
・番組制作におけるシーンカットは日常生活のハプニングと同じ
・CGでもそこにはマンパワーとアナログな工夫がある
・特撮の光の演出には作り手の気持ちが写されている
・内容がまあまあでもリアタイで視聴していくと評価が上がる
・シリーズが「続いている」ことのありがたさ
・観た映画がイマイチだった時の感想の処理の仕方
・ミニチュアに学ぶ「本物を作りたかったらニセモノを作る」
・実家の母からの電話は何をどう答えても不正解になる問題
・オタク、オタク仲間に誕生日を祝われる

 

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7巻

 

トクサツガガガ (7) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (7) (ビッグコミックス)

 

 

・「ゴキブリはなぜ怖いのか」と怪獣名の濁音の話
・人形劇は子供の目線があってこそ感動できたのだろうか
・出来の良かった作品が打ち切られてしまった問題
・子供の視線の高さがもたらす効果
・生身アクションに挑む俳優と生存バイアス
・お金をかけないとファンじゃないのか問題
・ガッカリメイク作品の良さとは
・操演と思い込み
・女児向けヒーローのリアル着ぐるみは目が不気味じゃないか問題
・人の好きなものを理解する難しさ

 

 

8巻

 

トクサツガガガ (8) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ (8) (ビッグコミックス)

 

 

・子供と大人の感じ方の違い
・オープンセットのフィギュア撮影に挑むオタク 前編
・オープンセットのフィギュア撮影に挑むオタク 後編
・デジタルデータは決して安全ではない
・怪獣映画を存続させる難しさ
・ヒーローショーにおけるフォームチェンジの入れ替わりトリック
・テコ入れに対するモヤモヤ
・夏のヒーローショーの辛さと尊さ
・「この良さが分からんのだね」的な懐古怪人との再会
・そのジャンルの原点は歴史よりもその人の「そばにいたもの」

 

・・・これらを流し読みして「あ、嗚呼~~~」ってのがある人には、是非ともオススメの漫画です。週刊連載ということもあって基本は一話完結なので、結構スイスイ読めますよ。

 

トクサツガガガ(1) (ビッグコミックス)

トクサツガガガ(1) (ビッグコミックス)

 
小芝風花 写真集 『 F 』

小芝風花 写真集 『 F 』

 

 

『別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.8』に『ウルトラマンR/B(ルーブ)』の作品紹介を寄稿しました

お仕事の報告です。『映画秘宝』の別冊として展開する『特撮秘宝』(洋泉社)に、久々に参加させていただきました。

 

現在放送中のウルトラマンシリーズ最新作『ウルトラマンR/B(ルーブ)』について、作品概要を紹介するコーナーを1ページ、担当しております 。『R/B(ルーブ)』のあらすじ・見所・面白さのポイントなど、限られた字数ですが、私なりに書いてみました。良かったら、ぜひお手に取ってみてください。

 

ヤプールも熟読!悪役の怨霊を集めて作った特撮雑誌『特撮秘宝vol.8』は、9月18日発売です。(毎回表紙のここのコピーが好き)

 

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.8 (洋泉社MOOK)

 

●怪獣、怪人、宇宙人、そしてもちろん人間も!
悪の特撮キャラクター 特撮人大アンケート

 

會川昇/赤星政尚/荒川稔久/荒川史絵/荒木憲一/飯塚貴士/井口昇/池田憲章/
伊藤公志/井上伸一郎/笈田雅人/大内雷電/大倉崇裕/太田忠司/大月俊倫/
大畑晃一/大畑創/岡秀樹/岡本英郎/ガイガン山崎/開田裕治/霞流一/金子大輝/
金田益実/唐沢なをき/河崎実/岸川靖/切通理作/小林晋一郎/小林雄次/
五味洋子/坂井孝行/堺三保/寒河江弘/しいはしジャスタウェイ〈御茶ノ水男子〉/
朱川湊人/白石雅彦/タカハシヒョウリ/田口清隆/田中啓文/月村了衛/
辻本貴則/富山省吾/とり・みき/中沢健/中島紳介/中野貴雄/なかの★陽/
中村宏治/中村遼/西川伸司/西村喜廣/野口智和/長谷川圭一/
林谷和樹(ダニー)/樋口尚文/百武朋/藤原カクセイ/佛田洋/ほりのぶゆき/
丸山浩/三池敏夫/みうらじゅん/村井さだゆき/大和屋暁/ロボ石丸

