ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

「面白さ」は数に依存するのだろうか

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特にオチも結論もない、雑文に毛が生えたような話です。

 

時折、「この『面白さ』って数に依存したものなのだろうか」、と考えることがある。この場合の数とは、関連するものを摂取した分母…… のようなニュアンス。

 

例として。昨年公開された映画『シン・ウルトラマン』を、私は「面白い」と感じた。その内訳は、「ウルトラマンに対する作り手の深い愛を感じたから」とか「VFX主体の最先端の日本式特撮を堪能できたから」とか、様々である。しかしこれって、予備知識というか、ある程度の数による判定に過ぎないのではないか、という話だ。言うまでもなく66年の『ウルトラマン』を先に観ているからこそ、沢山の演出や効果音のニヤリとしたポイントに気づくことができる。精神的前作にあたる『シン・ゴジラ』を踏まえて面白がれるポイントも多い。樋口真嗣監督のフィルモグラフィから得られる感想もあれば、もしかしたら漫画&ドラマ『アオイホノオ』で幻視した情景から勝手に感動を倍増させているのかもしれない。

 

しかしそれらは、あくまで私がそこそこの数を摂取していたから、その上で出力された感想である。もし私が、「ヒグチ…… 誰この監督、知らないなぁ」あるいは「ウルトラマンとか、子供の頃に観たかもしれない。ちょっとは」みたいな人間だったら、『シン・ウルトラマン』をどう観ただろうか。そんな、ありもしないことを考えることがある。

 

 

数に依存した「面白さ」、つまり知識に立脚した「面白さ」は、果たして本当の「面白さ」と言えるのだろうか。

 

それは単に、パズルのピース(知識)が脳内で上手くはまったことに達成感を覚えているだけで、本質的に目の前の作品を摂取していることにはならないのではないか。特撮映画を10本観た人と、100本観た人と、1,000本観た人とで、『シン・ウルトラマン』の感想は違ってくるのか。あるいは、違う状態が適正と言えるのだろうか。もちろんこの思考に答えはないが、日々Twitterやブログで観た作品の「面白さ」を言語化するひとりとして、こんなことをふと立ち止まって考えたりする。

 

「知識で殴り合う時代は終わり、共感でエモり合う時代になった」。

 

私は過去にこうブログで書いた。作品のデータベースを兼ねるような個人サイトのBBSで昼夜を問わず作品考察バトルが勃発していたり、死ぬほど前置きが長く関連作品のタイトルが無限に湧いて出るようなテキストサイトの作品批評を読んだり、〇〇を観るなら同じ監督の△△と××は押さえておいて当たり前!……なんて言説が当然のようにまかり通ったり。そういった時代は、もう終焉を迎えているのだろう。もちろん、まだこの感覚は生きている。確かに生きている、が、もはやメインストリームとは呼べなくなった。むしろ、場所によっては熱心に論じる行為そのものが疎まれるようになった。

 

私のこの「面白さ」は数に依存しているのではないか。そう考えてしまうのは、私が上記のような時代を確かに生きた、その体験の出涸らしなのだろうか。

 

あるいは。人はどうしても無垢でピュアなものを至上と捉えてしまう。立場と経済に縛られた大人より、自由と未来を持った子供の方が尊いと感じてしまう。だからこそ、数に依存しない純な感想、「シリーズ初見だけど面白かった!」「ミリしらだけど泣いた!」などの声が、なにかこう…… ものすごいパワーを持ったひとつの証明のように感じられることがある。であれば、監督がどう、関連作がどう、シリーズ過去作がどう、そういった数をこねくり回すことに、どれほどの意味や意義があるのだろうか。

 

そう、考えつつも、数をこねこねしないと感想を吐けない場面が多い。どうしようもなく、そういう人間に育っている訳で……。

 

 

先日、夫婦で『THE FIRST SLAM DUNK』を観に行った。

 

私は昨年末にひとりで鑑賞し、号泣しながらめちゃくちゃ楽しんだのだが、その感覚を嫁さんとも共有したいと思った。しかし、彼女はスラムダンクが全く分からない。それとなく勧めても、私の本棚の単行本を手に取ってくれたことは無かった。それでも『THE FIRST SLAM DUNK』のあまりの素晴らしさに、どうしてもこの興奮を夫婦で分かち合いたい欲にかられ、娘が幼稚園の日に休暇を取り、チケット代は私の負担で、もちろん車も運転して、どうしても一緒に観に行って欲しいと懇願した。その熱意に折れたのか、夫婦で映画館まで出かけたのである。

 

