ジゴワットレポート

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感想『スパイダーマン:スパイダーバース』 アメコミ文化の「意義」を体現するしたたかな到達点

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2016年の映画で、『GANTZ:O』という作品がある。アニメ化・実写映画化もされた漫画『GANTZ』の大阪編を長編アニメーションとして映画化したもので、綺羅びやかな大阪の街並みやおどろおどろしい妖怪たちがフルCGで描かれた。

 

『GANTZ』という作品は元より非常に独特な作り方で描かれており、実際の写真をコンピュータで取り込んで背景にしたり、着色をデジタルでこなすことにとても意欲的であった。だからこそ、フルCGで描かれた『GANTZ:O』は、作者でなくとも「我が意を得たり」と叫びたくなるほど、原作漫画の持ち味を活かした映像作品になっている。つまりは、ただ二次元の漫画をCGで映像化したというよりは、「この映像こそがまず最初に作者の頭の中にあり、それが漫画に起こされたのかもしれない」と錯覚させてくれるようなアプローチである。

 

GANTZ:O Blu-ray 通常版

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この点、目指す地点としては、『スパイダーマン:スパイダーバース』も近かったのかもしれない。「どこで静止しても全てが漫画のコマのよう」とは、これまでも多くの映像作品で用いられてきた比喩だが、今回のこれはそれまでとは一線を画するほどに、コミックそのものだ。構図はもとより、細かな効果や色の質感、様々なエフェクトにいたるまで、コミックそのままを長編アニメーションとして変換している。

 

つまりは先の例えでいくと、「この映画こそがまず最初にクリエイター陣の頭の中にあり、それがコミックとして描かれたのかもしれない」と妙な錯覚をしてしまうほどに、映像の精度が高いのだ。転じて、漫画を読む我々も、それをただ静止画のまま脳内に放り込んでいく訳ではない。意識・無意識に関わらず、脳内でキャラクターの位置関係が三次元で配置され、時には空気を感じ、匂いもして、台詞は音として流れていく。「漫画を読む」という行為は、「脳内でそれを映像化する」ということなのかもしれない。

 

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『スパイダーバース』は、「コミックの映像化」という一点において、アメコミ映画史に確実に残っていく作品である。更には、ある意味では、『アイアンマン』をはじめとするMCUよりも、「コミックの映像化」という路線では「正道」をいっているのかもしれない。

 

二次元のキャラクターを三次元の俳優がVFXに囲まれながら演じるのではなく、二次元を二次元のまま、「読み手の脳内三次元」というアプローチで映像化する。コミックを描いたクリエイター陣の脳内や、それを読む我々の脳内には、こんな映像が流れているのではないだろうか。そういう意味で、単に長編アニメーションとして優れている以上の、アメコミ映画としての「意義」を感じさせてくれる一作だ。

 

Into the Spider-Verse (Spider-Man)

Into the Spider-Verse (Spider-Man)

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いつもに増して前置きが長くなってしまい恐縮だが、そういった「意義」というニュアンスでは、同作がアカデミー賞(長編アニメーション賞)を獲ったことも実に感慨深い。

 

アメコミ映画の歴史は古いが、ひとつのブレイクスルーとして数えられるサム・ライミ監督版の『スパイダーマン』、そして、今やユニバース構想が映画という産業の形にまで影響を与えているMCUなど、娯楽映画史とそれらは切っても切り離せない関係にある。だからこそ、『スパイダーバース』のようなアプローチを持つ作品がこの規模で制作され、賞レースでも評価されながら、世界中で公開されるという現状こそに、一種の「到達」を見たような気がするのだ。

 

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そんな『スパイダーバース』、日本での公開は3月8日だが、その一週間前の三日間、全国のIMAX劇場で先行上映が行われた。首都圏では怒涛の勢いで試写会が行われ、SNSではすでに観た人の絶賛の声が続出。私も我慢ならず車を走らせ、IMAXのある映画館まで出かけたのであった。

 

同作の宣伝は主に吹替版を推すタイプなのだが、今回のIMAX先行上映は字幕版のみ。私のような待ちきれないファンに先に字幕版を観せ、本公開に向けて更なる口コミの波及を狙い、あわよくば本公開後にもう一度吹替版で観てもらいたい。そんな意図を感じなくもないが、釣られないクマーだかクモーだか、私もおそらくまんまと吹替版を観に行ってしまうのだろう。ムビチケを買い足しておかねば・・・。ちなみに、吹替版は音響監督を岩浪美和氏が担当しており、『ビーストウォーズ』世代としては、血と肉を作ってくれた恩人でもあるのだ。

