2009年12月12日、私は映画館にいた。この日に公開された映画、『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』を観るためである。
従来のウルトラマンシリーズでは考えられなかった映像表現に、度肝を抜かれたあの日。あえて巨大感が廃された、超常の宇宙人によるハイスピードアクション。こんな斬新な映画を撮ったのは、一体誰なのだろう。スクリーンに映し出されるクレジットには、「坂本浩一」の名があった。
あれからちょうど10年。日本の特撮ヒーロー界において、坂本浩一という名は欠かせないものとなった。
ウルトラマンに限らず、仮面ライダー、スーパー戦隊、メタルヒーロー、牙狼〈GARO〉。『破裏拳ポリマー』や『モブサイコ100』も含め、坂本監督のキャリアは驚きの速度で膨れ上がっている。現在は、YouTubeオリジナル展開の『ウルトラギャラクシーファイト ニュージェネレーションヒーローズ』が配信中。更に、2020年には山田裕貴(『海賊戦隊ゴーカイジャー』のゴーカイブルーでお馴染み)を主演に迎えたオリジナルドラマ『SEDAI WARS』の放送まで控えており、令和になってもその勢いはとどまるところを知らない。
そんな坂本監督の最新作であり、キャリア初の「特撮アクション時代劇」にも数えられるのが、『BLACKFOX: Age of the Ninja』である。
『仮面ライダー 平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー』『ウルトラマンジード』の山本千尋が主演ということで、「すごい布陣だ!いつか観たい!」と思っていたものの、忙しさにかまけていた11月某日・・・ ブログのお問い合わせフォームにある依頼が届いた。
東映と並んで同作を制作した時代劇専門チャンネルの、編成制作部 ご担当者さまからのメールであった。「ぜひ、ブログにて本作を紹介して欲しい」とのこと。最初はかなり恐縮してしまったのだけど、「坂本浩一監督が撮る特撮アクション時代劇」なんて、前述のとおり私の好みドンピシャな訳ですよ。「断る」なんて、そんな自身の嗜好に嘘をつく行為はできない。
とはいえ、実際に鑑賞して、万一・・・!万が一・・・っ!あまり自分の好みで無かったら!!どうしようかと・・・っ!!!もうそれだけが怖くて怖くて・・・!恐る恐る・・・!薄目を開けるように!画面を観ると・・・っ!!!
これがもう完全に杞憂だったんですね~。流石、流石ですよ。いやぁ、だってね、坂本浩一×山本千尋ですよ。それはやっぱり、間違いがなかった。本当に面白くて、時代劇専門チャンネルさまには大変申し訳ないのですが、これは依頼を頂戴していなくても鑑賞していたら自動的に感想記事を書いていた可能性が高い・・・ などと、毎度のように長ったらしい前置きを書き並べていますけれども。
そんなこんなで、本記事は時代劇専門チャンネルさまのご提供でお送りしております。とはいえ、割といつも通りの思い入れを拗らせたタイプの感想記事となっておりますので、お付き合いいただけますと幸いです。
「主演:山本千尋」が意味するもの
まず何より、「特撮アクション時代劇」というジャンルが今も生き続けているのがグッときますよね。
『仮面の忍者 赤影』『変身忍者 嵐』など、特撮ヒーローのルーツを辿ると、それが時代劇とは切っても切り離せないのはご承知の通り。本作『BLACKFOX: Age of the Ninja』は、その王道ともいえる忍者が主役。山本千尋が、忍者一族の末裔・石動律花(いするぎ りっか)に扮する。
山本千尋といえば、前述の通り、特撮ヒーローファンにはお馴染みのアクション女優。『仮面ライダー 平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴーストwithレジェンドライダー』にて中国武術を操るクールな敵キャラとして登場した際には、「坂本監督・・・また “見つけて” きたのですね・・・!」とニヤリとした思い出。その後の、『ウルトラマンジード』での鳥羽ライハがまたハマリ役で。末っ子キャラな主人公・リクを引っ張っていく「おねえさん」キャラとして、ライハは良すぎた・・・ 実に、良すぎたのだ・・・。
ライハというキャラクターの何が良かったかって、その切れ長の目から漂うクールな雰囲気とは裏腹に、圧倒的な母性があることなんですよ。
リクと接するその立ち居振る舞いが、比類なき最強の「おねえさん」!ひとりで黙々と鍛錬をこなしたかと思えば、やんちゃなリクやペガを優しく見守ったり、時に喝を入れたりする。その緩急、山本千尋さんの絶妙な演技のバランスが、ライハというキャラクターを至高の「おねえさん」として成立させていた。うーん、何度思い出しても素晴らしい。良かった。良かったよライハ。星雲荘に住みたい。
