ジゴワットレポート

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感想『それいけ!アンパンマン きらめけ!アイスの国のバニラ姫』 アンパンマンはなぜ他者に顔を与えるのか。そのヒーロー観こそが次世代を創る

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定期的に映画館に通う生活を送るようになって、どれほどが経つだろうか。その間に結婚し、子供が生まれ、ついに娘が映画館デビューを飾ることができた。「親子で映画館」という、以前より抱いていた小さな夢が叶った瞬間である。

 

というのも、アンパンマンの映画は子供の「映画館デビュー」を大々的に推奨している。公式サイトにも専用のページが設けられているほどだ。ポイントは大きく3つ。①館内が真っ暗にならない、②音量が控えめ、③歌って踊ってOK。更には、上映時間も約60分で、今年の作品に限って言えば、入場特典にマラカスまで貰うことができた。思わず感心するほどに、徹底的に「映画館デビュー」のために設計されている。

 

『それいけ!アンパンマン きらめけ!アイスの国のバニラ姫』。これがまた作品そのものもとても良くて、素直に感動を覚えた。横に座る娘の様子を気にしつつも、本編の展開にちょっとウルっときてしまうなど。会社・仕事・人間関係・お金と、日々の中で大小様々な問題を抱える社会人にとって、なんとも真っすぐに沁みてくる内容であった・・・。

 

それいけ! アンパンマン きらめけ! アイスの国のバニラ姫

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調べてみると、劇場版は本作で31作を数えるとのこと。更に今年は「やなせたかし生誕100周年記念」を掲げたメモリアルな一作らしい。アンパンマンという存在の根幹に触れる内容になっていたのは、こういう背景もあったのかな。

 

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事前にレンタルで娘と観た2年前の作品『ブルブルの宝探し大冒険!』も同様だったが、アンパンマン映画は冒頭に「歌って踊るパート」が設けられており、子供の関心を初手で獲りにいく構成が取られている。今年の場合だと、入場者特典で貰ったマラカスを手に、劇中のキャラクターたちが「手のひらを太陽に」や「ドレミファアンパンマン」を歌って踊るのだ。「みんなも一緒に歌おう!」と語りかけられるので、親としても子供を安心して騒がせることができる。

 

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面白いのが、この「歌って踊るパート」、本編と全く関連がないのだ。舞台は海、船上パーティで歌って踊るいつもの仲間たち、そこにバイキンマンが巨大イカ型ロボットで襲撃、皆で助けを呼ぶとアンパンマンが駆けつけ・・・  というシークエンスだが、これが本編とは一切関係がない。アイスの国の「ア」の字も関係ない。シンプルに、「子供たちに映画館で歌って踊ってもらう」ためだけの場面構成なのだ。なんとも潔い。

 

そしてこのアンパンマンが駆けつけるパート、助けを呼ぶ演出が完全にヒーローショーのそれなので、ヒーロー番組好きとしては思わずグッときてしまった。「アンパンマ~~~ンっ!!」と皆が叫ぶと、太陽光がお馴染みのOPテーマのイントロに合わせて光る。そして空の彼方から颯爽と駆け付けるアンパンマン。

 

戦いの舞台は海上で、バイキンマンの巨大イカ型ロボット(メカ型のゲゾラみたいなやつ)はスミを吐いて攻撃してくるので、顔の汚れで劣勢にならないかとヒヤヒヤしたが、アンパンマンは見事に敵を圧倒。歌って踊ってアンパンマンが戦って、OPテーマからの大勝利!・・・と、完璧な導入である。そりゃあ、子供ならこれで一気にスクリーンに前のめりになるよなあ、と。

 

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そんなこんなで本編が始まると、ゲストキャラ・バニラ姫が登場。

 

彼女は、魔法でアイスを精製してそれを世界中に贈り届けるアイスの国の現当主なのだが、毎日休みなく訓練に励むも、どうしても魔法を上手く発動することができない。結果、アイスが完全に枯渇してしまい、国としての機能が停止してしまっている状態。

 

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バニラ姫は余計に責任感を覚えてしまい、何度も魔法のスプーンを振って呪文を唱えるのだが、一向にアイスは精製されない。しかも、側近のジェラート大臣からは、一刻も早くアイスを精製するように何度も何度も急かされる日々。なんとも悲しい・・・。いきなり「頑張っても報われない」キャラが出てきてしまった・・・  胸が痛い・・・。

