『仮面ライダーファイズ』は、私が一番好きな仮面ライダーである。
複雑な群像劇とスタイリッシュな戦闘、魅力的なキャラクターたちが織りなす種の生存争いは、当時中学生だった私をこの上なく夢中にさせた。Blu-ray BOXは言うまでもなく発売日に買ったし、今でも部屋のBGMのようによく流している。
※当記事は引っ越し前のブログに掲載した内容に加筆修正を加えたものです。(初稿:2015/5/31)
そんな『ファイズ』でも名作との呼び声が高いのは、7~8話の物語。いわゆる「夢の守り人」である。このストーリーは、ファイズに変身する青年・乾巧が「夢」というものを知っていくストーリーを軸に、オルフェノク側の新キャラクター・海堂の過去と決断、音楽に関連付けた演出、井上敏樹色の強い救われないドラマ展開、木場の立ち位置の明確化など、『ファイズ』の物語の旨味を凝縮したようなエピソードだ。
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物語はふたつのラインが並行して描かれる。まず、主人公である乾巧サイドは、バイトする菊地クリーニング店に持ち込まれた客の相談に乗る形で、夢を追って家出してでも音大に通う大学生(黒田和彦)を説得するくだりから幕を開ける。
対する木場率いるオルフェノクサイドは、新しくオルフェノクに覚醒した海堂がその力を殺人に振るってしまわないように目を配る形で、先の音大に舞台が移っていく。海堂が「生前に」通っていた音大は、先の家出した大学生が通う大学と同じだったのだ。
海堂は以前、バイク事故で指を怪我し、音楽の夢を断たれた。彼の音楽家としての実力を妬む誰かの手によるものと知っていた彼は、学び舎という存在への復讐を画策する。しかし、実直に夢を追いかける大学生の彼と出会い、自らの音楽を彼に継承することでそれと決別していく、という話運びだ。
同じくして、本作のヒロインである園田真理は、かねてからの夢であった美容師への一歩を踏み出す。採用試験を受けるも、拙い技術にキツいダメ出しを受けてしまい、夢への思いを自分の中で問い直す。また、クリーニング店を営む菊地啓太郎も、荒唐無稽ながら世界中の洗濯物を真っ白にするという夢を持っており、このくだりは『ファイズ』という物語の最終回でも拾われるのである。
乾巧には夢がなかった。それは、彼自身がオルフェノクであり、人付き合いを拒んできたこともひとつの理由である。昔バイトしていた喫茶店のマスターとのストーリーにもあったが(5話)、自分に対する自信が極端に薄く、アイデンティティが希薄だった。彼は自らの力を恐れ人付き合いを拒み、殻に閉じこもり、ぶっきらぼうな態度を取り他者を拒絶するようになった。
そこにしつこく食らいついてくれた真理や啓太郎を通して、乾巧という人物がマイナスからゼロを経てプラスに変化していくのが『ファイズ』という物語の醍醐味であり、そのスタートラインがこの8話「夢の守り人」であるとも言える。このストーリーで、乾巧は初めて「誰かの夢を守る」という自分の目的を認識し、他者と自分との繋がりを実感するのだ。
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夢を一心不乱に追いかける真理と、夢への憧れを語る啓太郎。夢に敗れた海堂と、夢に一直線の音大生。そこに、夢を持たなくともそれを守ることができると悟る乾巧と、自らの夢という名の人生を最悪の形で失った木場勇治が、「夢の守り人」としてストーリーを包括する。
とにかくこの構成が見事なのだ。巧と木場は、それぞれオルフェノクとして、人生を一度失っている。夢を持つ以前に、そのステージに立つことすら強制的に諦めさせられた者たちだ。夢を追う者と夢に敗れた者を、夢などというキラキラしたものからは離別してしまった者たちが守る。むしろ、だからこそ、俯瞰で夢というものを知り、学ぶことができる。
