ライムスター6年ぶりのニューアルバム『Open The Window』。Amazonにて初回限定版を注文したが、見事にKonozamaをくらってしまった(Konozamaってもう死語!?)。よって、特典の楽曲解説文庫本は未読の状態。むしろそれを読んでしまう前に、自分の言葉で感想を残しておこうかと。
ネットの海を眺めていると、今回のアルバムは割と賛否が割れている。というか、むしろ「否」の方が多い印象を受ける。
まあ、分からないでもない。6年ぶりのニューアルバムという蓋を開けてみれば「11曲中新曲は3曲」であった。また、「その3曲も全てゲストを迎えたフィーチャリング」「児童アニメタイアップや企業社歌など半ば悪い意味でのバラエティさが豊富」といった声も少なくない。おそらくこれは、「もっとコンセプチュアルに作りこんだアルバムを出せるだろ!ライムスターなら!」という期待値の裏返しでもあるだろうし、私も同様の感覚が無いといったら嘘になる。
思い出すのはL’Arc~en~Cielの『BUTTERFLY』というアルバムがリリースされた2012年だ。
こちらのアルバム、全11曲中新曲は4曲、それも内1曲は数年前からライブで披露されていたもので、完全お初は3曲という有様だった。アルバムとしてのコンセプトの薄さ、シングル曲の寄せ集め感(この表現も非常に局地的な用法だが)、そういった背景を理由にファンの間では賛否があった。もっと語ると、彼らに最も脂が乗っていた1999年のアルバム『ark』『ray』は活動最盛期のシングルリリース量を踏まえたような2枚同時発売で、バンドとしての精力や気概を感じるものだった。なまじこれがあっただけに、前作『KISS』以来4年ぶりとなった『BUTTERFLY』にガッカリしたファンがいたことは大いに理解できる。
話をライムスに戻す。
コンセプトやアルバムのキャラクターが明確に示された2015年の『Bitter, Sweet & Beautiful』、グルーヴに体を任せるという音楽の原点を捉え直すような2017年の『ダンサブル』らと比べると、確かに本作『Open The Window』は人格が捉え辛い。このアルバムが全10曲を通して何を伝えたいのか、といった点について、食い足りなさは確かに存在する。あとはシンプルに、「フィーチャリングではないライムスター単体の楽曲」が新規でゼロというのは、やっぱり寂しい。『ダンサブル』の「Back & Forth」に度肝を抜かれ「梯子酒」に笑ったような、そんな体験が今回は味わえない。(この点、私はMCがライムスの2人のみであればプロデュースがメンバーでない人なのはあまり気にならない、というのもある……)(とはいえフィーチャリング楽曲も普通に大好きなのでそこは誤解なきよう)
実際問題、今回の『Open The Window』は既発曲が多くタイアップやフィーチャリングにも溢れていることから、『ウワサの伴奏』や『ベストバウト』の系譜で捉えた方が納得度は高い。そういったパッケージでリリースして、オリジナルアルバムはオリジナルアルバムでコンセプチュアルなものをバシッと…… というのが、なんとなく、多くのファンがぼんやり願っていたことなのではないだろうか。好きなアーティストのシングル曲が “溜まる” と逆にアルバムが心配になる現象、ありますよね。分かります、ええ。
などとダラダラ書き連ねてきたが、私個人に至っては『Open The Window』は結構気に入っている。このコンセプトの希薄な感じ、例えばヴィレッジヴァンガードのような、あるいは駄菓子屋のような、良く言えば多様性で悪く言えば節操のない印象が、「コロナ禍を経てきた文脈」として妙にしっくりくるのだ。
ライブツアー「KING OF STAGE VOL. 14 47都道府県TOUR 2019」以降、コロナがやってきてライムスターの活動にも様々な変化があった。映像のライブ配信を中心とした企画があったり、無観客でのMTV Unpluggedのステージだったり。「これ」があと何年続くのか、どこまで耐えるのか、あるいは明けるのか共存するのか、誰にも見通しがつかなかった。そんな中で、おそらくオリジナルアルバムという「絵」を描かないまま、「ゴール」を想定しないまま、結成30周年 “以降” のライムスターの活動があった。
