ジゴワットレポート

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感想『映画刀剣乱舞』 刀剣男士である、という設定を真摯にフォローしたシナリオ構成に感服

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ネットに生息していると数年前から幾度となくその名を目にしていた『刀剣乱舞』。「刀が男になって戦うらしい」「元はゲームで舞台とか色々めっちゃ人気らしい」という非常にざっくりとした知識しかなかったのですが、昨年末の紅白でもかなり力の入ったパフォーマンスが披露されていて、なるほど面白そうだな、と。

 

それでいて、今回の映画は脚本が小林靖子さんというではありませんか。私にとっての最古の彼女の参加作品は、おそらく東映版アニメ『遊戯王』劇場版なんですけど、それからも幾度となく堪能させていただく半生を送ってまして。詳しくは以前記事を書いたので、一部分をセルフ引用。

 

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私は小林靖子脚本の魅力は「油絵の絵の具をはがす」だと思っているんです。

 

油絵って上から何度でも色を重ねて塗れるんですけど、小林靖子脚本の登場人物(主に主人公)は、絵の具が何層にも塗られてそれなりに綺麗に仕上がった状態で初回を迎えることが多いようなイメージがあって。その絵の具が、物語が進んだある時にポロっとはがされて、そしてその後にまたボロっとはがれて。登場人物が持っていた思いや、背負っていた運命が、いつの間にか露見していく。果てには、キャンバスの布地まで丸裸になる。その布地は結構傷ついていたりして。

 

(中略)

 

「絵の具をはがす」というのは一度積み重なったものを撤廃していくことなので、その結果として、登場人物は酷な運命を背負わされることが多い。陰惨で、残酷で、この上ない辛い仕打ちを受けることもある。でもその中に何らかの光明が用意されていて、主人公が悲惨な運命を辿ったとしてもある意味での救いがそこにあったり、もしくは、他者の存在そのものが主人公の光になってくれたりする。

 

つまりは、安易な表現でいくならば、とても「人」を描く方なんですよ。人を描くということは、そこを深堀りすれば当然のように「業」が顔を出すよね、と。

 

・・・といった感じで、『刀剣乱舞』のことは全く分からないけれど、彼女が構成する「業(ごう)」の物語を堪能できたら良いなあ、と。更には予告を観てみると、和モノ剣戟アクションに歴史改変系のSFと、中々どうして好きなポイントが多い。こりゃあ、あえて既存の作品をさらうことなくスクリーンに行ってみよう、となった訳です。

 

『映画 刀剣乱舞』オリジナルサウンドトラック

『映画 刀剣乱舞』オリジナルサウンドトラック

『映画 刀剣乱舞』オリジナルサウンドトラック

 

 

結果としては、かなり楽しめました。まあ、色々と気になった点が無いといったらウソなんですけど、一番ぐっときたのは、彼らが刀であるという設定の根幹がちゃんとシナリオに活きていた部分。奇しくも、上で引用した「絵の具をはがす」ような作劇パターンが採用されていて、そういう意味でも満足度が高かったですね。

 

以下、ネタバレ込みの感想ですので、ご注意を。

 

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すっごく意地悪な言い方をしてしまえば、かっこいい男子がかっこいいファッションに身を包んでかっこよくアクションをすれば、それなりに完成できてしまう作品だとは思うんです。良くも悪くも色んな意味で。しかし、今回の『映画刀剣乱舞』は、そういった要素は当たり前としてクリアした上で、ちゃんと一本の物語としてハッタリやサプライズやドラマを盛り込んでいる。このアプローチが何より良かった。

 

「織田信長暗殺」は日本人なら誰もが知っている史実で、だからこそ、「信長が実は生き延びていて・・・」というプロットは、結構色んな作品で用いられた手垢のついたものだったりする。『映画刀剣乱舞』はその「誰もが知っている」を逆手に取り、「実は皆が知っている歴史こそが誤った情報なんですよ」という展開に持っていく。そのロジックの肝の部分として、主人公である三日月が刀であるがゆえに知り得ることができた、秀吉によって闇に葬られた歴史の真実、という設定を用意していた。

 

ただ刀をモチーフにしたキャラクターということではなく、「刀(モノ)だからこそ知り得たこと」があって、それこそが主人公が背負う「業」なんだと。なるほど、このシナリオは『刀剣乱舞』でこそ生きるなあ、と感じる訳です。これだけコンテンツが巨大化していっても、そもそもの根幹にある設定への真摯なフォローアップが効いている。これ、むしろ私のようなトーシローより、ずっと追いかけてた人こそ嬉しかったんじゃないかな、と。

 

刀剣男士たちって、要はタイムパトロールなんですよね。職務として時の流れを守る。歴史を正しい方向に常に導く。しかし同時に、審神者によって具現化されたという忠義の念もあって、ただ職務として刀を振るうのではなく、歴史を守ることこそが彼らのアイデンティティに繋がっているんですよね。歴史の保護、それすなわち存在意義である、と。そこが儚いというか、ともすれば虚しいとも思えてしまって。作品が作品なら、「俺たちは何のために生まれたんだ!」みたいな湿度のある話にもなりかねない。

 

