ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

ウルトラマンネクサスが『X』で魅せた11年ぶりの「夜襲」

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思わず、咽び泣いてしまった。

 

場所は自宅のリビング。風呂上りの嫁さんはサッパリしてリビングに戻ったら旦那が嗚咽を漏らしていたので、正直ドン引きしたことだろう。しかし、『ウルトラマンX』第20話「絆 -Unite-」を観たその時の私は、人目(嫁目)をはばからずに泣き続けた。どうしても涙が止まらなかったのだ。

 

夜襲 -ナイトレイド-

 

さかのぼること11年前の2004年、『ウルトラマンネクサス』の放送が開始された。

 

※当記事は、移転前のブログに掲載した記事を転載し、加筆修正を行ったものです。(初稿:2015/12/9)

 

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ウルトラシリーズにおける異色作として、今もなお語り継がれている『ネクサス』。

 

「主人公はウルトラマンにならない」「ウルトラマンになる人間は劇中で変わっていく」「毎週必ず怪獣を倒す訳ではない」「陰鬱としたテイストで描かれる連続ドラマ」。結果として、その新機軸は広く受け入れられたとは言い難く、物語は早期終了という形で幕を閉じた。

 

『ネクサス』の予算事情については、決して、潤沢なものではなかったのだろう。円谷プロ自体が経営難だったことが最大の要因だ。それを受けてか、ネクサスは自ら「メタフィールド」という亜空間(別次元)を作り出し、そこで怪獣と戦うという設定が設けられた。もちろん、その亜空間は毎回同じセットであるため、ミニチュアの予算を大幅に削減できる。敵怪獣・スペースビーストは良くも悪くも生命力が強く、何週にもわたってウルトラマンと戦い続けた。これもまた、怪獣の着ぐるみにかける予算を削減する意味を持つ。

 

これらの「製作上の都合」が卵か鶏かは分からないが、作劇はそれを補うように構成されていった。

 

元レスキュー隊員の主人公・孤門一輝は、ある日銀色の巨人に命を救われる。そのウルトラマンに変身する姫矢准という青年は、戦場カメラマンの経験からトラウマと自責の念を抱き、孤独な戦いを続けていた。「ウルトラマンは我々の知らない亜空間で戦っている」というミステリアスな設定が、「次第に姫矢の心の内を知っていく孤門」という謎解きの構図に重なっていく。また、いわゆる「防衛隊」にあたるナイトレイダーも、多彩な科学を用いて事態の隠蔽を図る組織であり、その隠蔽性もウルトラマンそのものの謎や神秘性に一役買っている。

 

後にネクサスの力は千樹憐という青年に受け継がれる。そして、彼の自身の命を軽視した戦いぶりを、姫矢との関わりを経て成長した孤門がたしなめる、という流れに繋がっていく。

 

そんな憐の生い立ちを入り口として、ナイトレイダーという組織やネクサスの謎が明かされていくも、この辺りで番組の早期終了が見えてしまう。しかし、「巻き」の展開でありながら「ネクサスがネクサスらしくあること」を制作陣は最後まで崩さなかった。今でこそネットでは『ネクサス』を称賛する声に溢れているが(私もご多分に漏れずそのひとりだが)、もしかしたら、同作は早期終了を迎えたからこそ、ここまで語られているのかもしれない。あの怒涛のクライマックスと、リアルタイムでの「嗚呼、終わってしまう・・・」という冷や汗を伴う感覚。それが、作り手と視聴者に過度の緊張感をもたらしていたのだろう。

 

とは言いつつ、私は『ネクサス』は決して「驚くほど良く出来た作品」には届かないと感じている。

 

「好き」と「クオリティが高い」は、往々にしてイコールではないのだ。毎週のように似たような怪獣が出てくるにも関わらず、ウルトラマンは中々それを倒せない。そして、毎度のように苦戦する。数々の挑戦以前に、特撮ヒーローという土壌に一般的に求められる「カタルシス」「爽快感」というものが非常に偏っている。また、主人公がひたすら悩み続けるのも特徴で、恋人を悲惨な形で失った際には、放送リアルタイム換算で1ヶ月ほど抜け殻状態になっていた。土曜の朝に観る番組として、これほど不親切なものはない。

 

しかし、様々な(主に制作的に)過酷な状況の中でも、非常に熱い志で作られていることがカットごとにガンガン伝わってくる。それをウルトラマンでやるという構造そのものが、当時の私の頭を毎週のように殴り、酔わせていた。だからこそ、“私の中で”、『ウルトラマンネクサス』は間違いのない傑作のひとつにカウントされている。

 

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そんな劇的な最終回から、11年。シリーズ最新作である『ウルトラマンX』に、ネクサスが客演での登場を果たした。

