ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

原作『チェンソーマン』第一部 公安編 / 単行本ごとの初見感想まとめ

FOLLOW ME 

去る2021年7月、アニメ化に備えて『チェンソーマン』の原作を一気に読んだ。

 

 

その際に、せっかくなのでと単行本一冊ごとにTwitterにダラダラと感想を書き連ねていたら、思いのほか長ったらしいツリーになってしまったので、ブログ用にコピペでまとめておくことにする。Twitterのコピペなので最大140字の段落の連続で、誤字脱字等の修正をちょっとだけ加えています。当時Togetterにまとめたりもしたけど、せっかくドメインを持ってるブログがあるのだからこっちにもまとめるべきだった。

 

 

 

1巻「犬とチェンソー」2019年3月9日発行

 

悪魔のポチタと共にデビルハンターとして借金取りにこき使われる超貧乏な少年・デンジ。ド底辺の日々は、残忍な裏切りで一変する!悪魔をその身に宿し、悪魔を狩る、新時代ダークヒーローアクション、開幕!

 

序盤だけあって連載時の記憶がある。『ファイアパンチ』も同様だったが、世界観設定の説明(開示)が抜群に上手い。モノローグ等の文量に頼らない描き方。デンジが特異な個体であることを切り口に「普通の場合」にしれっと触れ、そこから世界観設定を馴染ませていく。説明臭さが一切ない。

 

悪魔がいて、デビルハンターがいて、公安がいて、という細々とした設定があるものの、デンジは「暮らし!女!胸!」の行動原理で動いており、話の輪郭が見えずとも推進力だけはちゃんと持たせる作りになっている。そこから少しずつ世界観設定を会話の中に織り交ぜていく。情報の出し方が上手すぎる…

 

序盤でモノローグを延々と並べて世界観設定を解説していく漫画が多いが、その完全なる真逆のやり方。主人公の三代欲求に正直な生き方は、ある種の感情移入の極地でもある。そこにバイオレンスな絵面を定期的に並べていくことで、読者の興味関心がしっかり持続していく。「よく分からないけど面白い」。

 

「どうやったら読者が退屈しないか」があらゆる方向から精査されていて、読んでいてすごく安心感がある。これ大事だよなあ〜〜。なんとなく輪郭が掴みきれないままなのに、グングンと読まされちゃう。ハッタリも、バイオレンスも、意図して配置されてる。上手い漫画は面白い。真実。

 

2巻「チェンソーVSコウモリ」2019年5月7日発行

 

「胸を揉む!」 その圧倒的欲望を原動力に、コウモリの悪魔と激闘を繰り広げるデンジ! 戦いの果てに掴むのは、胸!? それとも…!? そして、マキマが語る人類の敵「銃の悪魔」とは!? 公安の犬・デンジの戦いは新たな局面へ!!

 

ここもまだ読んだ記憶がある。「夢バトルしようぜ!」でデンジの突き抜けたキャラクターをしっかり安定させてから、銃の悪魔という物語全体の目標や新たな公安メンバーを出揃わせる。深刻で残酷な世界と、デンジの性欲に忠実な馬鹿馬鹿しさのギャップが、じわじわ効いてくる。真剣にくだらない。

 

『ファイアパンチ』にトガタというキャラクターがいて、あれも最悪な世界で延々と映画カルチャーについて語るギャップを持たせた造形だったけど、『チェンソーマン』は物語全体がそんなバランスで出来ている印象を受ける。残酷な面はことごとく残酷に、くだらない面は真剣にくだらなく。だから面白い。

 

銃の悪魔の過去編は、原因(?)となった家族が出てくるが、なぜ彼らがピックアップして描かれているか最初は分からない作りになっていて、ワンテンポ遅れてアキとオーバーラップする魅せ方になっている。こういう演出でハッとさせる作りって、何度味わってもいいよなぁ。物語の醍醐味…!!

