ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

福岡の「ちょうどいい」に憧れて

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私は今も、福岡という街に憧れている。

 

間違いなく「住みたかった街」だ。その昔、職の都合で数年間だけ福岡市内に暮らしていたのだが、その頃に感じた「居心地の良さ」を、今も幻影のように追い続けている。

 

数ヵ月前、東京に住む友人と福岡で会う機会があった。「せっかくだからどこか観光に行きたい」と言う友人を前に、思わず口をつぐんでしまう私。住んだことがある人なら何となく同意してくれると思うが、実は福岡はあまり「観光」には向いていない。正確には「観光スポット」なのだが。

 

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それは、スポットの意味でいくと、結局は首都圏の縮小版としての側面が大きいからだ。キャナルシティも大規模な商業施設だが、何か特別珍しい店舗が入っている訳ではない(少なくとも各種ブランドに疎い私にとっては・・・)。博多駅も駅前に鎮座していた郵便局が移って久しいが、これまた首都圏の都市と近い要素が増えてきた。天神にも大きな無印良品のビルが入ったが、わざわざ都会から訪れた人が行くところではない。

 

あえて挙げるなら、それは「食」だろう。魅力的な食事の数々。明太子にもつ鍋、焼き鳥にラーメン。お酒も幅が広い。福岡の観光は「食」と切っても切り離せないが、逆に言えばそれぐらいである。福岡の街は、それより都会から来た人をもてなすスポットに乏しい。

 

しかし、そこにこそ私の憧れが詰まっている。今や限界田舎で暮らす私にとって、あの極端に凝縮された街には言葉にし難い魅力がある。

 

天神と博多。住んだことが無い人には伝わりにくいかもしれないが、実は十二分に徒歩圏内である。中州を経由するように突っ切ると、成人男性なら片道30分もあれば十分すぎるほど。適度なウォーキングコース。そう、福岡という街は、異常なまでにコンパクトに発達している。そして、そんな程よい狭さの街中を、無数の西鉄バスとタクシーが走っているのだ。

 

天神には広大な地下街が広がっており、そこから各種デパ地下へのアクセスが容易である。上手く歩けば結構な距離を地下に居ながら移動できるため、特に夏場は地下の利用者が多い。天神駅を一歩出てマクドナルドの方向に歩くと、少し古い印象を受ける商店街。すぐ横にはソラリアが鎮座し、そのまた横には公園が広がる。何となく筋に入れば大名に行き着き、シャレオツな店舗や人で溢れ返る。探せば探すほど、飲み屋とショップが発見できる。

 

博多はどうだろう。実はビジネス街としての側面が強いため、観光としては長らく天神に劣っていた。しかし近年では、阪急や東急ハンズ、マルイや大規模イルミネーションなど、観光ポイントの上昇率がえぐい。交通の要所という印象が、ここ数年で大きく塗り替えられた。筑紫口から出ると、私のようなオタクは「取りあえず」ヨドバシに足が向く。何てことはない。何かを買わないことも多い。でも、「取りあえず」ヨドバシなのだ。

 

福岡のコンパクト性、それによる各種アクセスの利便性は、実際に暮らすと嫌というほどに実感する。空港から直に地下鉄に乗った数分後、そこは博多であり、天神である。驚異的な近さだ。空港から、一切外に出ることなく天神の地下街をウロつくことができる。逆に言えば、かなりギリギリまで街中で飲むことが許される。

 

あるいは西鉄バス。思わず笑ってしまうほどに走っている。同じ行先表示のバスがひとつのバス停で渋滞する極端さ。福岡市内に住んでバスの時刻を調べたことは無かった。だって、いつでも走っているのだ。取りあえずバス停に行けば何とかなる。タクシーもひっきりなしだ。飲んだ後は大通りに出て手を挙げればそれで済む。福岡中心街において、「タクシーを呼ぶ」という行為はもはやギャグである。

 

だからこそ、暮らす分にはこの上なく便利だ。立派な観光地にはなり切れず、しかし、生活するには十分すぎる都市機能。純粋に、生活の精度をそこそこ高く保つことができる。もっと都会に住む人からすれば、わざわざ行く場所ではないのかもしれない。しかし、福岡は圧倒的に「ちょうどいい」のだ。暮らすのに「ちょうどいい」。

 

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大濠公園にはちょうどいい分量の自然があるし、そこから長浜ラーメンを食べに行けるコースもちょうどいい。潮風を浴びながら天神までゆっくり散歩して、KBCシネマでミニシアター系の映画を観るのもちょうどいい。天神界隈にはオタク向けのショップもあるし、少し歩いた先にロフトがあるのもちょうどいい。屋台だってある。裏路地に入れば個性豊かな店が並ぶし、今泉あたりの無駄にシャレオツな店舗の数々もちょうどいい。

 

春吉近辺もどんどん様変わりしているし、西中洲に点在する高級なバーや料亭もひっそりとしていてちょうどいい。眠らない中洲は天神と博多を繋ぎ、キャナルがそのすぐ隣にあるのもちょうどいい。少し目線を変えれば博多座という巨大な文化施設があるのもちょうどいいし、そこからならサンパレスやマリンメッセにも徒歩でアクセスできるのがちょうどいい。地下鉄空港線を追うように駅に向かえば、長らく分断が悩みの種だったバスターミナルと博多駅を繋ぐペデストリアンデッキがちょうどいい。

 

西鉄バスやタクシーに依存するのも良いが、実は車を持っていてもちょうどいい。3号線を上がれば庶民の生活を支えるニトリやゆめタウンまで割とすぐに辿り着けるし、小粒ぞろいの飲食店もちょうどいい。ドライブスルーのスタバを経由しながら貝塚に天ぷらのひらおを食べに行くのもちょうどいいし、そこからドライブを兼ねてIKEAに行くのもちょうどいい。逆方面に車を走らせれば糸島の綺麗な海沿いの景色がちょうどいいし、大学が立ち並ぶ街並みを眺めるのもちょうどいい。都市高速を意味もなく一周しながら適当なところで降りるのもちょうどいいし、福岡の属国かもしれない鳥栖を経由すれば九州のあらゆる観光地へ行けるのもちょうどいい。

 

そんなこんな「ちょうどいい」の集合体、コンパクトで観光性能が高すぎないシティ、それこそが福岡である。思わず、目的が無くてもウロウロしてしまう街並み。特に何を買う訳でもないが、そこを歩けば何となく楽しい。適当に入るお店が美味しい。活気のある地方都市。ゴミ出しを夜に行えるのも最高だし、増税後も変わらず290円で提供されるラーメンは至高である。

 

「行きたい」ではなく「住みたい」。そんな街に今日も憧れながら、バスが1台も見当たらない田舎の大通りをマイカーで駆け抜けるのであった。

 

うどんWalker福岡・九州 ウォーカームック

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by リクルート住まいカンパニー