ジゴワットレポート

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感想『アベンジャーズ / エンドゲーム』10年間を追いかけたファンは生きたまま走馬灯を目撃する

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ついに『エンドゲーム』を鑑賞してしまった。昨年の2018年で、MCUは10周年。11年目に到達したこの2019年、晴れてひとつの「終わり」を迎える。

 

この「終わり」は、単にラスボスを倒してお話が終わる、という意味ではない。前人未到の、もはや「最も成功した映画シリーズ」とも言われるユニバース構想が、ついに辿り着いた到達点なのだ。遠い島国の一介のオタクとして、このユニバースを追い続けてこれたことを、今は何より幸せに思う。

 

ポスター/スチール写真 A4 パターン18 アベンジャーズ/エンドゲーム 光沢プリント

 

『アベンジャーズ / エンドゲーム』は、前作『インフィニティ・ウォー』の「その後」から幕を開ける。サノスによって、生命の個体数が半分になってしまった世界。幾度となく世界を危機から救ってきたヒーローチーム・アベンジャーズは、この未曾有の混沌から脱することができるのか。

 

観終えた後の感想を一言でまとめるならば、それは、「ありがとう」という御礼の言葉に尽きる。前述のように、『アイアンマン』から始まった連作を長い年月をかけて鑑賞してきた訳だが、本作『エンドゲーム』は、そんな長丁場に付き合ってくれたファンへの感謝がこれでもかと詰め込まれた作品になっていた。それは単に、絵的なファンサービスのみを指すのではない。お話の作り、ストーリーの構造面で、ファンサービスが徹底されていた。スクリーンの向こうから放たれる感謝と、我々ファンが発する感謝。感謝の応酬が、上映時間3時間、インフィニティに行われる。

 

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前作『インフィニティ・ウォー』の感想で、私は同作のジャンルやテーマについて、以下のような感想を書いた。

 

上で、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』がスペースオペラ、『ホームカミング』が学園ドラマと書いたが、本作『IW』のジャンル(もしくは主題)は、間違いなく「クロスオーバー」だ。 

マーベルが10年間やってきたユニバース構想の強みを使って何かを描くのではなく、その強み、そのものを、映画のテーマとして真っ正面から打ち出す。根底にある訳でも、それを応用する訳でもなく、それ自体を中心に据えるやり方。あのキャラクターとあのキャラクターが共に戦い、あの舞台とあの設定が交わっていく。その「交わり」をメイン格に据えた映画の作り方は、確かに、前人未到の10年間を築き上げたMCUにしかできないことだ。

大げさにいえば、この2018年春、ここに「クロスオーバー」という映画の新しいジャンルが確立されたのかもしれない。言い換えれば、「クロスオーバー」が方法論からメインジャンルへと晴れて羽化したのだ。そう叫びたくなるほどに、もはや既存の語り口では評せないショックを体感した。

感想『アベンジャーズ / インフィニティ・ウォー』MCUが繰り出すエンターテインメントの新たな形と、その反証としてのサノス - ジゴワットレポート

 

『インフィニティ・ウォー』の主題が「クロスオーバー」そのもにある、という前提で語るならば、次作『エンドゲーム』はそれを更に発展した作品に仕上がっていた。前作では、「交わることによる化学反応」を様々なアプローチで観客に提供することで、ただそのシンプルな効果のみが映画の推進力として十二分に足りる、という性格を持っていた。これは、10年間を積み上げたMCUだからこそ可能な離れ業であった。

 

それを受けた『エンドゲーム』は、「交わることによる化学反応」の旨味をしっかりと引き継ぎつつ、ここに「交わってきた歴史そのものの重み」をプラス。「クロスオーバー」という主題を、前作以上に物語の構造そのものに落とし込んでいるのだ。

 

結果、10年以上を共に過ごしてきたファンは、黙って涙を流し、頭を垂れる他にない。スクリーンの向こうから放たれる、感謝という名の「圧」によって、強制的に共に過ごした10年間を呼び起こされる。まるで、「生きたまま走馬灯を観るような映画」だ。今や、猫も杓子もユニバース構想で映画を展開させているが、その先駆者としてのMCUだからこそ演じることができた、至高の千秋楽である。

 

さて、そろそろネタバレ抜きに語ることが難しくなってきたので、これ以降は、本編の内容に言及しつつ、感想を残しておきたい。例によって制作サイドからも箝口が奨励されている作品である。未見の方は、しっかりとブラウザバックしていただきたい。

 

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上で「生きたまま走馬灯を観るような映画」 と書いたが、これはつまり、「MCUの歴史そのものを物語の舞台にしてしまう」展開を指す。冒頭15分ほどで、まさかのサノス惨殺。トニーは宇宙の放浪から救出されたものの、その喪失感から精神的なダメージまでもを負ってしまう。失ったものが取り戻せないまま、5年が過ぎ、ヒーローたちは新しい人生を歩み出していた。

