まあ私も、やっぱりちょっとネガティブな先入観はあったんですよ、『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』。アニメ序盤、いわゆる無印のリメイクという感じで最初から宣伝されていたので、タケシやカスミの不在はおろか、カントーにいないはずのポケモンも沢山登場するとかで、必要以上に深読みしてしまったり・・・。
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公開前には下のツイートのようなスタンスでした。一番最初のはジョーク交じりで6割くらい本気。
今度のポケモン映画、やっぱりあれなんですよ。車に轢かれそうになったピカチュウを助けたサトシが命を落としてそれを憐れんだホウオウが時間を逆行させ歴史を修正した結果として俺たちが知っているタケシとカスミとシゲルの出てくる物語の始まりに辿り着くんですよ。新キャラとか全部布石なんですよ。
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2017年7月12日
というか新キャラ出してカントーにいないポケモン出して物語はこれからだぜ!って感じで終わってしまったらいよいよマジで何のための20周年なのか分からないというか公式による大規模な歴史修正すぎてアレだから何かしらシナリオ上のトリックというかネタがあると思うんだけどなあ、ポケモン映画。
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2017年7月12日
サトシとカスミとタケシの物語でバタフリーとの別れやリザードンとの絆あたりをピックアップしつつロケット団とシゲル戦で緩急つけてホウオウを主軸にルギアとミュウツーを匂わせておけばそれだけで900億点の映画になる事は誰の目にも明らかなのにあえてそうしないのならその理由があると思いたい。
— 結騎 了 (@slinky_dog_s11) 2017年7月12日
蓋を開けてみると、もちろん歴史修正的なそんな都合の良いトリックは無くて、想像していたように「新キャラと旅するサトシ」「サトシとピカチュウの絆」「ホウオウとのバトル」「これからも旅は続くぜ!」といった、自分たちの知っている無印とはかけ離れた物語であった。
でも、いざ鑑賞し終えると、なんかこう、公式による大規模な過去改変(改変なのかパラレルなのかは置いておいて)も納得がいく作りだったなあ、と。
多分この作品、主に以下の3要素で作られていると思うんですよね。
①ポケモンアニメシリーズがやってきたひとつの総決算を作ろう(物語的にも技術的にも)
②1本の映画としてまとめ上げよう
③原点回帰の側面も持たせよう
まず①は、単純にこれまでの様々な地方のポケモンが一同に会していること。ポッチャマやルカリオといった、これまでのアニメシリーズや劇場版でも主役級の扱いだったポケモンたちが登場し、ライバルキャラには最新作のアローラ地方のポケモンを持たせる。
あと「技術的」と書いたのは、主にバトル描写の演出。デジタル導入によってあの頃には出来なかった表現もあっただろうし(オニスズメの集団とか分かりやすかった)、BWあたりから凝り出した技のエフェクト描写、高低差のある立体的なバトルシーンなど、見所は盛り沢山だった。
②は、映画としてやるならもはや当たり前のことではあるのだけど、やはり約100分の映画として緩急を付ける必要があるし、クライマックスにふさわしいイベントも求められる。そのため、珍しくサトシが闇落ちしかけてピカチュウに対しても暴言を吐いてしまうというシーンもあったし、「ホウオウとバトルする」という短期的な目標が設定されている。(「ポケモンマスターになる」は映画内で完結させられないので)
③は集客の側面もあったと思うが、映画も20作目ということで、単純に「今の子供たち」は無印シリーズを知らないのだ。ポリゴンショックだって知らないし、金銀の発売が長々と延期になったことも知らない。だから、「こんな感じで始まったサトシの冒険の『今』がアローラ地方だよ」、という「てい」で作ってある。
・・・と、ここまで書いて何かしら「答え合わせ」をしようとネットを漁ってみると、湯山邦彦監督のインタビューが見つかった。作品を観てから読むと、監督の狙いがよく分かる内容になっていると思う。
――20作目となる「劇場版ポケットモンスター キミにきめた!」で、原点回帰した理由は?
20周年ということでいろんな議論があって、新シリーズ・サンムーンの劇場版に20周年の要素を入れようかとも思いましたが、そうすると過去のキャラが出てきた時にそれを説明しなきゃいけない。ずっと観ていた人は説明が邪魔だろうし、新しく観た人は説明がないとわからない。それではストレートに楽しめないんじゃないかなと思って、サトシとピカチュウはみんな知ってるよね?と。
原点に戻って、仲間と出会い、ポケモンを捕まえて、育てて、別れて…っていうところをちゃんと映画の中でやってみる。それが20周年らしい作品になるんじゃないかということで、「コレにきめた!」って(笑)。
「ポケモンってどういう物語だっけ?」というテーマ的な原点回帰の答えに、「仲間と出会い、ポケモンを捕まえて、育てて、別れて」があった、と。それを全部網羅した映画を1本作るとなると、自ずと「サトシとピカチュウの出会いから描く」ことになる。
――では、「劇場版ポケットモンスター キミにきめた!」に期待してほしいことは?
