ジゴワットレポート

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感想『仮面ライダージオウ スピンオフ RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』 堅実な愛と大胆な構成は、誰より強く命の音を鳴らす

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『龍騎』の新作が制作されると知った時は、驚きのあまり思わず固まったものである。『ジオウ』は平成ライダーが駆け抜けてきた約20年間を再び走り抜けた作品だったが、まさかここまで『龍騎』が取り上げられることになろうとは。

 

ビデオパスで全3話が放送された、『仮面ライダージオウ スピンオフ RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』。贅沢にも、須賀貴匡を始めとする多数のオリジナルキャストが再集結。脚本、を当時メインライターである小林靖子と火花を散らした井上敏樹が務め、助監督として『龍騎』の現場に携わっていた柴﨑貴行監督が十数年の時を経てメガホンを握る。

 

もうこの座組みだけで、同番組に心踊らされた者にはたまらないものがある。

 

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公開当時に感想を書き損じていたこともあり、この度Blu-rayを購入。改めて全3話を鑑賞した。先にディスクの感想を書いておくと、予想していたより特典映像が豊富で、非常に見応えがあった。良い買い物をした。

 

再集結したキャストやスタッフにスポットを当てたメイキングが約40分、キャストも登壇したイベントの映像が約30分、それぞれ収録されている。

 

特にメイキングの方は、キャストそれぞれが抱えるこの十数年の思いや、柴崎監督の『龍騎』撮影当時の振り返りなど、現場の熱のある空気感が伝わってくる作りであった。「鏡の世界であることを強調するために反転した文字をしっかり映す」「左右の手を逆に演じることの苦労」など、『龍騎』ならではの試行錯誤が面白い。

 

www.jigowatt121.com

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さて、本編の感想だが、本作はかなりギリギリの線で「堅実」と「大胆」を両立させている。とっくに終わったはずの『龍騎』の物語を相手に、この2019年に何を付け足すのか。その答えをひたすらに模索したであろうシナリオは、しっかりと当時の殺伐さを感じさせるものに仕上がっていた。

 

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まず、「堅実」の部分。本作はたった3話という短い尺だが、その中で、原典『龍騎』の構造を可能な限り再演させている。

 

そもそも『龍騎』の物語とは一体何だったのか。男同士の友情、命を奪い合う悲惨な戦い、誰がいつ脱落するか分からない緊張感、裏切りと信頼の表裏一体、カードバトルというゲームのような技の応酬、ある女性の命を救うために暗躍する利己的なゲームマスター、愛と憎が入り乱れる濃密なドラマ・・・。そのどれもが『龍騎』であるならば、いっそ全てを惜しみなく注ぎ込み、そのために設定を用意してしまおう。そういった明確な意図が、随所に垣間見えた。

 

「それぞれの願いのために戦う」という設定をそのまま踏襲してしまうと、多くの登場人物の背景を描く必要が出てくる(そのための時間を要する)。だからこそ、「勝者だけがミラーワールドから脱出できる」という導入を置き、そこにある「願い」を統一。「戦う必要に迫られたライダーたち」「戦わなければ生き残れない」の構造を、何よりも優先させている。

 

また、「裏切り・裏切られ」というバトルロイヤルの醍醐味と言える要素を展開するために、「一時的に手を組む者たち」という前提を最初に提示してしまう。チーム結成からやっていたのでは、尺が足りないからだ。更には、裏切りにはそれなりの説得力が必要なため、ここに手塚と芝浦の恋愛関係という爆弾を持ち込む。

 

色々と賛否両論があった手塚と芝浦の一件だが、私はこの展開に思わず唸ってしまった。ミラーワールドに閉じ込められたあの短期間で、人が人を陥れ、更には殺めてしまうほどに特定の誰かとの仲を深めるとしたら、それはもう恋愛感情しかあり得ないのだろう。これ以上の「裏切りの説得力」もあるまい。記憶を失い、誰かを殺さねば自分が死ぬという極限の状況下で求め合ったであろう、手塚と芝浦。吊り橋効果も手伝ったのだろうか。

 

そもそも、ライアとガイという組み合わせが良い。彼らは『龍騎』の中盤、同じ時期に登場したライダーである。実はこの二者が物語として深く絡まることはあまり無かったのだが、その時期的なものもあってか、セットのイメージが強い。当初は互いの役割が逆の設定だった、というのも有名な話である。亡き親友のために奮闘した手塚と、承認欲求と自己顕示欲の塊だった芝浦。両者が惹かれ合ったというのも、何となく納得できてしまう。(必要最低限、たったひとつのシンプルな設定だけで「裏切りの説得力」「ド級のサプライズ」の双方を完璧に満たしてしまう辺り、流石の井上脚本である。鮮やかな手際!)

