ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

石は、積み上がったコンテクストの上で喋る

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令和2年春、『魔進戦隊キラメイジャー』が放送開始。コロナ騒動で何かと閉塞感が漂う状況なだけに、本作の元気いっぱいな「日曜の朝らしい」作風は、いつも以上にありがたさを感じるところ。一年間よろしくお願いします。

 

しかし『キラメイジャー』、先んじて上映された「エピソードZERO」を観た時も感じたのだけど、「石が喋る」のがとても面白いと思っていて。石ですよ、石。正確には宝石だけど。目や口は無いし、もちろん手足も無い。前後の概念も無い。それも、手のひらに収まる「いわゆる宝石サイズ」ではなく、赤にいたってはプラズマクラスターくらいの質量。そんな物質が、空中を浮遊しながら饒舌な日本語を操る。

 

ここに、どうしようもなく「スーパー戦隊シリーズ」の確かな歴史を感じてしまうのだ。

 

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もちろん、「無機物を喋らせる」、ひいては「無機物の擬人化」という話でいくと、それは戦隊なんかよりはるか彼方の歴史を辿る必要がある。それはそれとして、戦隊シリーズのガラパゴス的な進化というか、まさに「コンテクスト(文脈・脈絡」の蓄積のようなものを、どこまでも『キラメイジャー』に見い出してしまう。

 

私が本作で注目しているのは、東映からのプロデューサーが塚田英明氏である点。これがもう、色んな意味で作品のカラーを決定づけている。同氏が担当された戦隊作品は『デカレンジャー』や『マジレンジャー』、仮面ライダーだと『W』に『フォーゼ』。非常に明確な作家性というか、物語を構造していくピースに特徴があるなあ、と。

 

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ひとつは、設定・世界観を割とカチっと作り込むこと。これは単にバックグラウンドが云々というだけでなく、お話の舞台となる箱庭の空気感や温度、リアリティ・フィクションのラインを、かなり明確に定めて提示してくれる印象がある。お話の初期の段階で、「今年はこういう枠組みと路線です」という質感を視聴者に正確に伝えてくれる・・・ とでも言うのか。

 

そして、その土壌にとても「分かりやすい」主人公を配置する。この「分かりやすい」は決して悪いニュアンスではなく、キャラクターの芯が太いというか、それが生きる箱庭における役割や機能が明確である、という意味。

 

「主人公の役割や機能」という視点が、あらかじめ作り込まれた世界観としっかりリンクする。世界観が先か、主人公が先か。いや、どちらも絡み合って同時に存在するべきだ。そういった主張を、ついつい汲み取りたくなる。2話・3話・4話と観ていく中で、その正確なパズルの全容が段々と見えてきて、「ああ〜〜、なるほど」と。その納得感。つまるところの信頼感。それが、私の感じる塚田作品のカラーだ。

 

現状、『キラメイジャー』にも非常に「そういう手触り」を覚えている。その上で、戦隊シリーズは十数年前より更にコンテンツとしてガラパゴス化を極めている訳で、「やらなきゃならないこと」「描く必要があるもの」「扱っちゃいけないもの」といった諸条件は少なくないだろう。

 

その点、以下に引用するインタビューがとても読み応えがあった。「解かなきゃいけない方程式」という表現が素敵すぎる。

 

——現代社会とか、日本の状況とかを考えると、現在の特撮番組は複雑になっちゃいがちだと思います。

塚田 現代の特撮番組は作るにあたって解かなきゃいけない方程式が多いですが、その正解を出しつつ、“複雑なものをそう感じさせずにシンプルに見せる”のが、僕らのやるべき仕事だと思っています。やっぱり方程式が解けてないまま世に出ちゃうと、そういう番組もありますが、それはダメなんじゃないかなと。やっぱりスッキリ解答を出した上で、ちゃんと楽しめるものを作りたい、という意識ではいます。

『魔進戦隊キラメイジャー エピソード ZERO』公開記念!塚田&望月プロデューサーに訊く『キラメイジャー』ができるまで! | アニメージュプラス - アニメ・声優・特撮・漫画のニュース発信!

 

塚田プロデューサーのこのスタンス、「ちゃんと楽しめるもの」というゴール設定は、結果的に「21世紀戦隊」としての定番さを香らせることになった。

 

この「21世紀戦隊」というのは、それこそ『デカレンジャー』や『マジレンジャー』の頃に色濃かった、「明るく」「楽しく」「キャラクターが生き生きと躍動し」「根底がハードでも」「歌って踊って」「SFもして」「創意工夫に満ちた」、そんな雰囲気。『キラメイジャー』がどこか懐かしいのは、つまりはそういうことなのだろう。

 

