「おつかれ~」
「ごめん、ちょっと遅くなったわ」
「どうする? 生?」
「いや、最近は炭酸がきつくってさ。ハイボールで」
「ハイボールも炭酸だろ」
「違いねぇ~~」
「サラダとか刺身とか適当に頼んどいたけど」
「助かるわ。学生の頃はいきなりから揚げとか頼んでたけどな」
「わかる。今は厳しくなってきた」
「ここ日本酒も美味しいらしいから後で試そうぜ」
「いいねぇ」
「そうそう、ところで最近、仮面ライダー見てる?」
「そりゃあ、見てるよ。幼少期からずっと見てるよ」
「ぶっちゃけ最近どうよ? いや、実は自分ちょっと意欲が落ちてきてて……」
「ガッチャードも、ギーツも、面白かったぞ。てか何か不満があるの?」
「不満ってほどじゃないのよ。ただ、自分がイメージする仮面ライダー像みたいものとは、やや離れちゃってるかな、って」
「なるほどなぁ~。とはいえ、近年のも割と読み込んでいけば仮面ライダーらしさみたいなのは随所にあったりするんだぜ」
「それは分かるよ。怪人とパワーソースが近いアイテムを使って変身したり、だろ? 悪と同じ力を行使する、これすなわちショッカーの改造人間である仮面ライダーの本懐な訳であって」
「急に語るじゃん」
「さっき仮面ライダーらしさって言ったけどさ、それも色々とパターンがある訳よ。71年にTV放送された特撮テレビドラマとしての『仮面ライダー』と、その原作者である石森章太郎が描いた萬画版の『仮面ライダー』とでは、持ち味がちょっと違ったりもするし。まぁこれは一般的な原作モノではなく一種のメディアミックスというのが肝なんだけど」
「飲み物きてからでもよくない?」
「こちらお飲み物になります~」
「ども」
「ども」
「いや別にね、俺も面倒くさい原理主義者みたいなのは嫌なのよ。いうて平成ライダーの方が世代だし。昭和世代の諸先輩方から色々言われるのは良い気持ちじゃなかった。仮面ライダーは1人であれとか、武器を使うなとか、ちゃんとバイクに乗れとか……」
「はい、乾杯。おつかれ~」
「ただやっぱり、この歳になるとどうしても、こういうのが仮面ライダーの魅力なんじゃないかなぁ~ ってのが昔より固まってきて、そういうのが観たいなって思ってしまうのよ」
「まぁねぇ。分かるっちゃ分かるけど。例えばどんなのよ?」
「例えばというと?」
「こういう展開だと俺の好みだ~! みたいの、挙げてみてってことさ」
「それでいくなら、まずは善悪同源でしょう。味方と敵が同じ異能を持っている。それでいて、裏切りや同族殺しの要素も欲しい。玩具と連動したアイテムでその構図を取るのもいいんだけど、がっつり同じ陣営や種族で!同じ者同士で殺し合いします!ってのが観たい訳じゃん。同じ種族で争うからこそ、なんのために同族を手にかけるのか、そこにある主義主張の違いが浮き彫りになるのよ」
「『ファイズ』のオルフェノクみたいなやつね」
「自分と近しい存在を手にかけないといけない、なぜなら、自分にとって守りたいものがあるから。それは平和でも人類でも大自然でも仲間でもいいんだけど、とにかく善悪同源を設定の根幹にした物語が好きでね。主人公の出自が悪というか。そこに生まれる、裏切りの美学よ」
「仮面ライダーが好きでそれが嫌いな奴はおらんでしょ」
「でもさ、でもさ。一般市民にとっては敵だけでなく仮面ライダーも、等しく怪人なんだよなぁ~~~~」
「でたぁ~~~~~~~~~」
「最高~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「やっぱり未確認生命体第2号なんですよ」
「助けられた側が困惑したり、なんなら拒絶されたりね」
「大丈夫ですか!今のうちに逃げてください!」
「きゃー!化け物!!こないで!!!」
「いい~~~~~~~~~~~~~~~~」
「この不憫な感じが仮面ライダーの魅力だと思うんだよ。かわいそう、だからかっこいい。これは俺の仮説なんだけど、スパイダーマンって日本でもかなり人気じゃん。あれって、スパイダーマンがちゃんと不憫だからだと思うんだよね」
「陽気なキャラクターに見せかけて境遇とか結構シビアだもんね、スパイディ」
「あ、でもさ。同族殺しにはそれはそれとして躊躇して欲しいのよ」
「お前面倒くさいな」
「ショッカー怪人だからといって即殺って訳じゃなく。仮面ライダーだって立派なショッカー怪人のひとりだったのだから、もしかしたら相対している怪人も自分と同じように平和のために戦う戦士になってくれる、かも、しれない。改造人間だと元は人間だしね。そこに捨てきれない望みを抱いちゃったりもするけど、でも、それは得てして叶わない」
「だからこそ、って奴ね。そんな相手を手にかけるからこそ、悲哀がある」
「そう。その涙を、苦悩を、仮面で覆う。これぞ仮面ライダー」
「まぁ分かるよ」
「あとはやっぱり孤独に戦っていて欲しくはあるね。いや、昔から仮面ライダーに協力者は付き物だけど、なんていうのかな……。精神的には孤独というか、その哀愁というか。運命に呪われてしまった者の苦悩をひとり抱え込んでいるというか」
