『仮面ライダージオウ』第38話は、山口監督&毛利脚本でおくる、カブト編後編。今回観ていて非常に印象に残ったのは、『カブト』の劇伴。あの独特の、硬い音がゴリゴリと火花を散らしながらひしめき合うような旋律。いいですよねぇ。
音楽は蓜島邦明さんで、『仮面ライダーアマゾンズ』もこの方ですね。見事に調和の取れたような大きなスケールを感じさせながら、一方で、随所に配置された不安定さというか、あえての「落ち着かなさ」が最高のスパイス。今回の『ジオウ』38話、加賀美がカブトに変身するシーンで流れた「KABUTO EXTENDER」なんか、その最たるアレンジで。
この曲、所々にムチの音が入っているのが好きなんですよね。テン、テン、テンテン!(パチンッッ!!!)ってやつ。ちなみにこれは完全な余談なのですが、吹奏楽とかの演奏において、パーカッションで「ムチ」「ムチの振るう音」の指定があることは珍しくなくて。でも、例えば高校生の部活とかだと、ムチなんて持っていないんですよ。
じゃあどうするかというと、木の棒を二本用意して、蝶番で繋げて、取っ手を取り付けて、それを楽器にしてしまうんです。木を、両側から勢いよくバチンと合わせる。これが、かなりムチの音に近い、と。正式にはこれを「スラップスティック」と言って、もちろん買うこともできるけれど、お金がないと自分たちで作ったりもします。おそらく『カブト』の劇伴が録音された13年前にも、この「スラップスティック」が活躍したんじゃなかろうか。
ということで、本当に嘘偽りのない余談から入ってしまいましたが、『仮面ライダージオウ』の感想を綴る「ZI-O signal」(ジオウシグナル)、今週もいってみましょう。
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加賀美カブトという事実
今回、Twitterを中心に賛否が渦巻いた、加賀美のカブトへの変身。これについては先週の感想でも少し触れましたが、私も『カブト』が好きなひとりとして、「遂にやったか・・・」と、固唾を飲むテンションでした。ただ、私の中での結論から言うと、「あり」なんですけどね。
元を辿れば2006年1月。『仮面ライダーカブト』第1話で、加賀美はゼクトの一員としてカブトに変身したがっていた。カブトゼクターに向かって手をかざすも、ゼクターはそれを無視し、天道総司の元へ。そこから、天道のカブトとしての戦いが始まった。その後加賀美は、ザビーの資格者になるもそれを放棄。更には、運命づけられていた戦いの神・ガタックとなり、天道と肩を並べて戦った。
このガタックに変身するストーリーにおいて、加賀美は天道とは違う自分を「俺は俺にしかなれない」と語っている。決死の覚悟で救おうとした少年の正体は、擬態したワームだった。倒すにしても、そこに甘さを見せてしまう加賀美。一方で、ワームであれば問答無用と殲滅にかかる天道。このふたりの差を指して、「俺は俺にしかなれない」が発せられる名シーン。加賀美というキャラクターはとにかく人情味があって、馬鹿なりにとことん馬鹿として突っ走る。そういう等身大の魅力が強い存在。
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だからこそ、「天道とは違う道を往く」加賀美がカブトになってしまうのは、『カブト』の本懐から逸脱しているのではないか。そういう思いを持つ人がいるのは、当然のことなんですよね。ザビーを放棄し、ガタックになり、時には天道と対立した加賀美。最終回、天道に「(加賀美となら)別々の道を共に立って往ける」と言われた男が、別々の道どころか、同じ道すぎるカブトに変身してしまう。そこに生まれるモヤモヤ。
とはいえ、私は総点で「あり」だと思っていて。
まずもって、あれから13年の月日が経っている訳ですよ。13年。幼稚園生が大学生になるほどの年月。ガタックとして、ゼクトの戦士として、天道とは違う道を懸命に邁進してきたであろう加賀美が、その昔憧れた力の象徴こと「カブトゼクター」に、一度きり認められる。それくらいの「報われ」があっても、良いんじゃないだろうか。むしろ、ここで「カブトは俺とは違う道を往く男の力だから」とカブトゼクターを拒否する方が加賀美らしくないというか。馬鹿なりに、熱い男なりに、やれることを全部やって勢いでぶつかる。それが加賀美だよな、と。
