ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

感想『スター・ウォーズ EP9 スカイウォーカーの夜明け』 観たかったのは「終わらせるための物語」じゃない

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上映前、馴染みのシネコンの入り口で、ポケットティッシュが配られていた。不動産屋か、ネカフェか、カラオケか。何らかの宣伝ペーパーが封入されたそのポケットティッシュを、いつもなら断るのについ受け取ってしまった。

 

2015年に『フォースの覚醒』を観た、その時を思い出したのだ。ジャクーを舞うミレニアム・ファルコンに魂が震え、思わず泣いてしまった。レイがライトセーバーを起動させた瞬間、そして、クライマックスにてついに邂逅する神話の人物・ルーク。感情が昂る数々の名シーンは、何度観てもじわっと涙が流れる。大好きな一本だ。

 

レイ、レン、フィン、ポー。彼らの物語の終着点として公開された、EP9『スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け』。またあの日のように感情が昂るだろうか。エモーショナルに殴られるだろうか。いつでも取り出せるよう、胸ポケット仕込んだポケットティッシュ。

 

だが、エンドロールが始まっても、それが濡れることは無かった。

 

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確かに、『フォースの覚醒』には大きな「ズルさ」があった。

 

それは、物語の縦筋に関わる要素をほぼ全て次回作にぶん投げた、その構造を指す。レイの出自も、敵であるファースト・オーダーの背景も、ルークのその後も、彼とベンとの確執の詳細も、『フォースの覚醒』を観ただけではよく分からない。その代わり、レイやフィン、ポーといった、新しいスター・ウォーズを彩るキャラクターをしっかり魅力的に描く。そこに多くの尺が割かれていた。

 

物語の大筋で『新たなる希望』をなぞりながら、『帝国の逆襲』っぽいシチュエーションや、『ジェダイの帰還』っぽい展開を散りばめる。言うまでもなく、ハン・ソロもルークも登場する。いわゆる「接待」要素は少なくない。しかし、私が『フォースの覚醒』が大好きなのは、その「接待」と同じくらい「新しさ」を感じられたからだ。

 

物語のクライマックス、フィンが賢明にライトセーバーを操るも、カイロ・レンの前に倒れてしまう。お腹をバンバンと叩きながら、感情を絞り出すように戦うレン。彼が雪に刺さったセーバーを引き寄せようとしたその瞬間、その手をすり抜け、主人公・レイの手にセーバーが収まる。驚きと決意に満ちた、絶妙の表情でのセーバー起動。そして、両雄の決闘。つばぜり合いのシーンでは、フォースを感じるために目を瞑るレイを前に、レンが思わず見惚れるような表情を作る。

 

この一連のシーンには、過去6作のスター・ウォーズが横たわっていなかった。フィンと、レンと、レイ。同じ世界観でありながら、ルークでもレイアでもソロでもないキャラクターが、自身の魅力を爆発させながら交わる。映画全体に「接待」要素が多くても、こういった肝心の部分だけは「新しさ」に寄せる、そのバランス。「ああ、彼らの新たな物語をこれから追うことができるんだ」、という感慨深さ。高まる期待。40億ドルをかけて偉大な「宇宙」を買収したディズニーが見せた、新しい第一歩。

 

10年ぶりにスター・ウォーズの本流が動くのだから、徹頭徹尾「新しさ」をやるのはあまりにリスクが高い。それを受け入れてもらうのは至難の業だろう。だからこそ、「接待」を散りばめてバランスを取る。でもやっぱり、「新しさ」やその予感も含ませる。針の穴に糸を通すような絶妙かつギリギリのバランス。それが、私の感じた『フォースの覚醒』であった。当時、映画館に何度足を運んだことだろう。

 

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そして2年後、2017年。物議をかもしたEP8『最後のジェダイ』。

 

確かに、歪な作品だった。色々と凸凹ではあった。「このくだり要る?」というプロットを挙げればきりが無いし、物語も大筋として撤退戦なので、カタルシスに欠ける。シンプルに、シナリオとして「上手くない」点が散見された。『フォースの覚醒』では生き生きとしていた新たなキャラクターたちにも、どうにも前作ほどのエネルギーを感じない。

