ジゴワットレポート

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アベンジャーズの功績にフリーライドするドラマ『ザ・ボーイズ』が皮肉マシマシで最高に面白かった

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先に概要を簡単に説明すると、「キャプテン・アメリカやワンダーウーマンが実は根がクズでビジネスのためにヒーローをやっていたとしたら」、という作品である。

 

Twitterのタイムラインで日に日に話題が沸騰しており、愛聴しているラジオ番組でも触れられたり、遂にフォロワーの方からも直接オススメされたので、「こりゃあもう観るしかねぇ!」と再生ボタンをクリックした『ザ・ボーイズ』。Amazonプライムビデオのオリジナルコンテンツで、60分×全8話のシーズン1。R指定。コンパクトで観やすい。

 

報じられたところによると、配信開始からわずか2週間でAmazonプライムビデオ史上最も再生された作品のひとつに躍り出たらしく、世界中で人気を博しているとのこと。すでにシーズン2の制作もアナウンスされているので、楽しみでならない。私も久々に夜中まで起きて続きを観るほどにハマってしまった・・・。いやぁ、やっぱり良いですね、洋ドラ。この感覚はいつぶりだろう。

 

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冒頭で書いたように、この作品は「スーパーヒーローがいる世界」の物語である。予告映像、一応ことわっておきますが、グロ注意です。

 

youtu.be

 

例えばキャプテン・アメリカが、ソーが、スーパーマンが、ワンダーウーマンが、その超人的な能力で人命救助を繰り返し、世界中から喝采を浴びている世界。彼らが広告塔になったポップが街を埋め尽くし、フィギュアやポスターが量産され、テレビやイベントに頻繁に出演し、その辺りをうろつけば皆がスマホで写真を撮る。「そういう世界」と伝えれば、分かる人にはすぐ分かる「世界」。

 

 

アベンジャーズやジャスティスリーグのようなヒーローチームがあり、それを統括してマネジメントする大企業も存在する。

 

作品冒頭、母親と何年もかけてヒーローになるべく頑張ってきた少女が、このヒーローチーム入りをかけたオーディションに合格する訳ですね。合格の電話を受け親子で喜び、人生が希望に満ち溢れる。そうして通された高層ビルのオペレーションルームで、憧れていたイケメンヒーローが唐突に下半身を露出してくる。「アベンジャーズに入りたかったら、分かるよな?」、と。(アベンジャーズは例えです。正確には「セブン」です。)

 

心に傷を負いながらも、少女は母親と共に勝ち取ったトップヒーローの座をなんとか邁進しようとする。テレビの向こうで輝いていたヒーローたちが、救援活動より自らの名誉や好感度を優先するロクデナシである実態を目にしていくが、それでも、偶然遭遇した暴漢を撃退しながら自身の夢を再確認する。

 

しかし、ヒーローたちを統括する敏腕女副社長から、新しいコスチュームを提案されてしまう。胸をさらけ出した、露出度が高すぎるデザイン。これを着れば支持ポイントがいくらか上昇するという、マーケティング部の判断だと言うのだ。「私、こんなの着れません!」「じゃあ着なくてもいいわよ。でもそれじゃあ、アベンジャーズに入る話は無かったことになるわね」。(繰り返しますが、アベンジャーズは例えです。正確には「セブン」です。)

 

・・・と、まあ、こんな感じである。「ヒーローが実際にいる世界」と言えば聞こえは良いが、悲しきかな当然のように、そういう世界にも歪みが存在してしまう。「社会の暗部」などという陳腐な表現に落とし込みたくはないが、そういったものが少女に降り掛かってしまう。とはいえ彼女は、『ザ・ボーイズ』の主人公ではない。

 

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『ザ・ボーイズ』が面白いのは、こういった腐敗したヒーローサイドに対して、アウトローな自警団「ザ・ボーイズ」が宣戦布告を突きつけていく構造にある。ヒーローに恨みを持つ面々が、彼らと対峙していくのだ。

 

主人公は何の特殊能力も持たない一般人だが、ヒーローの「活動」の最中、事故のように恋人を殺されてしまう。悲しみに暮れる中、当のヒーローはテレビに出演し取って作ったような神妙な面持ちでお悔やみを述べる。続いて管理会社の法務担当が訪れ、「賠償責任はないがお見舞金の用意がある」と、機密保持誓約書へのサインを迫る。もうこの時点で、いや〜〜な空気しか漂わない訳ですよ。なんだそのヒーローは。そこに正義はあるのか。

