『仮面ライダージオウ』第45話は、山口監督&下山脚本による、アクア&エターナル編(?)の中編。いやぁ、しかし、45話ですよ。45話!例えば『エグゼイド』だと45話が最終話でしたし、昨年『ビルド』だとエボルトの怪人態が出てきていよいよ大詰め、といった辺り。最近毎週書いている感じもありますが、『ジオウ』もいよいよ終盤戦に差し掛かってきましたね。
しかし、先日公開された夏映画こと『Over Quartzer』が盛大な打ち上げ花火型だったこともあり、本編最終回をどういうテイストにもっていくのか、そちらに期待がかかります。「全平成ライダーが最強フォームで勢ぞろいして敵に立ち向かう」なんて贅沢な絵面を先に映画で使ってしまったので、さあ本編には一体何が残っているのか、と。最後にレジェンドキャストの隠し玉がもうひとつくらいあるのか、それとも、ここはあえて『ジオウ』レギュラー組だけできっちりと締めるのか。
ということで、『仮面ライダージオウ』の感想を綴る「ZI-O signal」(ジオウシグナル)、今週もいってみましょう。
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ソウゴとゲイツに降りかかる課題
これはライダーに限ったことではありませんが、物語のクライマックスを前に、その作品そのものが持っていたテーマが主要登場人物に降りかかる構成って、王道なんですよね。今回の『ジオウ』で言えば、ウールやオーラといったタイムジャッカーが心を入れ替えたか否かについてソウゴとゲイツが言い争うシーン。これ本質的にはタイムジャッカーの話ではなく、「未来を変える戦い」という『ジオウ』の根っこに関わる主義主張の交わし合いになっていて。
改めて振り返ると、ソウゴは自身が最低最悪のオーマジオウになってしまうことについて、そこまで悲観したことは無かった。打ちひしがれたことも少なく、どちらかというと、「自分が最高最善を目指していればその未来はきっと変えられるはず」という妙な確信すら持っているよう。なので当然のように、オーラやウールを「変われるはず」として受け入れようとする。彼らの変化を許容することこそが、ソウゴ自身のオーマジオウへの反証を意味している。
対するゲイツは、ずっと矛盾を抱えてここまでやってきた。自分の生きる時代や仲間を蹂躙した張本人であるはずの、オーマジオウ。例え若い頃といっても、その憎むべき相手にいつの間にかほだされてしまった。ソウゴの最低最悪ルートをなんとしても回避したい彼だが、つい口から出てしまった台詞は、「敵はどこまでいっても敵でしかない」。ソウゴに限ってはずっと積み上げてきたものがあったけれど、タイムジャッカー相手にはそれがない。やはりゲイツの根底には「敵は敵」「そこに変化は期待できない」があるのだろうか。
時を同じくして、ミハルからゲイツへ告げられる「未来へ帰る」という選択肢。また、「変われるはず」というソウゴの願いを無残に打ち砕く、オーラの凶行。ソウゴはそうは思っていない、自分はきっと最高最善の魔王になれると信じているのに、物語全体がそれを許さない。「タイムジャッカー・オーラは、悪は悪のまま、仲間を手にかけた」。この、「変えられない運命」という進行が、ソウゴの怒気を高める訳ですね。ウールを殺されたことに怒っているというより、「きっと変われると思った相手が変われなかった」ことへの怒り。それは一周して、自身が最低最悪の魔王になってしまうことへの恐怖心なのかもしれない。
そういった激情に囚われるようにアナザードライブに過剰に攻撃を加える様子が、また実に「魔王じみている」というのが、一層皮肉が効いていて・・・。つい本音のように「敵は敵のままだ」とこぼしてしまったゲイツもたじろぐほどに、感情に身を任せるソウゴ。ゲイツ自身も、あれだけソウゴに対し友情を感じていたはずなのに、自分の本音通りの物語が眼前で展開されてしまった、その罪悪感のようなものがあったのかな、と。
登場人物たちは、友情を交わし、絆を深め、なんとか前に進もうとするのに、物語全体がそれを許さない。「敵は敵のまま」は「オーマジオウはオーマジオウのまま」を指し、ソウゴもゲイツもその運命の不可変さを目の当たりにしてしまう。これこそが、アナザードライブまわりのテーマだったのかな、と。なんとも後味が悪い。
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その正体はパラドックス・ロイミュード
その点でいくと、アナザードライブの正体がパラドックス・ロイミュードだったのは中々面白い配置ですよね。
パラドックス・ロイミュードが登場する作品『劇場版 仮面ライダードライブ サプライズ・フューチャー』も、そのタイトル通り、未来と現在を扱ったSFな物語。キャッチコピーも、「未来に、希望はあるのか」 だったので、これも言ってしまえばかなり『ジオウ』らしくはありますよね。「ロイミュードに世界が支配される」という最悪の未来を回避するために(これもまあ真相は色々とあれなのですが)、絶体絶命のピンチに直面した仮面ライダードライブ・・・!という内容でした。
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そこに登場するパラドックス・ロイミュードは、未来と過去のロイミュード108が融合した特殊な怪人。ロイミュードなので、当然、誰かに化けることができる。今回はその能力を使ってオーラに化け、更にアナザードライブの力すらもスウォルツに与えられていた、と。
で、このパラドックス・ロイミュードまわりの説明が物語的にごっそり抜けていたので、いつものごとく脳内補完をしておくと、これもまたスウォルツがアナザーワールドから呼び出した存在だったのかな、と。
色々と細部は省きまずが、パラドックス・ロイミュードは仮面ライダーダークドライブとニアイコールな存在なので、広義のダークライダーということで、「パラドックス・ロイミュードが勝利した可能性の世界」から呼び起こされた。その可能性の生贄になったのは、ソウゴの同級生の陸上選手。今回、ゲーマーの同級生を生贄にエターナルを召喚したように、陸上の彼をアナザーワールドに閉じ込めることで、「パラドックス・ロイミュードが勝利した可能性」を召喚。その上で、ロイミュードの能力でオーラに化けさせ、最後にアナザードライブのウォッチを使わせる。
目的は、分かりやすく陽動ですかね。スウォルツは黙々と今回の神隠し騒動を行っていたようで、その目的は依然不明。切り捨てたタイムジャッカーたちを使って、ソウゴたちの目をそちらに引き付けていく意図があったのだろうか。
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エターナル参戦!