その時々で、「やれること」「できること」にひとつひとつ取り組み、NHK放映アニメのタイアップであったり、企業社歌の逆featuringであったりと、あえて指針を設けずに貪欲にやってきた。キャリアやスキルがあるからこそ出来る遊びもあった。あるいは、結成30周年という円熟した土台があるからこそ、様々な人たちとの縁が生まれる。コロナ禍という人と人との繋がりがともすれば希薄になった時勢に、フィーチャリングやコラボレーションに果敢に挑み、その「繋がり」の面白さこそにリーチする。
……といった感覚で『Open The Window』を捉えると、「コンセプトが薄い(=バラバラである)ことこそがコンセプト」「このご時世にこういったことをやれるのが結成30年超の縁とスキルの賜物」という文脈が乗っかり、まァ、たまにはこういったアルバムに結晶するのも良いね、という気分になってくる。あれこれ挑戦したり模索したりした結果をそっくりそのままサラダボウルに入れてお出しされた印象で、これを「もっと味を統一したドレッシングを用意してほしかった」と嘆くか、「このご時世にサラダボウルが出せるだけ腕力があるよな」と受け入れるかは、個々人の感覚によるだろう。
時代性という意味では、アルバムタイトルにそっくりそのまま「感染対策の換気」というニュアンスも感じられ、良くも悪くもコロナ禍が無いとこれは出てこなかったな、と思う訳である。音楽に限らず、映画でも漫画でも小説でも何でも、私は「この人にしかできないモノ」「この時代にしか出てこないモノ」を好きになりがち。
以下、各楽曲の感想を簡単にまとめる。
1 After 6
ラジオ番組「アフター6ジャンクション」ありきの楽曲だが、トラックの目指すところである「毎日耳にしても飽きがこないグルーヴ」は達成されていると感じる。こうしてアルバムのド頭に位置すると「その窓から見える世界はいつだって新しくそして愛おしい」のリリックが思いのほかハマっていてびっくりするなど。Mummy-Dのヴァースが聴けば聴くほど癖になるリズムで好き。
2 My Runway feat.Rei
アルバム表題曲とあえて分けるなら、こちらがリード曲にあたるのだろうか。TBSラジオでも推薦曲になっているとか。私も現時点では3つの新曲の中で最も気に入っている。「みんな個々人の地獄があるだろうけど胸張って歩いていこうぜ」という明確なメッセージが強く、ディスコ調のトラックもシンプルにかっこいい。失礼ながらこの曲で初めてReiというアーティストを知って衝撃を受けた。ここ数日、彼女のYouTubeチャンネルを何度か訪問している。「どこを歩いてるかじゃないんだ どう歩いてるかなんだ」「どこで生まれたかよりも 何を生むかなんだ」あたりのMummy-Dのリリックは実に痺れる。
3 Open The Window feat.JQ from Nulbarich
表題曲。ミディアムな作りで言の葉をじっくり伝えたいという意匠に溢れている。楽曲面での作り込みの深さは感じるものの、個人的にはあまり刺さらず。もう少し聴き込めばスルメになるかな。バラエティ豊かな収録曲全体を統括する腕力があるかと問われれば、ちょっとパワー不足な気も。宇多丸の反戦リリックは往年の楽曲に比べるとソリッドさに欠ける印象もあったが、ラジオパーソナリティとして一定のキャリアを積んだ現在、様々な政治的・社会的問題に意見していく中である種のバランス感覚を会得した結果なのでは、という印象も受ける。
4 初恋の悪魔 -Dance With The Devil-
アルバムリリースに合わせてコラボ先のドラマーが逮捕されるという、笑えないタイミングによって微妙にケチがついてしまった……。大変残念である。楽曲としては2MCによる畳みかけるようなBack & Forthが非常に心地よく、全体としてチャーミングでありながらしっかりエッジが効いている。ライムスターのスキルが存分に発揮された楽曲で、ライブでも盛り上がるのが目に見える。
5 世界、西原商会の世界! Part 2 逆featuring CRAZY KEN BAND