 

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『スパイダーバース』は同名の原作コミックが存在するが、「別次元のヒーローが一堂に会する」というプロット自体は、今やそう珍しいものではない。

 

日本にもかなり前からこの方法論は輸入されており、ウルトラマンゼロは多次元宇宙を移動するし、キュウレンジャーとギャバンは「お互いが別の宇宙のヒーロー」という前提を難なく相互理解して共闘に至る。ただ、『スパイダーバース』が面白いのは、その「一堂に会する」ヒーローが全員漏れなくスパイダーマンということであり、それは、文化として根付いてきたアメコミ史の懐の深さを象徴している。

 

ピーター・パーカーがマスクを被るスパイダーマンがいれば、女性のスパイダーマンも、豚のスパイダーマンもいる。日本でも78年には東映により映像化されているのは周知の事実だが、このような、「様々なスパイダーマンが存在する」ことこそが、海の向こうのコミック文化が持つ土壌なのだ。日本のヒーローは割と先輩後輩の縦の関係で頭数を増やしていくが、アメコミヒーローは、別次元だのリブートだのの横の関係でバリエーションが増していくパターンが多いように見受けられる。

 

多種多彩な「解釈」を許す土壌、懐の広さ。実写映画に限っても、かなりのハイペースで二度も作り直されたスパイダーマンだが、それでも何度でも受け入れられるのは、そもそものベースに横の発展を受け入れる考え方が根付いているからではないだろうか。

 

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映画『スパイダーバース』は、横軸に存在する複数のスパイダーマンが、主人公・マイルスのいる次元に迷い込む。予告ではまるで「蜘蛛戦隊スパイダーバース!」とでも言いたげな雰囲気だったが、蓋を開けてみれば意外や意外、マイルス以外のスパイダーマンのストーリーはそこまで本筋として扱われない。「バリエーション」や「画の面白さ」として彼らは集合するが、物語はいたってシンプルな「継承モノ」「成長譚」であり、別次元のスパイダーマンたちは「先輩スパイダーマン」というひとつの属性に振り分けられていく。

 

ただ、それは決して「もったいない」という苦言ではない。短い時間の中でこれでもかとキャラクターを立てていく彼らは、マイルスを導く先輩として驚くほど魅力的だ。色んなヒーロー像があり、色んな決断があり、色んな過去がある。「唯一無二のスパイダーマンは放射性のクモに噛まれて・・・」というあらすじ紹介がテンドンのギャグとして炸裂するが、その実、マイルスはメタ的な意味で「アメコミの歴史」そのものを重荷として背負うことになる。

 

アメコミ映画としての「歴史」と「意義」、それらがマイルスという少年の両肩に伸し掛かる。運命を受け入れ、強く決断する美学。そこに斬新なアプローチは特段存在しないが、だからこそ、シンプルな力強さが涙を誘う。

 

「多次元のスパイダーマン」だの、「脳内三次元の映像化」だの、枠組みがそれなりに特殊で凝っているからこそ、中身の物語は王道に王道を掛け合わせたようなバランスだ。複雑さは、シンプルさを際立出せる。そして、その逆も然り。しっかり計算された一作である。製作を『LEGO(R)ムービー』のフィル・ロードとクリストファー・ミラーが担当している辺り、「主人公が直面する運命」なプロットも合わせて、彼らのクレバーなスタイルを改めて実感するところだ。

 

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『スパイダーバース』は、その映像表現の素晴らしさや、バラエティ豊かなスパイダーマン(たち)の集合に注目が集まるが、それらは前述のように、「アメコミ」もとい「アメコミ映画」という歴史を体現したような要素である。こういう映画がこういう規模で成立していることが素晴らしい上に、しかも、中身もしっかり面白い。無敵である。私のような、この手の娯楽作品を愛好する人間にとって、何よりのご褒美な一作だ。

 

終盤、もはや「極彩色」という単語では足りないほどに画面が混沌としていくが、その頃にはすっかり目が慣らされている。冒頭数分、見慣れないエキセントリックな映像表現に少し戸惑い、もしや酔ってしまわないかと不安がよぎったのが嘘のようだ。振り返ってみればこの作品、映画の進行に伴って少しずつ映像表現のアクセルを踏むように調整されており、観客の理解や慣れをコントロールする性格もあったのだろう。重ね重ね、ひどく「したたか」な作品である。

 

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