また、巧は真理を襲うスマートブレインのオルフェノク社員(スカラベオルフェノク)を撃退する運びとなるが、木場の場合は完全な復讐代行である。音大の教授であるオウルオルフェノクは、若い才能を妬む屈折した人物であり、海堂のバイクに仕掛けを施し彼を事故に合わせた(しかもトラックで指を轢くという残忍な追い討ちも)。しかし海堂は今でもその先生を師と崇めており、おちゃらけた態度も先生の前では萎縮し尊敬の眼差しを向ける。
おそらく、その先生こそが海堂を陥れた張本人だという事実を、木場は彼に教えていないだろう。木場は自己判断で、当の本人である海堂の許可も納得もすっ飛ばし、復讐を代行した。おそらくあの体育館でのホースオルフェノクとオウルオルフェノクの戦いの事実を、海堂は物語の最後まで知ることはなかっただろう。
この身勝手な復讐代行こそがまさに木場らしくあるし、実はオルフェノク同士の争いがファイズの中で行われたのは、このエピソードが初なのだ。
『ファイズ』という物語は、決して人間とオルフェノクという単純な善悪構造ではない。人間と人間、オルフェノクとオルフェノク、種族に関わらず矢印が交わりまくるのがポイントだ。怪物同士が争うのもこの物語の大きな特徴で、平成ライダーで初めてこれを本格的にやったのも、この『ファイズ』といえる。(クウガの終盤や龍騎のミラーモンスターなど前例はいくつかあるが)
オルフェノクといえどそれは「個人」であり、主義主張の違い、そして信念が交わらなければ、当然のように憎しみ殺しあう。ただ単に、その手段をその身に宿しているか否かが、人間と違うだけ。そういった構造を最初に示したのも、この8話なのだ。(ちなみに、ファイズとホースオルフェノクの互いに正体を知らない対立関係の初戦も、「夢の守り人」前編にあたる7話である)
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さて、ここまで『ファイズ』の8話について色々と語ってきたが、実はこのストーリー、作劇上明確な欠点がひとつだけ存在する。
それは、巧たちがオウルオルフェノクの存在を完全に放置してしまっている、という点だ。家出大学生の件で訪れた音大で、巧は学生を襲うオウルオルフェノクと遭遇し戦闘に突入する(7話)。その後、オウルオルフェノクの煙幕攻撃により取り逃がしてしまい、その後、啓太郎と一緒に大学にオルフェノクを探しに行くか、というくだりまである。
しかし、巧は真理の護衛に回り、そこでスカラベオルフェノクを撃退する。巧や啓太郎からすると、大学で取り逃がしたオウルオルフェノクは完全にそのままで、それを気にかける素振りもなく、8話は終わる。視聴者という神の視点では、そちらの方は木場=ホースオルフェノクが無事撃退しているのだが、それを巧たちが知り得たはずはない。(もちろん、描かれない部分でその後も大学内を探したりしていたのかもしれない)
ストーリー優先、演出優先、そして、あの時点で木場がオルフェノクを退治したなんて巧が知ってしまう訳にもいかないので、ここはおそらく意図的に放置されている粗だと思う。俗な誤用で言うなら、「確信犯」だ。
しかし実はこれ、普通に観ているとあまり気にならない。私も、この話はもう何度も観ているのに「あれ、そういえば巧たちはオウルオルフェノクを気にかけてないな・・・」と気付いたのはここ数年のことだ。圧倒的なまでのドラマと演出、そして夢をめぐるお話の完成度に、見事に粗がねじ伏せられているのだ。
仮に作劇上の粗があっても、それを上回る完成度があれば、力業で観ている側を納得させることができる。この7~8話は、そんな『ファイズ』という物語の旨味と腕力が詰まっていると同時に、作り手の妙技が炸裂している一編と言えるだろう。
ちなみに。『ファイズ』でも随一の名言といわれる「夢は呪い」の台詞。あのライムスターの宇多丸氏も『ONCE AGAIN』という曲で「夢 別名 呪い」と歌詞に引用されているので、聴いたことがない人にはぜひオススメである。
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