 

声優 飯塚昭三インタビュー
伊上勝の悪役――井上敏樹・談
監督 真船禎インタビュー
絶滅危惧種「セクシー女幹部」 文・中野貴雄
「わが心の怪獣、怪人、宇宙人」 文・上原正三

 

●貴重写真が満載のカラーギャラリー
『大怪獣バラン』激レア写真ギャラリー
渡辺忠昭 現場スナップ集
謎の木製ゴジラ!!
『ウルトラマン』特撮班カラー写真発掘「悪魔はふたたび」「怪獣殿下」
『有川貞昌」書籍発売記念『ゴジラの息子』初公開現場スナップ
追悼・星由里子 写真館


●スペシャル対談
U氏の肖像――上原正三とその時代と、今現在
荒木憲一/長谷川圭一/荒川稔久/會川昇/赤星政尚

 

●東宝撮影所の進行表『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』
対談 池田憲章×原口智生
●復活 パワード怪獣!
前田真宏×樋口真嗣 with 藤原カクセイ

 

●東宝特撮秘史 祝・還暦60年目の真実!!
『大怪獣バラン』の謎に迫る 文・金田益実
『大怪獣バラン』主役・野村浩三の新事実 文・友井健人

 

●『ウルトラマンガイア』20周年! ティガ・ダイナ・ガイア
90年代ウルトラマン特集
企画 満田かずほインタビュー
監督 松原信吾インタビュー
八木毅×岡秀樹 対談

 

●レジェンドインタビュー
特殊効果 渡辺忠昭
●豊島睦の図面

 

●『ウルトラQ』幻のシノプシスを発掘!!
・紀元前二十世紀の恋人
・山浦弘靖の未制作プロット 文・白石雅彦
●熱海怪獣映画祭presents
・トークショー「熱海と怪獣」 文・トヨタトモヒサ
・熱海と怪獣映画について語る!
伊藤和典×井上誠×長谷川圭一
●シュノーケル・カメラって何だ? 文・大口孝之
●関西特撮ファン座談会
岡秀樹×山本サトシ×藤村太

 

●古代史と愛とサスペンス・伝説の昼ドラが蘇る――『三日月情話』
・真船禎と佐々木守の挑戦について 文・會川昇
・座談会 真船禎×藤田弓子×水上竜子

 

●平成ウルトラマンニュージェネレーション 監督対談
武居正能×田口清隆
作品紹介 『ウルトラマンR/B』 文・結騎了
『電光超人グリッドマン』がアニメで復活!
『SSSS.GRIDMAN』 文・中沢健
『GODZILLA 星を喰う者』
・鼎談 瀬下寛之×片塰満則×川田英治
・大樹連司インタビュー

 

●『三大怪獣 地球最大の決戦』(台本第1稿)解読
三つ首竜・GHIDORAH伝説はここから始まった! 文・金田益実


追悼・夏木陽介
追悼・浦野光 文・河崎実

 

●196X年の怪獣少年 西村祐次
●続・金城哲夫をさがして 文・會川昇
●『ウルトラマン』『ウルトラセブン』記録
塩井(関根)ヨシ子インタビュー
●絶版特撮プラモ研究 ぼくらの日東ガメラ
●知られざる有川貞昌
インタビュー発掘 有川貞昌 特撮を語る ききて・原口トモオ
●特撮映画『ハワイ・マレー沖海戦』の誕生 文・鈴木聡司
●二十世紀特撮界、最大のUMA
これが幻のネッシーの正体だ!
・これが『ネッシー』のストーリーだ!
・中野昭慶、日英合作『ネッシー』を語る
・私もネッシー映画化を夢見た!
小谷承靖/井口昭彦/安丸信行

 

●まんが『マボロシ怪獣探偵団!「行け!牛若小太郎」の謎を追え!』 作・加藤礼次朗
●『行け!牛若小太郎』脚本家
伊東恒久インタビュー

 

