ジゴワットレポート

映画とか、特撮とか、その時感じたこととか。思いは言葉に。

感想『X-MEN:ダーク・フェニックス』 禊、三度目の正直なるか。闇の不死鳥に別れを告げるシリーズ完結編

FOLLOW ME 

未見の人にシリーズの構造を説明する場面において、この実写X-MENシリーズは実に難易度が高い。

 

①まず普通に三部作があって(ここまでは普通)、②若い姿ということで新しいキャストで撮る前日譚がスタートして(スター・ウォーズの新三部作と同じなのでここもまだ良い)、③その前日譚と最初の三部作のその後がクロスした後に新たな未来が発生して(←????)、④つまり前日譚は最初の三部作に繋がらなくなり(←????「前日譚」とは????)、⑤前日譚の方の新キャストが最初の三部作とは全く違ったストーリーでシリーズに幕を下ろした。(←???!!???)

 

うーん、自分でも書いていてこんがらがってきた。と、まあ、こういった経緯を作り手も自覚的に応用していく中で、『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で登場したデッドプールを先の③の結果を用いて「なかったこと」にしたり、設定上は「若かりし頃の姿」であったはずのジェームズ・マカヴォイとマイケル・ファスベンダーがそれぞれどの時代においてもプロフェッサーXとマグニートーであることが「問題なく」なったりと、アクロバティックな解釈を重ねてきたのである。

 

と、これだけ書くと作り込まれたシリーズ構成のようにも思えるが、実態は、様々な路線変更や仕切り直し、諸々の事情をその時々で落とし込んでいった結果に過ぎない。よって、全体像として捉えると、やけに散漫かつ不定形にも感じられてしまう。しかし、だからこそそこに生まれる愛着。たまに訪れる、見事な瞬間最大風速。言うまでもない、味のあるキャスト陣の熱演。

 

そのアクロバティックで凸凹なシリーズは、どうしようもなく、観る者を虜にするのである。今や「アメコミ映画=MCU」な気運すらあるが、そのMCUよりも早い2000年に一作目が公開され、今に至るまで足掛け19年、走り続けてきたのだ。その最新作『ダーク・フェニックス』が完結編と銘打たれたのであれば、そりゃあ、劇場で観ない訳にはいかないのである。

 

X-Men: Dark Phoenix (Original Motion Picture Soundtrack)

X-Men: Dark Phoenix (Original Motion Picture Soundtrack)

X-Men: Dark Phoenix (Original Motion Picture Soundtrack)

 

 

スポンサーリンク

 

 

 

とはいえ、とはいえ、だ。またもや前置きが長くなってしまうパターンなのだが、そもそもの、「またジーンの話をやるのか!?」感はやっぱり拭えない。

 

話は2006年公開の『X-MEN:ファイナルディシジョン』にまでさかのぼる。初期三部作の完結編である本作は、監督がブライアン・シンガーからブレット・ラトナーに交代した影響か、端的に言ってしまうと、随所に「残念」な空気が漂う出来となった。

 

X-MEN:ファイナル ディシジョン [Blu-ray]

X-MEN:ファイナル ディシジョン [Blu-ray]

 

 

ミュータントの特殊能力を治してしまうキュアの登場を軸に、穏健派と強硬派が再び争う。その大筋は分かるのだが、プロフェッサーXがまさかの死を遂げたり、「ジーンの暗黒覚醒」「キュアの扱い」という大まかなふたつのプロットが上手く噛み合っていなかったり・・・。何より、「前二作からの着地がそれで良いのか」な展開が随所で発生するため、完結編としての自重に作品そのものが耐えきれていない印象が残る。アクションやVFXは物凄く楽しいのだけど。

 

その『ファイナルディシジョン』のにおいて、不名誉な負の象徴として君臨してしまったのが、ジーン・グレイというキャラクターだろう。実は生きていた彼女の暗黒面が覚醒し、その力が暴走していく。作品自体の「残念」な印象は、彼女の暴走により周りを巻き込んでいく様子とリンクし、余計に悪い意味で印象に残ってしまった。

 

制作サイドもそれにも自覚的なのか、ブライアン・シンガーが監督に復帰した『X-MEN:フューチャー&パスト』では、過去を改変して新しい未来まで作り上げてしまった。ウルヴァリンにとっての、ジーンが生きているタイムライン。新旧オールスター総出演による、まさかのアクロバティックな着地。