 

そんなバニラ姫は全てが嫌になり、思わず国を飛び出してしまう。その後、偶然出会ったのがコキンちゃん。責任感の強いバニラ姫と、自由奔放でトラブルメーカーなコキンちゃん。正反対な性格の彼女たちは、ひょんなことから仲良くなる。

 

その後友達になったふたりは、ジャムおじさんのパン工場に身を寄せながら、街の仲間たちと遊んで暮らす日々を送る。バニラ姫は魔法のスプーンをベッドの下に隠し、目の前の快楽に身を任せるのであった(実に誤解を招く表現)。アイスの国の当主という重責から解放された彼女は、皆と海に出かけ、食べたいものを食べ、遊びたいように遊ぶ。その一方で、早朝からパトロールに出かけて毎度のように顔を欠かして帰ってくるアンパンマンを気にする素振りを見せる。

 

話は逸れるが、コキンちゃんというキャラクター、私が小さい頃にはいなかったはずだ・・・。調べてみると、2006年の映画『コキンちゃんとあおいなみだ』で登場して以降、レギュラーの位置を獲得しているとのこと。しかも声優は平野綾。ドキンちゃんがワガママに周囲を振り回す存在であれば、対する妹分のコキンちゃんは、天然のトラブルメーカーといったところか。バイキンマンも、ある意味ドキンちゃん以上に手に負えない様子。

 

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と、まあ、その後も色々あって、やっぱりバニラ姫は自らの立場を嘆いてしまう。スプーンを振って、呪文を唱えて、何度魔法を試しても、どうしてもアイスを精製することができない。なぜできないのか。彼女に何か問題があるのか。

 

すると、そんなバニラ姫を心配したコキンちゃんが、「これが無くなれば悩まなくて済むぞー!」と言わんばかりに、彼女の魔法のスプーンを奪って崖から投げ捨ててしまう。刹那、突然現れてスプーンを見事にキャッチするアンパンマン(お、お前・・・一体どこから一部始終を眺めていたというのだ・・・)。 どうしても責任感に囚われてしまうバニラ姫と、自由奔放に生きるコキンちゃん。互いを想うがゆえに、その仲に亀裂が生じてしまうのであった。「じゃあお姫様なんて辞めればいいじゃん!」と言い放てるコキンちゃんの強さと無神経さが心に刺さる。

 

当主としても働けず、友達とも喧嘩してしまい、悩みに悩むバニラ姫。そこに、我らがアンパンマンが寄り添う。ここが構成としてとても上手く、「アンパンマンが自分の頭を人々に分け与えるヒーローである」という大前提が、バニラ姫の抱える問題に絶妙に重なっていくのだ。

 

バニラ姫はパン工場に身を寄せながら、その身を犠牲にしてまで人々に尽くすアンパンマンの背中を見ていた。毎日のように、空腹の人々にアンパンを分け与えるアンパンマン。「なぜそんなに頑張れるのか」という彼女の問いに、アンパンマンは、「皆の笑顔を見ると胸が温かくなるから」と返す。しかもそれは、ジャムおじさんがその昔アンパンマンに、「なぜパンを焼くのか」の答えとして告げたフレーズだと言うではないか。

 

う、上手い・・・!ここで思わず唸ってしまった。ジャムおじさんからアンパンマン、そしてゲストキャラであるバニラ姫へ。まさに、受け継がれる「黄金の精神」!このシーンで、バニラ姫は自国で観たアイスを笑顔で食べる人々の記録映像を思い出す(これが本編冒頭でアイスの国の説明と称して一度流れているのも手際が良い)。更には、海に遊びに行った際に皆に自慢のパンを振る舞うしょくパンマンやカレーパンマン、いつも顔をボロボロに欠かしてまでパトロールに勤しむアンパンマンの姿が、彼女の脳裏をよぎっていく。なぜ彼らは頑張れるのか。使命を全うできるのか。それは、皆の笑顔のためなのだ。

 

すごい、無駄がない・・・!前半までの細かなシーンが、見事にこの一点に集約されていくではないか・・・!!何より、自らの顔を他者に分け与える、一種の神様のようなアンパンマンという存在に対するアンサーが、バニラ姫のシナリオとしっかり連動している・・・!!