●『バトルフィーバーJ』ミスアメリカ特集
・ミスアメリカ ヒロイン写真館
・ミスアメリカ座談会
小牧りさ×喜多川2tom×小野寺(現:喜多川)えい子

 

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.8 - 株式会社洋泉社 雑誌、新書、ムックなどの出版物に関する案内。

 

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.8 (洋泉社MOOK)

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.8 (洋泉社MOOK)

 

 

『特撮秘宝』、既刊もオススメです。私は3~5でちょこちょこ書かせてもらっています。

 

別冊映画秘宝特撮秘宝vol.1 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝特撮秘宝vol.1 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 
別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.2 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.2 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 
別冊映画秘宝特撮秘宝vol.3 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝特撮秘宝vol.3 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 
別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.4 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝 特撮秘宝vol.4 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 
別冊映画秘宝特撮秘宝vol.5 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝特撮秘宝vol.5 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 
別冊映画秘宝特撮秘宝vol.6 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝特撮秘宝vol.6 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 
別冊映画秘宝特撮秘宝vol.7 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

別冊映画秘宝特撮秘宝vol.7 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

 

 

特撮監督界の仮面ライダーディケイド、坂本浩一監督の魅力(感想『映画監督 坂本浩一 全仕事』)

2009年に『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』を映画館で観た時のショックは今でもよく覚えている。スクリーンを縦横無尽に飛び回りながらインスタントに光線技を放つウルトラマンたちは、確実に「観たことがなかったもの」だった。

そしてその翌年、2010年公開の『仮面ライダーW FOREVER AtoZ / 運命のガイアメモリ』は、それまでの平成ライダーらしからぬ画作りが満載の作品で、「仮面ライダーでこういうのも観られるのか」という驚きがあった。

 

大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE [Blu-ray]

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仮面ライダーW(ダブル) FOREVER AtoZ 運命のガイアメモリ [Blu-ray]

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そうして、「坂本浩一」という名前を意識するようになった。

 

坂本監督はあれよあれよと国内の特撮作品に次々と関り、『仮面ライダーフォーゼ』や『獣電戦隊キョウリュウジャー』、『ウルトラマンジード』ではメイン監督として企画の立ち上げから参加。OV展開である『宇宙刑事 NEXT GENERATION』や『スペース・スクワッド』等も監督し、東映や円谷以外の映像作品にも積極的に参加されている。

私自身、勝手に「特撮監督界の仮面ライダーディケイド」と呼んでいるのだが、まさに「ここが〇〇の世界か・・・」ばりの見事な多世界横断っぷりである。直近10年の国内特撮界を語るにおいて、坂本監督の名前を欠かすことはできない。

 

というのも、先日株式会社カンゼンから『映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~』というインタビュー本が発売されたのだが、これがもう特撮ファンにとっては垂涎モノの名著でして。

 

映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~

 

「東映編」「円谷プロダクション編」、それ以外の作品をまとめた「エクストラコンテンツ編」の全3章で構成された本書は、坂本監督が関わった20を超える作品を総ナメしており、「どんな意図で撮ったのか」「その作品にどういう思いがあるのか」といった監督のスタンスを実質無限に楽しむことができる。

 

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合理的なスケジュール管理

 

本書を読破して最も印象に残ったのは、坂本監督の徹底的なスケジューリングスキルだ。

 

アメリカで『パワーレンジャー』のプロデューサーを務めていた坂本監督だが、同作は特殊なスケジューリングを求められる。というのも、『パワーレンジャー』は日本の「スーパー戦隊」の映像を継ぎ接ぎして作るため、使える映像と使えない映像を取捨選択し、それに近いロケ地を探し、逆算して俳優陣のドラマシーンを撮影する、というパズルが必須になってくる。

これを長年手掛けられた坂本監督は、いざ日本で特撮を撮るにあたって、そのスケジューリングのノウハウを輸入させた。海の向こうで培われた、短期間かつ予算内で撮影するためのパズルが、ウルトラマンや仮面ライダーの現場に持ち込まれたのである。

 

 今までのウルトラマンシリーズにはなかった画作りに挑戦したかったので、プロデューサーとの交渉から始めたんです。過去の経験から余分な予算をかけなくてもそれらを実行する事が可能だという確信がありました。

