ジゴワットレポート

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感想『東京喰種』(実写映画版) ストーリーの喰い足りなさと、カニバリズムものにおける展開上のノルマが持つ足枷

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漫画から実写映画化した作品に、原作を全く読まずに臨むというのは、かなり久々な体験だった。後輩や、ネットの知り合いにも何度か勧められていた漫画、『東京喰種』。ああなんだかんだ言いながら読む機会を作れず、その間に実写映画も公開となったので、いっそ「無知の利」を活かしてこのまま突入してみよう、と。

 

前提として持っていた認識は「なんかアレでしょ、人が人を食べるやつだよね」といった程度の、本当にズブの素人。公開日朝イチの回だったので、ほぼ満員となった劇場での鑑賞だった。

 

※以下、映画本編のネタバレがあります。

 

 

基本的には、とても良く出来ていたと感じた。前述のように原作は未読なのだけど、私もそれなりに漫画原作のドラマや映画を観てきている自負はあるので、「おそらくこれは非常に原作に真摯に作ってあるのだろう」というオーラを端々から感じるクオリティであった。

 

映画を観た後に、実際にジャンプ+で無料公開されていた原作の冒頭10話ほどを読んだが、予想通りの「真摯さ」であることに確信を持つことができた。映画のシナリオにするための「シーン省略」や「シチュエーション統合」を行いつつ、しかし肝となる部分は絶対に逃さない。

 

原作では主人公が偶然辿り着く「コーヒーのみ美味しく感じられる」という部分を、喰種コミュニティが主人公に手を差し伸べるシーンに重ねてしまう判断も素晴らしい。

 

 

そして、何よりも主演の窪田正孝だ。

 

彼を最初に知ったのはドラマ『ST 赤と白の捜査ファイル』で、その後の『デスノート』で度肝を抜かれたのは記憶に新しい。彼の狂気の演技は本当に一級品である。

 

今回も、リゼに襲われて惨めに逃げ回るシーンにはじまり、冷蔵庫から取り出した食材を喰っては吐き散らし、味のするコーヒーに震えながら喜び、クライマックスで喰種の本能に意識を持っていかれヘドバンしながら狂喜する姿など、まさに見所しかない演技の数々であった。

 

清水富美加のトーカちゃんも、彼女の絶妙な背の低さ(小柄な感じ)が良かったですね。窪田くんと並んだ時の収まり具合が良い。冷たい目線や、それが後半ではツンツンしながらも思いやりを感じる所作に繋がっていたり・・・。しかし、続編があったとしてもキャスト変更が余儀なくされるかと思うと、本当に残念ですね。

 

あの尻尾から触手がうねるCGは、まあぶっちゃけ「微妙だったかな」というのが本音ではある。存在することの違和感は、最後まで拭いきれなかった。

 

しかし、邦画の予算の中で頑張っていることは明白で、しかもあえて誤魔化しのきかない日光差し込む明所で戦っていたりと、その「扱い方」には好印象を覚えた。しかも、キャスト陣がしっかり「無いはずのCG」を「ある」ようにアクションしていて、この辺りは『仮面ライダー THE FIRST』や『牙狼』にも参加しているアクション監督・横山誠氏のお手柄ですね。

 

で、本題。

 

すごく丁寧で、原作への敬意も厚くて、キャスト陣の演技も良くて、各種演出も良いのに、どこか「食い足りなさ」「物足りなさ」を感じたのが本音。

 

というのも、率直に言うと、「こういう導入ならこういうストーリーだろうな」という想像を全く超えてくれなかったからなんですね。ほとんど自分が悪いんですけど。

 

もっと細かくいくと、まずこの物語は、「主人公が半人間・半喰種になってしまう」という不幸から始まる。食人も重要なポイントなので、いわゆる「カニバリスムもの」。そうなると、やはり自動的に「お前はどちらの種族に属するの?」という物語上の問いかけが開始されるのは明白で、それは同時に、「人間を狩る喰種」と「喰種を狩る人間」の戦闘的対立構造ともイコールになってくる。

 

で、あるならば、用意されている答えは以下の3つ。 

 

①.主人公はどちらの主張も理解しつつどちらにもなりきれない(悩む)

②.主人公は完全に堕ちる(喰種側につく)

③.主人公はやはり人間であることに固執する

 