 

あとマキマさんがエロさの真髄を語るくだりが面白すぎて何度も読んでしまった。少年誌でエロい絵(絵柄ではなく概念におけるパンチラの意)を見せずにセリフと演出メインでエロスを感じさせるのが上手い……。手の握り方、からの噛み、からの「覚えて」の流れが完成されすぎている……。

 

色んな意味で「絶対勝てねぇだろこの女にはよォ!」というやつですね。

 

あと「悪魔は一般市民の恐怖の度合いによってて強さが決まる」という設定が抜群に面白い。これ天才的すぎるだろ……。これからどんな悪魔が出てきても、そのモチーフの名前だけで読者が登場人物と同じように恐怖したりできるじゃん。レベル・ランク設定やパラメータの見せ方よりはるかに簡単で確実。

 

そして、そこからの「銃の悪魔を少しでも弱体化させるために銃が規制された」のくだりがめちゃくちゃ痺れる……。たまらん。これだけで、悪魔がどの程度世間に認知されていて、行政や司法がそれに取り組んでいるのか、設定の濃度が瞬時に肌で理解できる。良すぎるんじゃ………。

 

『ファイアパンチ』もブログに感想書いたりしてかなり好きな漫画だったんだけど、最終的にスケールが拡大しすぎ&芸術的すぎてエンタメとしての視点がどんどん減少してしまった印象があるので(それはそれで濃い作家性の表れなんだけど)、『チェンソーマン』がどのバランスで進行するかが楽しみ。

 

3巻「デンジを殺せ」2019年8月7日発行

 

空間を封鎖し「デンジを殺せ」と迫る、謎の悪魔!! 追い込まれ、次第に分裂する特異4課のメンバー。そんな極限状況下でも、ごほうびのキスを諦めないデンジが閃いた、地獄のような作戦とは…!? 人と悪魔の特異点・デンジをめぐる大抗争、勃発!!

 

いよいよ複数の悪魔や契約を有したデビルハンターが戦い始めて、ジャンプらしい能力バトルのルックに仕上がってきた。キスと性行為の可能性に踊らされるデンジと、刻々と進行する事態のギャップがえぐすぎて、摩訶不思議な引力がある。四肢が消失していく姫野先輩の演出がすげぇ良い。ヒヤヒヤ。

 

「8階に閉じ込められて…」のくだりで、悪魔からデンジを殺させる契約を持ちかけられる。ここで、悪魔との契約における制約や条件を解説しておいて、3巻後半の敵の急襲。これにより、「強い能力には強い犠牲や強固な契約が要る」というバトル漫画お得意のルールがじわじわと活きてくる。上手すぎる。

 

やはり『チェンソーマン』は設定を解説するタイミングや細かな演出が上手すぎる。色んな設定が読み返さずとも頭に入ってくる。「説明のための説明」じゃなくて、必要なイベントやキャラクターの行動が、結果的に説明に繋がっている。こんなのが何度も何度もさらっと織り込まれてるのヤバすぎだろ…。

 

「姫野先輩の四肢が消えていく」というシーンだけで、悪魔の契約の厳密さや過酷さ、それを使わざるをえない追い詰められた状況や敵の強さを印象付けて、そこから更に蛇に瞬殺させる。能力バトルならではのパワーインフレを意図的に繰り返していくこの思い切りの良さが気持ちいい……。脳に効く。

 

あとマキマさん強すぎるんよあんた〜〜。酒豪からの間接キスのくだりが強すぎた。「強い女」だけでなく、こりゃもうグレードが「勝てない女」だ……。「勝てない女」は負けないんだ……  仮に死んだとしても、その瞬間まで自分自身が強いから……

 

4巻「銃は強し」2019年10月9日発行

 

デンジの心臓を狙う謎の一味の襲撃により、大打撃を受けた公安特異課には、不穏な空気が漂う。一方、デンジとパワーは最強のデビルハンターの元、頭のネジもぶっ飛ぶ「死」の特訓を開始するが…!? シリアスとクレイジーが交錯し、反撃の狼煙が上がる!!

 

特異課の襲撃を受け、超然的な能力でそれを迎撃するマキマさん。神社に死刑囚を座らせてそれを媒介に手を擦って遠隔で爆散させる… という一連の演出と魅せ方がすごすぎる。こんなに「圧巻」を伝えられる方法があるものか。血飛沫に全身を染められて呆然とする一般人(人質)のコマが良すぎる…

 

敵の襲撃に対し、びくびくしていたコベニが生き残ってしまうのが良い。さらっとデンジの頭部で銃弾を防ぐクレバーさも素晴らしい。キャラクターの個性は凸凹でも、そもそもが特別な能力を持つ超人の集まりな訳で、こういう基礎能力が高い立ち回りがひとつでも入っているだけでグッと世界が締まる。

