改めて振り返ると、やっぱり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の冒頭数分ってとてつもなく手際が良いですよね。「導入部分のなんたるか」がこれでもかと詰まってる。
まず時計がいくつもいくつもチクタクチクタクするシーンから始まり(タイトルに針の音を被せるのも最高)、ノーカットでカメラが すーっ と移動していく。言うまでもなく、時計をあの位置関係でいくつも飾る人なんていないし、いたとしても変人なので、瞬間的に家主(ドク)が変人であることが観ている側に伝わる。
よく観ると針に人間がぶら下がっているデザインの時計もあったりして、これはクライマックスのドクを暗示していたり。
その後画面は、自動的に朝食を作る各種マシンを捉えていく。ここで分かるのは、家主が発明家でありながら、「くだらない」「しょーもない」物を作る人間であること。少しズボラで、でも、そんなくだらない発明に心血を注げる変人であることが伝わる。
同時に、犬(アインシュタイン)の餌を自動で与えるマシンも登場するが、自動缶切りマシンの下に落ちていく餌はクソの山のようになっている。ここで、直前の黒焦げのパンも併せて、家主がここ数日留守にしていたことが分かる。
そんな発明マシンを披露するシーンの途中ではテレビも映される(テレビは突然喋り出すので、これも設定された時刻の自動点灯だと思われる)。ニュースではプルトニウムが盗まれたことが報道され、これが後の布石になる。「ブラウン屋敷跡」の新聞記事も、後から観返すとニヤニヤ。
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続いて、主人公・マーティが登場。
「ドク?」と声をかけながら入ってくるカットで、玄関のマットの下に直前に使ったであろう合鍵を戻している。つまりは、この青年と、ドクという変人発明家でついでに犬を飼っていて数日間留守にしている家主が、とても仲が良いことが分かる。床に転がしたスケボーがプルトニウムの箱にコツッとぶつかり、ほのかな不安を抱かせる。
そしてお待ちかね、マーティが勝手にドクのマシンを使うシーン。
少しずつ空気が震える音が厚くなるあの高揚感。またもや(良い意味で)超絶くだらない発明品・巨大アンプが登場し、マーティがかっこつけて音を鳴らすと、爆音の圧で後方に吹っ飛ぶ。書類の山に埋もれたちょっと間の抜けたカットで、初めてマーティの顔が映る。ゆっくりとサングラスを取り、顔立ちが分かる。
ここで、主人公が「ちょっとツイてなくて」「ギターが好きで」「いい奴オーラ満載」なことが伝わる。
直後に鳴る電話の向こうで、ドクは、時計の時刻を同時に25分遅れにするという凡人には理解しがたい実験の成功を喜ぶ。ここでも変人性が強調され、同時にその声色から、ある程度の歳でありながら純粋な心と茶目っ気を持つある人物であることが伝わってくる。
ここまで、ドクはワンカットも登場していないのに、観ている側はドクのキャラクター造形をおよそ把握できてしまう。
そして『The Power of Love』の熱く軽快なメロディーと共に、それまでごちゃごちゃした室内で進行していた物語が一気に屋外へ転換。抜けるような青空に広い道路、スケボーで軽トラックの後ろに掴まって移動するという疾走感あふれるシチュエーション。そうして学校に到着し、物語は本筋に入っていく。
もうね、万人に語り尽くされたことだと思うんですけど、やっぱりこれって素晴らしいと思うんですよ。作品のニュアンスや作風にはじまり、メイン2人のキャラクター造形までもを、たったの数分でここまで提示する鮮やかさ。後の展開で何が起こるかはまだ分からないけれど、否が応でもワクワクしてしまうバランス。何度観ても、何百回観ても、胸が高鳴るオープニング。
また今夜も、部屋のBGMのように流しておこうかな。