収録順でいくと2曲続けて「既存の完成された楽曲にラップを乗せるとしたら」のアプローチで、こちらは通算2度目の逆featuring。2番に該当する「見せろオ・モ・テ・ナ・シ」からのフィルインなドラムや緩急のあるホーンセッションのパートが実に泣かせる。これ、一見するとおちゃらけた大人のおふざけの社歌なんだけど、西原商会という企業の来歴を踏まえてイメージしながら聴くとめちゃくちゃ泣きの一曲なんですよね。私はどうしようもなくコンテンツを文脈で味わう人間なので、こういうのに滅法弱い。
6 2000なんちゃら宇宙の旅
おめでとう!娘が歌える唯一のライムスター楽曲!これだけでもめちゃくちゃ嬉しい!つい昨日のこと、リビングでティザー公開された「My Runway feat.Rei」のMVを観ていたら、それを耳にした娘が「もしかして、なんちゃらのひと?」と聴いてきた。びっくりである。素晴らしい。娘よ、君は耳がいい!!(熱い親馬鹿) ライブではキッズコーラスのパートを観客でレスポンスできるのかな、と想像するとこれは予想に反してライブ映えするぞ、と。
7 予定は未定で。
スロウにメロウにレゲエな楽曲。ヘビロテするって感じではないが、ふとした時に聴くといい感じになれる。ライブでは「グラキャビ」あたりと同じ効能で使用されることだろう。収録順では、宇宙いってチルってアダルトな夜の世界へ…… の並びがちょっと気に入っている。「ジャパニーズ」と「玉に瑕」のライミングも好き。無駄なことも大切だよね、という “抜き” のテーマで特に意味のない「ダララレイ」が並ぶのも良くて、ゆっくり揺れる感じは精神的な『ダンサブル』の系譜を感じる。
8 マクガフィン
いやぁぁ~~~、かっこいい。めっちゃかっこいいんですよね、「マクガフィン」。大好きな一曲。トラックの妖しいニュアンスと神経質な打ち込みのアンバランスよ。岡村靖幸がややウィスパーに「がってんしょうちな」と紡いでふんわりした空気を浮かべた後に、Mummy-Dがこれでもかと「ジジジジジ実体のない」を刻む。この落差というか、それこそスパイ映画にあるロマンスとスパイシーな展開の交錯を観ているようで味がある。夜の運転中に車内爆音で鳴らすとキマる。
9 なめんなよ1989 feat.hy4_4yh
チェルノブイリ原発事故や天安門事件、かと思いきや自身の生い立ちや半生、あるいはMummy-Dの大学での宇多丸との出会い、そして亡くなった江崎プロデューサーへの追悼など、リリックとしては全く関連性の無い並び。しかしそれらを「1989結成」「1989生まれ」という西暦ひとつで強引に串刺していく。つまりは「俺らをナメんなよ」というジャパニーズヒップホップとしてスタンダードな表情になっており、西暦は計5人のグルーピング、あるいはこのチームの屋号なんだ、と。各々が好き勝手に我がコトを歌うのがやりたい放題って感じで良い。
10 Forever Young (ザキヤマRemix)
ザキヤマが登場する文脈を理解しつつ、それでも過ぎた悪ふざけへのモヤモヤがちょっと勝っちゃうかなぁ。リミックス以前の元の曲が大人のおふざけとして完成されていて、そこに追いザキヤマという格好なので、ザキヤマの後付けのおふざけと楽曲が対応してないんですよね。ハイカロリーなラーメンにケチャップかけた感じで、ちょっと合わないかもしれない。「なめんなよ1989」からの並びはメッセージ性強くて好きなんだけど。
11 待ってろ今から本気出す
これを最後に持ってくるあたりがいつものライムスターって感じだ。「KING OF STAGE VOL. 14 47都道府県TOUR 2019」には2公演参加したけど、この曲、ライブでめちゃくちゃアガるんですよね。結成30周年という文脈においてのアンセム。ゴリゴリでいかつい硬派のトラックにおっさん達の決意表明が乗る、この湿度低め昭和ストロングスタイル高温乾式サウナっぽいなにか。元気でる。
……といったところで『Open The Window』を引っ提げた今回のライブも当選していました。今のところ1公演いきます。こうやって自分のワードでアウトプット出来たので、週末は文庫本をじっくり読むぞ~。