でも、そういう話には持っていかない訳です。良い意味で「そういうもの」として、彼らは彼らの美学と信念をただ真っ直ぐに全うする。ルックとしては、エキセントリックな衣装に身を包んだイケメンたちの剣戟アクションという「トンデモ」な感じはあるんですが、その軸の部分がブレないどころか結構太く作ってあるので、エンターテインメントとして十二分に成立している印象があるんですよ。『刀剣乱舞』という作品の設定に根ざした、この世界観ならではのプライドやテーマ。ここがちゃんと厚い。

 

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そういう、ファンとコンテンツの数年かけて積み上がった信頼関係すら感じさせる土壌の上で、小林靖子脚本のメソッドが活きる。

 

「ひとりで業を背負った主人公が自己犠牲を厭わず戦い、その後、逆に周囲の面々に救済される」というプロットは、言わずもがなの彼女の十八番な訳です。主人公の業とその覚悟が、共に歩んできた仲間に手を差し伸べさせる。『侍戦隊シンケンジャー』にはじまり、『烈車戦隊トッキュウジャー』『未来戦隊タイムレンジャー』『仮面ライダーオーズ』と、彼女がメインライターとして手がけた作品は本当にこういう構造が多い。

 

三日月は、自分だけが知る歴史の真実に向き合いながら、仲間に何と言われようと、歴史を正しい方向に導こうとする。裏切り者の烙印すら厭わず、それを全うする。この点、「誰にとっての正しい歴史か」という織田信長との問答が印象深かったですね。よく言われることですが、正義の反対は悪ではなく、別の正義なんですよね。正義とは、正しさとは、そう簡単に二極で語れるものではないんだ、と。

 

人の数だけ「正しさ」がある世界で、じゃあ何を信じられるかというと、そりゃあもう、「自分」なんですよ。「正しい歴史」なんていうのは、それこそ信長が言っていたように結果でどうとでも変わってしまうかもしれない。だからこそ、織田信長という魔王にとっての「正しさ」とは、彼なりの美学と信念とは、誰かを人質に取ってまで命からがら逃げ惑うことなのだろうか。それは、織田信長の「自分」に沿った行動なのか。三日月はあの達観した言い回しで、そう問いかける訳ですね。

 

自身が刀、つまりはモノであるからこその美学や信念を全うする刀剣男士が、かの織田信長に「あなたの美学と信念はどこにあるのか」と切っ先を突きつける。言わば歴史を守るために生を受けた、そんな人間ですらない存在だからこそ、自身の人生を選択できる人間の本質に訴えかけることができるのかもしれない。そういう、「生まれの儚さ」みたいなのを感じられるプロットで、すごく良かったと思うんです。

 

また、この構造そのものをしっかり描くために、キャラクターとしての配分をちゃんと抑えていたのが良かったですね。この手のキャラクターの魅力が強い作品は、一歩間違えれば皆が主張しあって活躍して散漫な感じにもなっちゃうんですけど、しっかりと「三日月+その他の刀剣男士」というバランスに抑えてある。キャラの魅力だけに頼って押し切ろうとせず、しっかりと主題の中で活躍させる。だからこそ、結果的にキャラも活きる。この辺も、流石だなあ、と。

 

逆に気になってしまった点としては、アクションの魅せ方ですね。正直、和モノ剣戟アクションとしては実写『るろうに剣心』シリーズが高次元のアンサーを示してしまっている現状があるので、それを好きな人間としては食い足りなさを感じてしまったのが本音・・・。

 

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というか、キャストの皆さんかなり頑張ってらっしゃるので、もうちょっと引きの画で観たかった。アップが多いのはそれはそれで良いのだけど、刀さばきって胴の動きからつま先や切っ先に至るまでの全体でこそ映える印象があるので、もう少し全身がしっかり映るカットが多めに欲しかったかも、と。せっかく佇まいがすげぇいい感じなのに!もったいない!

 

あと、時間遡行軍の怪人かと思ったら実は刀剣男士だった、というクライマックスの展開は、おそらくサプライズなんだろうけどもう少し説明が欲しかった・・・。「刀剣男士って時間遡行軍に対抗するために生み出されたと思うんだけど、行方不明になった奴がいたのか?」などと。タイムトラベル物なので、あの鎧の中身は別の時間軸の既存登場人物では、などと勘ぐってしまったんですよね。まさか真っさらな新規キャラとは思わなんだ。

 

などと気になる点はあったものの、総合的な満足度は高いです。根幹の設定に対する向き合い方、ファンとの信頼関係を感じるコンテンツとしての厚みなど、「なるほどこりゃブームになる訳だ」などと、お前は何様か、という納得感を覚えることができました。

 

最後に、主演の鈴木拡樹さん、実に素晴らしかったです。『仮面ライダーディケイド』の剣立カズマ役で拝見したのがおよそ10年前ですが、なんという落ち着き払った見事な演技!「若いルックでありながら実はお爺さんキャラ」という設定をものの見事に自分のものにしていて、観ていてとても面白かった。あの艶感のある渋めのボイス、主人公としての格がありすぎる・・・。

 

映画刀剣乱舞公式フォトブック

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映画刀剣乱舞 公式シナリオブック

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