ジゴワットレポート

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実際の「小林靖子脚本」から楽しむ『龍騎』最終回

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現在放送中の『仮面ライダージオウ』が「龍騎編」もとい「リュウガ編」に突入し、『龍騎』の新作も制作されるとのことで、にわかに龍騎熱が高まる昨今。ふと存在を思い出し、本棚から取り出した本を読み耽る時間を過ごしてしまった。

 

朝日ソノラマの『仮面ライダー龍騎 ファンタスティックコレクション』。13人の仮面ライダーを演じたキャストのインタビューから、監督インタビュー、プロデューサーの証言、デザイン画、放映リスト、スーツアクター座談会など、2019年現在の「完全公式読本」に相当する一冊だ。現在は主に定価以上の値段で流通している。

 

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この頃はまだ「完全公式読本」も無く、平成ライダーも黎明期であり、様々なタイプの書籍が発売されている。放送当時まだ自分で使えるお金に余裕がなかった私は、大学生以降に中古市場と睨めっこしながらチマチマ集めたものだ。

 

この『ファンタスティックコレクション』は、全96ページの内容でボリュームもたっぷりなのだが、中でも特筆すべきは、『仮面ライダー龍騎』最終話(第50話)の小林靖子氏による脚本がそっくりそのまま収録されているところである。

 

平成仮面ライダーというコンテンツにおいて、脚本をその状態のまま堪能できる機会はあまり多くない。以前『ウィザード&フォーゼ MOVIE大戦アルティメイタム』のBlu-ray(パーフェクトパック)に復刻台本が冊子として収録されると知った時は、たいそう驚いたものである。また、「小林靖子脚本を直に読める」という点では、先日公開された『映画刀剣乱舞』のシナリオ本が発売されているとのことで、こちらも気になるところだ。

 

映画刀剣乱舞 公式シナリオブック

映画刀剣乱舞 公式シナリオブック

 

 

実際の最終回脚本を読むと、小林靖子氏特有のヒリヒリ感というか、必要最低限の描写で演出班に託す感じの塩梅が面白い。同書収録のインタビューによると、最終回は絶対に映像が伸びるので、脚本は極力短めに抑えたとのこと。しかしだからこそ、端的&的確に、キャラクターの運命を記していく様は見所が多い。

 

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例えば、死期が迫る北岡を描いたこの部分。たったの二行、シンプルな絶望感。

 

北岡「それにしても今日は天気が悪いね。吾郎ちゃんの顔が見えないよ......」

部屋には陽光が差し込んでいる。

 

・朝日ソノラマ『仮面ライダー龍騎 ファンタスティックコレクション』P57

 

また、最強のライダーことオーディンの変身者について、実際の放送ではカットされたシーンがあったことが分かる。タイミングとしては、蓮がオーディンとの戦いに向けて真司に背を向けて歩き出した、番組上はタイトルシーンの直後。放送では浅倉が警察に包囲されるシーンに繋がっていくが、脚本上では以下のパートが存在している。

 

へたりこんでいる男がいる。

その前に現れる士郎。

その手にはオーディンのカードデッキがありーー

 

・朝日ソノラマ『仮面ライダー龍騎 ファンタスティックコレクション』P57

 

その後、浅倉の前に姿を現すゾルダ。その中身はすでに北岡ではないのだが、宿命のライバルを目にした浅倉の描写も面白い。なるほど「喜色」とは。

 

入り口を睨み付けている浅倉。

が、その時聞こえてくるモンスター接近音。

「!」と見たガラスに映るゾルダ。

浅倉に喜色が浮かび、デッキを取り出す。

「会いたかったぜ、北岡……!変身!」

 

・朝日ソノラマ『仮面ライダー龍騎 ファンタスティックコレクション』P57 

 

また、何かと語り草になるオーディンのファイナルベントも、脚本では普通に炸裂している。

 

ナイトSの攻撃を素早い身のこなしでかわし、四方から攻撃してくるオーディン。

ナイトSのシュートベントも通用しない。

度重なる攻撃にボロボロになっていくナイトS。

オーディンが装填するファイナルベント。

ナイトSに炸裂。

 

ナイトS「うわぁ!」

 

・朝日ソノラマ『仮面ライダー龍騎 ファンタスティックコレクション』P58

 

また、「4人の」神崎兄妹が絵を描いていたあの不思議な空間も、脚本上ではそこまでの指定はなく、あくまで石田監督を始めとする撮影班の演出であったことが分かる。終盤の手塚や浅倉が出演するくだりも、映像では細かくカットが割られているが、脚本ではある程度尺のあるワンシーンになっている。

 

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前述のインタビューによると、具体的に展開の詳細を話し合った訳ではなく、「『龍騎』という作品が自然に到達した最終回だった」(P60)とのこと。当時の、作品自体の盛り上がりや持っていた熱量が伺える証言だ。また、最終回におけるゾルダの変身者が吾郎だった展開について、浅倉がその正体に(変身解除前に)気づいたか否かについては相当悩んだらしく、後年の『オーズ』最終回における「映司は最後の変身に臨む際にタカメダルの割れに気付いたか否か」を思わせる。(その答えは、『ファイナルエピソード』のオーディオコメンタリーにて確認できる)

 

仮面ライダーOOO(オーズ)ファイナルエピソード ディレクターズカット版【Blu-ray】

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などなど、実際の脚本を読むと、「戦闘時のやり取りはどこまで脚本段階で指定されているのか」「どこからが演出班の裁量なのか」「カットされた箇所はあるのか」等々、完成物である映像を観るのとはまた違った楽しみ方ができる。

 

願わくば、平成ライダーも脚本集的なものを出して欲しいなあ、と思うのだが、やはり難しいのだろうか。その昔、アニメ『鋼の錬金術師』のシナリオブックを読み込んでいた身としては、どうしても期待してしまうところである。

 

TVアニメ 鋼の錬金術師シナリオブック (1)

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末筆ながら、この『ファンタスティックコレクション』、「井上敏樹×小林靖子」の両名による対談も収録されている。これがまた思わず吹き出してしまうほど面白く、両者が作用しあって完成した『龍騎』の世界観、その背景を感じることができる内容となっている。最後に、何度読んでも笑ってしまう井上氏の証言を引用して終わりにしたい。

 

井上 白倉の依頼の仕方って、「次、四話を井上さんが書いて、その間に教授(オルタナティブ・ゼロ)とインペラー退場」っていうオーダーのしかたなの。で、実はその時「ゾルダも退場」っていうのがあったんだけど、後から「もったいないからや~めた」って言われて、俺は、また俺のゾルダを靖子が殺すのかと思ってさ、俺のガイも殺したのに。(編集註・井上氏は自分が生み出したガイこと芝浦淳を、小林嬢が担当回で爆死させたことをずっとネタにしています)

 

・朝日ソノラマ『仮面ライダー龍騎 ファンタスティックコレクション』P62

 

仮面ライダー龍騎―ファンタスティックコレクション

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仮面ライダー龍騎 Blu‐ray BOX 1 [Blu-ray]

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