2009年9月6日、『仮面ライダーW』の放送が開始された。
例年「冬に始まって冬に終わる」が恒例だった平成仮面ライダーが、『ディケイド』を経て初の秋スタートへ。事前の告知PVで大々的に「平成仮面ライダー10周年プロジェクト 秋の陣」が謳われた時の高揚感を、今でもよく覚えてる。
第1話冒頭、鳴り響くサイレンの音と、帽子を託して絶命する白い服の男。悪魔との相乗り、激高の変身。暗闇の中で爆発する高層ビルと、マフラーをはためかせながら眼を光らせる仮面ライダー。分単位で押し寄せるキラーカットに、一気に心を掴まれた。「なんかすごいのが始まったぞ・・・!」。その期待を裏切ることなく、そこから一年間、上質なエンターテインメントを存分に楽しませてもらった。
本日、2019年9月6日。あの第1話からちょうど10年が経過した。
Twitterでは #仮面ライダーW10周年 のタグが朝早くからトレンド入りするなど、依然とした人気ぶりが伺える。平成ライダーにおける「2期」の呼称もすっかり定着したが、『W』当時はまだどこか不思議な感覚があったものだ。そこから10年。シリーズを総括する『ジオウ』が先日最終回を迎え、物語は次なる令和ライダーへ突入した。
#仮面ライダーW10周年 ファンからお祝いのメッセージが寄せられていますhttps://t.co/MCw4yB1LFk
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仮面ライダーW放送開始10周年!#仮面ライダーW10周年 #風都探偵 pic.twitter.com/W0LlSGXLis
— 佐藤まさき (@masayakofu) September 6, 2019
祝!仮面ライダーW放送開始10周年‼︎ Wのその後の物語が描かれている三条陸先生原作の正統続編コミック「風都探偵」はビッグコミックスピリッツにて連載中!単行本1〜6集も累計125万部突破のヒット中です!まだ未読のWファンの皆様もこの機会にぜひ。これで決まりだ!#仮面ライダーW10周年 #風都探偵 pic.twitter.com/JQOCqM6xxd
— 「風都探偵」公式 (@fuutokoushiki) September 6, 2019
【祝】仮面ライダーW 放送10周年!!
— バンダイ キャンディ公式 (@candytoy_c) September 6, 2019
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10年もあれば、幼稚園児は思春期を迎え、小学生は酒を飲み、中学生は就職し、高校生はアラサーになる。今や『W』はすっかり「過去の作品」となってしまった。とはいえ、記憶の中ではまだまだ鮮明なあの一年間を、良い機会なので振り返ってみたいと思う。
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Wの姿を最初に見たのは、どのタイミングだっただろう。正確にはもう覚えていない。
劇中でも「半分こ怪人」と呼ばれていたが、その大胆な色使いには心底驚いた。しかしどうだろう、それまで見たことがない新ヒーローのはずなのに、妙に既視感がある。風になびくマフラー、すっきりとしたフォルム、緑と黒のカラーリング、クラッシャーのような口元の造形と大きなアンテナ。そこには、紛れもない「仮面ライダーの記号」が詰め込まれていた。(これは余談だが、以前、仮面ライダーに詳しくない嫁さんに平成ライダーが集合している画像を見せて「どれが仮面ライダーっぽい?」と聞いたところ、即答で指を指したのがWであった)
そして、2本のガイアメモリで変身するというが、それぞれが「サイクロン」「ジョーカー」という名前らしい。「サイクロン」は、言わずもがな初代『仮面ライダー』1号のバイクの名称。「ジョーカー」は、『仮面ライダー剣』における最重要個体を指していた。もちろん、直接的にそれらが物語に関わることはないのだが、シリーズファンへの目配せのようなものを感じてしまい、どうしようもなくワクワクしたものだ。
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そのWに変身するには、ふたりが同時にポーズを取り、片方が気絶し、もう片方に意識が憑依することでWになるのだという。とっさに「要は『電王』みたいな感じ?」とイメージが浮かぶ。とはいえ、「ふたりで変身する」というアプローチについては、『ウルトラマンエース』『超人バロム・1』といった前例があるので、自分の中では意外とすんなり受け入れていた。
そして、『オールライダー対大ショッカー』での先行登場を経て、実際の放送が開始。第1話初っ端の「さあ、お前の罪を数えろ」のアフレコが微妙にズレているのが気になりつつ、『探偵物語』を汲んだ職業モノとしての精度の高さに驚かされた。第2話では早速メインふたりの喧嘩を描き、そこからの再生、変身、カーチェイスにCG盛り沢山のアクションなど、見所が続く。続く「Mに手を出すな」がフォーマットとして非常に完成度が高く、「少女…A」では市井の人々とヒーローとの距離感に痺れた。