そんな山本千尋さんが演じる『BLACKFOX: Age of the Ninja』の主役・石動律花は、造形として、鳥羽ライハに近いところがある。芯が強く、凛とした立ち居振る舞い。そこにある圧倒的な母性。暗殺忍者一族の末裔でありながら、他者の命を奪うことをよしとしない甘さ、ゆえの強さ。山中に迷い込んだ本作の鍵を握る少女・宮(みや)に接する態度なんか、見事な「おねえさん」すぎてグッときますね。そんな彼女がしっかりと「当てる」アクションに挑むのだから、これまたたまらない。
とにかく、この石動律花というキャラクターが本作最大の魅力。これは、ほとんど「山本千尋さんがすごい!」と同義なのだけど。アクションの素晴らしさ、その体幹や姿勢の美麗さは言わずもがな、決め台詞を ふっ・・・ と発声するあのニュアンスに心を掴まれる。母性あふれる優しいくノ一なのに、時に一瞬だけ、暗殺一族らしい「冷」のオーラが見え隠れするようで。そして何より、目力。眼光。画面が保つ!
山本千尋さんは、世界ジュニア武術選手権大会の槍術部門で2度、JOCジュニアオリンピックカップの長拳・剣術・槍術部門で3年連続の優勝という、物凄い経歴をお持ちの女優さん。しかし今回は、得意の中国武術を封印し、新たなアクションに挑んでいる。坂本監督とは3度目のタッグなので、そういった背景もあってのチャレンジなのだろう。メイキング映像(Blu-rayには特典ディスクとして収録予定)も観させていただいたのだけど、あまりの覚悟の決まりっぷりに、つい貰い泣きをしてしまった。
実質「スーパーヒーロー大戦」案件として
そんな山本千尋を筆頭に、『BLACKFOX: Age of the Ninja』には、特撮ヒーローファンなら見知った顔ぶれが多い。俗に言われる、実質的な「スーパーヒーロー大戦」案件である。
主人公と激闘を繰り広げる剣術の達人・重次に、『仮面ライダー鎧武』の呉島貴虎こと久保田悠来。「かっこいい!動ける!声がいい!」の無敵の三拍子。これがまた絶妙にヒリヒリする演技をされていて、物語をグッと引き締めていく。
度々主人公に襲い掛かる武闘派集団・根来衆(ねごろしゅう)には、今や坂本作品にはお馴染みの出合正幸(『轟轟戦隊ボウケンジャー』高丘映士)。更に、『仮面ライダーアマゾンズ』で駆除班の紅一点だった宮原華音、『ウルトラマンティガ』『ダイナ』『ガイア』でスーツアクターを務めた中村浩二と、めちゃくちゃ豪華な顔ぶれ。それぞれ得意とするファイトスタイルが異なるのも見ものですね。
そして、主人公の友人として登場する大久保桜子(『宇宙戦隊キュウレンジャー』ハミィ)、ギラッギラの服を着こんだ「いかにも」オーラ満載の大名に石黒英雄(『ウルトラマンオーブ』クレナイ ガイ)、『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』でブラック将軍として君臨した福本清三に、『仮面ライダーアギト』の「真魚ちゃんの叔父さん」こと美杉義彦を演じた升毅など、私のような趣味領域の人間にはたまらないキャスト陣。
特撮作品以外でいくと、宮を演じた元℃-uteのリーダー・矢島舞美がすごく良かったですね。山本千尋との女子会っぽい空気感、線が細く儚げな振る舞いなど、キャラクターによく合致していた。根来衆を率いる中華剣舞の達人・白(はく)の藤岡麻美も白眉で、登場する度に「ジャインジャインジャイン!」という中華サウンドが鳴るのも遊びが効いている。
映画畑でいくと、主人公の祖父を演じた倉田保昭がさすがの存在感。ドニー・イェンとも共演したアクション俳優で、坂本監督の師匠にもあたる。メイキング映像では、坂本監督が正座して相対していたのが印象的。(坂本監督が「世界で一番緊張する男」と表現する倉田保昭とのやり取りに関しては、下記のインタビューが詳しいです)
そして今更ですが、この『BLACKFOX: Age of the Ninja』、アニメ作品『BLACKFOX』との連動企画となるんですね。近未来で活躍する忍者一族を描いたアニメ版、その先祖の時代が、この『Age of the Ninja』という関係性。
脚本も同じハヤシナオキが務めており、世界観の統一、登場人物の配置など、併せて観るのもオススメ。『Age of the Ninja』のスーツデザインは『BLACKFOX』のキャラクターデザインを担当する斎藤敦史が務めているが、それを実際に造形したのが『牙狼〈GARO〉』シリーズにも参加しているJAP工房、というのもポイント。(装着シーンが『ランボー』『コマンドー』オマージュなのは流石の坂本監督・・・!)
