独身時代は割と頻繁に漫画の「ジャケ買い」をしていたのだけど、結婚してからはお小遣い生活になったので、中々ギャンブル行為に踏み出すことが出来なくなってしまった。継続して行う新たな作品の発掘は、金に余裕のあるブルジョワの遊び・・・。
おかげで、三大少年誌の大型タイトル以外の漫画にめっぽう疎くなってしまった訳だが、そんな私がつい半年前に「ジャケ買い」をしてしまったのが、『マイホームヒーロー』という作品。なんかこう、買っちゃったんですよね。帯も良くて。
ジャンルは、サスペンスでいいのかな?
簡単にあらすじを説明すると、主人公は表紙の男性で、一家の父親。大学に通うために家を出た娘と久しぶりに再会するも、その顔には彼氏に殴られたアザが。色々あって交際相手の男の素性を知るのだが、キレて女を殺したこともある相当やばい奴だったことが分かる。父親は、意を決してその男を殺す。娘を守るために。
・・・という、いわゆる「犯罪者モノ」の導入部。
この父親はまず、殺した男の死体をどう処分するか、という問題に直面する。場所は娘のアパート、床に血まみれで動かない死体。さあどうする。
成人男性ひとりの身体を完全に処分する方法は、果たしてあるのか。
ここで面白いのは、主人公である父親が大のミステリー愛好家ということだ。自身もミステリーを書き、ネットに投稿するほど。なので、彼の中には様々なミステリー小説から得た「死体の処分方法」が蓄積されている。
「一室で死体を処分する」で思い出すのは、『ゴルゴ13』の「芹沢家殺人事件」(単行本27巻収録)というエピソード。これは、いくつかあるゴルゴ13の出生に迫るエピソードのうちのひとつだが、果たしてこの芹沢五郎なる人物が後のゴルゴ13なのか、明言されることはない。ファンからの人気も高いエピソードである。
このエピソードにおける芹沢五郎は、ある理由から、「その部屋から出ることなく死体をひとつ完全に処分しなければならない」という状況に陥る。彼が取った行動は、数時間かけて死体の肉を砕き、骨を削り、バラバラにして少しずつ水洗トイレに流していく、という常軌を逸したものだった。
『マイホームヒーロー』を読んで真っ先に連想したのは、この「芹沢家殺人事件」だった。むしろこのエピソードに対するアンサーのようにも思えてしまったのだが、さすがに邪推が過ぎるだろうか。
ミステリー愛好家の主人公が、まるでクックパッドの説明文かのように、淡々と死体を処理していく。その興味深い方法は、もちろんここに書いてしまうなんて無粋なことはしないので、気になる人は買って読んでくださいね。多分ここが本作の最初の盛り上がりポイントなので。
死体を何とか処分した主人公だが、一難去ってまた一難、死んだ男を追う集団がストーリーに関わってくる。男はなんと裏社会の「やばい奴」の息子だったので、親が大金をかけて人を動かして男の足取りを追い始める。
尾行・盗聴・強盗・あげくに拷問。主人公は裏社会の人間が仕掛ける数々の脅しや罠をかいくぐり、家族を守らなければならない。そんな主人公は長年顧客に謝り倒してきた営業マンのスキルをもって、相手の言葉で察し、機微を感じ取り、何とか「答え」を見つけようともがく。
「ジェットコースターのように」とは今や使い古された表現だが、まさにそれがぴったりの急展開に次ぐ急展開。2巻では少しだけ現実離れした域に達しつつあるとも感じてしまったが、常にピンチに直面する主人公が家族のために奮闘する様は、グイグイ読まされてしまう。
冷や汗ドリンクをピッチャーで頼みたい人は、ぜひ読んでみてください。
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