 

同時に、絶対的な仲間だった手塚が裏切る展開は『龍騎』を知る者にはショッキングで、また、愛に駆られたガイが、その果てにリュウガという作中最強クラスのライダーに無残に殺される展開にも、妙な説得力がある。王蛇に殺された印象の再演、といったところだろうか。

 

かくして物語はクライマックスに向かっていく。鏡の世界に生きる闇の真司とリュウガの登場、そして真司と蓮の友情にフォーカスしていく流れは、劇場版とTVシリーズそれぞれのクライマックスを想起させる。真司は蓮の声を、蓮は真司の声を頼りに、それに応えるために戦うのだ。「目を閉じて胸にある声を聞けば、進んでいける」。また、事故で命を減らしてしまった女性・サラは、明確に神崎優衣を汲んだキャラクターであり、彼女のためにアナザー龍騎となった彼も神崎士郎の要素を受け継いでいる。

 

このように本作は、全3話という短い話数の中に、可能な限り『龍騎』が詰め込まれているのである。むしろ、「龍騎らしい展開」「龍騎らしい要素」を並べた上で、それをパズルのように組み替えながら、逆算して設定を詰めていったのでないだろうか。それほどまでに、本作は端から端までが濃厚な『龍騎』に満ちている。十数年越しの続編を制作するにあたって、実に「堅実」なアプローチと言えよう。

 

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反面、そのしわ寄せは「大胆」の方に見て取れる。

 

「オーディンに変身した存在は一体何だったのか」「アナザー龍騎はどういった背景で生成されたのか」「タイムジャッカーの干渉はあったのか」「あのミラーワールドは当時のそれと同一なのか」「なぜ特定のライダーだけそれ以前の記憶を保持していたのか」等々、主に舞台装置や設定の面で、驚くほどに説明が入らない。俗に言う「整合性」という視点でいくと、厳しいものを感じさせる。

 

前述のように、全3話という限られた容量に『龍騎』の要素を詰め込んだ結果だろうか。設定面でのフォローを入れることができなかった、あるいは、最初からそのつもりが無かったのかもしれない。かなり「大胆」な割り切りである。

 

しかしどうだろう、実は案外、種は蒔いてくれたのではないだろうか。

 

集められたライダーたちは、記憶を失った現実世界の存在。その中に真司や蓮がいるのであれば、新規キャストであるベルデやタイガやインペラーといった彼らも、どこかのタイミングでそのライダーとして戦っていた過去を持つのだろう。『龍騎』における「劇場版やTVSPを経て神崎士郎がやり直し続けた最後の周回がTV本編である」という解釈を採用するのであれば、新規キャストの彼らも、どこかの周回でそのライダーだったのだ。

 

TVSPですでに龍騎やナイトの変身者交代が描かれているので、高見沢じゃないベルデも、東條じゃないタイガも、何も不思議ではない。

 

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「彼らは過去に行われた戦いのいずれかの周回から選ばれ喚び出された存在」とすると、由良吾郎が変身するゾルダも、一気に説得力が増してくるのである。彼も確実に一度は、「その男、ゾルダ」だったのだ。

 

そしてこの発想を咀嚼していくと、『龍騎』が実は真司や蓮がいなくても成立するかもしれない器の大きい世界観設定を有していたことに、段々と気付かされていく。流石は平成ライダー随一の奇作である。汎用性が高い。

 

そして、彼らが『龍騎』における「繰り返された戦いの中の住人」だとすると、あのミラーワールドも、我々が知る「本物」である線が濃くなってくる。であるならば、例えば、神崎士郎の残留思念のようなもの、彼の執念の残滓がまだミラーワールドには生きていて、それが今回のアナザー龍騎を生み出したのかもしれない。あるいは、スウォルツあたりがその残滓を利用したのだろうか。

 

・・・と、まあ、かなり好意的解釈に寄せた想像にはなってしまうが、その余地はギリギリで残してくれたのかな、と。「説明を試みた結果、説明不足に終わる」よりは、「説明を最初から放棄し、受け手の解釈に委ねる」方を採用したのだろうか。例え、その是非が問われようとも。

 

特典メイキングで語られていたが、柴崎監督は、今回の撮影にあたって『龍騎』の全話を改めて観返したという。その意気込みは、井上脚本によりぎちぎちに詰め込まれた『龍騎』エッセンスとも融合し、本作は、同作への十数年越しのラブレターのように仕上がった。カードバトルの面白さはむしろ当時より増したかもしれないし、ミラーモンスターの質感も随分と進化していた。ファイナルベントの発動にワイヤー等でアナログな動きを取り入れる辺りも、見応え抜群である。

 

とはいえ私も、一部ファンサービスシーンが過剰だとか、思っていたよりずっとエモーショナルな方向に寄せてきたとか、思うところが無い訳ではない。召喚される武器は空から降ってくるのではなくカット割りでの処理が多いし、スピンオフという土壌における予算の都合等々も垣間見えてしまう。

 

それでも、ここまで『龍騎』への執念と愛が詰め込まれた作品を出されては、当時同作に熱狂したひとりとして、嘘はつけないのである。「ああ、龍騎だ。自分は今確かに、仮面ライダー龍騎を観ている」。その感慨深さに浸らされた時点で、もはやとやかく言う資格は無いのだろう。あの頃のように熾烈に心をすり減らす、そんな体験を今一度味わうことができた。

 

物語は、真司がまたいつか蓮と出逢うことを願いつつ、終わっていく。彼らの友情が再び築かれるのだとしたら、実に喜ばしいものの、おそらくそれは同時に「新たな戦いの幕開け」を意味してしまうのだろう。哀しいほどに、鏡の世界の宿命に囚われてしまった男たち。風にめくられたカードが宙を舞い、雑踏に消えていく真司。その背中に、どうしてもハッピーエンドが見えないからこそ、この物語は間違いなく『龍騎』なのだ。

 

あと、これは余談だが、高岩さんが演じたあの男性は消去法で考えるとファムに変身することになるが、どこかで人知れず敗北してしまったようである。

 

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