 オープン(セット)のカットは、同じロケーションでドラマパートの撮影をしながら同時進行で爆破などの準備をして、用意が出来次第ドラマパートの撮影を一時中断して撮影したり、複雑なカットはミニチュア特撮で撮るのではなくデジタル合成で背景を作って撮影時間を短縮したりなど、色々と実行した結果、パイロット版用に用意していただいたスケジュールを短縮する結果が出せました。その成果が認められ、信頼関係を築きながら新しい事への挑戦を徐々に認めていただきました。パワーレンジャーシリーズでプロデューサーを何年も務めていた経験が活かされましたね。

 

・株式会社カンゼン『映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~』P346(円谷プロダクション編『ウルトラマンギンガS』)

 

坂本監督は、『仮面ライダーW RETURNS』や『宇宙刑事 NEXT GENERATION』などで何度か2本同時撮影も手掛けており、その合理的なスケジューリングはプロダクション側からも歓迎されているのだろう。

素人目には異常なペースで撮影をこなしている印象があるが、この工夫をこらした計画的な撮影手法こそが、坂本監督の最大の武器なのかもしれない。

 

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自らを作った作品への飽くなきオマージュ

 

『映画監督 坂本浩一 全仕事』には、坂本監督が愛した作品が沢山登場する。ジャッキー・チェンに憧れてアクションを始めたというのは有名な話だが、その他にも、「この作品(展開)はあれの引用」といったネタバラシが多く、読んでいて非常に楽しかった。

 

例えば、『仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー』の作劇は『仮面ライダーストロンガー』の「デルザー軍団変編」のオマージュ、『仮面ライダーゴースト』でアランがたこ焼きを食べながら戦うシーンはブルース・リーの『ドラゴン危機一髪』、『ウルトラマンジード』のクライマックスにおける世代を超えた決着の付け方は小山ゆう先生のボクシング漫画『がんばれ元気』をイメージして・・・ といった具合である。

 

仮面ライダーストロンガー Vol.1 [DVD]

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ドラゴン危機一発〈日本語吹替収録版〉 [DVD]

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がんばれ元気(1) (少年サンデーコミックス)

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他にも、『銀河鉄道999』『機動戦士ガンダム』『死亡遊戯』『男たちの挽歌』『銀河漂流バイファム』など、出るわ出るわ・・・。読んでいて「あー、なるほど」「それは知らなかった!」という感嘆の声が何度も出ましたね。

 

坂本監督が、自身の血や肉を作った作品をオマージュしながら、それまでのウルトラマンや仮面ライダーになかった画を作っていく。元ネタを知らなくても、該当シリーズの映像としてはすこぶる新鮮に見える。

ウルトラマンの縦横無尽な戦い方や引きの絵でデジタル合成された背景を高速で移動する映像は、ともすれば巨大感を損なっているとも言え、好き嫌いが分かれるところだが、「それまでになかった映像を作る」という点では定評があると言えるだろう。

 

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映像から溢れ出る坂本イズム

 

私も『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』から約10年間坂本監督の映像を観続けてきたファンのひとりだが、例えクレジットを観ていなくとも、坂本監督回は一発で当てられる自信がある。それほどまでに、「坂本イズム」は濃厚だ。

 

アクションする俳優や女優がテカテカにオイルを塗り、近接格闘での打撃時にはベビーパウダーが舞い、やられ役はワイヤーで豪快に引っ張られながら画面を横移動していく。巨大特撮は煽りのカットで土煙を上げて、ウルトラマンの背後でサイズ感が麻痺する爆炎が上がる。仮面ライダーも、変身する前の素面でのアクションシーンが極端に増える。

 

前述のような好みの話はあれど、私はそのどれもがとても新鮮な10年間だったと感じている。繰り返すようだが、ウルトラマンや仮面ライダーで「こういう画」が観られるとは思ってもみなかったからだ。

今や良い意味で新鮮さは薄れ、もはや御家芸のように「よっ!坂本アクション!」というスタンスでワイヤーで吊られるヒーローを応援しているが、今後も定期的に坂本監督の作る濃厚な画を楽しんでいきたい、と思っている。

 

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ダラダラと長くなったけれど、つまりは、『映画監督 坂本浩一 全仕事』は買いの一冊ということです。