 

まるでブライアン・シンガー監督が、自らがメガホンを取らなかった『ファイナルディシジョン』の現実にフタをしてしまうような、そんな意地や執念すら感じさせる結末。これで、ジーン・グレイへの、つまりは『ファイナルディシジョン』への禊は、見事に済んだのだろう。安らかに、安らかに・・・。

 

と思いきや、ブライアン・シンガーの執念はまだ根強く生きていた。次作『X-MEN:アポカリプス』のクライマックスでは、ジーン・グレイが未知の強大なパワーを発揮し、強敵・アポカリプスを打倒するきっかけを作る。自らの力に怯えるジーンだったが、プロフェッサーXの呼びかけを受け、遂にその力を解放するのである。「強大な力」を暴走させてしまった『ファイナルディシジョン』から数えること10年。彼女はその力を仲間のために爆発させた。

 

X-MEN:フューチャー&パスト [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

X-MEN:フューチャー&パスト [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

 
X-MEN:アポカリプス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

X-MEN:アポカリプス [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

 

 

これで今度こそ、今度こそ、禊は済んだはずだ。X-MENシリーズ自身による、X-MENシリーズの救済。期せずして負のイメージを背負ってしまったジーン・グレイというキャラクターの魂も、さぞ、浄化されたことだろう。もう『ファイナルディシジョン』のことはいいじゃないか。そんな時もあったのだ。もう昔の話だ。色々あって、『デッドプール』や『ローガン』といったスピンオフも秀作だし、若いキャストで新たなX-MEN、いいじゃないか。うん、それでいいよね。うん。

 

からの、『ダーク・フェニックス』である。

 

宇宙にて太陽フレアをその身に浴びてしまったジーンは、自らに眠る暗黒の力を解放させてしまう。暴走し、周囲を巻き込んで増大していくそのパワーに、プロフェッサーXたちはどう立ち回るのか。・・・って、おーーい!!おーーい!!また!!またジーンの話なのかーーーーーい!!!!さすがに監督はサイモン・キンバーグに変わったけれど、それでも!!それでも!!まだジーンの話をやるのかーーーい!!!!!ジーンの強力なパワーを周囲がヒヤヒヤと扱うパターンを何度観ればいいんかーーーーい!!!!!!!!! 

 

と、まあ、公開前から、「X-MEN、またX-MENみたいなことやってる・・・」という妙な感覚に支配されていた、最新作『X-MEN:ダーク・フェニックス』。観終わった感想としては、「X-MENだった」という一言に尽きる。実に、X-MENであった。

 

そんなこんな前置きに約3,000字。なんてこったい。以下、『ダーク・フェニックス』のネタバレに触れる形で感想を記す。

 

スポンサーリンク

 

 

 

この『ダーク・フェニックス』には元となるアメコミ原作が存在している、というのを分かった上であえて言うのだけど、やはり、宇宙からの未知のパワーを話の中心に置くのは、シリーズ過去作との喰い合わせが悪かったのではないだろうか。

 

そもそもミュータントという存在は、作中におけるマイノリティとして、マジョリティ(人間)から差別の目を向けられてきた。人間対ミュータントという大きな構造の中で、ミュータント側の穏健派と強硬派が意見をぶつけ合わせる。それこそが、X-MENというシリーズの肝である。『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』においても、強制収容所まで扱いながら差別と偏見を色濃く描いてきた。

 

X-MEN:ファースト・ジェネレーション [Blu-ray]

X-MEN:ファースト・ジェネレーション [Blu-ray]

 

 

しかし、ここに宇宙からの超絶パワーが加わってしまうと、途端に、「マイノリティとマジョリティ」の構造がぼやけてしまう感覚があるのだ。プロフェッサーがミュータントの地位向上を目指して懸命に働きかけるのだけど、ジーンの暴走がそれを無に帰してしまう。その虚しさと悔しさは、根幹に「ミュータントの抗えない性」のようなものがあって初めて成立するのではないだろうか。

 