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『W』が面白いのは、『特捜戦隊デカレンジャー』等でも描かれた「職業×事件モノ」のフォーマットが、物語の基盤にしっかりと敷かれているところにある。
この塚田英明プロデューサーによるきっちりとした作りに、少年漫画的な熱さとガジェットの融合に長けた三条陸脚本が乗っかってくるのだ。更に、「Cを探せ」の荒川稔久脚本、「復讐のV」の長谷川圭一脚本など、エピソードの幅がジワジワと広がっていく小気味よさ。全体のバランス感覚の堅実さが、転じて、視聴者の作品への信頼感を高めていく。
ファングジョーカーが登場する「Fの残光」のエピソードは、何度観返したことだろう。翔太郎がフィリップの深層心理に飛び込んでいくシーンは、もはやアニメのような演出で、「(リアル志向で幕を開けた)平成ライダーでこういう映像が観られるのか」と感心したものだ。
この時、『変形ガイア恐竜 ファングメモリ』のDX玩具が発売になったが、その初回生産限定分には翔太郎ボイス入りのジョーカーメモリが付属しており、争奪戦が勃発した。いやはや、懐かしい。この一連の流れはネットでも阿鼻叫喚で、転売屋への呪詛が飛び交っていたのをよく覚えている。
玩具の話でいくと、ガイアメモリは非常に画期的な商品であった。別売りのアイテムに音声を仕込むことで、「ベルトそのものに前もって音声を入れておく必要がなくなる」、つまり、後出しでいくらでも拡張することができる。食玩規格でコンビニやスーパーに仮面ライダーの玩具そのものが並んでいるのも実に新鮮であった。
『ディケイド』で歴代平成ライダーを自らライブラリ化した本シリーズは、商品展開の面でも、「歴代」の扱いにてらいがなくなっていった。今では当たり前の商品展開だが、過去ライダーのガイアメモリは大きな転換点だったのだ。(「ファイズ」と「アクセル」のメモリを同時に使ったら、などという妄想が過熱したのもこの時期)
「二種類のメモリをそれぞれ左右に挿して変身」「入れ替えることでフォームチェンジ」→「片方に特殊メモリを使用してパワーアップ」→「左右二本が一体化した独立で起動するスペシャルなメモリで究極の変身」と、物語進行におけるWの強化と玩具の設計が上手く噛み合っていたのも印象深い。これ以降、平成ライダーにおけるコレクターズアイテム商法が定番化し、それは『ジオウ』を経て令和の『ゼロワン』にまで受け継がれている。
同シリーズだと『キバ』のフエッスルや、スーパー戦隊における『ゴーオンジャー』の炎神ソウルなど、原型や雛型のようなアプローチはその数年前から散見されていた。それが遂に、『ディケイド』のライダーカードの文法を経て、ガイアメモリで「発明」と化したのである。作劇・商業の両面における、とても大きな事件だ。
ちなみにこの頃、講談社から「仮面ライダーマガジン」というムック本が定期的に刊行されており、毎回嬉々として購入していた。『ディケイド』前後、それまで独立していた平成ライダーがシリーズとして語られることが急速に増え、書籍の面でも恵まれることが多くなった。『クウガ』からシリーズを追ってきた者がじんわりと感慨深さを味わい始めていたのも、この時期である。
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ネットではナスカジョーカーなるコラ画像が蔓延していたあの頃。Twitterの日本語版サービスが開始されたのが2008年なので、ちょうどこの『W』辺り、ネットでも平成ライダーについて気軽に言及する人がどんどん増えていった印象がある。(当初のTwitterは「ミニブログ」と位置付けられていた・・・懐かしい・・・)
某掲示板やブログ界隈では、やはりどうしても「平成ライダーは昭和に比べて」な語り口が定期的に散見されたものだが、『ディケイド』の変革やSNSの急速な発展もあってか、平成世代の同好の士を見かけることが次第に多くなっていった。今や、ニチアサは毎週のようにTwitterのトレンドを席巻し、その盛り上がりがニュースになるほどである。時代は変わった・・・。
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閑話休題。そんなこんなで『W』は、視聴者の心をガッチリと掴みながら、物語を紡いでいった。
規格外のメタ理論で物語の枠すら破壊したディケイドとは対照的に、ビギンズナイトを描くことで世界観をきっちりと作り込んだ『MOVIE大戦2010』。『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』で日本特撮ヒーロー界に彗星のごとく現れた坂本浩一監督を起用しての、『運命のガイアメモリ』。どちらも、TVシリーズファンの期待にしっかりと応えてくれるクオリティで、非常に満足度が高かった。