「お前やっぱり面倒くさい奴になったな」
「そういう孤独な仮面ライダーが、ある少年とだけは心を通わせたりね。そこに一瞬の絆が生まれるというか」
「おいおいおい『ZO』かよ。いや分かるよ、最高だよな」
「お兄ちゃ~ん!! ライダー!!!」
「♪ テレレレ テレレレ テレレレ テレレレ」
「あるいは『アギト』28話ね。ただ一度の小林靖子脚本回」
「見てたら、辛いのが分かった。痛いのが分かったから……」
「よせよ、よせって!」
「確かに仮面ライダーと少年の組み合わせはグッとくるものがあるよな。バイクで独り走り去っていくその背中が、どこか物憂げで、でも大きくて頼もしくて」
「そういう哀愁に満ちた仮面ライダーをまた観たいのよ~。あ、あと改造人間ね」
「めっちゃ挙げてくるじゃん」
「別にそのまま改造人間をやって欲しい訳じゃなくて。そこは時代に合わせて色んなバリエーションでいいんだけど、とにかく人外であって欲しいのよ。人ならざる者。さっきでいう不憫さが生態そのものに効いてるというか、不穏な個体でいて欲しいのね。それがヒーロー行為をやるから味が出る」
「でも分かるなぁ。仮面ライダーならどこかに陰の空気をまとっていて欲しい、みたいな。好みによるところも大きいけど、言いたいことは分かるよ」
「そういった陰の要素、悪や裏切り、不憫で不穏で……。だからこそ、少年と心を通わせたりバイクで走り去っていくヒーロー然とした姿に、哀愁が漂う訳よなぁ~。哀愁と書いてかっこいいと読む!」
「とはいえ、さ。仮面ライダーは今や玩具市場を含めた大きなコンテンツだから、どうしても子供たちの目を惹くフックは欠かせないけどね。派手だったり、どぎついカラーリングだったり、変身したら歌が流れたり……。そういった要素は、お前が求める哀愁とは対極にあることが多いじゃん」
「どうしても賑やかになっちゃうからなぁ」
「でもほら、『鎧武』とかその辺が上手かったのよ。果物モチーフというポピュラーな要素で擬態しておいて、一皮剥いたら結構エグいことやってる、みたいな」
「わかる。というか、それこそ初代の仮面ライダーだって飛蝗の仮面は十分に突飛なアイデアだったはずなんだよ。えっ、なにこれ、というフック。その絶妙に奇妙なニュアンスも、仮面ライダーの持ち味なんだよなぁ」
「庵野監督の『シン・仮面ライダー』は良かったよね。ライダーの佇まいにちょっと奇妙な感じがあって。あの異形さが良いのよ」
「それな」
「だからさ、ポップな要素で商品展開して、それで耳目を集めておいて、でも実のところは結構ハードなことやってる。仮面ライダーなりの悲哀さが存分に盛り込まれている。そういったバランスが現代の仮面ライダーにおけるひとつのスタイルなのかもしれないね、って」
「なるほどなぁ。確かに、いわゆるオタク向けに見るからにハードなものは『アマゾンズ』も『BLACK SUN』もあった訳だし」
「あと、やっぱり今もアクションがすごいんだよ。よく観ていない人に限ってCGばかりとか腐すけど。本編監督やアクション監督のスタッフ陣も若い世代が台頭してきて、従来の仮面ライダーにはなかった魅せ方も増えてきた」
「確かに『ゼロワン』とか回によっては凄まじかったな。VFXを多用しつつも、アナログ特撮の良さを巧く取り込んで折衷してたり」
「最近だと『ギーツ』もアクションが魅力的だったよ。ライダーごとに違った武器や戦闘スタイルがあるのを強調していて、フィールドの高低差や特性を活用したり、とにかく工夫やアイデアが連続するから観ていて飽きがこない」
「仮面ライダーは言うまでもなく特撮テレビドラマだから、やっぱりアクションは面白くあって欲しいね。お話だけじゃなくて」
「それは勿論そうなんだよ」
「う~~ん」
「どした?」
「じゃあなにか? ポップな見た目だけど実はハードな物語で、いかにも仮面ライダー的な善悪同源や裏切りや同族殺しの要素があって、少年と心を通わせたりバイクで去っていくような哀愁があって、それでいてアクションはVFXとアナログ特撮をいいとこ取りしたような、そんな仮面ライダーが俺は観たいってことか?」
「俺に聞くなよ」
「そんな上手い話、ある訳ないだろ。ははは」
「んっ、なんだ!?」
「うわっ!」
「全部やりました」
「えっ」
「えっ」
「先程からのやつ、1話で全部やりました」
「き、君は!?」
「2024年9月1日(日)朝9時より放送開始の新番組、仮面ライダーガヴ!?」
引用:https://x.com/HKR20_official/status/1830021966079934757
「今なら期間限定で、第1話がYouTubeで公開中です。各種サービスで見逃し配信もやっていますので、そちらもご活用ください」
「至れり尽くせりかよ」
「ちなみに。少なくとも序盤のしばらくは、主人公は自身が仮面ライダーであることを周囲に隠しながら戦います」
「「ありがとうございます!!!」」