 

しかし、レイの出自を「名もなき者」としたその種明かしに、私は衝撃を受けたのだ。なるほどそうきたか、と。確かに、スター・ウォーズとスカイウォーカーの血脈は切っても切り離せない関係にあった。だからこそ、「名もなき者」設定に批判が飛び交うのも分かる。それでも、「ディズニーが描く新しいスター・ウォーズ」というアプローチを考えれば、これほど納得感のある筋書きもない。近年のディズニー作品に顕著な、脱・プリンセスの構造。それを踏襲するように、「スカイウォーカーの物語」を「みんなの物語」に推移させる。

 

だからこそ、エンドロールに入る直前、夜空を見上げる少年が印象に残る。彼のような「名もなき者」が、次の歴史を作るのかもしれない。血脈によって、一種「閉じられていた」作品。それを、全世界の人類に向けて「開く」。あなたも、あなたも、あなたも、物語の主人公になり得るかもしれない。スター・ウォーズでそれをやるリスクは素人目にも分かるのに、それでもやる。なるほど、それは私が『フォースの覚醒』で感じた「新しさ」の延長にある。

 

40億ドルをかけて買収したスター・ウォーズに、エンターテインメントの帝王ことディズニーのイズムを持ち込む。なんともセンセーショナルだ。強烈だ。しかし、その決死の挑戦にこそ、私はついていきたいと思った。わざわざ巨額を投じて一度終わった歴史を動かすのだから、「これくらい」はむしろやって然るべきとも感じていた。レイが「名もなき者」であるならば、そんな彼女こそが、スカイウォーカーの名ではなく精神性を継ぐのだろう。そんな期待が膨らむ。

 

更に2年後、2019年12月、『スカイウォーカーの夜明け』。あの頃感じた「新しさ」に、ついに終わりが来る。(以下、ネタバレ込みで感想を記す)

 

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しかしどうだろう、スクリーンで展開されるのは、終始「終わらせるための物語」であった。

 

『フォースの覚醒』でこうなって、『最後のジェダイ』でああなったのだから、「こういう感じ」にしておきます。兎にも角にも、崩壊だけはさせません。ある程度しっかり「着地」させますから、観ていてください。見届けてください。と、終始このように制作サイドから語りかけられる感覚があった。

 

『最後のジェダイ』の世評が芳しくなかったことも、スピンオフ『ハン・ソロ』の興行成績が振るわなかったことも、もちろん知っている。この完結編の監督が当初予定されていたコリン・トレボロウからJ.Jエイブラムスに変更になったことも、その後のコンテンツとしての展開をスタジオとして一旦休めることも、聞いている。だからこそ、『スカイウォーカーの夜明け』は非常に難しいポジションに立たされたのだろう。それは東の島国のトーシロー映画ファンでも、よく分かる。

 

だからこそなのか。展開される「終わらせるための物語」は、「無難」に満ちていた。

 

思い出したようにレイたち新キャラクターでチームを組ませ、冒険に旅立たせる。いくつかのマクガフィンを設定しながら、色んな景色を見せる星々を巡る。なるほど、スター・ウォーズだ。ダース・シディアスことパルパティーンを復活させて、これまでのあれこれは全部彼の策略だったことにする。なるほど、以前までの6部作と同じパターンだ。スター・ウォーズである。そしてレイをその孫娘ということにして、「血脈の物語」としての側面を強調する。うん、スター・ウォーズだ。

 

批判された新キャラクターについては、出番を少なくしよう。これ以上ファンの反感を買う訳にはいかない。ダークサイドに染まり切れないカイロ・レンは、レイとの交流を受けて改心することにしよう。そして、闇の出身であったレイがスカイウォーカーを名乗るラストにしよう。「新しい」ことに挑戦するにはタイミング的にリスクが大きいので、「王道」の物語にしよう。パターンを踏襲しながら、リスクは取らず、しっかり「着地」させることに専念しよう。