といった一連の流れで登場した仮面ライダーエターナル。変身するのは、我らが大道克己!
名作と名高い『仮面ライダーW FOREVER AtoZ / 運命のガイアメモリ』からの登場ですね。不死身の身体に改造されたゾンビ兵士たちが風都を混乱に陥れるも、仮面ライダーダブルのふたりが街のために奮闘する、という物語。今では国内特撮シーンに欠かせない坂本浩一監督のライダーデビュー作でした。懐かしい・・・。
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しかしまあ、松岡充さん、ノッリノリですね。脂が乗りすぎていて滴り落ちているよう。しかも、台詞がまた良いんですよ。エターナルは三条脚本によるギラついた台詞回しが特徴なのですが、今回の「未来もどうせ過去になる!」なんてまさにこのニュアンスを汲んでいて。ちょっとキザすぎる感じでもばっちり物にしちゃうあたり、流石のエターナル・・・!
そんなエターナルと対峙する湊ミハルくん。執拗にゲイツとツクヨミを元いた時代に返そうとしているので、未来ではタイムパトロール的な役割を担っているのだろうか。オタクなので、すぐG電王とかの妄想が始まってしまうのだけど・・・。それはさておき、「映画のライダー」と「映画のライダー」が戦って、しかも今回の敵怪人も「映画」からの登場ということで、文脈が分かる人にはやたら豪華な印象の回でしたね。『ディケイド』の頃とはまた違った混沌具合。流石アニバーサリー作品。
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ディケイドの力とアナザーワールド
そして、やっぱり門矢士という感じでした。いやね、細かい理屈は置いておいて、そのBGMを鳴らしながらなんかカッコいいムーブを繰り出したら、気持ちが高まるに決まってるじゃないか・・・!ずるい!ずるいぞ!
とはいえ、思い返せば門矢士は、ディケイドになる前からあの時を超える能力を持っていたんですよね。そこに目を付けたショッカーが彼を大首領に仕立て上げ、ディケイドの能力を与え、ライダー討伐という運命を課していた・・・ というのが『劇場版 仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー』のお話。なので、士がディケイドの力を奪われたことについて「大したことじゃない」と言ったり、今回のように「俺の力は俺の存在そのもの」と強者ムーブを放つのは、設定的にも頷けるところ。
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そんな、敵に利用されながらもアイデンティティを探す旅に歩を進めていた士こそが、「世界を壊して繋ぐ」存在。そしてそのアナザーであるスウォルツは、「世界を閉じ込めてループさせる」存在。これまたアナザーとして面白いし、盛大に皮肉が効いている。
ディケイドという存在は、それまで平成ライダーが持っていた多種多彩な作風や物語、その独立性を破壊し、「平成ライダー」というひとつのシリーズに所属させた。全てを壊し、全てを繋げる。それは物語内だけの話ではなく、平成ライダーという特異なシリーズにおいて、コンテンツ上の意義が大きかった。そんな「世界の破壊者」の偉業こそが、更にその10年後に映画『Over Quartzer』という形で結実したのは、すでに同作を観た人ならご理解いただけることだろう。それぞれの世界の間にあった壁を壊すことで、可能性を無限に広げてきたのが、他でもないディケイドなのだ。
そして一方のアナザーディケイドは、そんな可能性こそを終わりのないループ世界に幽閉してしまう。人が何かを成し遂げ、勝利したり、敗北したりする。その可能性を封じ込め、更にはダークライダーの復活を通して自在に操ってしまう。「壁をぶっ壊して可能性を広げた」ディケイドに対し、「可能性を封じ込め、また、支配下に置こうとする」のがアナザーディケイドなのだ。そこに「広がり」は無い。だからこそ、未来を変えたいと願うソウゴにとって、「可能性」を封じ込めてしまうスウォルツは、倒すべき敵として機能するのである。
今回は、「変えられない未来」というダークドライブ周辺のお話と、「可能性の扱い方」というアナザーディケイド周辺のお話が、「未来(運命)を掴み取る戦い」としての『ジオウ』の根幹テーマで交わるという構成になっており、実は割と整理された一編だったなあ、と。来週の後編でも、この辺りに踏み込んだ展開が観られるかな。
まあ、オーラがウールを手にかけてしまう展開はキカイ編でも一度似たようなことがあったので新鮮味に欠けるなぁ・・・ などと、思わなくもないのですが、着地点が全く見えないこの好奇心が心地よいですね。どういうクライマックスなのか、本当に予測がつかない!
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