キャスティング秘話(誰は監督の推薦、誰はオーディション、など)も豊富なので、ライダーや戦隊の完全読本シリーズが好きな人は絶対楽しめると思います。注釈もものすごく丁寧に付いているので、情報量は総ページ数の1.5倍くらいかも。

 

にしても、約20億の資金が集まりながらもペンディングになってしまった坂本監督総指揮の韓国特撮作品、めちゃくちゃ観たかったですね・・・。

 

映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~

映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~

 
ハリウッド・アクション!―ジャッキー・チェンへの挑戦

ハリウッド・アクション!―ジャッキー・チェンへの挑戦

 

 

どうして着ぐるみの怪獣が生まれたのか? NHK Eテレ『JAPANGLE』(ジャパングル)の特撮特集が素晴らしかった、という話

タイトル通り、NHK Eテレの番組『JAPANGLE』(ジャパングル)の特撮特集が素晴らしかった、という話。

 

「特撮」、つまり「特殊撮影」が、どういう歴史で生まれ、いかなる職人の技で支えられているのか。今現在、どんなニュアンスで日本の文化として認知されているのか。

約20分でそれらを余すところなく紹介していたので、感動しましたね。構成力がすごい。

 

 

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番組の構成として面白かったのは、この手の特撮特集でよくピックアップされる「ゴジラ誕生秘話」「ミニチュアや操演の職人芸」の他に、東映のライダーや戦隊の映像も挟まれたり、プラモデルやフードモデルの造形模様が取り上げられていること。

 

「特撮」というとウルトラマンやゴジラの巨大特撮が代表格だけど、番組構成としてそれだけに限ったりせず、藤岡弘、氏の変身ポーズをしっかり観せてくれたのが嬉しかった。結構、巨大特撮だけで囲ってしまう特集も過去に多くあったので。

また、サンライズが映像を提供していたプラモデルの造形や工場ライン、フードモデルの型取りから着色まで、映像文化としての「特撮」とは少し距離があるけども、嗜好のベクトルとしては完全に隣人であるそれらをピックアップするのがニクい。特撮が好きなら、「そういうの」は漏れなく好きですよ、はい。

 

あとやっぱり、番組冒頭、ウルトラマンたちが子どもたちと触れ合っているシーンがすごく良かったですね。

ウルトラマンフェスティバルの映像だと思うんですけど、子どもたちを優しく抱擁したり、一緒にポーズを決めていたり。自分もそういう子どもだったので、ああいうのには弱い。あと、赤白帽のつばを頂点にしてかぶるウルトラマン被りも最高。完全にNHKの編集側に特撮好きがいるぞ・・・。

 

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「どうして着ぐるみの怪獣が生まれたのか?」の逸話は、やはり面白いですよね。

ちゃんと『キング・コング』の映像が出てきて、それを受けて日本が作ろうとしたら制作期間的に難しい、という例の流れ。そこで「じゃあ人が中に入ればいいんだ」という発想に行き着くのは本当にすごいし、それが「TOKUSATSU」という文化として海の向こうにまでフォロワーを作ったのが何とも感慨深い。

 

世界名作映画全集4 キング・コング [DVD]

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ゴジラ(昭和29年度作品) 東宝DVD名作セレクション
 

 

国内の巨大特撮が冬の時代に到達していた数年前、その「TOKUSATSU」に惚れ込んだ監督の『パシフィック・リム』が界隈でカルト的な人気を博したのは記憶に新しいし、近年のハリウッド産のモンスター映画は「中に人が入っているっぽい造形」のものが多い。レジェンダリーのゴジラシリーズ最新作『Godzilla: King of the Monsters』では、ついにモスラやキングギドラが登場するという。

 

そうして、海を超えて何十年もかけて、架空の存在に胸を踊らせた人たちがキャッチボールをしていると思うと、ロマンがあるんですよね。たまに、無性にジーンときてしまう。

 

そんなこんなで、『JAPANGLE』特撮特集。

たった20分で「気ぐるみ怪獣が生まれた背景」「ヒーローの背後爆破の職人芸」「ミニチュア特撮のメイキング」といった特撮の美味しい部分を集めた構成になっているので、ぜひ、特撮をあまり知らない人にこそ観て欲しい内容でした。

 