まあそもそも、私はライダーと変身者をあまりイコールで捉える方ではないんですよ。設定上の問題は別として、あくまで概念というか、感覚の話。もちろん、キャラクターの精度としてライダーと変身者はイコールなのだけど、「このライダーは〇〇が変身してこそ!」にそこまで強い執着はない、というか。いや、もちろん、正規変身者が一番なのはそうなんですけどね(やっぱりファイズはたっくんじゃなきゃ!)。要は、特にゼクトライダーという装着アーマーの色が強い設定ならば、誰が変身してもそれはそれで面白い、と。
更には、『カブト』はやっぱり「天道と加賀美の話」だと思っていて。そしてこれは、「カブトとガタックの話」とイコールではない。「天道」は「カブト」になるけど、両者は必ずしもイコールではない。天道が行使する力こそが「カブト」なんだと。そういう解釈な訳ですね。そして、前述の加賀美の「俺は俺にしかなれない」は、ガタックとカブトの相反ではなく、加賀美と天道の相反を指している。加賀美は、「天道にはなれない、天道とは違う道を往く」ことを心に刻んできたけれど、それは決して、「カブトにはなれない」ではない、と。
そういう私の心理的な前提があるので、加賀美の中で天道とは切り離された力の象徴としての「カブト」という存在があり、それには昔は敵わなかった苦い過去があり、そんな過去を不屈の精神で今度こそ覆す、という展開は、「あり」なんですよ。自分の手に、遂に、昔憧れた力が収まる。それを獲得する。マイロードを突っ走ってきた加賀美に与えられた、『カブト』という作品からのご褒美とも言えるような。だから、加賀美の不屈の精神が認められたことによる、「やったぜ!」な感情すらあるんですよね。
そして最大の「あり」の理由として、これは『仮面ライダーカブト 13 Years After』ではなく、『仮面ライダージオウ』である、ということ。ここが本当に大きい。
『ジオウ』は何度も、19作の平成ライダーの歴史を塗りかえてきた訳です。むしろ、「変容させてきた」「終わらせてきた」と言った方が正確だろうか。そこに必ず賛否両論がつきまとうような、二律背反。ギリギリの線引きで原典を尊重しつつ、ハラハラな配分で原典の物語を変質させていく。桐生戦兎が葛城巧のまま万丈とコンビを組み、映司はアンクとの出会いや別れを記憶から失い、真司と蓮は再開したライダーバトルに巻き込まれ、一方で剣崎と始が人間に戻ってバトルファイトが終わり、別の姿を持つはずの京介は響鬼に変身した。
続編として描く訳でも、パラレルとしてテーマを汲むのでもない。原典を扱いながら、更にはその肝の部分に触れながら、それをまさかの結末に導いてしまう。それこそが『ジオウ』という作品が持つパワーであり、特色な訳です。そういう意味で今回の「加賀美がカブトに変身してしまう」は、かなりの「ジオウらしさ」だと思うんですよ。賛否が巻き起こる。これこそが『ジオウ』なんだ、と。
というか、そういう原典にあたっての破壊力であれば、私としては「加賀美のカブト変身」より「バトルファイトが終わった」方がはるかにダメージが大きかったなあ・・・。
そして現れるカブトウォッチ。これはTwitterでフォロワーの方と話していて思いついたのだけど、例えば、①天道がカブトウォッチを生成、②カブトウォッチが皆既日食のパワーで概念としての「カブトの力」、すなわちカブトゼクターに変態、③そのゼクターが加賀美を選ぶ、④ゼクターはウォッチに戻る、という説もありなのかなあ、と。
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ツクヨミとスウォルツ、妹と兄
さて、今回明かされた、スウォルツとツクヨミの関係。意味深に帽子をかぶっていたので、スウォルツだろうなと思っていたら、やっぱりスウォルツだった。
「もしお前が俺の大事な妹なら・・・」と語っていましたが、この「兄と異能の力を持つ妹」という関係性は、まさに『カブト』なんですよね。分かる人には分かる程度の匂わせで、今回は本編ではあまり扱われませんでしたが。天道は、妹を守るためにその力を行使していた。その切ないプロットも、同作の魅力な訳です。
しかしちょっと肩透かしだったのは、結局、「時空が歪んでる」関連の説明がなかったこと。うーん、先週加賀美にわざわざ「渋谷はいつこんなに復興したんだ」と言わせておいて、後編では何も拾ってくれなかったか・・・。タイムジャッカーの目的もこの辺りに絡めて言及されたけれど、あくまでウォズの想定に過ぎない、という感じで。不穏な空気のまま引っ張って、例えばそれこそ時間を扱う電王編とか、クライマックスの展開に向けて溜めておくとか、そういう判断なのだろうか。
『ジオウ』はひたすらに「仄めかし」「不穏さ」を並べまくっていく作品とも言えて、視聴者が通年で観てくれることを割と想定した作りだよなあ、と。シニカルには、爆発力に欠けるとも、展開が遅いとも言えてしまうのだけど。反面、ジワジワと蓄積させたものが「到達する」時の達成感のようなものはすごい、という作品。