 

『X』は、改めて振り返るとまさに「2周目のウルトラマンメビウス」とも言うべきタイトルに成長を遂げており、平成以降のウルトラマンたちが、多数、ゲスト登場を果たした。それも、ただ出てくるだけではない。しっかりと原典の面白さや魅力がそこに活きているため、ファンにはたまらない演出が頻出。何より、制作陣が「こだわって」「楽しく」やっていることがひしひしと伝わってくる。その明確なベクトルに、毎回大いに楽しませてもらった。(もちろん、客演回以外のアベレージも非常に高いということを書き添えておきたい)

 

 

第20話「絆 -Unite-」にて、ネクサスはなんと、防衛隊Xioの女性副隊長・橘さゆりを変身者として登場する。

 

ネクサスに変身できる者、つまり適能者(デュナミスト)であるが、それをすでに20話近く登場していた既存のキャラクターに割り当てるとは、とても大胆な構成である。とはいえ、そもそも「客演」なのだ。正直、孤門や姫矢がウルトラマンXとなる大空大地の前に現れて、「諦めるな!」と声をかけネクサスに変身し、一緒に戦った最後にオーバーレイ・シュトロームでも一発撃ってくれれば、それだけで拍手喝采する用意は存分にできていた。「ネクサスがまたテレビで観られる」、それこそが最大の旨味だからだ。

 

しかし、阿部雄一監督率いる制作陣は、当時と同じようなある種こちらを突き放す志の熱さを、11年ぶりに作中に込めた。

 

「女性の副隊長」がネクサスの適能者に選ばれるのは、言うまでもなく原典のナイトレイダー副隊長・西条凪をオマージュしたものだ。そう、ネクサスの力は受け継がれていくからこそ意味があり、それは作中でも度々明言されてきたことだった。ある意味、「孤門や姫矢が10年が経った今もネクサスの適能者であってはいけない」のだ。

 

だからこそ、まさかのシークレットゲストとして登場した孤門役の川久保拓司は、そのレスキューぶりでファンサービスを振りまきつつ、ネクサスをどこか確信じみた表情で見つめるだけに留まった。それは、過去に自身が持っていた力だからか、妻の鼓動を感じたからか。上手い塩梅でボカして魅せた演出に、惚れ惚れするばかりだ。

 

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その相手としてベムラーが登場するのは、ネクサスの第0話に相当する映画『ULTRAMAN』の敵怪獣ザ・ワンを引用しているのだろう。そこから繋いでか、湖で暴れるのも初代『ウルトラマン』の1話と同じである。

 

他にも、スペースビーストを上からの拳ひとつで倒すアンファンス、新宿というロケ地、何より「女性がウルトラマンに変身する」というインパクトなど、初めて『ネクサス』を目にした2004年10月2日の朝8時と同じ感覚に襲われてばかりだった。11年前に第1話「夜襲 -ナイトレイド-」を観た時の、「うわッ!これはこれまでのウルトラマンとは違う・・・!何かすごいものを観ている気がする!」という、ワクワク感。同時に込み上げる、「ウルトラマンでこれをやっていいの?」という仄かな焦燥感。

 

『ネクサス』が持つ観る側を突き放す不親切さは、作品に込められた志の熱さとイコールだ。だからこそ、その突き放された分の「距離感」を埋めたくて、視聴者は必死にそれを追いかける。そうして、次第に心を囚われていく。そんなあの頃の心の動きと全く同じパターンが、11年ぶりに、私の中で起きた。

 

「え?え?」と戸惑いながら。驚きながら。そうした、見えや絵面だけでなく『ネクサス』という番組そのものを客演させる手法。そしてそれを見事に「やれている」ことへの感動。これで嗚咽を漏らさない訳にはいかなかった。「感動して泣く」という言葉じゃ到底足りない感覚が、思いっきり頭を殴ってきたのだ。

 

メタフィールドなのにやや雲が見えすぎているとか、橘副隊長ならではの色違いのジュネッス形態が観たかったとか、その手の面倒オタクな感想も無いと言えば嘘になる。しかし、ただ単にネクサスを登場させるだけでなく、「ネクサスを客演させるという意義」をこれほどまでに高い地点に見出し、それが見事に達成されたこの『X』第20話は、本当に、素晴らしかったのだ。

 

現役の子供たちは、「ネクサスは女性が変身するウルトラマン」とでも捉えただろうか。それも、全く間違いではない。でも確実に伝わったのは、「ネクサスは他とは何かが違う変なウルトラマン」という、今後も不変であろう評価の根っこの部分であると、一介のこじらせたオタクとして信じて疑わないのだ。

 

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