観る人のポケモン歴によって、いろんな見え方をする映画だと思います。20年前から観ている人には「懐かしいけど新しい」と思ってもらえると思うし、ポケモンを観たことがない人にとっては入門編にもなっているので、幅広く観てもらいたいですね。
テーマであるサトシとピカチュウの絆がだんだん深まっていくっていうところを、ぜひ観ていただければと思います。
「いろんなイベントを経てサトシとピカチュウの絆の深まりを描く」という方向性が定められた結果、それはアニメシリーズの根っこがやってきたことと同じなので、つまり「サトシとピカチュウ」はエッセンスをそのままに周囲を変えていくしかない。そうすると、結果的にタケシやカスミやシゲルは消滅。(シゲルは一瞬だけ出てくるけど)
そして、「他地方のポケモンを所持」「サトシとは違うポケモンとの関わり方をするトレーナーの例」としての新キャラが登場する運びになったのだろう。
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まあ結局、パズルなんですよね。サトシとピカチュウ、ホウオウとの出会いとバトル、これらをメインに100分の物語を作っていくと、タケシあたりの既存キャラは「むしろ」扱いにくくなる。どうせ細部も変わってきてしまうのだから、いっそ過去のシリーズにこだわることなく、作劇上扱いやすい新キャラを出して、それでいてポケモンシリーズがこれまで魅せてきた様々な魅力をパッケージ化する方を優先しよう、といった感じだろうか。
だからこそ、枝葉にはかなり旧来のファンに対するサービスが盛り込まれているし(冒頭のゲンガー登場からしてそう)、そういったバランスの取り方をしているのかな、と感じた。懐かしのBGMはもちろんのこと、サトシがピカチュウを守る冒頭のシーンで早速泣いたし、バタフリーとの別れもやっぱり泣いたし、リザードンのかっこよさにはいつだって心が震える。
まあ、リザードンはサトシの指示を無視してからが本番みたいなところがあってそれが全部取っ払われてるのは残念だとか、ロケット団は例の名乗り口上が一回も聞けなかったとか、あることには沢山あるんですよ。
でも、「旧来のファンには懐かしさと新鮮味を」「今の子供たちには入門編でありながら馴染みやすい要素を」といった本来であれば相反する要素を同時に成立させるとしたら、今作のバランスはかなり妥当に思えてくるんですよね。そういう意味で、非常によくできた作品だったなあ、と。
・・・という世代ゆえの感想はこのくらいにしておくとして、やはり新ポケモンである「マーシャドー」の扱いはちょっと納得がいかなかったかな。
サトシの闇落ちをあまり本人の責にしないための装置として出てきた感が強くて、後半も、クロスのマイナスの精神に感化されて野生のポケモンを操るという、悪い意味で「便利キャラ」すぎたのでは、というモヤモヤが残る。その人の精神状態を映す鏡、それ自体は善でも悪でもない・・・ というよくある感じにしたかったのかもしれないけど、あまりしっくりくる描き方ではなかった。
あと、サトシが死亡して蘇生する流れ、あれは必要だったのだろうか。序盤のオニスズメ襲来シーンと呼応させたクライマックス自体は「おおっ!」と盛り上がったものの、操られたポケモンの攻撃を喰らって光になって消滅するシーンで「え? かなり物理的な攻撃だったのになぜそんな美しく消える?」と。その後のピカチュウの呼びかけで蘇生するのも、まあ、狙いは分かるんですけど、「う~ん?」という感じで。『ミュウツーの逆襲』でサトシが石にされてピカチュウが泣くやつのオマージュなのかもしれないけど、それにしてはあまり上手くないなあ、と。
・・・という不満点もあるにはあるんですけど、総合的にはかなり満足度高いです。
監督の狙い通り、「そうだよね、ポケモンってこういう話だったよね」という印象を一通り復習していくことが出来るし、おそらく今の子供たちには、その辺をうろつくエンテイなんて一周して新鮮に見えたのだろう。「おお!結晶塔の帝王!」とか心の中で叫んでいる旧来ファンも、まさに現役の子供たち世代も。
「仮面ライダー」や「スーパー戦隊」がここ数年取り組んでいる「親子二世代で一緒に楽しめるコンテンツ」という方向性に、天下のポケモンが真正面から切り込んできた作品でした。
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