だからこそ、過去のライダーを出して、レジェンドなキャストも沢山出ることで、本筋のローペースな道路に細かに起爆剤を置いている、というバランスなのかもしれない。そう捉えると、結構冒険してるよなあ。「平成ライダー」という、「通年で観る番組」という文化ありきのやり方だ。
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地獄兄弟、矢車という男
ぶっちゃけて言ってしまうと、『カブト』当時から地獄兄弟を過剰にネタキャラ扱いするノリがあまり好きではなくて。とはいえ、パーフェクトハーモニーから堕ちた男と、コウモリのように姑息に立ち回って泥を舐めた男が、自暴自棄のまま恨み言を呟くコンビになるという大筋は、大好きなんですよね。『カブト』らしい、ごった煮とテンションの権化というか。
今回のカブト編では、その昔に矢車自ら殺めた影山にワームが擬態。地獄兄弟の「世間を冷笑する」テンションのまま、さらっと地球を滅ぼそうとする。対する矢車は、「いざとなったら影山は俺が倒す」と言いはするものの、偽りの影山に愛着を覚えていた。この、非情に振る舞うけど非情になりきれない辺りが、矢車らしくて実に良いですね。心を鬼にしてスコルピオワームを倒した天道との対比も効いている。
『カブト』の魅力として、そこにやや耽美な香りが漂いかけるのもひとつにポイントだと思っていて。矢車はワームだと分かっていた影山に、在りし日の弟を見ていた。自分が殺めてしまった過去を、今でも悔いているのか。13年間、ひとりでどんなふうに孤独に生きてきたのか。彼が去っていくカットの、あの腕の角度。あれが矢車ですよねぇ。
カブト編、ご視聴ありがとうございました!当時の事を思い出しつつ、個人的にやりたい小ネタの数々を入れさせていただきました!色々やれて良かったのですが、特に矢車のラストは素晴らしい夕日が撮れました!当時白夜を目指そうとした矢車に、最後は闇ではなく光に向かう形にしてあげたかったのです。 https://t.co/f6sF4hHTks
— 山口恭平 (@Kyohey_yama) June 2, 2019
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次回、電王編だジオ~!
さて、きました。ある意味、響鬼以上に平成ライダーの鬼。それが『電王』。先の映画『平成ジェネレーションズ FOREVER』では、ジオウのタイムトラベルの理屈(平成ライダーの活躍年度を行き来できる)と、電王のタイムトラベル理論(記憶がある限り存在が成る)を、上手く融合させた上で、メタメタな脚本を成立させていた。さて、今回はどうなるのか。
⌚⌚キャスト発表だジオ!Part22⌚⌚
— 仮面ライダージオウ (@toei_rider_ZIO) June 2, 2019
「仮面ライダー電王」より 仮面ライダーゼロノス/桜井侑斗役中村優一さん、モモタロス役関俊彦さん、デネブ役大塚芳忠さん、ウラタロス役遊佐浩二さん、キンタロス役てらそままさきさん、リュウタロス役鈴村健一さんの出演が決定ジオ〜。https://t.co/ohignu19YA pic.twitter.com/kdSHC7b7gG
そして気になるのが、ドライブウォッチですよね。次回早速、グランドジオウが登場するとのことだけど、ドライブのウォッチはまだ継承されていない・・・。先にゲイツが持っているけども、これは未来のオーマジオウから強奪したものなので、厳密には「ソウゴが獲得したもの」ではない。でも例えばウィザードウォッチやクウガウォッチは、従者たるゲイツが獲得したので、自動的に「ソウゴが獲得したもの」判定なのかな、と。

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とはいえ見た目としては19のライドウォッチが揃っているので、グランドジオウに変身することそれ自体は可能だけど、実は本領を発揮し切れていない不完全な状態、くらいの塩梅なのかなあ。そこから改めてドライブ編とか。うーん、どうなるんだろう。
といったところで、なんとか金曜日に更新、『ジオウ』38話の感想でした。『電王』についてはその邁進ぶりをリアルタイムで味わったひとりとして色々と思うところもあるので、余力があれば、それだけでひとつ何か記事が書きたいところだけど。どうだろうか。
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