「特撮」という漢字二文字に抱くイメージ、あるいはそれが意味するところは、もちろん、人によって異なるのだろう。それを撮影技法として解釈するか、映像文化のジャンルのひとつで扱うかで、話はいくらでもややこしくなるのだけど。
私も特撮好きのひとりとしてTwitterで生息しているが、この界隈では度々、この「特撮」におけるボヤのような事態が起こる。それは、「特撮好きと言いながらライダーや戦隊しか観ていない奴ら」といった攻撃であったり、「ライダーや戦隊だって立派な特撮なんだから『特撮ファン』で構わないはずだ」等の反撃であったり、それはそれは、尽きることのない小競り合いである。
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「特撮」をさかのぼっていくと、トリック撮影による『月世界旅行』や、レイ・ハリーハウゼンのストップモーション・アニメーションなど、もうそれだけで話がいつまでも終わらなくなってしまう。日本の文化、映像ジャンルとして絞り込むならば、ウルトラマンやゴジラといった巨大特撮(怪獣特撮)、仮面ライダーやスーパー戦隊に代表される等身大ヒーロー特撮、等々が主たるところだろう。
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元は撮影技法としての「特殊撮影」を意味していた単語が、ウルトラマン・ゴジラ・仮面ライダーといった世代を超えて愛されるキャラクターを生み出すにつれ、その定義を次第に「撮影技法」から「文化」「ジャンル」へと傾けてきた。
撮影技法としての「特撮」であれば、今や一般ドラマでも大いに用いられている。本当は刺されていないのに血を吐き、撃たれていないのに服が裂ける。技法としての「特撮」を取り入れていない映像作品を探す方が、むしろ難しいだろう。
一方、冒頭で触れたのは、文化やジャンルの方の「特撮」である。2019年初夏の今現在で挙げれば、毎週放送中の『仮面ライダージオウ』『騎士竜戦隊リュウソウジャー』をはじめ、間もなく放送が開始される新番組『ウルトラマンタイガ』、絶賛公開中の『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』、広義でいけば『アベンジャーズ / エンドゲーム』『X-MEN:ダーク・フェニックス』も近しいジャンルと言えるだろう。
ただ、そこにおいて、『ゴジラ』『ウルトラマン』を始めとする巨大特撮・怪獣特撮こそが「特撮」だと主張する層もあれば、仮面ライダーやスーパー戦隊を愛好する自分を「特撮好き」と自称する層もある。細分化すればきりがないが、ひどく大雑把に分類すると、このふたつの層が不毛な争いを繰り広げることが少なくない。私も、Twitterでそれを何度も目にしてきた。
例えば貴方が筋金入りの「ビールオタク」だったとして。「エビスしか飲んだことがない人」が「ビール好き」を名乗ったら、どう思うだろうか。例えば貴方が長年の「Apple信者」だったとして、「最新のiPhoneしか使ったことがない人」が「Appleオタク」を名乗ったら、どう感じるだろうか。いわゆる「にわか」を嫌悪するオタクの構図だとか、とはいえ最初は誰もが「新参者」だったファンの層の話だとか、そこを掘っていくとこれまた話が永遠に終わらなくなってしまう。
あくまで、あえての定義の話でいくならば、ウルトラマンもゴジラもライダーも戦隊も、仮にどれかひとつでも好きならば、「特撮好き」と言えるのだろう。それをその人が事あるごとに自称するのか否かは、個々人の感性や自意識の問題である。私なぞがとやかく言うことではない。定義としての正しさと、それをそのままに発露して火傷する面倒臭いネットの空気感については、誰もがある程度の体感をもって学んできたのである。
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ただ、「特撮」の話でいくと、ライダー・戦隊には「継続性」というこの上ない強みがある。
現行のスーパー戦隊シリーズなら約40年、平成仮面ライダーだけでも約20年。これらのシリーズは、ひたすらに新番組を提供し続けてきた。今や世代を超えて、親子で戦隊やライダーを観る時代。一方で、ゴジラやウルトラマンももちろん長い歴史を誇るのだけど、戦隊やライダーに比べると、休止となった期間もあった。ゴジラがシリーズとして息を吹き返したのはつい近年のことだし、ウルトラマンも、一年を通してのテレビシリーズは06年の『ウルトラマンメビウス』以降現在も制作されていない。

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これが何を意味するかというと、Twitter等の利用者率が高い若年層にとっては、下手をすれば「特撮=戦隊・ライダー」が当たり前なのかもしれない、ということだ。