 

物語が進むに連れ、そんなトップヒーローチーム「セブン」の実態が明らかになっていく。横行するセクハラ、大小様々な自作自演、情報操作、何よりシンプルにクズ。テロリストを殺す際に快楽を感じるような、そんなクズである。

 

例えば、「セブン」のトップヒーローで絶対的な地位に君臨しているのが、ホームランダー。青いコスチュームに星条旗のマント。目から赤いビームを放つ。超絶爽やかで情にもろく、常に市民の味方。

 

しかしそれは表の顔で、裏ではドがいくつも並ぶようなドクズである。物語が進むに連れ彼のクズ行為が驚きの勢いで積み重なっていくため、段々笑えなくなってくる。特に、4話の航空機のくだりは見所すぎてドン引き。お察しのように誰もが知っているスーパーマンをパロったキャラクターだが、星条旗マントや髪の色、コスチュームの質感など、MCUのキャプテン・アメリカも汲んでいるだろう。なんでそんな、どことなくクリス・エヴァンズに似た人を連れてきたんだ・・・。ひどい(最高)・・・。

 

無垢

 

他にも、能力そのまんま魚とお話できるアクアマンのようなヒーローや、長い髪を美しくなびかせて戦うワンダーウーマン的な女傑、フラッシュやクイックシルバーのように高速移動を得意とする男など、誰も彼も「どこかで見た」ような面々が続々と登場する。

 

収穫

 

(Aトレインというヒーロー、MCUにおけるファルコン度数が高すぎる・・・ お、お前・・・)

 

そんな『ザ・ボーイズ』だが、原作は以前より存在しているコミックである。なので、「ヒーロー社会の負の側面」という構造そのものは、特段、斬新という訳ではない。「誰がウォッチメンをウォッチするのか」というアプローチも、様々な作品で目にしてきた。

 

ザ・ボーイズ 1 (G-NOVELS)

ザ・ボーイズ 1 (G-NOVELS)

  • 作者: ガースエニス,ダリックロバートソン,Garth Ennis,Darick Robertson,椎名ゆかり
  • 出版社/メーカー: Graffica Novels
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: コミック
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「ヒーローの活動が一般人を巻き込んでしまうかもしれないリスク」については、それこそ『仮面ライダークウガ』だってやっていた。「ヒーローが広告塔として活躍するが故にビジネスの事情が絡む」という世界観は、『TIGER & BUNNY』辺りも正面から取り扱った。「ヒーローが全人類を漏れなく救うことは事実上不可能である」という問題も、本家アメコミ映画MCUが『アベンジャーズ / エイジ・オブ・ウルトロン』や『シビル・ウォー / キャプテン・アメリカ』で描いたし、「ヒーロー社会とビジネスの谷間に落ちてしまった者」も、同シリーズ最新作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に集団で登場した。

 

しかし、この『ザ・ボーイズ』にどうしようもなくフレッシュなものを感じてしまうのは、同作が他でもない2019年に公開されたからである。

 

今年は、アメコミ映画的には大きな節目の年だ。M・ナイト・シャマラン監督の『ミスター・ガラス』がアメコミ世界観への賛歌を表明し、『X-MEN』シリーズは遂に幕を降ろした。そして何より、10年以上をかけて加速度的に成長してきた化物コンテンツ・MCUが『エンドゲーム』で壮大なフィナーレを見せつけた。言うまでもなく、こんな節目の年の前段には、一作目『X-MEN』やライミ版スパイダーマンなど、数々の作品が積み上げてきた確固たる歴史が存在している。

 

『ザ・ボーイズ』は、そんな歴史に大真面目にフリーライド(ただ乗り)をキメている。「ヒーローが何人も存在する世界」「世間に彼らが認知されている現状」「広告にまで登場する社会的影響力を持つ超人集団」。そういった舞台背景について、もはや現状では細々とした説明は不要なのだ。世界中の多くの人が、「そういう世界」をすでに知っている。アベンジャーズで、X-MENで、ジャスティスリーグで、そういうのをこれまで散々観てきたのだ。

 

加えて、例えば、デューンと効果音が鳴れば、画面に映っていなくてもヒーローが空から着地したと「分かる」。ブオォォォンと鳴れば、何の画面処理が無くても、目がアップになるカット程度でそのヒーローが能力を発動させたことが「分かる」。

 