 

そしてバニラ姫は気付くのであった。「アイスの国の当主だからアイスを作る」のではなく、「皆の笑顔のためにアイスを作る」ことこそが、自らのアイデンティティであることに。何のために生まれて、何をして生きるのか。うう・・・!なんと真っ当な!「仕事のために仕事をするなよ」と以前の上司に言われたあの頃を思い出す・・・!これが『シュガー・ラッシュ:オンライン』なら、バニラ姫はアイスの国を飛び出して自らの新しい道に進んでいたことだろう。

 

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かくして、アイスの国の当主としての自分を無事に見極めたバニラ姫。その頃アイスの国にはバイキンマンが乗り込んで我が物顔で支配してしまっていたのだが、異変を察知したアンパンマン一行が到着。立ち塞がるバイキンアイスロボ(お馴染みのバイキンマンお手製ロボット)。そしてここから本作は、求められた展開をひとつひとつ過不足なくこなしていく堅実さを見せる。

 

「もう迷わないと心に決め、国を救うために奔走するバニラ姫」「そんな姫のピンチに颯爽と現れて彼女を救うコキンちゃん」「ふたりの仲直り」「一方、アンパンマンたちはバイキンアイスロボを相手に劣勢」「ついに発動するアイスクリーム精製魔法(カタルシスの演出がばっちり!)」「その魔法がアンパンマンの戦いを見事にサポート」「全員が時間を稼ぎ、アンパンマンの新しい顔が完成」「劇場版オリジナル技のアンパンチが炸裂!」、そして完全勝利。

 

み、見事だ・・・!すごい!最終決戦までで積み上げられた要素を細かく活かしながら、物語のパターンとノルマをしっかりとこなす。お手本のように無駄がない。バニラ姫の成長にはコキンちゃんとの交流が不可欠だったし、アンパンマンという絶対的な主役が有するイズムや精神性がそこに活きている。主役、ひいては作品が持つテーマそのものがゲストキャラの人生を先に進める。その王道の構成に迷いがない。観ていて非常に気持ちの良い仕上がりであった。

 

ジャムおじさんからアンパンマンへ、そしてバニラ姫へ受け継がれた、誰かの笑顔を求める精神性。それがまた、バニラ姫が作る美味しいアイスクリームを通して、次世代へと脈々と受け継がれていくのだろう。うーん、良い話だ。

 

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脚本は米村正二氏。アニメ畑では良い仕事を連発していると風の噂に聞いていたが、まさかここまでとは・・・。アンパンマンがバニラ姫に自身の胸の内を語るのは中盤の一度だけで、それ以外は、ひたむきにパトロールに励む姿と最終決戦が出番のほとんど。しかし、バニラ姫はそんなアンパンマンの地道な活動にこそに答えを見つけていた、という構成が実に上手い。アンパンマン流の「ヒーローとは何たるか」が明確に描写されている。

 

あと、音楽も良かったですね。童謡の「アイスクリームのうた」を応用したメロディが、不穏なシーンでは不協和音気味に変化したり。また、エンドロールまで含めて約60分の上映時間で6回ほど曲が流れるのも、子供の集中力をよく計算している。朝・昼・夜の情景、いつもの風景・海辺・バイキンマンが基地を作る渓谷・アイスの国と、画面の色合いと印象が細かく変わっていくのも良い。あと、バニラ姫役の榮倉奈々も勿論なのだが、ジェラート大臣役のみやぞんが抜群に巧かった・・・!

 

娘はというと、所々集中力が危うかったものの、無事に最後まで鑑賞することができた。マラカスを振って歌って踊り、悲しいシーンでは悲しい顔を、戦うシーンでは真剣な顔を、笑うシーンでは笑顔を、しっかりと見せてくれた。大きなスクリーンを前に、色んな感情を学ぶことができただろうか。親子そろっての鑑賞は出費がそれなりにあったが、良い体験だったと思う。

 

このままいけば、当ブログでプリキュアを扱う日もそう遠くはないのだろうか。兎にも角にも、『それいけ!アンパンマン きらめけ!アイスの国のバニラ姫』は、我が家とってメモリアルな一作となったのであった。来年もぜひ、娘と一緒に観に行きたいですね。

 

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