 

「悲惨な出来事があっても日常は続く」。これは日本人にとっても身に沁みた真実であろう。東日本大震災が起きても、各地で災害が多発しても、日常は止まらない。隣人が亡くなっても我が家の幸せはそこに在り続けるし、世界が沈んで淀んでいても、会話の中に笑いは生まれ、笑顔が交わされる。残酷なまでに、日常は止まらず、進んでいくのである。

 

『エンドゲーム』序盤、あの壮絶なエンディングからの「続き」として、幸せな家族の情景や、ボードゲームで遊ぶトニーたちが映し出される。スティーブはセラピーとして人々を救っているし、ブルースはハルクとの完全融合を果たし、まるでゆるキャラのように子どもたちに親しまれている。残酷に突き落とされた世界にも、ミクロな幸せがあちこちで進行し続ける。それは、子を設けたトニーの生活にも流れていた。

 

ポイントは、この「不可逆性」にある。その状態に変化したら、もう元の状態には戻らない。それが分かっているからこそ、人々は、目の前にある幸せをより一層大切にしようとする。決して、失ったものを小さく見積もったり、忘れたりしているのではない。それらを踏まえた上で、その「不可逆性」の尊さを噛みしめることで、前を向くことができるのだ。

 

トニーは、まるで愛弟子であったピーター・パーカーを失い、自身の無力さを嘆き、その「不可逆性」を痛感したからこそ、新しい幸せを意固地に守ろうとする。家族を失ったバートンは、その「不可逆性」の残酷さに耐えきれず、世界を飛び回って悪人を斬っていた。誰もが、「戻らない」ことと向き合っていた。

 

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そこに一石を投じたのが、アントマンことスコットである。序盤で散々、「不可逆性」の酷な現実を描いておきながら、ここにきてタイムマシンの可能性が浮上する。「戻せない」現実と、「戻せるかもしれない」希望。そのふたつの間で揺れながら、物語は、スクリーンでもってMCUそのものを総括していくこととなる。

 

具体的には、過去作への渡航だ。無印の『アベンジャーズ』や、『マイティ・ソー / ダーク・ワールド』、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』など、シリーズ過去作の舞台そのものに、現時刻を生きるメンバーが訪れる。『キャプテン・マーベル』でも実証された「デジタル若メイク」の精度がこれでもかと突き詰められた結果、常軌を逸したクオリティの時間移動が描かれた。その中でも、過去の獰猛なハルクを茶化したり、キャップとキャップが戦ったりと、ファンサービスと目配せが絶えない。エレベーターのくだりなど、過去作を踏まえた上での展開が連続するのである。

 

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「あの頃、実は舞台裏でこんなことが起きてました」。これは、劇中でもタイトルが挙がる『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の方法論である。一度表舞台を観ているからこそ、裏舞台に旨味が生まれる。MCUというシリーズは、満を持してこの方法論を採択することで、スクリーンの中に「10年間」を閉じ込め、再展開させた。

 

「過去に遡ってストーンを集める」という話運びそのものが、「ファンに10年間を追体験させる」という結果に繋がるのだ。これぞ、「クロスオーバー」が主題、という『インフィニティ・ウォー』の正当な発展系である。『エンドゲーム』は、この方法論を用いることで、我々の目に走馬灯を刻みにきたのだ。

 

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過去作の様々な情景が流れては、過ぎていく。『エンドゲーム』は、自らMCU過去作をスクリーンに再展開することで、ファンひとりひとりの「10年間」をダメ押しで重くしていく。もはや、映画館に駆けつけているだけでその重みを理解した結果だというのに、そこに「追い思い入れ」が追加されていく。「一作目のアベンジャーズ、覚えてる?」「このセット、懐かしいでしょ?」、制作陣がそうして無限に語りかけてくるので、当然、カットごとに感動が誘発される。

 

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』の方法論、それだけで実は十二分に面白いのに、これを他でもないMCUが実演することで、そこに至高のファンサービスが生まれる。ファンは、アイアンマンの活躍も、キャップの高潔さも、ソーの豪快さも、その全てが好きだが、一番思い入れとして持っているのは、「追いかけてきた」という自負なのだ。これを、『エンドゲーム』は巧妙にくすぐってくる。「クロスオーバー」という主題こそが、それを可能にする。まさにMCUにしかできない、映画の作り方だ。

 

「ファンの自負をくすぐる」流れは、同時に、シリーズのストーリーを総括していく。過去に遡ることで、亡くなったはずの親や姉と再会を果たすことができる。キャラクターがその人生史を総括することにおいて、最も有効な手段は、「大切な人」との対話である。そこで以前は伝えられなかった思いを吐露することで、 キャラクターの成長を描くことができるのだ。これは、漫画『NARUTO』の終盤と同じ方法論であり、「亡くなったはずの大切な人」との対話は、着実にキャラクターたちの歴史を閉じる方向に運んでいく。

