ジゴワットレポート

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感想『ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~』 読み終えた先にあるのは拍手か怒号か

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きっかけは、Twitterのタイムラインに流れてきた以下のツイート。「ミステリ好き」の端くれとしては、こうも掲げられたらアンテナが反応してしまう。

 

 

大変恐縮ながら、柾木政宗の著作は初読。しかも、どうやら同じ登場人物での前作があるらしい。とはいえ、前作を読んでいなくても大筋問題はなかったので、「続編」というより「シリーズ」と捉えた方が正確かな。

 

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ちなみに、前作のタイトルは『NO推理、NO探偵?』。

 

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

 

 

さて、この『ネタバレ厳禁症候群』。おそらくミステリをあまり読まない人には「さっぱり」あるいは「意味が不明すぎる」作品だろう。そして、ミステリを普段から愛好している人でも、「これはすごい!」と拍手を送るか「ふざけるな!」と怒号を浴びせるか、その反応は大きく分かれるだろう。(ちなみに私の場合は、「これがすごい!」が6で「ふざけるな!」が4といったところ)

 

女子高生探偵のアイと助手のユウは、ひょんなことから遺産相続でモメる一族の館へ。
携帯の電波が届かない森の中、空一面を覆う雨雲……
外界から閉ざされた館で発見されたのは男の刺殺体だった。
遺体に載った巨大な鶴の銅像と被害者の異様な体勢、それらが意味するものとは? 
謎解きの最中に第二の不可解な殺人も発生。さらには二人にも魔の手が。
やりたい放題ミステリ開幕!

『ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~』(柾木 政宗):講談社タイガ|講談社BOOK倶楽部

 

あらすじからも分かるように、本作はいわゆる「クローズド・サークル」に相当し、しかもその舞台は「館」ときている。ミステリとしては、いかにも、といったところだ。そんなおあつらえ向きの舞台で発生する連続殺人事件に挑むのは、女子高生探偵アイと、女子のユウ。このふたりが常にワーキャーと叫びながら、軽快なテンポで捜査を進めていく。

 

最序盤で分かることなのでもはや隠しはしないが、本作は「メタミステリ」の一種だ。メタフィクションを構造的に利用したミステリ。女子高生探偵のアイに始まり、主要登場人物は自分たちが小説の中のキャラクターであることを「知っている」。

 

更には、伏線がどうだの、地の文がどうだのと、全編を通して自作をイジりにイジっていく。ミステリの王道パターンを揶揄したかと思えば、定番のノリを真似てみたり、常套の描写にツッコミを入れたりと、まさにやりたい放題である。

 

だからこそ、普段からほとんどミステリを読まない人には、ちんぷんかんぷんだろう。「ミステリ小説にありがちなこと」というお題でいくつか挙げられるような人にこそ向けられた作品である。有名所だと、東野圭吾の『名探偵の掟』などが近いだろうか。

 

名探偵の掟 (講談社文庫)

名探偵の掟 (講談社文庫)

 

 

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『ネタバレ厳禁症候群』の冒頭に掲げられた「読者への挑戦状」によると、本作の登場人物にはある重要な秘密があり、それは作者によって巧妙に隠されているとのこと。

 

当然、こうも煽られると、ミステリが好きな皆が大好きな「○○トリック」を連想するところである(一応、念のため伏せておく)。さて、一行たりとも見逃してなるものかと腕まくりをしてページをめくっていくと、「○○トリック」は確かに存在するのだが、それを活用しながらあらぬ方向に話が転がっていく。そして前述のように、登場人物たちがメタにそれをイジっていくのだ。ああ、なるほど、だからこのタイトルなのね、と。

 

そうして、やがて発生する第一の殺人。第二の殺人。繰り返される犯行と、登場人物たちの不可解な行動。そしてお決まりの、容疑者勢ぞろいで行われる探偵による解決編。そういったパターンを踏襲しながら、本作はミステリというジャンルそのものをメタに、更にメタに、これでもかとメタに扱い、驚愕の「仕掛け」を明かしていく。いやいや、○○トリックと○○トリックの○○だなんて、そんなの分かるかよ・・・。

 

最後に明かされる大ネタについては、確かに一種の発明だ。先のツイートにもあるように、担当編集者が「あまりの意味不明さに思わず執筆にゴーサイン」したのも頷ける。しかし、奇抜で規格外と言えば聞こえが良いが、あまりに「なんでもあり」の極致に達しているきらいもあり、読む人にとっては「フェアじゃない!」と怒り始めてしまうだろう。事実、私もちょっとそういう気を起こしそうになった。

 

しかし、木を隠すには森の理論とでも言うのか。本作は、「アンフェアぎりぎりのなんでもありな大ネタ」を成立させるために、全編を通してキツいほどに「なんでもあり」なテンションを貫いていく。女子高生探偵とその助手はひたすらに百合ネタでワーキャーするし、主人公の兄である刑事からもメタな発言が連発。果ては本書の出版事情にまで言及する始末。読み終えれば、「なんでもあり」を連発してきた構造こそが「なんでもありな大ネタ」を存在させるための伏線になっていたんだな、などと、ひどく毒された感想を抱いてしまう。

 

これは、怒るべきなのか。あるいは、感心するべきなのか。なんとも露悪的な仕掛けだ。

 

まあ単純に、女子高生探偵とその助手のやり取りがちょっと肌に合わないとか、状況描写の分かり辛さが散見されるとか、大ネタや仕掛けとは別の引っ掛かりが無いことはない。とはいえ、ミステリというジャンルや構造そのものを大胆に解釈したこの大ネタは、一読の価値があると思われる。

 

ネタバレに配慮するあまり歯切れの悪い表現が続いたが、そこはどうか了承していただきたい。そして、もしこの記事をきっかけに本書を読み、怒り狂う人が出てきたとしても、私は一切の責任を負いませんのであしからず。

 

ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~ (講談社タイガ)

ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~ (講談社タイガ)