書店で表紙を見て「おっ!?」となって購入。久々のジャケ買いである。
倉薗紀彦氏の漫画を読むのは初めてだけど、非常に洗練された絵を描く人だな、という印象。
引きの絵と寄りの絵の使い分けが上手く、明暗がはっきりした線の使い方も好み。映画的な演出というか、緩急含めたテンポの作り方も良い。巧い。
ストーリーは、近未来SF。
両親が死に、理解のない叔母に引き取られ、先行きが見えない生活を送っていた主人公・明。高校に通いながらアルバイトをして生活していた彼は、ある日突然、世界的ロボット企業・ロック社のCEO トマ・ロックにスカウトされ、戦闘機体「オートマトン」のパイロットとなる。
覆面レスラー的な、ヒーローでいくとキャプテン・アメリカのようなマスクを被ったオートマトン。
その正体は戦闘機体。いわゆる機械人形である。そこに、主人公・明の精神が転送されることで(作中用語では「マインドアップロード」)、自身の体のように操ることができる。
まるでマーベルヒーローのオリジンのように描かれる導入だが、ヒーローでありながらロボット、ロボットでありながらヒーロー、という、良いとこ取りな感じで物語が進んでいく。
主人公がそのままパワードスーツを着込むのではなく、パイロットとして「乗り込む」パターンを採用しているのが、なんとも日本的だ。
この場合、当然のようにロボットは人を格納する大きさでなければならないが、精神を転送する設定のおかげで等身大ヒーローのサイズに収まっており、「等身大ヒーローでありながらロボットもの」というハイブリッドで欲張りな設定になっている。
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大筋は、無垢な少年が人知を超えた力を手にし、テロや災害から人々を救っていくが、そこには謎の敵の手もあり・・・ といった感じ。
とにかく、前述の「洗練された絵」で描かれるオートマトンがとても良い。
特にP130の「テロリストの銃撃を受けながらズンズンと進撃するオートマトン」のカットが気に入った。立ち込める土煙と、着弾していく銃弾。チュン!チュン!という被弾を物ともせず進んでいくオートマトン。アメコミヒーロー映画の演出がそのまま漫画に起こされた感じもあって、つい脳内で映像化してしまう。
アメコミヒーローと言えば、主人公を導く立場にあるロボット企業のCEO トマ・ロックの造形が完全にトニー・スタークのそれで、しかも初陣がテロリストから人質を救うミッションなので、もろに『アイアンマン』リスペクトなのかな、という辺りも面白い。
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時に自己犠牲をも厭わない無垢な少年と、不釣り合いなほどに強大なロボットの力。それを取り巻く、一癖も二癖もある大人たちと、市井の人々。
お話の筋そのものにあまり新鮮味は無いものの、それが端正な線と読者を引きずりこむ力強い演出で描かれるため、グイグイ読まされてしまった。
特に冒頭、主人公がいきなり放り込まれた「とあるシチュエーション」が手に汗握る展開で、見応えがある。
また、「あ、ここは映像だとサブリミナル的に挿入されるイメージカットだな」「ここからここまではグッと溜めたスローモーションだ」といった、映像表現を漫画に落とし込んだ部分も多く、映画が好きな人はより楽しく読めるかもしれない。
1巻のクライマックスでは巨大なヴィランが登場するが、そのまま組織vs組織の構図になだれ込むのか、主人公の善性を軸にヒューマンドラマで攻めるのか、バトル展開に突入するのか、とにかく続刊が楽しみである。