 

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キャップは生きているペギーと会い、トニーは父と会い、ソーは母と会う。アベンジャーズを代表するこのビッグ3のが、それぞれの歴史を総括するように、愛する人との再会を果たす。

 

実は物語の意味としてはこの辺りが最高潮と言えるだろう。「不可逆性」を打ち出しながら、MCUの10年間を総括し、主要3人の歴史を閉じていく。そうして、大いなる「終わり」を予感させながら、後半、従来のMCUが幾度となくファンに提供してきた、ストレートな「燃え」に軸足を移していく。

 

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待ちに待った「アベンジャーズ、アッセンブル!」のために、全ての展開を逆算して構築する。相対する敵が必要なので、過去からサノスを進軍させる。高潔なキャップが「アッセンブル」を発声するからこそカタルシスが生まれるので、それを印象づけるために、ソーのハンマーを操らせる。

 

待ちに待った全軍勢揃いのシーンは、それはもう、感無量だ。全世界のファンが、「おそらく全員が集合して、キャップがアッセンブルを発声してくれるだろう」と、薄々分かっていたはずである。分かっていたのに、それでも、ここまで感極まってしまう。どうしようもなく、涙を流し、拳を握ってしまう。それは、その前段で「10年間」の「追い思い入れ」を喰らわされているからだ。なんとクレバーで意地悪な作りであろう。

 

そうして、サノスを打倒したアベンジャーズ。しかし、「不可逆性」はそこに在り続ける。全てが移り変わっていく。ストーン収集の過程で命を失ったナターシャも、サノスに殺されたロキも、ストーンと分離され傀儡に戻ってしまったヴィジョンも、そして、世界を救うためにガントレットを発動させたトニーも、戻らない。スティーブは、凍って失った年月を生き直し、老人となる。ソーは、自堕落な生活が招いた体つきから最後まで元に戻らない上に、王の座まで退く。スター・ロードが愛したガモーラも、失われたままだ。

 

「クロスオーバー」とは「交じり合う」の意だが、違う方向から伸びてきた矢印が交わった後に、それらはそのまま真っ直ぐと、別々の方向に引き続き伸びていく。もう今度こそ、交わらないのかもしれない。制作陣は、「アベンジャーズが平和を取り戻しました!みんなハッピー!アベンジャーズよ永久に!」という分かりやすいハッピーエンドを用意しなかった。「不可逆性」の尊さ。「変わっていく」ことの重さ。それらを、「10年間」をダメ押しで痛感させた物語の最後で、再提示する。

 

「これで終わり」なんだと、嫌でもそれが身に染みるエンディングである。キャプテン・アメリカの称号はサムに受け継がれ、世界はアイアンマンを失った。我々が知るアベンジャーズは、もう二度と結成されない。だからこそ、これまでの「10年間」が、より一層重みを増していく。映画は、映画館を出れば「終わり」である。皆がそのまま生き続ける終幕でも、ファンは勝手に「終わり」を感じることができたはずだ。しかし、MCUはそれを許さない。しっかり、映画の中で「終わり」を語る。「有終の美」は「終わら」なければ飾れない。これにより、何重にも「幕引き」を痛感させられた観客は、劇場からの帰路、過ぎ去った「10年間」を尊く感じるのである。

 

『アベンジャーズ / エンドゲーム』は、世界に公開された。つまりは、MCUは大きな区切りに到達し、「終わり」を迎えた。その、「終わる」からこその美しさ。失うからこその尊さ。それらを、「不可逆性」をテーマに据えながら、キャラクターの動向で表現していく。更には、その尊さを際立たせるために、歴史を再演しながら、最後の最後まで「10年間」を実感させる。

 

本作『エンドゲーム』の主題は、もはや「クロスオーバー」のもう一段上、「マーベル・シネマティック・ユニバース」そのものであると言えよう。10年・20作を超える物語が積み上げた歴史。その「歴史」が持つ、過ぎたる情景と戻らない過去の偉大さ。歴史が不可逆だからこそ、我々は、それを踏まえて、また新しい先を見据えることができる。MCUはすでに『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を始めとする新作公開をアナウンスしているが、彼ら自身が新たに前に進むためにも、しっかりと「終わらせに」きたのだ。

 

「豪華なお祭り映画」という表現がもはや失礼に感じられるほどに、『エンドゲーム』という作品において、MCUの偉業そのものに誰よりも制作陣が自覚的であった。自らの足跡をしっかりと見つめ直し、終わらせることで英雄性を強調する。なんとも、自信に満ちた、強欲な幕引きである。

 

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