 

姫野の死に涙が出ないデンジ。これは、彼がまだコミュニケーションとして未熟ゆえの事なのか、人間として何かしらのネジが外れていることの示唆なのか。まあでも、一般的には「悲しい」ことが起きてもあんまり自分でそう感じられないことって、割とあると思うんですよね。個人的には妙にリアルだった。

 

バディである姫野を失い、釘の行使によって寿命を縮めたアキくんは、未来の悪魔との更なる契約へ。彼には、銃の悪魔に一矢報いるでも、あるいは全く歯が立たないでもいいので、どちらにせよしっかり死んで欲しいと願う。いや、酷いんだけど、なんかこのキャラは壮絶に死んで初めて完成すると思う……

 

デンジとパワーの馬鹿コンビによる頭脳プレー(笑)には笑わせてもらった。これまで己の能力でひたすらゴリ押しするしか知らなかったデンジくんも、もうちょっと成長していくのかな。この岸辺先生も、願わくばキッチリ死んでほしいな…… 死んだら美しいよ、このキャラは…… 絶対に……

 

『チェンソーマン』、「キッチリ死んでほしいキャラ」が多すぎる......... でもこれは最上級の賞賛なんじゃ…………

 

5巻「未成年」2020年1月9日発行

 

かつて姫野が使役していた悪魔と対峙するアキ。復讐の炎に身を焦がす男の脳裏を過るのは…!? 一方、デンジは再びサムライソードと激突!! チェンソーvs刀、血飛沫舞う死闘の行方は果たして!? デンジの心臓争奪戦は、想定外の方向へと加速する!!

 

サムライソードとチェンソーマンのバトルが良すぎる……。アクションの流れや組み立てが完全にSFアクション映画のそれでめちゃくちゃアガる。引きの絵でビルから屋外に横軸でガシャーン、からの縦に流れて電車にドーン、からの急停止して電車の天井にキキキッ → ドンッ!はい最高……

 

作者が映画好きなのは『ファイアパンチ』含めてめちゃくちゃ分かってたことだけど、この一連のサムライソード戦は魅せ方がアクション映画的すぎていちいち興奮してしまう。すげぇほんと。電車の車内という狭い空間での動きの見せ方、面白いカット、それら全てが分かってる人の仕業だ… やっべぇ…

 

お互いに向き合って吊革が遠近で奥にいく構図で構えてるカットとかたまらん。あるよね〜!!これ!!からの、窓の外からの斬り合いを一度見せて、その次の斬り合いは車内に視点が映る。二度目の方が印象が強くなる作り。足のチェンソーを最後の見開きで見せる作りもめちゃくちゃ上手い。良すぎる……

 

サムライソード戦はカット割もロケーションも勝つロジックも全てが良すぎた……。ここアニメめちゃくちゃ楽しみだな。デンジがちょっと頭使って勝つだけでこんなに盛り上がるのずるいでしょ。

 

あと、アキくんが操られた幽霊の悪魔を倒すくだり、幽霊の悪魔の体に咲いた花の上を歩いて首に向かうカットが、花とアキくんだけを写す事で「恐怖を捨て去って一種の無の境地に至った」イメージカットとしても重なっていて、短いながらも抜群の演出だった。上手いなあ〜〜〜!!

 

そしてマキマさんとデンジのデート。これ、映画好きである作者ならではの見せ方だと思うんだけど、「好きな人が同じ映画を観て自分と同じように涙を流している喜び」って、これめちゃくちゃ良いなぁ。これ、何百回デートするより一瞬で理解し合えた感すらあるよね。ここたまらん……  上手すぎる…

 

そしてレゼの登場。この辺りまでを連載で読んでいた記憶がある。メンヘラと簡単に言ってしまってはアレだが、「こいつに惚れたらやばいけど惚れてしまうやばい」みたいな描写が上手すぎる。どう見てもヤベェオンナでしかないのに、その目や口元にグッときてしまう画力と演出。くっそが…!!

 

タツキ先生、あなた前髪が顔のセンターにかかってる女性が性癖ですね!!トガタもでしたからね!!!わかりますけど!!!!レゼをぶりっぶりに魅力的に描けば描くだけ後が辛いじゃないですか!!!くそっ!!くそっ!!!