坂本浩一監督の「変化」、これまでとこれから
メイキング映像で印象的だったのは、坂本監督自ら「(本作を)日本での自分の活動、10周年記念作にしたい」と述べていたこと。
前述のように、2009年に『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』で鮮烈な日本デビューを飾った坂本監督。その後、数多の特撮ヒーロー作品を手掛けられたのはご承知の通りだが、ご本人の中には、幼い頃に夢中になったアクション時代劇への想いがずっとあったとのこと。本作にも、『伊賀忍法帖』『真田幸村の謀略』『子連れ狼』といった作品へのオマージュが、たっぷりと詰め込まれている。
坂本監督の撮る映像の魅力とは何か。それは、絶対的な「らしさ」にある。
独自のチームによる縦横無尽なワイヤーアクション、マーシャルアーツの流れを汲む高回転な技の応酬、打撃時に舞うパウダーに、泥まみれのキャスト陣。吹っ飛んだ敵は豪快に家屋を破壊し、カメラが横移動しながら「やられる」様子を捉える。仮にクレジットを目にしていなかったとしても、誰もが「これは坂本監督の映像だ!」と言い当てることができるような、強烈な「らしさ」。この、映像的個性の強度は、それ以前の国内特撮ヒーロー作品にはあまり無かったものだ。
しかしそれは裏を返せば、個々の作品の持ち味を侵食する、そんなリスクも持ち合わせている。仮面ライダーも、スーパー戦隊も、どの作品を撮っても「坂本監督らしい映像」として完成していく。強烈な映像的個性が、ともすれば作品の持ち味を上書きしてしまい、その全てを「坂本印(じるし)」に染めてしまう。それほどまでに、坂本監督の撮る映像は「濃い」のだ。
だからこそ坂本監督は、そこに溢れんばかりの「作品愛」を持ち込み、バランスを図る。撮ったことがないキャラクターでも、時間をかけて膨大な映像を鑑賞し、印象的なアクション・技・台詞を研究、新作に反映していく。そんな勤勉な様子はインタビュー本『映画監督 坂本浩一全仕事』でも度々語られているが、この嘘偽りのない「作品愛」こそが、ファンからの信頼を着実に勝ち得てきたのである。
映画監督 坂本浩一 全仕事 ~ウルトラマン・仮面ライダー・スーパー戦隊を手がける稀代の仕事師~
- 作者:坂本浩一
- 出版社/メーカー: カンゼン
- 発売日: 2018/08/09
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
私もそんな坂本監督ファンのひとりだが、どうだろう、近年の坂本監督は、従来の「らしさ」に変化を加えてきたと感じるのだ。
例えば2017年の『ウルトラマンジード』では、田口清隆監督のミニチュアワークからの影響を公言しているように、明らかにそれ以前のウルトラ作品とは画のテンポが違っていた。ウルトラマンの超人的な活躍を魅せつつ、シリーズの王道たるSFXとしての画作りを意識する。特に最終回の夜戦では、ミニチュアとそれに付随する照明、美術への敬意を思わせるカメラワークなど、「まさか坂本監督でこういう映像が観られるとは!」という驚きがあった。
昨年の『仮面ライダージオウ』フォーゼ&ファイズ編(5・6話)でも、『フォーゼ』当時とは異なる表現、ウェットな展開を汲んだ緩急のバランスが記憶に新しい。「勢い」や「画の面白さ」を、しっかりとコントロール下に置きつつ、「らしさ」を損なわない程度に分配する。そういった精度の追求において、日本での初期の作品群とはまた少し、毛色が変わってきてはいないだろうか。
キャリア最新作『BLACKFOX: Age of the Ninja』にも、その「変化」の流れが見て取れる。
従来の坂本作品なら、手数とスピード感を優先してカットを割っていたアクションシーンを、今回は、耐え忍ぶようにじっくりと長回しで捉えていく。山本千尋をはじめとした、いわゆる「坂本組」として息遣いが共有できるキャストが揃っているためか、アクションの質の高さはそのままに、撮り方に変化が訪れているのだ。従来の作品より明らかにワンカットが長く、また、カメラワークにも程よい重みがある。
