ジゴワットレポート

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高岩成二がスーツアクターを務める仮面ライダー滅に本当に勝てるのだろうか

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『仮面ライダーゼロワン』第8話「ココからが滅びの始まり」にて、仮面ライダー滅がセンセーショナルな登場を果たした。

 

敵組織の司令塔、現時点での最強の敵に位置する滅。毒々しい紫色のスーツ、鋭角につり上がった眼、蠍モチーフにガンメタルの装甲など、「いかにも」な要素が盛り沢山のヒールライダーである。

 

しかしやはり、そのスーツアクターを務めるのが高岩成二その人である、という点に強く惹かれてしまう。これぞ、「文脈」としての熱さだ。

 

 

このツイートに使われたカット。これだけでもう、最高である。ほんの少しだけ右肩が下がり、対する左肩が上がっている、その体重移動、悠然とした姿勢。惚れ惚れするばかりだ。

 

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高岩さんといえば、(もはやわざわざ説明するのもおこがましいほどだが)、平成における主役仮面ライダーのスーツアクト、その多くを担当した方である。

 

ただ、それより前の時代の話として、私の世代だと『忍者戦隊カクレンジャー』のニンジャレッドが印象深い。ニンジャレッドに変身するサスケというキャラクターは、普段はお調子者ながら、いざという時に堂々とリーダーシップを発揮する男。その絶妙な演技を変身後のスーツ姿でも披露していたのが、他ならぬ高岩さんなのだ。

 

印象深いのが、『カクレンジャー』第4話「妖怪ポリスマン」の回。妖怪アズキアライとその手下たちを前に、スーパー変化した直後のニンジャレッドが説教をかます。敵をまっすぐに指差し、肩を揺らし、首で表情を伝える。どっしりと構えた下半身と、雄弁な上半身とが相まって、そこに尋常じゃない説得力が生まれる。後年のモモタロスの動きを思わせる、私の大好きなカットだ。

 

第4話「妖怪ポリスマン」

第4話「妖怪ポリスマン」

 

 

その後、ギンガレッドやタイムレッドなどを経て、2001年に『仮面ライダーアギト』に参加。アギトの、武道を思わせる「静」の佇まいは、前年の『クウガ』とはまた違った魅力を放っていた。

 

龍騎の人間味あふれる演技や、ファイズの気だるさを感じさせる喧嘩殺法、剣の感情が爆発する動きに、カブトの悠然としたファイトスタイルなど、何度も視聴者を魅了し続けた高岩さんのスーツアクト。そして、氏のキャリアにおける代表的キャラクターとなったモモタロス(電王)の登場。特に、クライマックスフォームに代表される演じ分けや、その幅の広さは、今でも方々で語られ続けている。

 

高岩さんの魅力は、電王やダブルといった「複数キャラクターの同居・演じ分け」が取り上げられることが多い。もちろんそれは、全くの異論なく芸術の域に達しているのだけど、私としては「細かい心情を身体に乗せるのが抜群に上手い」という印象が強い。

 

パッと思い浮かぶのが、『仮面ライダー鎧武』第34話「王の力と王妃復活」。目の前で姉がインベスに連れ去られるくだりで、その姉から目の前の子どもを守るように託された鎧武が、一瞬のタイミングで葛藤するカット。

 

腰を落とした低い姿勢で、視線があちらとこちらに行き来し、肩からは焦燥感が、腰の動きからは決意が漂う。定まらない両脚の動きも良い。一瞬、ほんの一瞬だけ躊躇し、それでもすぐに子どもを守るべくインベスの方に駆ける鎧武。葛葉紘汰というキャラクターの心情がしっかりと伝わってくる、小さな名シーンである。

 

王の力と王妃復活

王の力と王妃復活

 

 

このような、肩や腰、両脚や指先に至るまで、その随所にしっかりと心情が乗っかってくる。「怪人と戦ってそれを倒す」というヒーローアクションの大前提の上で、キャラクターの息づかいが展開されるのだ。こういう点で、高岩さんの動きには本当に見惚れることが多い。

 

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その最新の演技が、『ゼロワン』の仮面ライダー滅だ。

 