 

6巻「バン バン バン」2020年3月9日発行

 

「遠くに逃げよう」…レゼの思いがけない言葉に心揺れるデンジの、純情の行方は――。そんな甘いひと時から急転直下、吹き荒れる爆殺の嵐! 恋も欲望も、人間も悪魔も全てを巻き込むド派手な血戦で、デンジとレゼは何を確かめ合う!?

 

この辺りまでが連載で読んでいた辺りかな。一冊の締めでエピソードがきっちり終わる構成が何より良い。レゼのアクションにおける一挙手一投足がどれも非常に映像的で、SEが聞こえるしVFXが見える。なんて素晴らしいヴィランなんだ……。小爆破での移動が好きすぎる。

 

デンジが少しずつ頭を使った戦法を繰り出してくるだけでここまでワクワクできるものか。それでいてビームを乗りこなす馬鹿っぷりもちゃんと担保されているのが手厚い。闇夜を背景に上下左右に派手に展開されるデンジとレゼの戦闘は、これめちゃくちゃ映像映えするだろうな… アニメ楽しみだ……

 

クライマックス、喫茶店に駆け寄るレゼの前に現れたマキマさんのシーン。ここまでハッキリと「死・確」な演出に慄く。こりゃたまらん。マキマさん、あんたやっぱやべぇよ。どこまでいっても「勝てない女」だよ。俺ァ知ってたね、あんたのぐるぐるとしたその目がそもそも死んでいるからな…!!

 

レゼが「頭隠して尻隠さず」みたいなバトルスーツ(?)着てるのがまたすげぇエロティックで、全体的に線が多い作画なんだけど、ここだけすごく肌の白さが強調されるようなバランスになっていて、余計に何倍もフェチが高まっている…… この漫画は「直接的じゃないからこそエロい」を極めすぎている……

 

というかこれ、銃の悪魔より誰より、マキマさんが絶対に作中最強でしょ……  実際のパワーバランスとか戦闘力とかより、描かれ方の格が違いすぎる……   あんただけひとつ上の階にいるよ…………

 

7巻「夢の中」2020年6月9日発行

 

その姿が「恐怖!! デンノコ悪魔!!」としてTVで報道され、全世界に存在が知られることとなったデンジ!! イカれた凄腕の刺客達が、各国から東京に集結する中特異課は戦力を総動員し、デンジ防衛作戦を敷くが!? ルール無用で襲い殺し合う、地獄のカオスが渦を巻く!!

 

やはりこの辺りからが完全初見の模様。報道により全世界から集う「ヤベェ奴等」編。化ける三兄弟、釘を打ち込む師弟、魔人を侍らす美形、サンタクロース。どれもあり得ないくらいキャラ立ちしてるのに全部一気に混戦にもつれ込むのがやばい。普通もうちょっと順々に消化しない!? やばい。

 

パワーがデンジと化ける奴を轢くシーン、声出して爆笑した。こんなんアリかよ。『ファイアパンチ』もそうだったけど、シュールが突き抜けすぎてて笑っていいのかダメなのか一瞬惑わしてからジワジワと笑わせるやつが上手すぎる。そして相変わらず見開きのカラーを女性キャラのエロに回すタツキ先生ェ!

 

天使の悪魔が語る、チェンソーの音が悪魔の輪廻転生に関わっている可能性。ここまで何度も「デンジが狙われている」展開が続くけど、なぜ狙われているかは一向に明かされない。ビームの発言からも先代チェンソー(?)がいるっぽいが、全くといっていいほど詳細不明。というかポチタ、異質だな見た目が!?

 

『チェンソーマン』、全然言葉で説明してくれないタイプの漫画で、間の取り方の演出やキャラクターの表情で読ませるタイプの作品なので、つい「テレビの前で正座する」感覚で読んじゃうなぁ……。どこに何が隠されているか探そうとするスタンスで読んでしまう。これが「面白い漫画」じゃ……

 

クァンシがビルの中に突入していくシーン、緩急の付け方がたまらん。高速で全部避けてビルの中に入った!? → 欠けている刃 → 血が出ずに撥ねられていく人形… というテンポがいい。すれ違ってワンテンポ遅れてスパッ!なんて、もはや使い古された演出なのに、こうも面白く読めるものか………

 

地味に暴力の魔人くんがいい。コベニを庇って死ぬか、仮面が取れちゃって暴走してコベニを殺しちゃう展開か、ぜひどっちかでお願いしたい……

 

8巻「ちょうめちゃくちゃ」2020年8月9日発行

 

クァンシと特異課の間でデンジをめぐる攻防が続く中、不気味なサンタクロースが、真の目的へと動き始める!! 凶気と悪意に満ちた禁忌の契約が結ばれる時、悪魔さえも恐怖する、絶望の世界への扉が開く――。ドス黒い闇夜に、デンノコ悪魔の絶叫が響き渡る!!