約2時間の映画であるならば、正直①に辿り着くのがやっとだろうな、と。というか、この3つは並列というより直列でもあって、①を経て②か③のどちらかに行き着くから面白いパターンとも言える。なので、この手の「力を有してしまったモノ」における①というのは、必要なことではあるが、予想を裏切ってはくれないプロセスのひとつ、ということなのだ。

 

最近でいえば『仮面ライダーアマゾンズ』も同じ流れで、一昔前でいえば『クロザクロ』という漫画もそうなのだが、「人外の力」「食人の性(さが)」を有して “しまった”  パターンの物語は、まず①をノルマとせざるを得ない。

 

仮面ライダーアマゾンズ Blu-ray COLLECTION

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クロザクロ 1

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①でひたすらに悩みつつ、躊躇なく人を食べる同類に「当然だろ?お前も食うか?」と囁かれたり、主人公がそれに涎を垂らすけど結局食べられなかったり、人間側で異常なまでに「そいつら」を憎む奴がいたり、かと思いきや同じく人間を食べられない同類もいたり・・・。

 

そうやって、紆余曲折あって、血も沢山流れて、そうして主人公は②や③に辿り着いていく。ここまで、ここまであってこそ、やっとこさ①が活きるとも言える。

 

流行りで言えば『進撃の巨人』も「お前はどっち側?」の物語であったり、『寄生獣』 も近い構造だと言えるだろう。そりゃあ、いきなり短絡的に「俺はやっぱり人間だ!自殺しよう!」「私は人外だ!人間美味しい!むしゃむしゃ!」とはならない訳で、①における悩みは、逃れられない展開上のノルマなのだ。

 

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

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寄生獣(1) (アフタヌーンコミックス)

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カニバリズムではないものの、「人外になってしまったモノ」としては『亜人』も近いだろう。こちらの実写映画版も楽しみである。 

 

亜人(1) (アフタヌーンコミックス)

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しかし、やはりと言うべきか、映画版『東京喰種』は①で決着をみてしまう。

 

尺の都合で仕方ないと重々承知なのだが、主人公の苦悩や葛藤が何らかの答えに辿り着かないままに終わってしまう。もちろん、その「出口のない状態」そのものが争いの絶えない現実社会を模した「やり切れなさ」ではあるのだけど、私としては「もうちょっと先が観たかったな・・・」と思うばかりであった。

 

・・・などという感想をざっくりとTwitterに書いたら、原作既読の方々から「原作ではこの映画版のもっと後にお望みの展開が~~」といった旨のリプライをいただいたりして、「やはりそういうことか」と。

 

分かっちゃいるんですけど、難しいんですよね、こういうの。映画化されるほどの人気作は往々にして長期連載なので、「溜めに溜めた物語の肝が炸裂する展開」という原作が持つ要素と、「約2時間で原作序盤からやってそれなりに終わらなきゃならない」という実写版の持つ宿命って、本当に食い合わせが悪いんですよ。

 

だから、結局は「人気が出れば続編」という賭けに出るしかなくなったり、または割り切って「大胆に切り貼りして映画としての面白さを優先」して原作ファンに袋叩きにされたりするという・・・。

 

今回の『東京喰種』も、「お互いに因縁のある人間と喰種が争わざるを得なくなって争うんだけど明確に両陣営の勝敗が決まる感じではないんだろうな」という予想を超えてくれなくて、「俺たちの戦いはこれからだ!」もとい「俺たちの悩みはこれからも!」なパターンで終わってしまう。

 

これを「根本的な問題が解決しないからダメ」だとか言うつもりは無くて(むしろ捕食が絡んだ種族間の争いに根本的な解決は通常あり得ない)、しかし、だからこそ主人公の精神的な部分で何らかの「解決(答え)」を見たい訳なんですよね。そこが、「自分はどっちなんだろう」という「悩み」と呼応するセットだろう、と。

 

「東京喰種」オリジナル・サウンドトラック

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などなど、完全に愚痴なんですけど、要は「続編お願いします!」というやつです。窪田正孝扮するカネキくんが、もっともっと残酷な喰種の運命に翻弄されて、そうしてやがて、両陣営のどちらかに明確に属して欲しい訳ですよ。個人的には完全に②が好みなんですが。

 

そういう意味で、この「喰い足りなさ」は「期待」と完全にイコールなのだと、そう記して終わりにしておきます。

 

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