変身シークエンスでは、CGで登場した蠍がスーツ素体を喰うようにまとわりつき、弾けるようにアーマー装着を果たす。その反動か、少し俯いた姿勢で登場し、その後、首をゆっくりと持ち上げる。息づかいが聞こえるかのように、少しだけ胸が膨らむのも良い。ゴーストのパーカー憑依を思い起こさせる動きだ。

 

直後、「お前がデイブレイクの首謀者だったのか!」と激昂して襲い掛かるバルカンの攻撃を、腕を使いつつ上半身を逸らす最小限の動きでいなし、右腕を払うアクションで弾き飛ばすと同時に自身が一歩前進する。この一連の流れがあまりに素晴らしすぎて、すでに録画を何度も巻き戻して観てしまっている。アギトやカブト、電王ウイングフォームなどに見られた、堂々とした「静」の動きである。

 

更には、バルカンの首根っこを掴み、じわりと顔を近づけたかと思えばぐるっと回して一撃を加える所作。この見事な緩急のつけ方!バルカンの連射攻撃を全身で受ける様子も、「押されている」のに、「ダメージを受けている」ように見えない、絶妙な着弾演技。体幹が不遜すぎる。

 

バルカンを亡き者にするべく歩み寄るシーンも、ステップの踏み方が実に美しい。一本のラインの上を歩くような、確かな足取り。つま先から感じる強者のオーラ。そして、歩きながらのベルトの必殺技操作。トリガーを弾いた後の、右の掌の表情。良すぎる・・・。そして、放たれるハイキックの安定感。ビルドのハザードフォームがスタッグハードスマッシュを葬った、あの背筋の凍るシーンが脳裏をよぎる。あるいは、激情態のディケイドか、パラドクスを完膚なきまでに痛めつけるハイパームテキか。

 

高岩さんの悪役演技といえば、近年だと、『エグゼイド』のスピンオフ『仮面ライダーブレイブ〜Surviveせよ!復活のビーストライダー・スクワッド!〜』の王蛇が印象深かった。その昔、龍騎として剣を交えた最凶の仮面ライダー、王蛇。演じた岡元次郎氏は、同作にてリュウガやオーディンも担当し、圧倒的な存在感で龍騎の前に立ちはだかった。『ブレイブ』での高岩さんによる王蛇は、当時から抱いていたであろうリスペクトが垣間見えるような、逸品のアクトであった。

 

第41話
 

 

王蛇といえば、演じた岡元さんは『仮面ライダーBLACK』『仮面ライダーBLACK RX』で主役ライダーを担当している。そんなライダーとしての先輩が、最凶の敵となり、経験と技術をその身に宿しながら主人公に襲い掛かる。そんな、スーツの中の俳優同士のぶつかり合いに、特撮オタクとしてはつい胸が熱くなってしまうのだ。

 

そして、時代は令和。高岩さんは『ジオウ』をもって主役ライダーを引退し、ゼロワンは縄田雄哉氏が演じることとなった。更には、まるであの日の王蛇やリュウガのように、敵として後輩の前に立ちはだかるというではないか。なんと、なんと「文脈」が熱いのだろう。かつて立ち向かった壁に、今まさに、高岩さんが成っているのだ。

 

 

これまで数多くの作品で観てきた、安心感と安定感が凄まじい高岩さんの演技。『ゼロワン』では本格的にレギュラーの敵キャラクターを担当されるとのことで、その「安心感」や「安定感」が、一気に「恐怖」や「威厳」に変換されていく。この指先の動きも、重厚な歩の進め方も、体重移動も、首や肩が作る表情も、その全てを、我々はずっと観てきたのだ。

 

その背中とヒロイズム。そこに、もはや条件反射のように向けられる賞賛の気持ちが、気付けばバルカンを叩きのめす悪の仮面ライダーに届いている。まるで、脳がちょっとした誤認識を起こしたかのようだ。

 

仮面ライダー滅に、ゼロワンたちは本当に勝てるのだろうか。もちろん、物語的には、いつしか勝つのだろう。退け、打倒するのだろう。しかし、高岩さんの圧倒的なスーツアクトは、その予定調和に影を落とすほど素晴らしいものであった。滅の活躍、そして、そこに喰らいついていくゼロワンたちの「演技」にも、注目していきたい。

 

宇宙船vol.166 (ホビージャパンMOOK 960)

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仮面ライダーゼロワン RKF 仮面ライダーゼロワン ライジングホッパー

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