 

やべぇ。燃えていいのか笑っていいのか分からない。どういう感情で読むのが正解なんだこれ。「面白い」ってことだけは分かる……。「闇の力で智見を深めて尚、馬鹿の行動は理解できません」「馬鹿じゃねぇ!こちとら毎日教育テレビみてんだぜ!」、最高すぎでしょここ………

 

サンタクロースの正体のひっくり返しから、一気に地獄落ち、闇の悪魔の圧倒的なパワーとそれと渡り合うマキマさん、最後はバカが突き抜けた主人公がしっかり持っていて、オチにハロウィン!ハロウィン!…なんなのこのバランス感覚…… 尖って歪で凸凹なのにバランスが取れている… 嘘だろ……

 

『ファイアパンチ』での尖りまくった作家性が維持されたまま、週刊少年ジャンプ用に調整されている………   こんなの無敵じゃん…………  ジャンプ漫画じゃないのにジャンプ漫画じゃん……  なんだこれズリィ………  みんなこんなバランスでやりたいに決まってんじゃん…………

 

「そういう事で理解すれば殺せるだろ、バカになれデンノコ」。これシンプルだけどめちゃくちゃいいなぁ。昨今、読者の目も悪い意味で厳しい時があって、フィクションのキャラでも過去の過ちの禊イベントが必要だったり不殺が求められたりする中、ここまで割り切ってスパッと言い切るの、すげぇ痛烈っ!

 

「不死だから!」でゴリ押ししてガソリン被って「闇の力に対抗するには炎で光!」なんて、バっっっカバカしいの極みなんだけど、むしろ巷の能力バトル漫画ってこの手のシンプルなジャンケンに作中理論を肉付けしたようなものなのかな、なんて気持ちになってくる。一周してこういうものなのかもしれない…

 

この一連の「ヤベェ奴等」編、使役するおじさんも人形で、弟子は裏切られ人形に、師匠はまさかの中ボス化、クァンシ組は共闘からのマキマ粛清で死、己の運命を呪った三兄弟の末っ子はハロウィンハロウィンでバカになって終わりと、濃すぎる面々がしっかりとそれなりの着地に落ち着いているのがすごい。

 

ここまで色んな悪魔や魔人が出てくるのに、能力の説明を一切のモノローグや説明セリフに頼らず、必要な演出のみで解説していく手腕が、マジでえぐすぎるんよ………  サンタクロースと人形おじさんが美しい少年少女の3人を生贄にするカットとか、ここ特にちゃんと読んでないと意味不だもんな……

 

読者の理解度をギリギリの線引きまで信じて引っ張って引っ張って描いてる印象。これが唯一の正解だとはもちろん思わないが、漫画に限らず、「説明過多すぎる・分かりやすすぎる」エンタメが溢れる昨今では余計に光る……

 

9巻「お風呂」2020年11月9日発行

 

先の戦いで多くの仲間が傷つき、命を落とした――迫り来る銃の悪魔との決戦を前に、アキの心は揺れる。マキマが明かす、銃の悪魔をめぐる驚愕の真実、アキが見た“最悪の未来”――全てが重なる時、悪夢のような運命がデンジたちを蹂躙する…!!

 

ちょっと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!もう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!おい〜〜〜!!!!!!!!!おい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!おい〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

まーーーーーーーーじーーーーーーーーでーーーーーーさーーーーーーーーータツキ先生ェぇええええええーーーーーーーーーーーーもう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!ほんっっっと!!!!!!もう!!!!!!!もう〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!

 

あーーーーもうーーーーーーーーーーくっっっそ!!!!!もう〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!あのさぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!丁寧すぎんだろうよォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!