 

そして、「接待」要素もしっかりと散りばめよう。離れそうなファンを喜ばせる必要があるし、スター・ウォーズらしさを演出しておくのは今後のコンテンツ延命のために重要だ。これは、ディズニー作品じゃなくて、スター・ウォーズなんですよね。大丈夫、分かっていますよ。ルークを霊体で再登場させて、幻影ということでハンも出します。過去のジェダイの声も響かせます。チューバッカには勲章をあげます。アナキンが成し得なかった「愛する者の死する運命からの解放」もレンがやります。ルークがXウイングを持ち上げるのは、みんなお馴染み、あのシーンと同じですね。そして最後はルークとレイアのセーバー二刀流で勝ちます。いいでしょう? スター・ウォーズしてるでしょう?

 

・・・142分もの間、私はずっと、こういった声を聞いていた気がする。前作までに生きていた「新しさ」は、漏れなく「無難」「着地」に置き換えられ、それを補うように過剰投入される「接待」。とにかくスター・ウォーズらしく、とにかく破綻の無いように。そこに心血が注がれていることはよく分かった。これでもかと伝わってきた。でも、私はこれが観たかった訳じゃない。「そつなく終わるスター・ウォーズ」が観たかった訳じゃないのだ。

 

もちろん、「着地」しない可能性もあった。エンターテインメント大作は常に橋の上を走るようなもので、気付けば続編で足を踏み外して落下した作品も沢山ある。そういった意味では、しっかり走り抜けた。「着地」はした。J.Jエイブラムスはそつなく「着地」させたし、それこそが彼に課されたテーマだったのだろう。この点については、異論も反論もない。レイは闇の陰に追われながらもスカイウォーカーを継ぎ、レンはその礎となった。全宇宙の有志が結集する総力戦は、完結編に相応しいスケールだった。そう、間違いなく、「着地」はした。「軌道修正」はした。「まとめ」はした。

 

しかし、私が観たかったのは「跳躍」、あるいは「新しさ」だった。『フォースの覚醒』には確かにその萌芽を見たし、『最後のジェダイ』でも地続きの挑戦を感じた。でも、『スカイウォーカーの夜明け』はその芽を綺麗に摘み取ってしまった。「終わらせる」ために、「敵としての敵」以上の役割を持たないパルパティーンを登場させて、全てを彼の仕業にする。レイやレンにも「よくある悩み」を経験させ、「よくある解決」に向かわせる。

 

どこかで観た展開。どこかで聞いた展開。どこかで読んだ展開。「王道」と「無難」は紙一重だが、今回の私の理解では、完全に後者である。ただ黙々と、終わらせるために終わらせる。過去の功績でファンサービスをして、スター・ウォーズの香りをつけて、終わらせる。そして、目論み通り物語は終わる。終わらせるために物語ったのだから、終わるに決まっているのだ。そりゃあ、終わりますよ。終わるでしょ。そこだけを見つめて作ったのなら。

 

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こうなるといよいよ、「ディズニーは何のためにスター・ウォーズを買ったのだろう」という思考が存在感を増してくる。

 

もちろん、それは儲けるためだ。映画は、コンテンツは、ビジネスである。それは揺るがない。でも、それを世界中の皆が十二分に理解していても、「そうじゃない」ふうを巧妙に装うのが筋ってもんじゃないんですか。「私たちがスター・ウォーズの新しい物語を紡ぎます」と、そう自信満々に言ってのけるのが、エンターテインメントの帝王の立場じゃないんですか。「色々と上手くいかなかったから軌道修正して無難に終わらせます」なんて、そんなことを馬鹿正直にやってしまったら、「儲けるためにスター・ウォーズを買いました」と真顔で言っているのと同義じゃないですか。いや、そうだけど、そうなのは分かっているけど、「そうじゃない」のでは? うーん・・・。

 