我々世界中の多くの観客は、MCUやDCEUやその他様々なヒーローコンテンツによって、そういった演出を好んで学んできたのだ。『ザ・ボーイズ』は、そういった観客が持つ演出への慣れを意図的になぞっていく。「こういうの知ってますよね」「はい、これはこういうシーンですよ」。そしてそのどれもがちゃんと「巧い」ので、どうにも笑ってしまう。ずるい。

 

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そんな「慣れ」は、何も演出に限った話ではない。主に美術の面でも皮肉たっぷりに活かされている。

 

例えば前述の、ホームランダーのコスチュームの質感。素材。色味。マントの長さ。他のヒーローもそうだが、これらは確実に、近年のアメコミ映画が築き上げたリアリティの線引きに寄せてきている。10年前なら「コスプレじゃん」と鼻で笑われていたかもしれないコスチュームが、今やもう立派に「あり」なのだ。そういった文化を、土壌を、風潮を、アベンジャーズやジャスティスリーグが懸命に築いてきた。

 

『ザ・ボーイズ』は、ここにもフリーライドをキメていく。 真顔で真摯に、大真面目にただ乗りしていく。そういった類の作品を観ている人ほど、「あ〜!こ、これは!」とニヤニヤが抑えきれなくなってしまう。作中ヒーローチーム「セブン」の本拠地は見るからにアベンジャーズタワーだし、何なら音楽も、ちゃんと「アラン・シルヴェストリっぽい」。こういうのを、一切の手抜きなくやっているのだ。

 

重ね重ね、これが2019年に世界に向けて公開された、そのタイミングこそが最高のプロモーションと言えるだろう。名実ともに世界トップになった『エンドゲーム』の余熱が冷めないタイミングで、いけしゃあしゃあとこういう作品を繰り出す。本記事のタイトルでは文字数の都合で「アベンジャーズの功績」と書いたが、もちろんそれだけではない。直近十数年のアメコミ映画群が積み上げてきた、理解・文化・風潮・土壌・世界観。それらがひとつの立派な「文脈」として成立した、まさにここしかないタイミングなのだ。

 

『ザ・ボーイズ』は、その時勢の見極めこそが何より巧いのである。小気味良いまでに。そして、「ヒーローが実はクズだったら」「人命救助よりビジネスや名誉を優先していたら」という皮肉マシマシな物語が、フリーライドする姿勢をもどこか肯定しまうのだ。物語と作品構造の合致である。ヒーローという絶対的な存在を使って展開される、「心地よい胸糞」ストーリー。

 

・・・と、こう書いてしまうと、実際のアメコミ文化を盛大に野次ってしまう不届き者のようにも感じられるが、実態はそうではない。観た人なら分かると思うが、演出の端々に、本家アメコミ映画への際限ないリスペクトが垣間見えるのだ。「ああ、本当に好きな人が作ってるんだな」というのが、ひしひしと伝わってくる。こんなにやらかしている作品なのに、ギリギリのところで、小指ひとつ分くらい「品が良い」。

 

物語としても同様だ。「ヒーロー社会の闇」というアプローチは前述のように本家MCUでも描かれてきたが、これは、トニーやスティーブが善人であるという前提があって初めて成立するテーマであった。しかし『ザ・ボーイズ』のように、その前提からして違っていたらどうだろう。悪人ヒーローこそが「ヒーロー社会の闇」の中でむしゃむしゃと私腹を肥やして好き勝手やっていたとしたら。

 

こういった構造を描きこんでいく中で、逆説的に、「トニーやスティーブの最大のヒーローたる所以は、その善性にあったのだ」という、忘れかけていた本質のようなものを再確認できる。ヒーローは、強いスーツを着ていたり、不死身だったり、能力を持っていたりするからヒーローなのではない。そこに善性と正義があるからこそヒーローなのだ。『ザ・ボーイズ』は、その身を持ってそこを証明してくれる。

 

などとまあ、長々と書いてしまったが、悪人ヒーローたちのバイオレンスな活躍に「きゃっほ〜〜」と酒を飲まずにはいられなくなる嗜好の人には、漏れなくオススメである。なお、都合3回ほど、静かなシーンでボイメンの曲が結構な長尺で鳴り響くので、世界中の視聴者がボイメンを聴いたことになる。プロモーションビデオも割としっかり映る。ボイメンファンは観よう。

 

帆を上げろ!

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『ザ・ボーイズ』は、Amazonプライムビデオで絶賛配信中。

 

ザ・ボーイズ 1 (G-NOVELS)

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ザ・ボーイズ 2 (G-NOVELS)

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ザ・ボーイズ 3 (G-NOVELS)

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