 

確かに数時間前にこんなツイートしたけどよォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜   そこまでせんでもいいんじゃあないっすかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  もう〜〜〜〜〜〜!!!!!!

 

 

いや9巻さ、後半の展開の圧力は一旦置いておくてしても、物語のゴールであったはずの銃の悪魔が核兵器のポジションに転じていく流れが、もう本当に素晴らしかったのよ。なんて鮮やか。ある程度の割合を保持した国々が互いに抑止力を持ちながら牽制し合ってるだなんて、よくもまあ、こんな設定を……

 

一応ここまでは「肉片を回収しつつ銃の悪魔を討伐する」というお話のロードマップが示されていたのに、急にそれが反故にされ、一気にマキマさんが追い上げてくる。読者の理解が追いつく前のギリギリのタイミングで銃の悪魔の出現と大虐殺が描かれ、ノンストップで銃アキ戦へ。なんだこの展開酷すぎるだろォ!

 

マキマさんのこれまでの能力が「支配」のキーワードひとつで説明できてしまう的確さもさることながら、やはりこの巻はアキの見せ方が惨すぎる。酷い結末に向けてこんな丁寧に積み重ねることないじゃん…… 雪合戦の白さと血みどろ決戦の赤のコントラスト、こんなの絶対映像に劇的に映えるじゃん…

 

デンジの深層心理にあった扉が警告するアパートの扉、マキマさんからの電話と鳴り響くチャイム、息を呑む展開とはまさにこのこと。家族の中で疎外感を覚えていたアキが、そこにあったはずの幸せを思い出しながら、新しく得た家族の手で殺められる。なんて美しい…… 血の通った人間のやることかよ(通っているからやれるんだよ)

 

そして、ただでさえ残酷な運命を辿るアキとデンジのやり取りだけで感情がぐちゃぐちゃなのに、ここに「血をチェンソーマンに与える一般人」が出てきてヒーロー的な王道の熱さが加わるの、えぐすぎるんよ… なんでそんな事できるんだよ… 泥酔した人に焼き立てのステーキ食わせるような真似するなよ……

 

どうやったらこのバランスが描けるんだよマジで……………

 

銃の悪魔の大量虐殺のくだりを見開きの犠牲者50音順で演出するのも相当キレてるんだけど、ここにさらっと早川アキの名前を載せてるのもまあまあキレてて、デンジが戦いながらアキへの説得を試みるのもデンジの成長を感じられるあたりが相当キレている…… 擬似家族という死亡フラグが一番キツいんじゃ……

 

早川アキ……  無念の死だけど……  物語にとってはお前は最高に美しかったぜ……  さようなら………

 

続き読みますね………(足取りが重い)

 

10巻「犬の気持ち」2021年1月9日発行

 

俺がアキを――決して拭い去れない絶望に脳が糞になったデンジは、マキマに救いを求める。だが、一時の安息は更なる悪夢の始まりに過ぎなかった…。デンジの心の禁断の“扉”が開く時、マキマの真の思惑とチェンソーの悪魔の秘密が交錯、血みどろ地獄と化す!!

 

ノンストップ地獄の重ねがけ。薄々勘づいてはいたが、マキマさんの思惑の全容と真実が明かされる。ラスボスはマキマさん …と思わせて、やはりその位置はチェンソーマン自身。ここまで色んな顔を見せて育て上げたパワーちゃんというキャラクターを、こうも贅沢に退場させるとは。恐れ入る……。

 

つまり、マキマさんはチェンソーマンと過去にも交戦しており、命からがら逃げ延びたのがポチタという事で良いのかな。深層心理のモチーフで幾度と登場する扉が、銃アキが向こうにいるアパートのドア、パワーが待つマキマのアパートのドアと、何度もリフレインされる恐怖。そしてその向こうにある真実。

 

父親を殺めてしまった記憶を、深層心理に閉じ込めたデンジ。彼がどこか頭のネジが外れたようなキャラクター造形だったのは、こうした心理的なプレッシャーや抑圧を無意識下に抱えていたことの結果だったのだろうか。デンジが人を殺したくないと何度か叫んでいたのもじわじわ効いてくる……

 

食べたモノの概念を消滅させるチェンソーマンの能力。これが、ここまでデンジがしつこく狙われ続けた理由。そんな逸脱した存在をアゲてサゲて空っぽにして、犬にしていくマキマさんの格の違いよ。彼を最大の敵と睨みつつ、信仰の対象のように崇める、その屈折した愛憎こそがマキマさんの動機……

 

そしてこんな極限の状況でコベニちゃん回を2週にわたって挟むセンスよ…   う、嘘だろ…  ここでこんなのやれないだろ普通……   どういうことなんだよ………  く、く、狂ってやがる〜〜〜〜〜〜〜!!!!