確かにジーンは、プロフェッサーによって封印された側面を心の内に秘めていたけれど、きっかけは宇宙からの謎パワーである。「ミュータント側の事情を考慮せずに一緒くたに差別してしまう人類の愚かさ」というアプローチもあったのかもしれないが、やはり、これまで何年も描いてきた「マイノリティとマジョリティ」の構造がぶれてしまったのが、実に惜しい。宇宙謎パワーを投じてしまったら、それは構造として整理されすぎてしまうのである(「差別意識」ではなく、分かりやすい「原因」がそこに存在してしまう)。どうしようもない、煮え切らない、そんな両陣営の関係が底にあるから意味があったのではないのか。

 

なので、「またジーンの暗黒パワーの覚醒に周囲が振り回されるパターンか」という目線と、「X-MENシリーズがこれまでやってきたことが構造的にぼやけてしまっているのではないか」という感情が、鑑賞時の私の脳内の大部分を占めていた。

 

ミュータントたちの個性豊かな戦いぶりは観ていて実に楽しいし、愛着のあるキャラクターばかりなので、心が躍るのは確かなのだ。特に、マイケル・ファスベンダー演じるマグニートーは今回も本当に素晴らしい。前作で家族を失い、逃亡者としての属性を持ちながらも、結局は非情になりきれない男。鉄を操る能力を解釈の中で応用していくのが素晴らしく、複数の銃を一斉に敵に向けたかと思えば、容赦なくその命を奪ったりもする。ダーティーなかっこよさが際限なく発揮される。眼福である。

 

他にも、ワイヤーを使った実に「X-MENらしい」動きを見せるビーストや、ジェニファー・ローレンス扮する勝気なミスティーク。ジェームズ・マカヴォイの、清濁をその一身に抱え込むようなプロフェッサーの造形など、『ファースト・ジェネレーション』からの蓄積が魅せる魅せる。

 

しかし、やはりどうしても、「これで最後」を感じさせる万感の思いには届かない。前述のそもそもの引っ掛かりが終始付きまとってしまうし、演出のテンポや起伏についても、ハッタリやケレン味が弱い。終盤、敵からジーンへの「お前の力は周囲を巻き込んでしまう」という問いかけがあり、まさに作品テーマを象徴する問題提起なのでどう切り返すか期待したところ、「宇宙まで浮かび上がって自滅すれば巻き込まない!」ときたものだ。いや、それでいいのか、本当にそれでいいのか・・・。

 

スポンサーリンク

 

 

 

とかなんだかんだいいつつも、プロフェッサーとマグニートーがカフェのテラス席でチェスをするシーンなんかを観せられてしまっては、条件反射のようにグッときてしまうのである。このシーン、「まさかチェス盤が出てくる? こ、これはまさか、チェ、チェ、チェ、チェス~~~~~!!!!!やっぱりきたーーーー!!!!」という脳内実況がとても五月蠅かったのだけど。

 

結局のところ、要所で好きなポイントは無数にあるのだけど、そもそもの基礎工事があまり上手ではなかったのではないか。アクロバティックで、凸凹で。まあ、色んな意味で、実に「X-MENらしいX-MEN」であったとも言える。私は『ファースト・ジェネレーション』がとにかく大好きなので、そのキャラクターたちが結末を迎えるそれ自体に気持ちが高まりはするものの、やはりもう少し、「サーガ完結編」としてのスケール感が欲しかったのが本音である。(『フューチャー&パスト』なんて規格外の離れ業をすでにやってしまったのも大きい・・・)

 

さて、権利も移行し、MCUにX-MENが合流する土台は整ったが、果たして本当に現実のものになるのだろうか。MCUの世界観において、これまでミュータントは全く描かれてこなかったが、どのようにそれを取り込んでいくか。期待と不安を抱きつつも、今はまず、完走したX-MENをじっくりと噛みしめたい。アメコミ実写映画の土台は、むしろ彼らこそが築いたといっても過言ではないからだ。

 

ありがとう、X-MEN。そしてさようなら。

 

X-MEN 4K ULTRA HD トリロジーBOX (9枚組)[4K ULTRA HD + Blu-ray]

X-MEN 4K ULTRA HD トリロジーBOX (9枚組)[4K ULTRA HD + Blu-ray]

 
X-MEN ブルーレイコレクション(5枚組) [Blu-ray]

X-MEN ブルーレイコレクション(5枚組) [Blu-ray]