ジゴワットレポート

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感想『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』 多様性の悪魔合体と、ドハティ監督の「愛」ほとばしる豪腕ぶり

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「私とゴジラの思い出」から語っていくと相当長くなってしまうので割愛するが、要は、平成VSシリーズで育った世代である。

 

ゴジラは人類の脅威ではあるが、明確な敵とも言い切れず、毎年ゲストで登場する怪獣とそれらに翻弄される人間たちが、あの手この手で多彩な戦況を描いていく。そういった構図で育ったひとりとして、今作『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』(通称『KOM』)の語り口は、やけに馴染みが深く、分単位で監督への信頼度が増していくばかりであった。

 

The Key to Coexistence / Goodbye Old Friend (From Godzilla: King of the Monsters: Original Motion Picture Soundtrack) [Suite]

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「怪獣映画とは何か」。特撮ファンにとっては禅問答のようなこの問いに、我々はその半生を振り回されてきた。

 

同世代の方なら肌で理解してくれると思うが、オタクとしてある程度のお金と時間が自由になった年頃、国内の巨大特撮は冬の時代に突入していた。ゴジラは『FINAL WARS』で幕引きを迎え、ガメラも続きはなく、ウルトラマンもレギュラー放映が途絶えていた。「巨大特撮とは」、「怪獣映画とは」、なぜ作られないのか、なぜ流行らないのか、我々は何を愛すれば良いのか。オタクのこだわりと面倒臭さを不眠不休で煮詰めたような議論が、ネットでは盛んに行われていた。

 

「特撮」という単語の比重が、いつしか仮面ライダーやスーパー戦隊といった等身大ヒーローに傾きかけていた頃。国内でもちらほらと巨大特撮復興の兆しが見えていたが、同時期に、海を超えて巨大な黒船が押し寄せてきた。それは、今でもカルトな人気を博する『パシフィック・リム』や、他でもない、ギャレス・エドワーズ監督の『GODZILLA』であった。昭和の時代、先人たちが海外にまで届かせた「トクサツ」の文化が、濃すぎるほどの愛でコーティングされ、祖国・日本に投げ返される。何十年越しかの、文化のキャッチボールである。

 

GODZILLA[2014] 東宝Blu-ray名作セレクション

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気付けば、ウルトラマンは毎年新作が制作され、『シン・ゴジラ』も国民的な大ヒットを記録。更には、立て続けにアニメ新作三部作まで公開された。海外からも引き続き、『キングコング:髑髏島の巨神』『ランペイジ 巨獣大乱闘』など、「我々」の琴線を鷲掴みにするような作品が供給される。冬の時代などと嘆いていたほんの十数年前からすると、信じられないほど情勢は変化した。なんとも幸せなことである。

 

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そうして、今や「怪獣映画とは何か」という問いの答えが絶え間なく供給される時代になった。その最新作『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』において、マイケル・ドハティ監督は、「ぐちぐち語る必要はねぇ」と言いたげに腕まくりをしたかと思えば、「愛」と一言だけ、簡潔に口にした。まさに、その一言に集約された逸品であった。

 

ゴジラというコンテンツの面白さは、その多様性にある。戦争や災害の擬獣化として恐怖をもたらす時もあれば、怪獣たちをプロレスで屈服させる暴れん坊なチャンピオンの顔も見せる。私が観て育ったVSシリーズのように呉越同舟でしか語り合えない危うい存在でもあり、または怨霊の集合体、もしくは環境破壊からのしっぺ返し、例えばガイアが遣わしたバランサー、更には・・・ といったように、その時々とクリエイターによって様々な解釈が与えられてきたのが、ゴジラの面白いポイントだ。

 

だからこそ、ファンの数だけゴジラ像がある。ゴジラには畏怖がないと駄目だと主張する人もいれば、怪獣と取っ組み合って勝利してこそのアイデンティティだと語る人もいる。『シン・ゴジラ』において東日本大震災を模したかのように猛威をふるったゴジラが、ほどなくして植物の王として地球に君臨する。その振れ幅の大きさ、多彩な解釈を受け入れられる懐の大きさこそが、ゴジラなのである。だからこそ、怪獣の王として、何十年も制作され続けてきた。

 

シン・ゴジラ Blu-ray2枚組

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GODZILLA 怪獣惑星 Blu-ray スタンダード・エディション

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ドハティ監督は、ここのところをよく踏まえたのかもしれない。同時に、誰よりもゴジラを愛するゴジラオタクのひとりとして、その多様性や懐の大きさを「愛」という箱にぎゅうぎゅうに詰め込んだ。

 

ミレニアムシリーズの「ゴジラシリーズそのものを再解釈していくフォロワーな性格」を土台に、平成VSシリーズの「怪獣同士の決闘の図式」「人間とゴジラの奇妙なシンパシー」を展開。同時に、「怪獣のキャラクター性」「巨体同士が(気軽に)取っ組み合うテンポ感」という昭和シリーズのチャンピオン気質を持ち込み、ダメ押しのように「核とゴジラ」という初ゴジのテーマを底に敷く。