 

改めて10巻の好きなシーンを挙げると、やはり82話ラストの見開き。ソファの上で陽を浴びながら半裸でうなだれるデンジと、犬に囲まれてきちんと食事を取るマキマ。ふたりの到達点というか、ここがひとつの決着として結実するようなカタルシスがある。キマっている。一枚絵として。

 

そして85話のサブタイトルな!!「超跳腸・胃胃肝血」はあまりにハジけすぎている………

 

9巻の時の感想で「銃の悪魔が核兵器のような抑止力と化しているのがすごい」と書いたけど、まさか核兵器の概念そのものがチェンソーマンに食べられていたとは。「概念への恐怖が力の序列になる」という悪魔の基本設定をベースに、「概念ごと消し去る」存在が出てくるの、あまりにアプローチが正しい…

 

そして10巻後半の乱戦はまさに圧巻。ロケーションから始まり、高低差のあるアクション、光のコントラストが鮮明な爆発、宇宙まで飛ばすマキマの圧倒的な攻撃に、心臓をちぎって大気圏突入から再生する常軌を逸したカウンター…… カットが全部見どころすぎる… なんだこりゃ……

 

さて、ここまできてこの物語はどう着地するのか。普通の生活と顔のいい女を求めたデンジ。支配し続けることで利己的に理想の世界を目指したマキマ。仮にマキマがチェンソーマンに負けて(殺されて)も、彼女的にはそれが本望だろうから、やっぱり「勝てない女」なんじゃないかと思うのよなァ〜〜

 

11巻「がんばれチェンソーマン」2021年3月9日発行

 

残酷で無慈悲なマキマの支配が、デンジを追い詰める!! 大切なものを奪い尽くされ、糞詰まっていく心――そんなデンジの耳に響く“チェンソーマン”を呼ぶ声…!! かくしてデンジとマキマは血みどろの荒野で殺し合い、交わることなき“想い”の果て、衝撃の結末が炸裂する!!

 

第一部、公安編、完!狂気の果てに辿り着く普遍的で日常的な解答。「普通の暮らし」の難しさ、「普通の暮らし」がはらむ罠、「普通の暮らし」の際限の無さ、「普通の暮らし」を得るために反抗しなければならない相手。マキマさんという台風の目を捉えつつ、デンジの物語として見事に着地した…

 

ここまでハチャメチャに展開して大風呂敷が広がったのに、最後の最後は主人公・デンジの物語としてミニマムに着地していくの、綺麗すぎませんか。いやぁ、すっご。物を語るのが上手すぎる。デンジが求めるものの本質を突き詰め、理解した(悟った)末の勝利。コベニちゃん、君がこんな活躍をするとは。

 

「支配」と「銃」が現実の人々を苦しめ、扉の向こうには「地獄」や「闇」がひしめく世の中。パンにジャムを塗れる「普通の暮らし」を求めたデンジは、馬鹿のままじゃいられなくなった。そう実は、「普通の暮らし」の獲得は、無知のままが最短距離なのだ… 犬のように、強いものに巻かれながら……

 

何も考えず、判断を強いものに任せ、支配者が敷いたレールに乗る。そんな思考停止が実は一番楽で、平均的な「普通の暮らし」ができる。パンにジャムをぬれる。でも人間とは貪欲なもので、毎日ステーキが食いたくなるし、際限なくモテたくなる。そうなるとやはり、「支配」に抗わなければならない。

 

「普通の暮らし」を望んだ時点で実はもうダウトで、その欲にゴールは無い。隣の芝生は青い。人間はいつしか「普通」の水準を無意識に上げ、より利己的に上を望むようになる。「支配」に反抗し犠牲を払いながら、その「支配」を理解し、あるいは自らに喰らう事で、際限ない欲求から脱する術を見つける。

 