まさか最新ウルトラマン『R/B』の舞台裏も観られるとは・・・。ビルが吹っ飛ぶシーンのメイキング、すっごく良かったですね。そしてレッドキングが可愛い。

 

ウルトラ怪獣シリーズ 14 レッドキング

ウルトラ怪獣シリーズ 14 レッドキング

 

 

【総括】『ウルトラマンジード』が描く運命論。抗い築いた「GEEDの証」を振り返る

GEEDの証

 

最終回の放送から数日遅れで鑑賞できた『ウルトラマンジード』。

 

『ギンガ』から復活したテレビシリーズが、『ギンガS』『X』と目に見えて画が豪華になり(おそらく予算が増え)、『オーブ』では遂に『ウルトラマン列伝』の看板が外れスピンオフまで製作されるに至り、一時期の「冬の時代」を考えるとファンとしては非常にありがたい流れだなあとしみじみしてしまう。

『オーブ』では、「歴代ウルトラマンの力をお借りしていた存在が遂に自分自身の力で戦う」というドラマが描かれ、今ではすっかり「スペシウムゼペリオン」より「オーブオリジン」が基本形態になった訳だが、さて一体 “その次” はどんな作品が来るのだろうとワクワクしていた。「歴代の力」をある意味で脱した作品の後に、どのようなアプローチが描かれるのか。

 

そして、その答えはまさかの、「歴代の負の部分を受け継いでしまった者の運命」であった。

 

大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE [Blu-ray]

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今でも『ウルトラ銀河伝説』はよく観返すのだけど、この作品を映画館で鑑賞した日のことはよく覚えている。

夕日に照らされながらベムラーと戦うメビウスに感動したと思ったら、「巨大感」を無視した光の国でのハイスピードバトルに度肝を抜かれ、マントをはためかす歴戦のウルトラマンたちに惚れ惚れし、そして、圧倒的なパワーを誇るベリアルと誰もが好きになれるキャラクターのゼロが新世代の到来を予感させてくれる。一種のエポックメイキングと言っても差し支えない作品だ。

 

そんな劇的なデビューを果たしたゼロとベリアルが、ついにメインストリームのテレビシリーズにレギュラー出演し、しかも主人公はベリアルの息子というから驚いた。「息子」というキーワードは言うまでもなくゼロのアイデンティティだった訳で、ある意味の「ゼロとベリアル、双方の設定を内包した存在」がジードなのだ。

『ウルトラ銀河伝説』から数えて8年。こんな設定の作品が作られたことそのものが、とても感慨深い。「ここまできたか」、と。

 

商業的な面で言えば、ゼロとベリアルの人気は国外でもかなりのものらしく、本年上半期に放送された『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』は、先んじて海外展開されていた『Ultraman Zero The Chronicle』の国内版でもある。前作『オーブ』でもベリアルの闇のパワーはかなり印象的に扱われており、「ベリアルの息子」という看板は数字を獲れるものと認識されたのだろう。

 

ウルトラマンジード Blu-ray BOX I

 

しかも、そんな『ジード』をメインで撮るのは坂本浩一監督。こちらも言うまでもなく、『ウルトラ銀河伝説』の監督であるからして、ベリアルやゼロに対する思い入れは人一倍だろう。シリーズ構成とメインライターには小説家の乙一氏、音楽は『ウルトラマンネクサス』の川井憲次氏と、熱く厚い布陣である。

そんな川井氏作曲の主題歌『GEEDの証』は、聴けば聴くほど味が出るストリングスの厚みが最高な一曲。サビ後半の「僕は強くなる」の直前でグーッと上昇するストリングスは何度聴くいても胸が熱くなる。最終回を終えてから改めて歌詞を追って聴くと、その良さもひとしお。

 

Geedの証

Geedの証

  • ボイジャー & 朝倉リク
  • J-Pop
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

あと、変身バンクシーンで用いられた『ジード戦いー優勢2(M-9)』。これは『ウルトラマンネクサス』で誰もが印象的だった「デッデッデッデッデデレデレ」の発展進化系という感じで、高揚感を煽ってくれる最良のテーマであった。