事前に行った関係者の試写会などでは、もちろん、様々なお褒めの言葉もいただいたのですが、印象的だったのは<ちょっと懐かしい感じがした>とか<今風でもありレトロでもある>みたい感想がちらほらあがったところ。聞くところによると、「エピソードZERO」をご覧いただいた皆様のSNSなどでの感想にもそのようなご意見があったそうな…。私たちは決して狙いに狙ってそうしている訳ではなかったので(むしろ新しいものを作ろうと常日頃思ってますよ)ちょっと新鮮でした。ただ、企画の立ち上げ時から、「スーパー戦隊シリーズとは何ぞや」という基本的なところを今一度自己認識して、その上で新しい何かを肉付けしていこうというスタンスでスタートしているので、「戦隊は5人のチームヒーロー」「特撮の面白さの追求」といった当たり前の要素を当たり前に、おろそかにせず丁寧に作っていこうとした結果なのかな、と今は感じている次第です。ちょっと真面目になってしまいましたが、スタッフ、キャストの真摯な姿勢が、画にも表れていたのではないかと思います。

魔進戦隊キラメイジャー エピソード2 リーダーの証明 | 東映[テレビ]

 

だからこそ、東映公式HPのこの記述は、まさに「我が意を得たり」といったところ。

 

重要なのは、何も最初「懐かしさ」を求めて作った訳ではない、ということだ。「戦隊」というフォーマットの面白さを突き詰め、それが結果論として、「21世紀戦隊」のあの頃に回帰した。私は特撮ヒーロー番組における『デカレンジャー』のフォーマットは一種の完成形だと感じているが(『仮面ライダーW』もこの派生と位置づけられる)、そのベースに流れる「21世紀戦隊」のカラーが令和の今に蘇ったのは、どうにも感慨深い。

 

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先に「戦隊シリーズはガラパゴス化を極めた」と書いたが、先日観たNetflixで配信中の『ボクらを作ったオモチャたち』パワーレンジャー回でも、似たようなことが語られていた。このドキュメンド、すごく良く出来ていたんですよ。正直、驚くほどに。

 

『パワーレンジャー』を扱う上で、その背景を『ゴレンジャー』から語り始めても許されるでしょうに、懇切丁寧に特撮ヒーロー文化の成り立ちから追っていくのだ。東映版『スパイダーマン』やレオパルドンにまで言及しながら、ロボット玩具という商業的なポイントを分かりやすく解説してくれる。『カーレンジャー』をパワーレンジャーにしたら車玩具被りでトランスフォーマーに惨敗したとか、事前のテスト制作試写では大人たちに大不評だったとか、細かいエピソードも漏れなく興味深い。

 

www.netflix.com

 

つまるところ戦隊シリーズは、日本という島国文化の中で、とにかく独自に発達してきたものである、と。5人組の色彩鮮やかなヒーローチームが、戦って、敵を倒して、そしたら巨大化して、ロボットに合体して、もう一度倒す。その黄金のフォーマットの中で、各々の作品がどういう個性をアプローチしていくのか。SFXを主体とした特撮文化とも相まって、すごく独特なコンテクストが無限に積み重なっている。

 

そして、それは同時に、視聴者の頭や心にも文脈が蓄積されていることを意味する。「戦隊って、こういうものだ」「それはああいうものだ」「そういうパターンだ」「これが王道だ」。今や立派に世代を超えて、その構造やフォーマットが浸透しているのだ。

 

だからこそ、石が喋っても違和感がない。だって、「そういうもの」なのだ。戦隊シリーズには往々にして独創的なキャラクターがいて、それは時に司令官だったり、マスコットだったりする。特に近年では、キーアイテムを擬人化する流れが主流であり、主人公たちの周囲でチョコマカと動き回る。例えそれが巨大な宝石であっても、操演で宙を舞い、キャストが手に持って触れ合えば、十二分に「生きたキャラクター」なのだ。

 

「まるでそれ自身が喋って動いている」ことを演出するように、キャストが石を持ってヒョイ・ヒョイと動かす。コンテクストが蓄積されていない人の目には、「石を動かしながら虚無と喋る人」に映るかもしれない。でも、これはスーパー戦隊シリーズなのだから、間違いなく「意思を持った石とコミュニケーションを図る人」なのだ。それが、しっかりと通用する。

 

そして何より『キラメイジャー』を観ていて嬉しいのが、この「通用する」ことを、他でもない作り手が熟知し、その視聴者との関係性を絶対的に信頼していることが伺えることだ。「戦隊だからこれくらいで大丈夫でしょう」ではなく、「戦隊だからこそ表現はここまでやれるはずだ」。文脈という名の、戦隊シリーズが積み上げてきた歴史。その実績に対する自負。塚田プロデューサーらしい、「シリーズの可能性への自己言及」。そういった真摯な姿勢が見え隠れするからこそ、観ていて気持ちが良いのである。シリーズを、視聴者を、信頼してくれている。

 

だって、何度も書きますが、石ですよ石。まあまあの大きさの石。それがイケボでエモに喋って、何の違和感もなく観られるのだから、相当である。これを自然と受け入れている我々こそが、コンテクスト蓄積の証人なのだ。楽しく、慣らされている。

 

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