それは、家族や友人や仲間、およそ俗に「愛」と呼ばれるものであり、そういったコミュニティに自分を置き、あえて言えば「拠り所」を設ける事で、際限のない欲の高まり(果ての「支配」化)から脱出することができる。「支配」と戦い、理解し、咀嚼し、飲み込むことで、やっと腹落ちするのだ……。

 

「普通の暮らしがしたいけど、普通じゃ満足できない」。そんな、誰もが無意識に抱えるような鬱屈した薄い悩みに、今まさに直面した(直面させられた)デンジは、「支配」と戦って力技で普通を脱することを選ぶ。「それで満足なら犬でいた方が楽だ。嫌なら戦え。欲しけりゃ抗え」。極めてシンプルな真理。

 

チェンソーマンを弱体化させる為に概念への恐怖を低下させるマキマの策(マスコミ誘導によるチェンソーマン賛美)が、逆にデンジに際限ない欲の存在を気づかせ、「支配」からの脱却を図る糸口になった。敵の最大の攻撃が最大の失策にもなってしまう、少年漫画王道の展開!そして「仲間の力で勝つ」!

 

パワーの血の魔力の応用、岸辺先生から教わった狩人の策略、ポチタの生命力に賭けた起死回生の一手。そして、アキと暮らすことで身につけた調理という生活の手段。広義の「愛」の力、その全てをぶつけてマキマを無力化していくデンジ。「支配」に勝つ「愛」の総合力と、それを成立させた「教養」。

 

「教養」が人間を成長させる……  ひどい生活から父親を殺し、その記憶を自分の奥に封じ込め、借金地獄で泥のような生活を送っていた男は、「教養」を身につけ、人並みの生活と、人並みのコミュニティと、人並みの汚れた欲を知った…  だからもがくし、だから勝てた。なんとも美しい……

 

これが人間……  これが一般人…  これが「普通」…………  すごい、綺麗な着地だ……  お見事…

 

馬鹿のままじゃいられねぇんだなァ〜〜!それは、思考停止で犬のように支配される楽な暮らしなだけなんだ〜〜!教養を身につけ、生活の水準を高めて、嫌なことには嫌と言い、譲れなければ戦い、そうして自己実現して愛でもなんでも勝ち取るしかないんだなァ〜〜!めちゃくちゃ「普通」の話だ〜!!!!

 

デンジが「普通を得たからこその欲」に気づく93話のスリリングな演出、物語の構造やテーマがひっくり返りながら結実していくカタルシス。墓地に集う最終決戦の絵面。ひたすら殴り合うふたつの最悪。日常的な生活に着地していく恐怖。普遍的なテーマへの回帰。全てが上手すぎて変な声出しながら読んでた…

 

こんなバランスで漫画描けるのヤバくない!?!?!!!?????? センスが突き抜けた常識人じゃん!!!!!!!!!!!!!!!!そんなのアリかよ!!!!!!!!!!!なんだこれ!!!!くっっそ!!!!!!

 

こんだけ血を噴き出して首を飛ばしておいて最後の最後に「愛が大切ですね!」って真顔で語れるのさぁ〜〜〜〜〜  ほんっと〜〜〜  もう〜〜〜〜〜  そこに照れが無いのがさぁ〜〜〜〜  ほんっと、もう〜〜〜!!!!!

 

「マキマさんは俺を見ていなかったから勝てた」けど、「俺はマキマさんの噛む感触を覚えている」んだなァ〜〜〜!!!!!勝てねぇ〜!!!マキマさんには死んでも死んでも死んでも死んでも喰らっても、勝てねぇんだなぁ〜〜!!!!!!!!!!!

 

「支配」とは、他者に理想を押し付けること。マキマさんは(デンジではなく)チェンソーマンに自らの理想を押し付けすぎたが故に、遅れを取ったのだ。のらりくらり、気づかせずに飼い殺す方が、よっぽど「勝利」だったのだろう。「支配」はいつまでも、一般人が無教養の馬鹿でいてくれと願っている…

 

『チェンソーマン』を読んだだけで世界の構造に気づけたぜ!!!な〜〜んかオレ、スゲぇ頭良くなってきた気がするぜ!!!

 

んんんん〜!!!!!「面白い漫画」だった!!!!!!!!!!!!!ありがとうタツキ先生〜〜!!!!!!