私、アラサーの男なんですけど、King Gnu(キングヌー)の音楽には抱かれたいな、って、そう思うんですよ。でもこの人、多分自分以外にも相手がいるし、この関係は絶対に幸せには辿り着かないと思うんですよね。でも、どうしようもなく惹かれてしまって。湿気が鼻をくすぐる街角の安いホテルの一室で、酒と煙草の香りが充満する部屋で、脱ぎ捨てられた柄シャツを脇目に無精髭に抱かれるんですよ。着痩せしていたのか、意外にも肉感的で。
つい最近のこと、アニメ『どろろ』を観ている最中、流れたCMの一曲に釘付けになってしまった。King Gnuというバンドがリリースしたアルバム『Sympa』のリード曲、『Slumberland』。
重ねに重ねた妖艶なボイスと、それを支える厚いバンドサウンド。都会を皮肉る歌詞の世界観と、完成されたMVの雰囲気。「え? こんなバンドがあったの!?」と、すぐさまApple Musicを検索すると、全曲あるではないか、King Gnu。ありがとう、Apple Music。
そこからもう、ここ最近はKing Gnuばかりを聴いている。聞けば、今年大注目のバンドで、まさに今ブレイク前夜らしい。つい先日のMステにも出ていたので、ここから更に勢い付いていくのだろう。
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彼らの音楽は、一口に説明するのが難しい。ポップといえばポップだし、ロックといえばロックで、でもヒップホップでもありながら、どこかクラシカルで、ジャジーな顔もある。また、リズム隊を中心にビートは星野源のようなブラックミュージック寄りだし、フックがたっぷり盛り込まれたアンニュイなメロディラインは米津玄師らしくもある。陳腐な形容だが、いわゆる「流行りの邦楽」の要素がふんだんに詰め込まれているのだ。
しかし彼らが面白いのは、その「流行りの邦楽」らしさにオリジナリティが全く負けていないところにある。沢山の要素をジューサーにぶち込み、これでもかど砕き混ぜ、自分たちのカラーがべったりとラベリングされたグラスに注いで提供する。出されたものには、誰の耳にも響きそうな普遍的な訴求力と、通常ならそれと相反するはずのオリジナリティあふれる「個」の強さが同居している。私も含めて、このバンドと出会った人は、「こんな特異ですごいサウンドを見つけてしまった!」と、まるで隠れた名店を見つけた美食家のような錯覚に陥ることだろう。でも、多分そう思っているのは本人だけで、その店はデカデカと駅前に鎮座しているのだ。それほど、ブランディングが絶妙である。
そのブランディングという意味でいえば、ツインボーカルのうちのひとり・常田大希が主催するクリエイター集団「PERIMETRON」が、MVをはじめとするKing Gnuの美術を手がけているというではないか。東京、ひいては日本社会を腐すような、あの斜に構えた、されど力強いスタンスは、誰のプロデュースでもなく、彼ら自身の側から発信されている。サウンドだけでなく、全体の世界観でもって自らを売り出していくスタイルも、非常に現代的でもあり、それほどその世界観に自信があるとも言える。
──常田さんはクリエイティブチーム・PERIMETRONとしての活動も行っていますね。演奏だけでなく、MVなども手がけるようになったのはいつ頃からですか?
常田 PERIMETRONは去年立ち上げたチームで。単純にダサい映像に俺らの音楽を付けたくないと思ったんですよ。King Gnuとはまったく別軸の活動なんですけど、自分たちでKing Gnuの映像も作っちゃったほうがいいかなと。
・King Gnu「Tokyo Rendez-Vous」インタビュー|鬼才集団が提示する新たな歌モノのスタイル - 音楽ナタリー 特集・インタビュー
「流行りの邦楽」要素については前述の通りだが、彼らのサウンドの特徴は、どこまでいっても「邦楽」に徹しているところにある、と感じている。往々にして海の向こうの「洋楽」にリスペクトが向きがちなバンドサウンドだけど、King Gnuのメロディラインは、その多くが歌謡曲調であり、誰もに耳馴染むものになっている。
聴く各人によって、「あ、ここは星野源っぽい」「米津玄師みたいなメロディ!」、サザンが、ミスチルが、エトセトラ・・・。どこかで耳にしたようなJ-POPの旋律が、独自の世界観を体現するバンドサウンドの上で踊る。その相性が生む独特のグルーブ感には、ついつい身を揺らし、腰を振り、首がカクカクと動き出す。リズムが濁流のように押し寄せながら、実はめちゃくちゃロジカルに組まれている、その確かな技術に圧倒されてしまう。とにかく「気持ちがいい」。
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そして冒頭にも書いたように、エロい。King Gnuのサウンドは、どうしようもなくエロいのだ。そしてそのエロさは、太陽の下で水着を着てポージングするグラビアアイドルのような、健康的なニュアンスでのそれではない。アンモラル、実に不道徳な香りがするのだ。薄暗く、湿気臭く。このサウンドは、水着より下着的である。
あまり易々と「合法麻薬」のようなネットミームに頼りたくはないのだけど、そう言ってしまいたいほどに、彼らの楽曲には中毒性がある。それは、ロクでもない男に騙されていると分かっていながら夢中になってしまうような、そんな甘美で「イケナイ」タイプのそれだ。ナイフの刃先の上で寝そべるような、危険と隣り合わせの寝心地。一曲ごとにどこかスリルを感じてしまう、そんなアブナイ魅力に、聴けば聴くほど取り憑かれてしまう。こんなのずるい、ずるい、でも、でも、と。
先日、配信リリースされた『白日』というシングル。暖かい語り口のイントロから、容赦なく入る打ち込みのリズム、幕が開くようにバンドサウンドが始まり、エロい歌声とエロいベースとエロいハイハットが曲全体を包み込んでいく。
歌詞の世界観は、真っ白な雪に「今日だけは全てを隠してくれ」と願うという、前提として自分が「真っ白ではない」ダーティーな予感を抱かせてくれる。スリリングで、アンモラルな、そして中毒性の強いエロさ。いやにダンサブルな曲が終わって、気づいたらまた頭から再生している、そんなループが止まらない。
また今夜も、King Gnuに抱かれる自分が始まってしまう。