いや、良かった。良いシーンも、カットも、演出も、沢山あった。スター・デストロイヤーの甲板での白兵戦や、荒波に囲まれたロケーションでの決闘など、目を見張る部分もあった。『最後のジェダイ』で印象的だったレイとレンのフォース無線通信、それを活用したセーバーの受け渡し、息をのむ間の取り方。良かった。すごく良かった。アガった。

 

しかし、例えばパルパティーン。さっきまで「レイ、お前が私を殺すのが目的。さあ殺せ!」とか言っていたのに、数分後には「お前たち一対のフォースを吸収して私が君臨する!」とか言い出す。いや、分かるよ。敵の策略を打破する主人公と、ついに共闘するふたり。その構図は「王道」だよね。分かるよ。

 

全世界から反乱の有志が集まって総力戦が行われる。レイはフィンたちが何をやっているか全く知らないし、その逆も同様。お互いの状況は全然分からないけど、全てが終わったら泣きながらハグだよね。いや、分かるよ、それが「王道」だから。死線を一緒に潜ってはいないけど、潜った感じにした方が感動的だよね。分かりますよそれは。

 

一事が万事、こんな感じなのだ。たとえよくある展開と言われようと、とにかくそつなく終わらせる。そして、それを誤魔化すかのようにファンサービスを散りばめる。チューバッカが死んだと思った? 安心してください、生きてます。C-3POの記憶が消えたと思った? 安心してください、バックアップがあります。『フォースの覚醒』にあった溜めて溜めて爆発させるスコアの使い方もやめて、とにかくキャラに応じたテーマを何度でも流します。瞬間瞬間はエモくしておきます、インスタントなエモをそこらに沢山置いておきます、そんな展開のつるべ打ち。

 

そこには、「新しさ」も「挑戦」も薄い。少なくとも、私が期待した要素は皆無に等しい。「淡々と終わっていくスター・ウォーズ」だけがそこにあった。そうまでして「新しさ」を剥ぎ取ってしまうのは、本当にコンテンツ延命の一助になるのだろうか。

 

クライマックスの手前、レイが乗ってきたXウイングと、レンが乗ってきたTIEファイターが並ぶ、そんなカットがあった。たった数秒だが、あの日の私が覚えた「新しさ」に通じるものが、あの一瞬にあったのかもしれない。私が勝手に期待値を上げて勝手に憤っているだけだろうか。「スター・ウォーズなんてそもそもこんな感じだよ」と言われるだろうか。それはそれで構わない。私は、とにかく残念に思えてならなかったのだ。

 

「私は、レイ・スカイウォーカー」。主人公がそう名乗って、物語は幕を下ろす。分かるよ、分かる。夜明けね、スカイウォーカーの夜明けだよね。そう、継承したよね。精神性を継承するんだよね。確かに期待してたよ、分かるよ。

 

でも、「名もなき者」が偉大な血脈であるスカイウォーカーを継ぐのと、闇の出身者が悩んだ末に光に身を置くエンドでは、全然意味が違うのではないか。パルパティーンの名をさらっと捨てているけど、命をかけて娘を守った両親もまた、同じパルパティーンじゃなかったの? そこはむしろ、両親の想いを継ぐように「私はレイ・パルパティーン」と名乗り、しかし観客はスカイウォーカーという概念の確かな継承をそこに見い出す、こっちの落としどころじゃないの? うーん・・・。

 

つくづく、残念である。「無難」な「着地」を、つまり全身全霊で「置きに行く」ことで、本来喜ばしいはずのファンサービスの数々も、空虚に感じられてしまう。これが、あの『フォースの覚醒』からの終着点とは。ひどく寂しい。

 

・・・前もって買っていたムビチケには、まだ余りがある。なんだかんだ言って、まだ一度しか観れていない。吹替キャストも大好きだし、年末年始は時間も取れるだろう。Blu-rayも買うだろう。テレビで放映されれば観るだろう。これから何度も、私は『スカイウォーカーの夜明け』と向き合うのだろう。

 

いつの日か、どう感情が転んでも大丈夫なように、ティッシュだけはそばに置いておきたい。

 

アート・オブ・スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け

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