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記憶が確かなら、『運命のガイアメモリ』のあまりの高評価を受け、公開後のCMには「Yahoo映画ユーザーレビューでも高評価!」といったテロップが載っていた。ライダー映画でこういうCMが打たれる日がくるとは。
そして、作品人気を象徴するかのように番組後半の5月に発売されたのが、『ドーパントメモリ』である。敵サイドの変身アイテムが一般発売で商品化された、驚きの事例だ(確かバンダイからも「ご要望にお応えして商品化!」と宣伝されていた)。以降、プレミアムバンダイを含め敵アイテムの玩具化は恒例となっていくが、これもまた、ガイアメモリというアイテムの「発明」と言えるだろう。ヒーローと敵のパワーソースが同一という仮面ライダーの文脈を踏まえているのもポイントが高い。
物語後半、「来訪者X」「Gの可能性」辺りで終盤戦に向けた要素が配置され、傑作エピソードである「Oの連鎖」、そしてテラー・ドーパントとの決戦である「Kが求めたもの」までがノンストップで描かれる。フィリップとその家族を軸に、サブキャラクターにも小まめに見どころを配置していく構成がにくい。スミロドン・ドーパントの「倒し方」には膝を打ったものだ。
そして、「残されたU」でのフィリップ消滅。股を開いて構えるWエクストリームがマキシマムドライブのためにメモリを戻して展開するあのカットが印象深い。そこから、最終回「Eにさよなら」が放送されるまでの一週間、ネットのファン界隈は異常なまでの盛り上がりを見せていた。
予告には、映画で姿を見せていた仮面ライダージョーカーがまさかの登場。そして、フィリップは帰還するのか否か。憶測が飛び交い続け、遂に迎えた最終回当日。ふたり揃っての変身と、エナジー・ドーパントをさくっと蹴散らすWを観て、誰もが笑顔を浮かべたことだろう。
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ちなみに、本作は音楽展開にも意欲的であった。
当時グイグイときていたAKB48から板野友美と河西智美が番組にレギュラー出演し、Queen & Elizabeth のユニット名で『Love♡Wars』をリリース。『電王』『キバ』辺りで盤石のものとなったキャラソン文脈とも融合し、若菜姫の『Naturally』、おやっさんの『Nobody's Perfect』など、名曲を次々と送り出した。
ちなみにこれは完全な余談だが、後年、『コンプリートビデオライダー』という平成ライダーシリーズのミュージックビデオを網羅したBD・DVDが発売された際に、「新たにミュージックビデオを制作する曲を投票で決定する」という催しがあった。「すでにミュージックビデオがある曲でも投票OK!もう一度制作します!」という触れ込みだったため、AKB48ファンによる『Love♡Wars』への投票が過熱。中間発表では上位に食い込んでいた。(最終結果は『ELEMENTS』『POWER to TEARER』『仮面ライダークウガ!』の3曲で、『Love♡Wars』は再制作が叶わずに終わった)
余談ついでにAKB48でいくと、『言い訳Maybe』のリリースが『W』と同じ2009年である。うーむ、時が加速している・・・。こうして老けていくのか。
その後、同作のファンが狂喜乱舞したのは、2011年の『MOVIE大戦MEGA MAX』だ。
当時すでにブレイク街道を爆走していた菅田将暉が、まさかのライダー現場に帰還。計4人のオリジナルキャストが並び立っての変身には、ゾクゾクが止まらなかった。更には同年、『仮面ライダーW RETURNS』と題したVシネ展開も始動。『W』の根強い作品人気を実感した年であった。
更に時が経ち、「平成ライダー」というコンテンツは年々肥大化していった。年に数回の映画は定番、放送中にも多数のスピンオフが制作され、ウェブ通販限定での玩具も恒例、終了後はVシネ展開、後年にはレジェンド出演・・・。そういったお決まりのパターンの基盤には、『電王』のブレイクスルーと『ディケイド』の変革、そして、他ならぬ『W』の堅実なる成功があったのだろう。
あれから10年。
『W』という仕切り直しは一巡し、シリーズは『ゼロワン』で新たなステップに踏み出した。平成ライダーという不揃いの集合体が『ディケイド』で編纂され、「こんなハチャメチャなお祭りの後に一体何が来るのだろう」と、期待と不安を膨らませたあの頃。繰り出されたのは、どこまでも綿密に組み上げられた、上質なエンターテインメントであった。
近年では、漫画『風都探偵』の連載を機に『W』熱の高まりを実感する機会が多い。願わくば、末永く愛される作品であって欲しいものである。最高のケミストリーが話題をさらったあの10年前から、今も、これからも。