ジゴワットレポート

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『仮面ライダー剣』第34話、キングフォーム初登場シーンの演出を語りたい

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『仮面ライダー剣』の好きなシーンは山ほどある。が、やはり第34話のクライマックス、ブレイドが初めてキングフォームを発動するくだりが忘れられない。何十回も何百回も観返すけれど、それでも飽きがこない。最高のシーンである。

 

このシーンの素晴らしさは、とにかく演出の完成度に尽きる。TTFC(東映特撮ファンクラブ)に加入しているので、外出先のスキマ時間に、ついついスマホで鑑賞してしまう。緊迫のドラマとそれを盛り上げるBGM、計算されたカット割りから劇的な幕引きまで。飽きるほど観ても、良いものは良い。

 

劇場版 仮面ライダー剣(ブレイド) MISSING ACE [Blu-ray]

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この34話は、『劇場版 仮面ライダー剣 MISSING ACE』でも助監督を務められた息邦夫監督による回。

 

物語がジョーカーの危険性にフォーカスし始め、広瀬さんの父親も登場。トライアルシリーズも姿を現し、戦いは熾烈を極めていく。そして、ラウズカードが手元に無い状態ながら、スペードのキングであるコーカサスビートルアンデッドを見事封印するブレイド。「たとえカードが一枚も無くても!お前を封印できるはずだ!俺に!ライダーの資格があるなら!」。

 

この一連のバトルシーン、ブレイドの打撃をコーカサスの主観で撮ったり、スーツアクター・高岩さんの泥臭い粘りの演技が印象的だったりと、映像的に物凄く楽しい。挿入歌である『take it a try』の前奏が流れ始める瞬間も、コーカサスの盾にブレイドの拳が叩き込まれるそのタイミングにぴったり調整されていて、否が応でもアガる。

 

take it a try

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ブレイドがコーカサスの武具とブレイラウザーを二刀流するカットでは、じっくりとした腰の落とし方がお見事。やはり、ブレイドのファイトスタイルは「腰落とし」が肝だ。続く怒涛の攻勢、そして一閃。コーカサスの封印に成功する。

 

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しかし、間髪入れずトライアルDが急襲。剣崎を拉致するために襲い来る。

 

その猛攻に吹っ飛ばされるブレイド。まず、ここのロケーションが良い。ちょうど、凹んだビルの角に吹っ飛ばされるんですよ。これ以上は後退ができない、そんな位置。もちろん、野暮なことを言えば「横に逃げろ」なのだけど、そういうことではなく、「追いつめられている」という状態が視覚的に伝わるのが良い。こういうの、地味に大切。

 

瞬時にラウズアブゾーバーを起動するブレイド。クイーンをセットし、トライアルDを映しながら、緊張を煽るBGMが盛り上がっていく。BGMのボリュームが大きいので聞き逃しがちだが、実はここですでに、しっかりとアブゾーバーの待機音が鳴っている。だからこそ、BGMが終わると待機音だけがやや虚しく響く。手元のキングのカード。「キング、俺に力を貸してもらうぞ!」「気をつけなよ。レンゲルのように、封印したつもりで、僕に支配されないようにね」。このコーカサスの台詞を回想するカットでも、ずっと待機音が流れ続けている。これがまた良いのだ。

 

平成ライダーにおける待機音の演出は、玩具の発展と連動している。ベルトに何らかのアイテムをセットして、「変身」を発声し、ガシャンと操作を行う。その間、待機音が鳴り続けているのだ。これは、往々にしてどんなBGMより状況を盛り上げる。時には、その「鳴り続けている状態」で決めの台詞が入る。『剣』においても、変身シーンの剣崎が割とゆっくりと前方に腕をかざすため、待機音の印象は強い。

 

そんな一瞬の躊躇を打ち破るように、トライアルDが全速力で駆けてくる。もう迷っている場合ではない!と言わんばかりに、勢いよくキングのカードを読み込ませるブレイド。「エボリューションキング!」。そしてこの次のカット。引きの画で、カメラが左から右にゆっくりと移動する。左手前にあえてオブジェを捉えることで、若干の不穏さを漂わせる。この時点でカメラがグッと引いているのは、直後に大量のカードが宙を舞う、それを効果的に魅せるためだ。

 