かと思いきや、見知った「らしさ」も依然として存在感を放つ。お馴染みのアクションの構図は言わずもがな、フィリピン武術・中華剣舞・琉球拳法・朝鮮武術・相撲といった多彩なアクションの型が入り乱れる「多国籍感」は、坂本作品ならではの持ち味だ。この雑多な「多国籍感」は独特の空気を演出し、日本人には見慣れたはずの時代劇の景色が、まるでどこかの国で独自に発展した異文化のように感じられるから面白い。良い意味での「湿度の低い」画作り、パキッとした質感も心地よい。
「変化」と「らしさ」、その相反する要素を結びつける、「作品愛」。今回のそれは、そっくりそのまま「時代劇愛」と読み替えることができるだろう。誰よりも自身の「好き」に疑いを持たない、坂本監督だからこそのフィルムだ。やはりいつの時代も、作り手の愛が画面から滲み出る映像は楽しい。そこには、嘘もてらいもない。
また、常に「最新のアクション」「流行りの映画文法」を取り込むことに貪欲な坂本監督だが、本作の制作にあたり、映画『ジョン・ウィック』の鑑賞を山本千尋に薦めたという。目指すは、時代劇における刀と近接戦の組み合わせ。私自身、『ジョン・ウィック』が大好きなもので、なるほどと「納得」してしまった。これが日本人監督の画で観られる喜びといったら!
坂本監督の映像は、今後どのように「変化」していくのだろうか。
直近10年、坂本監督の演出手法における「多国籍」に、「日本の特撮ヒーロー」という「国」はしっかりと刻み込まれたことだろう。一般ドラマも、時代劇も、ネット配信という新たな形も。あるいはまだ見ぬ「国」に踏み出しながら、それを取り込み、我々を翻弄し続けて欲しいと願う。
10年前のちょうど12月、坂本監督の手によって堂々たるデビューを飾ったウルトラマンゼロも、今や後輩をまとめ上げる威厳あるウルトラマンへと成長した。この変遷をリアルタイムで追えたことに心底感謝しつつ、それを導いた坂本監督の最新版「変化」、『BLACKFOX: Age of the Ninja』を、ぜひ、多くの人に目撃して欲しい。
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— BLACKFOX: Age of the Ninja (@BLACKFOX_Ninja) 2019年11月23日
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【STORY】
日本に侍、そして忍者がいた時代――。人里離れて暮らす忍者一族に生まれ育った石動律花(いするぎ りっか)は、山中に迷い込んだ不思議な能力を持つ少女・宮(みや)と出会う。何者かに追われる宮の身を案じる律花に反し、宮は石動家当主・石動兵衛(ひょうえ)に父の仇討ちを申し出る。その矢先、根来衆(ねごろしゅう)の襲来を受け、危機に直面する律花だったが――。
【CAST】
山本千尋
矢島舞美 大久保桜子
藤岡麻美 久保田悠来 石黒英雄
宮原華音 出合正幸 中村浩二
島津健太郎 七瀬彩夏 福本清三
升毅/倉田保昭
【STAFF】
監督・アクション監督◆坂本浩一
脚本◆ハヤシナオキ
音楽◆中村康隆
BLACKFOXスーツデザイン◆斎藤敦史
主題歌◆fripSide 「My Own Way」
企画・プロデュース◆宮川朋之(時代劇専門チャンネル)
製作◆PROJECT「BLACKFOX: Age of the Ninja」
(時代劇専門チャンネル/ハピネット/東映ビデオ/テレビ東京メディアネット/関西テレビ/BSフジ/ディ・テクノ)
制作◆時代劇専門チャンネル 東映株式会社
©PROJECT BLACKFOX Age of the Ninja
Sponsored by 時代劇専門チャンネル