 

ゴジラオタクが一度は夢想する、歴代ゴジラが持つ多様性の悪魔合体。それこそが、『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』そのものと言えよう。それでいてドハティ監督が巧いのは、それらがただ同人的なノリで列挙されるのではなく、一旦飲み込んで絶妙にミックスしてから出力することで、「愛という名の作家性」なフィールドに力技で引きずり込んでいるところだ。まさに豪腕。土俵際の戦い。ドハティ監督は、見事にそれに勝利したと言えるだろう。

 

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大筋を「ゴジラとキングギドラの戦い」に絞り、ラドンとモスラが活躍するバランスをしっかりと調整する。気を抜くと皆が等しく活躍してひっちゃかめっちゃかになりそうなところを、ちゃんと的を絞っている。「理性のあるタイプのオタク」である。唇を噛み締めながらのクレバーな判断だ。

 

同時に、キングギドラの吐く光線が見事に「あの軌道」だったり、ゴジラが最後に到達する姿だったり、モスラが羽化する際の神々しい演出、火山から出現するラドンなど、ゴジラシリーズを知っている者なら何度でもニヤけてしまうカットばかりを取り揃える。

 

光線を描き続けてきた男 飯塚定雄

光線を描き続けてきた男 飯塚定雄

 

 

何より、怪獣というフィクションに対する照れが微塵も感じられない。マイケル・ドハティという男が、誰よりも怪獣というアイコンを愛し、そのフィクションにいかに虚構なりの真実味を覚えてきたかの答えが、クリーンの端から端まで充満している。怪獣同士が腕・首・羽・尾を絡ませて取っ組み合う、そんな構図に対する真摯さ。虚構に対する嘘の無さ。それこそが、特撮ファンにとってはこの上なくラブレターなのである。

 

前作『GODZILLA』は、「溜めて溜めて焦らしてドーン」のパターンを採用していたため、ゴジラの登場シーンは実はかなり短い。意図してそういう作りになっている。対する今作『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』は、出し惜しみなく怪獣たちがドンパチと暴れまわる。下から見上げるアオリの構図から、上空からの引きのカット、操縦席や家屋から捉えるガラス越しの怪獣の眼。同じ世界観であっても、こうもアプローチが異なる。これこそが、何度も書いているように、ゴジラの強みそのものなのだ。

 

加えて、音楽設計も非常に優れていた。ゴジラにはお馴染みのゴジラのテーマを、モスラにもお馴染みのモスラのテーマを。原曲を尊重したままアレンジを加え、それをただ流すのではなく、画面上の演出と合わせ、色味、照明、そしてここぞというタイミングでカタルシスに一点突破。完全に好き者の仕業である。私は長年、「最も好きなゴジラ登場シーンはエメゴジの海面が膨らんで迫ってくるやつ」と脳内に刻んでいたが、今作は音楽との合わせ技でそれを超えてきたかもしれない。神々しいまでの演出の数々であった。

 

先に「怪獣のキャラクター性」 と書いたが、これこそが、怪獣映画がモンスターパニックやディザスタームービーと一線を画するポイントだろう。登場する怪獣たちが、キャラクターとして個性を持つ。恐怖を体現しつつも、どこか愛らしく、人間味がある。ここに、怪獣映画というジャンルの旨味があるのだ。その点、今作はここについてもドハティ監督の愛がカンストしている。ゴジラは「ある展開」を背負って戦う不屈の覇者たるスタイルを見せ、キングギドラは3つの首が豊かに個々を主張する。過去作同様にひたすら健気に戦うモスラと、スタースクリームな枠に収まるラドン。愛すべき巨獣たちである。

 

「特撮」は、「ゴジラ」は、これからどうなっていくのか。初代ゴジラが着ぐるみで描かれ、そこから永らく、着ぐるみ+ミニチュアセットで描かれてきたゴジラ。『シン・ゴジラ』ではそれがフルCGになったが、動きは野村萬斎によるモーションキャプチャー。今作『ゴジラ / キング・オブ・モンスターズ』でも、ギドラの首にそれぞれパフォーマーが割り当てられ、モーションキャプチャーによる動きが与えられたとのこと。これらの手法も、広義の「着ぐるみ」である。

 

「巨大特撮」「怪獣映画」が永らく持っていた、嘘を本物とする映像表現に生じる、一種の欺瞞と、それこそを愛する受け手の姿勢。シニカルに言えば「共犯意識」とも捉えられるそれが、技術の進歩により、日進月歩で薄まってきた。ボストンを盛大に破壊するキングギドラとゴジラは、「共犯意識」抜きにしても、確実に「そこ」にいた。一昔前では考えられなかった、巨獣たちのハイクオリティなインファイト。こんな映像を観せられてしまったことが、実は結構、ショックな出来事なのである。

 

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(オリジナル・サウンドトラック)

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