バンクシーンそのものも、玩具の操作を魅せながらテンポ感を損なわない良い出来だったと感じている。バンクの最後の「ジーーーードッッ」を最終回で「ジード・・・」ってやったの、最高すぎましたね。オタクはこういうのに弱い。

 

ジード戦い-優勢2(M-9)

ジード戦い-優勢2(M-9)

  • 川井憲次
  • サウンドトラック
  • ¥200
  • provided courtesy of iTunes

 

ストーリーは、さながら「攻めの側面」と「オーソドックスさ(王道要素)」のフュージョンライズであった。

 

「攻めの側面」は、主にジードの出生について。

「今度の主人公はベリアルの息子!」と報じられた時から「え?母親は誰?」と思っていた訳だが、その答えはまさかの「試験管ベイビー」。ベリアルを敬愛する伏井出ケイ(ストルム星人)によってリトルスターを収集するためだけに作られた模造ウルトラマン、それがジードの正体であった。

奇しくも同時期に放送中の『仮面ライダービルド』も似たような展開になっているように、「主人公が打ち込んでいたヒーロー活動はそれそのものが仕組まれた『ヒーローごっこ』にすぎなかった」という展開は、「出生が悪(=敵側)」という意味でとても「仮面ライダー的」なアプローチであるとも言える。

 

元来「光の巨人」は人間離れした神秘性がアイデンティティであり、前作『オーブ』も「ウルトラマンの光を継承する」といった描かれ方をしていた。その神秘性を生まれた時点から剥奪されていた存在が、仲間を得て、市民に支持され、最後にはウルトラの父やウルトラマンキングに「若きウルトラマン」として認められる。そんな、『オーブ』とはまた違った、マイナスからゼロに至るまでの「ウルトラマンになるまでの物語」であった。「ウルトラマン」とはその生まれ云々ではなく、一種の概念なのだ。

 

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続く「オーソドックスさ(王道要素)」は、そのドロドロの出生に対するアンサーの部分。

ほとんど前述してしまったが、アイデンティティが揺らぐ主人公を救う存在が、かけがえのない仲間や、共に戦うウルトラマン、そして、かつてはジードを訝しがっていた市井の人々という構図になっており、これ以上ない直球のアンサーが設けられた。しかも、「主人公は子供たちのヒーローに憧れており、最終的に自分自身もそれに成ることができた」というダメ押しのおまけ付き。まさに「GEED(ヒーロー)の証」である。

そのため、主人公・リクは悩みはするものの大きく道を外れることなく、ほぼ光が差す場所に居続けることができた。(いわゆる主人公の闇堕ち展開は無かった)

 

「模造ウルトラマン」というテーマに対して「皆がいてくれるから僕は『ウルトラマン』になれる」という答えが用意されたのは、確かに王道で分かりやすいところではあるが、個人的にはせっかく攻めた設定だったので、もう一歩くらい暗い側面に踏み込んでも良かったかな ・・・とも思わなくもない。まあ、2クールならこれが最良か。

「みんながいてくれるから~」というテーマは、レイトとゼロにおける「家庭を持つサラリーマンなウルトラマン物語」にも共通しており、そのテーマが明瞭で王道だからこそ、それ以前のベリアルやゼロを知らなくても鑑賞できるバランスとも言える。

 

そう考えると、上では「もっと踏み込んでも・・・」と書きはしたが、「ベリアルの息子」という一見新規さんお断りな続き物要素をメインに据える以上、テーマを王道で分かりやすい物語にすることで誰もが楽しめるエンタメ性を持たせる、という狙いがあったのかもしれない。(とはいえ。市民のジードへの好感度を度々ワイドショーの世論調査で見せるのは面白かったが、せっかくの実写ドラマなので、もう少し説明でなく映像・演出の説得力でその変遷を観たかったな、という思いもある・・・)

 

 

ウルトラマンジード DXジードライザー

 

そんな作品全体を牽引し続けたのは、ストルム星人こと伏井出ケイである。ジードの事実上の生みの親であり、リクにとっては父親でも母親でもありながら、宿敵でも縦軸の謎を持つ存在でもある彼は、その屈折したベリアルへの信仰心が見所であった。

 

自らが創り上げたジードという存在に、「ベリアル様の遺伝子を受け継いだ者」としてあろうことか作った自分自身が嫉妬するという強烈な変態っぷり。ベリアルに裏切られて捨てられてもその忠誠心を曲げないあたり、私自身もとても好きなキャラクターである。