『THE FIRST SLAM DUNK』を観ている最中、私の脳内は、いわゆる「数」をずっと煩く語り続ける。そもそも原作者の井上先生は旧アニメの表現に当時からやや自虐的なコメントを残していたけど旧アニメが好きな自分としては何がどうお気に召さないのかイマイチ理解しきれていなかったが今回の映画を観て氏の言わんとすることがよく分かったというか映画なら週刊連載の最後のキメのコマとして大きく見せるような構図が引きの絵でさらっと流されていたり炸裂したシュートの余韻に浸る間もなく選手がコートの反対側に走っていたりでつまりこのバスケットボールというスポーツにおける臨場感というかある意味で無慈悲に淡々と進行していく速度感覚がいわゆるリアルということであり井上先生がやりたかったことではないかと思う訳だけどだからといって結果的にヒットしたからいいものを事前の宣伝はお世辞にも効果的だとは感じられなかったし対戦相手を隠すのも旧アニメで未映像化だった文脈を踏まえるとむしろお出ししてしまった方が良かったのではと考えるがとはいえこのサプライズで殴る作りも間違いなく素晴らしいし悩ましいことろであるし思えば宮城リョータというキャラクターは他の4人に比べて個人のドラマや背景が薄く彼を主軸とした再構成には納得がいくところだが彼が孤独だったことを強調するためかヤスの影が薄くなったり花道と一緒に喧嘩してなんだかんだで友情意識が芽生えていく流れを省いたりするのは若干のモヤりがある訳だがそもそもスラムダンクという漫画が週刊少年ジャンプという連載のシステムと相性が良かったかと改めて問われるとウンタラカンタラ……。と、まあ、こんなことが、走馬灯のように駆け巡り続け、そのパズルの結果として、大きな感動に寄与していくのだ。

 

では、今回の場合の「数」を持たない嫁さんは、『THE FIRST SLAM DUNK』をどう観たのか。

 

二度目の鑑賞ということもあり、「もしこれで嫁さんが楽しめなかったらどうしよう」という不安に駆られながら、映画を観ながら チラッ チラッ と横目で様子をうかがう。冒頭のボールが弾む音でもう泣きそうになってしまった私は、次第にその不安を忘れて作品に没頭していく訳だが、その約二時間後、嫁さんは無事にハンカチを取り出していた。涙をすすりながら、息を飲む様子が確認できた。観終わった後も、ふたりで昼食をとりながらひたすら余韻トークをした。目的は達成されたのである。

 

もちろん、感想や「面白さ」に貴賤など無い。知識に立脚した感想が偉い訳でも、反対に、ミリしらの人のピュアな感想が絶対的に尊い訳でもない。

 

ただ、例えば「チャンネルを合わせる」ように、作品とそれを摂取する人の数だけ、「数の扱い方」は変わっていくのだろう。Aを観る時は数に依存せざるを得ない。Bはよく知らないから乏しい数を頼っても仕方がない。Cはぜひ数で判断したいけど足りていないから先に母数を増やす必要がある、などと……。しかし、まあ。そういって作品ごとに「チャンネルを合わせる」行為自体が、なんだかクソ面倒というか、そんなことを微塵も意識せずに『THE FIRST SLAM DUNK』に感涙できた嫁さんの方が、よっぽど上等な体験だったのではないかと、そういう想いが無いといったら嘘なのだ。

 

しかし、もうこの生き方を変えることは出来ないとも思う。これからもずっと、チャンネルと数を意識しながら作品と向き合っていく人間として、生涯を終えるのだろう。

 

これを読んでくれている貴方の身近にもきっと、作品の感想を語る際、初手でその原作者や監督の前作を持ち出したり、精神的前編にあたる作品を挙げたり、枝葉の関係者の功績を解釈に組み込む人がいるのではないか。キャラクターの魅力や演出よりも、まずはそういった数で語りたがる人がいるのではないか。すまない。少なくとも私はそういう人間になってしまった。私の「面白さ」は、どうしても数に依存してしまうのだ。だからこそ、「数が充分でないから “まだ” 観られない」といったクソ事案も発生する。我ながら阿呆すぎると思う。四の五の言わずとっとと観ろ馬鹿。でも、分かってくれる人もきっといるだろう。

 

本当に怖いのは、数を増やせなくなった時だ。日常に追われ、作品を摂取する時間が限られていき。老化あるいは怠惰か、新しい作品を貪ることが億劫になっていき。そうして絶対的な数が乏しくなった時、「つい数で語ってしまう人」は一体どうなるのだろうか。いつまでも過去を追いかけるような、在りし日の私が嫌悪した「老害」の姿がそこにあるのだろうか。

 

強迫観念と共に摂取するエンタメなんて、きっと、不健康なのにね。

 

 

(※あと本題とは全然関係ないのですが、先日、自主制作した同人音楽をサブスク配信したので、よかったら聴いてやってください)

 

Valuable Symmetry

Valuable Symmetry

  • Fic Sound
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

▼サブスク
https://linkco.re/q6ZsGgYH

 

▼YouTube
https://youtu.be/j68o0TPFYdo

 

不健康Life