電撃の音が鳴り響き、苦しむ剣崎。もちろん、BGMは流れない。無音の状態で、ひたすらに緊迫感だけが漂う。そして、挿入される『最強!』のナンバー。ここでブレイドのメインテーマ『華麗なるブレイド』のアレンジですよ!熱い!これが鳴り始める瞬間は、カードが宙に展開されるのとドンピシャのタイミング。鮮やかで雄々しいBGMと、不穏しかないキングフォーム。そのアンバランスが観る者のテンションを上げる。

 

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華麗なるブレイド

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遠隔で観ている広瀬パパの「あれは……」を経て、ついにキングフォームへと変化する剣崎。「13体のアンデッドと同時に融合する」、その特異性をこれでもかとビジュアルで魅せる。ジャン・ジャン・ジャン……とテンポよく全身に張り付いていくその演出は、あまりに印象的である。シリーズ殿堂入りのカメラぐるぐる。直後、トライアルDをワンパンで迎撃。そのカットで、やっとこさキングフォームの全身が披露される。

 

そこからは、平成ライダーお決まりの「新フォームが登場した際に全身を舐めるように撮る」演出。ここで注目なのは、ライトが次々と当てられていくこと。この頃のシリーズ初期は、「ライトを当てる」という演出手法がよく用いられていた。意図や構造としては、お化けの顔の下から光を照らすのと同じ。状況によって、赤や緑のライトを怪人に当てる。おどろおどろしい感じをアナログで魅せる手法だ。近年の東映ヒーローはCGで鮮やかに光らせることも多いが、やはりこのライト演出は大好物である。今や懐かしい。

 

しかし今回においては、ライトが当たる演出にそれ以上の意味がある。それは、キングフォームの全身に配置されたラウズカードのレリーフ、その凝った造形を受け手に伝えること。順にライトが当たることで、レリーフのアンデッドにくっきりと印影ができる。美しい金の装飾、そして、「13体同時融合」。その造形美と物語的意味合いを、ライトでアナログに補強していくのである。

 

「カテゴリーキングと融合した!……これが、キングフォーム……」。そう呟く橘さんを、広瀬パパが速攻で否定する。「いや!彼は13体のアンデッドと同時に融合している」「そんなことが!?」「普通ならあり得ない。だが彼は……」。今回の一連のシーンにおいて、私が最も気に入っているのはこのポイントである。広瀬パパの「普通ならあり得ない。だが彼は……」。ここがちょうど、BGMのフレーズにおける緩急、計4小節にしっかり収まっているんですよ!メインテーマに回帰する前の、音楽的「溜め」の部分。そこに外野の解説をはめこんでしまう。

 

駆け上るストリングスが音楽を盛り上げながら、もう一度メインテーマに到着。そのタイミングに合わせて、カットもキングフォームに切り替わる。全身から発動されるラウズカードを連続で読み込ませ、ロイヤルストレートフラッシュを発動。キングラウザーを構えたところで物語は幕を下ろす。BGMもそれに合わせて、ジャジャン!と終わるのだ。

 

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この一連のシーン、本当に素晴らしい。大好きである。「カット割り」「演出」「BGM」「台詞」「間の取り方」等々、全てがキングフォームを劇的に印象付けるために機能している。

 

何より重要なのは、このキングフォームは本来想定されていたキングフォームとは異なる、「剣崎の高すぎる融合係数がもたらした未知の姿」、という点だ。コーカサスの力だけでなく、13体のアンデッドと同時に融合してしまった。その衝撃的な事実を、華麗なBGMに乗せて解説していく。不安と興奮をこれでもかと煽る。

 

ちなみに、直前の「気をつけなよ。レンゲルのように、封印したつもりで、僕に支配されないようにね」の脅しを見事に封殺しているのが痛快である。キングに支配されるどころか、剣崎自身が13体ものアンデッドを同時に取り込んでしまった。キングの「個」を封じ、それ以上の結果を導く。剣崎が運命を切り拓いていく、その展開に胸が熱くなる。

 

満を持しての上位フォーム初登場なので、あえて意地悪に言えば、どう撮ろうがそれなりに盛り上がるのだろう。しかしこの34話は、「13体同時融合の変則キングフォーム」というスペシャルな事実に箔をつけるため、全ての演出をロジカルに調整している。じっくり観返せば観返すほどに、その計算が見えてくる。

 

カットが切り替わるタイミング、BGMの流れ、アナログな演出手法。数々の工夫の頂点に立つキングフォーム。至高である。

 

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