土壇場で改心するのも悪くないが、個人的に、やはり悪には悪の美学を貫いていて欲しい。

 

ウルトラ怪獣DX ウルトラマンベリアル アトロシアス

 

終わってみれば、ウルトラシリーズが得意とする単発回的なストーリーをほとんど描くことなく、その大部分をメインストーリーの縦軸で消化するという構成だった。

 

そのため、(これは私が感じてしまった最大の難点なのだが)、前作『オーブ』のストーリー構成にかなり近くなってしまった印象が拭えず、せっかくの攻めた設定がどこか既視感のある展開に薄まってしまう惜しさも感じてしまった。これについては、「2つのウルトラマンの力を融合してて戦う」というスタイルの継続も含めた既視感であり、『オーブ』が好評だったからというのは嬉しいのだけど・・・ などとモヤモヤを抱えながらの視聴だったのが本音である。

とはいえ、「自信を喪失していたので他のウルトラマンの力をお借りしていた→そこから脱却するストーリー」「模造ウルトラマンゆえ他のウルトラマンの力を重ね合わせないと変身できない→その血筋の運命をひっくり返す」という、同じシステムに違うアプローチやアイデアを盛り込んだことについては、非常に興味深かったと感じている。

 

ウルトラマンジード Blu-ray BOX II

 

特撮面では前作に続き凝ったミニチュアワークが多用され、とっても眼福であった。近年テレビシリーズではあまり用いられなかった「夜戦」「水辺の戦い」「雨模様」といったシチュエーションの工夫も多く、また、『シン・ゴジラ』のような怪獣=災害としての描き方にも意欲的であった。

 

メインである坂本浩一監督は、それまでの氏の持ち味であった「スピード感のある戦い」や「CGを多用した別次元バトル」を意図的に少し封印した印象もあり、良い意味での「のっそり具合(=巨大感)」を、手前に配置した電線や鉄橋の向こうに捉えるカットが多く、色々と挑戦もしくは模索をしているのかな、などとも感じた。

市野龍一監督のゼガン回では街になだれ込む冷風がミニチュア特撮の真骨頂であったし、田口清隆監督のマグニフィセント回ではかの川北紘一監督を思わせる後光の演出に膝を打った。武居正能監督回の沖縄セットも新鮮!

 

ウルトラマンジード DXキングソード

 

リク自身が劇中で述べていたように、「GEED」には「運命をひっくり返す」という意味が含まれている。

 

登場から8年間、常に「悪のウルトラマン」として邁進してきたベリアルの運命は、本作をもってひっくり返り、幕を閉じた。まさかあそこまでしっかりレイブラッド星人を登場させるとは思いもしなかったが、彼の呪われた運命は、ライバルのゼロでも、因縁のケンでもなく、自身の遺伝子を受け継いだ息子によって決着することになった。

本当に「運命をひっくり返された」のはむしろベリアルの方だったかもしれないし、それは、満を持してベリアルとゼロがテレビシリーズという本流にメイン格で登場した時点で始まっていたのかもしれない。仲間のライハも両親の仇であるケイに屈することなくその因縁をひっくり返し、一方で、ケイは意地でも選んだ運命を変えることなくその身を散らせた。

「運命をひっくり返す」というのは、リクにとっては「克己」であり、ベリアルやケイといった「父を超える」物語でもあった。そう考えると、『ジード』の物語は非常に「少年漫画的」なそれだったとも言えるし、その陽性で元気な物語が、演じる濱田龍臣くんの屈託のない笑顔に象徴されていたことは言うまでもないだろう。

 

「ジーッとしてても、ドーにもならねぇ!」。それは、右肩上がりでコンテンツの底力を増していく近年のウルトラマンというコンテンツそのものが持つべき姿勢とも言える。だからこそ攻めて繰り出されたであろう「模造ウルトラマン」の物語は、その暗いテーマに反し、明るくストレートな着地を見せてくれた。

さて、これに続くウルトラマンは、今度はどんな物語を魅せてくれるのだろうか。今からそれが、楽しみでならない。

 

 

ウルトラマンジード Blu-ray BOX I

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