『ウルトラマンメビウス』から『ウルトラマンギンガ』まででも、その間は7年。『ゴジラ FINAL WARS』から『シン・ゴジラ』だと12年になる。その間、戦隊やライダーは休むことなく新しいヒーローを世に送り出し、世代を超えてファンを作り続けてきた。
もちろん、これをもって安易に「続いている方が偉い」などとは、口が裂けても言うまい。決して、そういう話ではない。ただ、実態として、ウルトラマンもゴジラも戦隊もライダーも群雄割拠だった「特撮」を生きた世代と、気付けば毎年のように出会えるのは戦隊とライダーくらいしかなかったかもしれない「特撮」を生きた世代が、存在するのではないだろうか、という話だ。(映像メディアの普及もあるので、あくまで傾向の話として)
冒頭の、「特撮好きと言いながらライダーや戦隊しか観ていない奴ら」も、「ライダーや戦隊だって立派な特撮なんだから『特撮ファン』で構わないはずだ」も、そういうジャンル史が背景にあったとしたら、どうだろう。
また、これは作風やアプローチの違いなのだが、戦隊やライダーは様々な流行り物を雑多に取り込み、映画も音楽も舞台もホビーも何もかも、無数の選択肢を毎年のように提供し続けている。
何てことない台詞がキャプションと共にネットミーム化することもあれば、キャストへの黄色い声援が飛び交う場面も少なくない。SNSでの実況とも相性が良く、毎週のようにトレンドを席巻。俳優ファンにも声優ファンにもアニメファンにも、様々な界隈にアプローチを仕掛けていく制作スタイル。
つまりは「フック」が驚くほどに多く、雪だるま式にファンを増やしていくのが常なのだ。ウルトラマンやゴジラと比べて、(ひいては東映・円谷・東宝のコンテンツの扱い方の違いにも繋がるのだが)、ライダーや戦隊はひどくガラパゴス化が進んできたとも言える。(「フック」が多いということは、ファンの好みの細分化が加速することも意味する)
加えて何度も書いているように、「特撮」という二文字の定義そのものにおいて、個々人によってかなりの差があるのだ。
思い返せば私も、VHSの『ウルトラビッグファイト』からこのジャンルに触れ、平成VSゴジラを映画館で観て、戦隊シリーズを毎年追い、平成ライダーの始まりに立ち会い、そうして中学生の頃だったろうか、私がこれまで愛好してきた作品群が「特撮」という二文字で一応のジャンルとして「くくれる」ことに、ひどく驚いた記憶がある。
だって、ウルトラマンもゴジラも戦隊もライダーも、「楽しみ方」が割とかなり異なるのだ。これがひとつのジャンルとして認知されていること自体に、妙な違和感を覚えながらも、次第に慣れていった経緯がある。今でこそ「特撮好き」と気軽に名乗ることもあるが、本当は、「ウルトラマン好き、ゴジラ好き、戦隊好き、ライダー好き、etc.」と、それぞれ分けて表明したいくらいである。
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つまりは、「継続性」の面から見た世代の隔たりと、「特撮」という二文字が持つあまりの多様さ。これらが複雑に絡み合い、そこに私も例外ではないオタクの面倒臭い生態が加わることで、先のような不毛な小競り合いに繋がってしまうのではないだろうか。「特撮はライダーや戦隊だけじゃない」問題にはこういう背景があるのではと、思うところである。
綺麗ごとかもしれないが、願わくば同じ「実写フィクションを愛好する者」として、そこに隔たりなど設けて欲しくないな、と思うのだ。興味さえあれば、の話にはなってしまうが。
戦隊やライダーは確かにガラパゴス化が進み今や特殊なジャンルとなっているが、ウルトラマンやゴジラやその他の特撮作品にも、それらとはまた違った映像技法が詰め込まれている。そこを読んでいく楽しさは、尽きることがない。
戦隊の巨大ロボとゴジラの撮り方は近いサイズ感でもアプローチが異なっていたり、ライダーのCGとウルトラマンのCGも画面構成としてそれぞれ別物の進化を遂げている。戦隊やライダーも、一昔前では考えられないほどコンテンツとして太く厚く変容した。「特撮」を広く解釈していけば、人形劇も、アメコミ実写映画も、アクション映画も何もかも・・・ 懐かしの『ニャッキ!』や『ロボットパルタ』だって、「特撮」と言えてしまうのである。
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こうして私もブログを書きながら、微力ながら、その一端を担えたりするのだろうか、と考えることがある。
ライダーだけでなく、戦隊もゴジラもウルトラマンも。その他の怪獣もヒーローも。特殊撮影が用いられた映画についても。・・・徒然なるままに記事を更新しているが、何らかのきっかけで「これも観てみようかな」と、そういう人がひとりでもいればこの上ない喜びなのである。嘘を本当にする職人芸に、魅せられたオタクとして。
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